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転生魔王の出戻り日本グルメ  作者: 生姜寧也


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24:大福もち

 俺はどうも天才というものをナメていたようだ。

 モロは翌日には改造型メンローチの雛形を完成させていた。呼び出されて、それを見せられた時には思わず言葉を失ってしまったよね。


「これハ……凄いナ」


 今日は同行のガランドも驚いている。

 メンローチの体を一旦分解し、再構築する際に体の中心に氷室を設けたそうだ。そしてその中に凍らせたフィアーを溜め込んでおく。


「冷凍庫なる、日本のアイテムから着想を得たのじゃ。そして中に栄養を閉じ込めておくアイデアは中華まんからじゃな」


 合わせ技ということか。


「キメラの燃費ガ悪いのハ、吸収効率が悪ク、フィアーを流してシまうからデス」


「そこを冷凍して閉じ込めておく。そしてナポリタンアームは予定変更して、人間から熱を奪う機能とするのじゃ」


 ドクターが心持ち胸を張って、


「その熱を中心部に送ると、凍ったフィアーがジワジワと溶ける。それをエネルギーとするのじゃ」


 説明を終えた。

 しかしフィアーって凍るモンなのか。

 以前チラッと聞いた話だからウロ覚えなんだけど……確か魔力で以って多少の変質は可能ということだったから、氷属性のメンローチの魔力を応用すれば可能ということかな。逆に言うと自然の氷室に入れても凍らない、ということでもある。

 改めて不思議な物質だよなあ。


「しカし、そうなルと、ナポリタンアームにドレインの能力を持たせル必要があルな」


 そうなるな。ドレインというと……


「暴食マチルダの眷属にひるがおったな」


 ああ、確か。


「小食モチルダだったか?」


 言うて小食(他の親族に比べて)だけどな。地球に来たらフードファイター全員を倒せるレベル。


「というワケで、魔王様のお仕事じゃ」


 まあそうなるだろうなあとは思ってたけど。


「ワタクシも行きマしょウ」


 ということで、俺とガランドで向かうことになった。

 魔王城から南へ下った場所にある沼地。多種多様な昆虫型、動物型などの魔族が生息しているのだが、そこを統べているのがマチルダの一派だ。

 沼の周りには鬱蒼と茂った森が広がり、もう少し東には魔女も住んでいる。

 俺たちは中心近くにある沼の沿岸へと降り立った。ここは底なし沼だから、気を付けないとな。まあ落ちても出られないことはないけど、泥まみれになるし。


 ここに今回の目的、ひるの上級魔族モチルダが生息している。

 俺たちの魔力を感じ取ったのか、沼の水面にゴポゴポと泡が立ち……やがて巨大な生物が浮上してきた。3メートル近くはあるだろうか。白い体をうねらせ、器用に頭を垂れた。


「魔王様、ガランド様。お久しぶりですもち」


 そうだった。彼は語尾に「もち」がつくんだった。マチルダは「まち」とか言わないのに。


「やあ、モチルダ。久しぶりだね」


「息災ニしておっタか?」


「はいもち。成長期ですもち」


 まだデカくなるのか。大変だな。


「それで、本日はこんな辺境まで何の御用もち?」


「うん、実はな……」


 俺は事の顛末を話した。聞き終わったモチルダは、


「それなら僕の体を千切って使うもち」


 そんなことを言い出す。


「だ、大丈夫なのか? そんなことして」


「大丈夫ですもち。痛覚とか無いもち」


 そうなんだ。スゲえ体だな。


「しカし、折角大きくなってイるのに、縮んでしまウのではなイか?」


「まあ……また食べますもち。そうすれば大きくなるもち」


 ということだったが。ガランドが俺を見る。以心伝心というか、まあ俺も同じようなことを考えていた。文字通り、身を切って魔王軍に献身してくれるのだから、褒美は当然あるべきだろう。


「キミは、痛覚だけでなく、味覚も存在しないのか?」


「ありますもち。泥よりは藻の方が好きですもち」


 中々ヘビーな食生活してるな。

 ただまあ、味覚があるというのなら。日本の美食を褒賞として進呈できるな。

 俺は日本について簡単に説明する。モチルダは話を聞きながらも、興奮でユサユサと巨体を揺すっていた。もはや返事は聞くまでもないだろうが、


「どうだ?」


「行きたいですもち!」


 決まりだな。

 俺はゲートを魔王城の私室に繋ぐ。


「キミ、人間の姿にはなれる?」


「はいもち。ちょっと変かも知れないですけどもち」


 と。次の瞬間には、小学生くらいの男の子へと姿を変えていた。真ん丸な顔と、真ん丸な体。肥満児だ。


「キミ、若いのか?」


「33歳ですもち」


 俺より年上だし。まあ俺も享年32だから、実際は37と数えても良いのかも知れないけど。まあ今はどうでも良いな。

 俺たちはゲートをくぐって城に戻り、そこから再び日本へのゲートに飛び込んだ。

 ビジネス街に降り立ったところで、


「お、おお! 人間が沢山居るもち! 血が美味しそうもち!」


「やめてくれよ」


 まあ蛭の魔族だからなあ。一番の好物は生き物の血か。

 ……サーシャのアホも吸血鬼なんだが、そういや血云々は言ってなかったな。


「血などヨり、もっト美味い物ガあるぞ。パンとカな」


 小麦粉教を布教しようとしてるな。まあ炭水化物は、体を大きくする(太らせる)のに手っ取り早いのは間違いないけどね。


「モチルダ、何かこういうのを食べたいってあるか? 甘い、辛い、酸っぱいとかでも良いから」


「うーん。あまり分からないですもち。ただ体を大きくするなら、僕と質感が似た物が良いと思いますもち」


 と言われてもな。


「ちょっと触ってみて良いか?」


「はいもち」


 丸い頬を指先で突いてみる。とはいえ、人間の姿だからなあ。本来の質感とはちょっと違うかも……いや、これ餅だわ。メッチャ柔らかい。

 ガランドも反対側からモチモチして、


「本来ノ姿ノ時も、このよウな質感なのカ?」


 訊ねる。モチルダは「大体一緒だ」と答えるので、俺としては食べさせる料理が決まったよね。

 電車で2駅ほど西に行ったところに、和菓子専門店がある。かなり評判が高い店だから、以前にリストアップしていて、いつか行こうと思ってたんだよね。まさか蛭と骸骨を連れて行くことになるとは思ってなかったけど。


 というワケで電車移動。モチルダは駅にも電車にも興奮気味だったけど、騒いだりはしなかった。魔族の中では比較的扱いやすい方だな。直前のモロが酷すぎたのもあるが。

 目的の駅で降りる。ここら辺は、ビジネス街から少し離れてる分、時間がゆったり流れている印象だ。高級住宅街というか、オシャレな街並みだな。

 

「こちラは来たことガありまセんね」


「俺も初だな」


 大体、あのビジネス街か南の繁華街で事足りるからな。

 ただ知らない街を歩くのは、中々に楽しいものだ。

 瞬間記憶しておいた地図を頼りに、5分ほど歩いたところで。オシャレな街並みの中でポツンと浮いた建物が現れた。古色蒼然もかくやという、純和風の建物。木戸は経年劣化の黒ずみが見られ、掛かっている暖簾も退色が激しい。

 

「ここですもち?」


「ああ。入ろう」


 ガラガラと戸を引いて、店内を覗く。白い割烹着に白い帽子を被った老年男性と目が合った。大将かな。


「……いらっしゃい」


 これは寡黙系だな、恐らく。

 と。店の奥の襖が開き、老年女性が顔を出した。俺たちを見てニコリと微笑む。


「いらっしゃいませ」


 折り目正しく礼をしてくれる。こちらは品のある老淑女だった。恐らく大将とは夫婦だろう。


「どうぞ、見て行ってください。小上がりもございますので、店内でお召しあがりいただけますよ」


 丁寧だ。今さっき出てきた襖の向こうが、その小上がりだろうな。


「ありがとうございます」


 軽く会釈して、ショーケースの中を見る。求肥や餅を主体とした和菓子がズラリ。モチルダが涎を呑み込む「ジュル」という音がした。


「カネを払うまで、食おうとするなよ?」


 小声で牽制しておく。この一族なら、最悪ショーケースごと飲んでしまうからな。

 

「ふむ。もち米なル食材をコねた物デスか」


「おはぎは、その類だね」

 

 大福は白玉粉とかだったと記憶してる。


「真ん丸で美味しそうもち」


「どれが良さそうだ?」


「この赤い果実? が乗ってるのが欲しいですもち」


 イチゴ大福か。良いセンスだ。


「ガランドは?」


「この羽二重餅トやらを頂キましょウ」


「みんな1つずつ買うか。あとは……このヨモギも良さそうだな」


「藻はいつも食べてますもち」


「藻じゃないぞ、これは。そうだな……香草のような物と思えば良い。なんともいえない良い香りがするぞ」


「なら、お願いしますもち」


 心変わり早いな。

 結局、それぞれ3つお願いした。大将がビニール手袋をして、ケースの中から取ってくれる。

 女将さんの勧めに従って小上がりを利用させてもらうことにした。


 襖の向こうは、これまたエモい。文化人のガランドが「おお……」と感嘆の声を漏らしたくらいだ。

 使い込まれ、色の変わった畳。だけど清潔に保たれているのが一目で分かる。部屋にいくつか置かれた黒檀のローテーブルも、脚は傷が目立つけど、それもまた年輪だ。壁には掛け軸があるが、達筆すぎて読めないというね。

 

 丸窓には障子がついていて、半開きのそこから外が見える。中庭になってるみたいで、蛇のようにうねった松の樹に目を奪われた。

 ネットの口コミまで見る余裕は無かったけど、この昭和レトロな情景も恐らく高評価の一因だろうな。


「あの樹も悪くなさそうもち」


 1人、全く別の視点で見てるヤツも居るけど。

 

「座りマしょウ」


 テーブルの1つを陣取り、対面同士で座る。座布団だけはフカフカで新品同然だった。伝統よりホスピタリティを取った感じがして好ましい。


「お待たせしました。お菓子と、お茶でございます」


 やや不揃いながら、それ自体を味にしているオシャレ和食器に、大福がモチモチと乗っている。それを各人の前に配膳してくれた。その後、湯呑も配り、急須から緑茶を注いでくれる。


「かたジけなイ」


「ありがとうございます」


「もち」


 女将さんは楚々とした所作で礼をして、小上がりを出ていく。なんというか、若い人には持ち得ない気品があるよね。


「さて、頂こうか」


 客は幸い、俺たちだけみたいだし、リラックスして食べられるな。

 まずは緑茶をいただく。うん、やや渋いけど茶葉の香りが濃厚だ。舌に僅かに残る苦味と、喉を通る熱。美味しい。


「苦いもち」


「お子様舌ダな。それガ良いとイうのに」


 2人のやり取りを他所に、まずは羽二重餅からいく。利休フォークで優しく刺して持ち上げると、ミニョーンと伸びた。大口を開けて迎える。小さく粉が舞ったが、気にせず咀嚼。

 美味い。表面の粉のザラザラ感と、奥にある餅の柔らかさ。滑らかに口中を通って、喉の奥へ。ほのかな甘さが舌に残っている。


「な、なにこれもち! 凄いもち!」


 本物の餅を食いながらだから、語尾の可笑しさが際立ってるな。


「これマた、絶品デスな」


 一度、お茶で口内をリセットしてから。

 今度はイチゴ大福を摘まむ。フォークでは難しいので手掴みでいかせてもらった。小さいので1口で頬張ってみる。


「ん~」


 イチゴが瑞々しい。良いヤツ使ってるな。そしてその酸味と甘みを存分に含んだ果汁を受け止めるのは、上質なあんこ。こしあんを選んだんだけど……正解だわ。もったりと口中に絡みついて、甘みを主張してくれる。そして求肥のモチモチ食感がそれら全てを包み込んでいた。


「これも美味いもち」


「果物ト合わせるト、また違っタ味わいデス」


 2人の口にも合ったようだ。

 再び緑茶で口内をリセット。苦味が素晴らしい働きをしてくれるな。

 そして最後のヨモギ餅。緑の丸っこいフォルムを手に取り、1口齧る。ふわっと舞うように香るヨモギ。荒撞きらしく、手触りはボコボコしてるんだけど、それもまた味わいだ。米の粒感のある部分と、中に入っている粒あんの豆感がダブルで舌触りに変化をくれる。

 美味しいな、これ。大福とおはぎの中間くらいだけど、絶妙だ。


「僕がいつも食べてるクソ藻とは大違いもち!」


 モチルダも大喜びみたいだ。ガランドも目を閉じて味わっていた。

 それから俺たちはお茶の残りで優しく喉を潤し、小上がりを出る。モチルダがもっと欲しがったのでテイクアウトで20個ほど買って帰った。女将さんは少し驚いていたが、最後は笑顔で見送ってくれた。


 魔界へ帰ると、テイクアウト分もすぐに平らげたモチルダ。5メートルくらいに膨らんだので、2メートルほど体を千切ってもらう。それをドクター・モロに届けて、今回のミッションは完了した。

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