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転生魔王の出戻り日本グルメ  作者: 生姜寧也


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22/45

21:ちゃんこ鍋

 翌日。夕方頃に体制が整った。サーシャの腕にぶら下がりながら、暗幕に映像を映してくれるワンアイ。

 既に『ファストルア低級ダンジョン』は稼働している。中ボスには昨日からアイスバードが入っている。鳥型の低級魔族のコアに氷属性を付与したハイブリッド。ちなみに魔界では、モロの作る合成魔族については呼び名が無かったが。俺が便宜上『キメラ』と名付ると、周囲もそれに倣うようになった。


「あのキメラなら、確かにメンローチの氷もなんのそのですね」


「流石はドクター・モロ様ですね」


 この場には、ブレイナーくんとザコーイも立ち会っている。


 映像の中では、そのキメラが今まさに冒険者を撃退していた。魔族にしか視認できない、黒いゼラチンのような流動体(フィアー)が中空に現れる。それはダンジョンの床面に落ちると、染み入るように溶けた。アレがダンジョンの貯蔵階に溜まる。そこには、ブレイナーくんの勤めている中央貯蔵施設へと繋がるパイプが設置されている。なので、本来なら勝手に流れていくのだが……


「やはり流入量がおかしいですね」


 専門家のブレイナーくんが言うのだから間違いナシだろう。

 更に視界が変わる。中ボスの階層の下、ダンジョンボスが居るハズの階だが……もぬけの殻。


「どこに行ったんだ?」


「最下、貯蔵階に移ります」


 またも視点が移動する。そうして、貯蔵階の様子が映った。


「ああ、完全にやっていますわね」


 サーシャの呆れたような声音。画面の中心には、氷の塊を切り出して成形したような魔族の姿。アイスゴーレムだ。そいつはフィアープールの中に手を突っ込み、黒い流動体を掬って飲んでいた。


「なるほど。以前と同じ量になるように調整して余剰分を飲んでいたんですね」


「現行犯です」


 中級2人も断罪口調だ。


「サーシャ、ワンアイの親父さんを呼んでくれ」


「承知いたしましたわ」


 パチンと指を鳴らした後、彼女はもう片方の腕もサッと伸ばす。新たなコウモリが現れ、そこへ逆さに止まった。


「映像保存を」


「御意に」


 族長は娘が映し出している映像を自身の中へと保存する。両の翼を目一杯広げているが、そこへ貯め込むかのように。いや、実際俺も原理は知らないんだけど、まあとにかく彼らには録画機能もあるんだ。便利な一族だよな。

 ……さてと。コレで証拠動画は十分だろう。後はヤツの処分だけど。


「ワタクシが行きましょうか?」


「いや。サーシャはそこで監督しておいてくれ」


「承知……いたしましたわ」


 わざわざ、下級ダンジョンの不祥事如きに魔王自らというのは、やっぱり歴代では考えられなかったのかもな。

 ただ個人的には任命責任も感じてるし……仮にも部下なワケだからな。

 

 俺はゲートを開いて、即座に映像の場所へと飛んだ。背後に気配を感じたからだろう。メンローチが振り向いた。驚き、固まる。ゴーレムなので表情はあまり分からないが。


「こ、これはこれは……まおうへいか! このようなへんぴなばしょまで……」


 言いながらメンローチは手で汲んでいたフィアーをそっとプールへと戻す。液体のようで液体ではない不思議な物質なので、水音などはしないが。


「はあ……そんな小細工未満なマネをして、どうにかなるとでも思っているのか?」


「……」


「メダマコウモリの能力で、全部撮っている。無駄な足掻きはやめろ」


「そ、そんな……」


「大人しく逮捕されるなら、命までは取らない」


「そうか。じゃあしかたねえな」


 物分かりが良い……ワケではないだろう。


「まえから、きにいらなかったんだ。いせかいだかなんだかしらねえが……」


「……」


「よそもんのまおうなんざ! みとめてもねえよ!」


 嬉々として咆哮する。

 

「いまのおれは、ちょうつええ。ちからがみなぎってやがる。そして」


 後ろを振り返る。


「ここには、これだけのふぃあーがある! てめえをたおして、あたらしいまおうになるのは、このおれだ!」


 プールへと顔ごと突っ込もうとしたメンローチだったが、その顔が胴体からズルリと離れた。


「……ウィンドカッター」


 初歩の風魔法だし、人間でも使えるレベルのものだが……それを魔王の圧倒的な魔力で放てば、名工の打った日本刀よりも鋭い切れ味となる。

 寒波ブーストがあろうが、フィアーを多量に摂取しようが。埋めようもない絶対的な差というものは、厳然たる事実として存在するのだ。


「お……お……おお」


 呻き声のような音を発しながら、ゴーレムの体はゆっくりと瓦解していく。それらを全部アポートでポイポイ回収していく。プールに死体が入るのは、なんか感覚的に嫌だからね。あとまあ、モロに提供するつもりだし。パーツの回収漏れは無いようにしないと。


「なんで……つよく……なったのに」


「……」


 残念ながら、中の上にも届いてないよ。

 死体をまとめて、ゲートに放り込む。転送先はモロのラボだ。


「ふう」


 万事終わらせたところで、俺自身も魔王城へと戻った。


「お疲れ様です」


 サーシャが労ってくれるが、まあ疲れるほどの作業でもなかった。それより、正直この後のことの方が頭が痛い。モロのキメラは金食い虫(維持コストが高すぎる)だから、いつまでも頼りたくはないけど、人員はカツカツだから他のダンジョンから回せるヤツも居ないという。


「あ、あの。魔王様、ありがとうございました」


「僕からも。こんなに早く対処していただけるなんて」


 中級2人組が礼を言ってくる。

 とはいえ、(繰り返しになるが)今回の件は俺の配属ミスにも原因があることだし。今度は間違いの無い人選をしないとな。

 ……いや、今はやめよう。折角、一段落したんだし、なんか美味いモン食いたい。


「そうだな……みんな居ることだし、今日は大人数で食える鍋にしようか」


 みんな俺の独り言にピクッとする。話が急に変わったというのに……食欲って凄いね。


「わ、私たちもいただけるのでしょうか?」

 

 ワンアイが早くも人型に変わる。

 俺は大きく頷いて返す。実際、ずっと鍋を食う機会を窺ってたんだよね。やっぱ一人鍋より、みんなで食う方が美味いし。


「早速、買い出しだな。ニュイ、起きてくれ」


 壁に掛けてある魔剣がカタッと揺れた。いや、このレスポンスの速さは既に起きてたか。鞘から引き抜いて人化させる。


「他のみんなはガランドを呼んで来てくれ。モロは……今頃は新しい素体に夢中だろうから、放置で良いか」


 というワケで役割分担。

 俺とニュイは日本へ。まだ正月休みの最中だけど、4日となればスーパーはちょこちょこ開いていた。

 鍋スープ、鍋自体も2つ購入。おたまや灰汁取りも忘れずに。

 続いて具材は……白菜やらシイタケやらの野菜キノコ類。魚の切り身、マロニー、豚肉、エトセトラ。米もストックが怪しいので追加(高かった。いつになったら下がるのか)してフィニッシュ。3万円近く飛んだよね。


 戻って早速準備を始める。その時にはガランドも駆けつけていた。美味いモンで釣ったら、大体みんな来るよね。

 まあとにかく。まずは野菜のカットからだ。腕だけ刃物化したニュイがササッとやってくれる。それを横目に見ながら、俺は2つの鍋にスープを放り込んだ。煮立つまで炎魔法で熱していく。

 

「エビも剥クのデスか?」


「うん。お願い」


「この豆腐ってヤツ……プルプルしてる……」


「肉も美味しそうですね」


 ワイワイ、ガヤガヤ。こういう準備からみんなで協力し合うのも楽しいよね。


「ニュイ、その腕でワタクシを斬りつけることは可能でしょうか」


 1匹、貢献してない被虐嗜好女は居るが。


「気持ち悪いから……嫌……」


 普通に断られてるし。だけど、ニュイのすげない態度が、それはそれで気持ち良いみたいで、サーシャはクネクネしてる。無敵か。


「そのツルツルしたヤツは僕でも食べられるでしょうか?」


「ああ、マロニーか? 煮込んで柔らかくなったら、刻んで水槽に入れてあげるよ」


「ありがとうございます!」


 保存液の入った水槽の中で、ブレイナーくんがゴポゴポ泡を立てて喜ぶ。


「もう煮立ってきましたよ」


「ああ、そうだな。まずは野菜と魚介類だな」


「肉はまだなんですか?」


「薄切りの豚肉なんて最後でも十分火が通るからな」


 生前は特に鍋奉行だった記憶も無いけど。この場では、知識的にも立場的にもやるしかないよね。

 灰汁が出てくるので、細かい網目の灰汁取りでサッと掬って捨てる。剥きエビの色が変わってきたし、鮭の切り身もオレンジに色づいてきた。


「よし、そろそろ肉も入れよう」


 ということで、しゃぶしゃぶ用の薄い豚肉を投入。色が白に変わったところで、取り皿へ。おたまでスープも掬って、白菜とマロニーも回収する。取り敢えずこんなモンか。


「みんなも取りなよ」

 

 と、言うまでもなく、みんな自分の深皿に具材をどんどん入れている。


「それじゃあ、いただきます」


「「「「「「いただきます」」」」」」


 まずはスープを軽く飲む。端麗の塩ベースに、鶏ガラやみりんで調味したコク深い味わい。いやあ、市販のスープでこの完成度だもんな。日本、やっぱヤベえよな。

 肉をいただく。塩ちゃんこならではというか、スープの中で脂の甘さが引き立ってるな。赤身も噛み応えがあって美味い。飯が欲しくなるけど、最後に雑炊にするつもりだから、我慢だ。

 

「あ。ていうか、米も炊き始めないと」


 というワケで、サクッと飯盒の準備をして火にかけた。

 みんなはその間、ジッと待っててくれたけど……目が取り皿に釘付けだったよね。

 再び着座。みんなも食事を再開した。


「次は野菜とマロニーだなあ」


「取って……あげる……」


 隣に座るニュイが、おたまで白菜とシイタケを取ってくれる。マロニーも白菜に絡みついてきたので、一石二鳥になった。

 白菜を慎重に口の中に入れる。意外と熱持ってるんだよな、コイツ。


「あふ、あふ」


 やっぱ熱い。けど美味い。噛んだら甘さと水分が溢れ出し、塩ちゃんこスープの中でアクセントを放ってくれる。

 続いてシイタケ。こっちはよくスープを吸ってるわ。そして歯応えが良いね。煮込まれて多少は柔らかくなってるんだけど、それでもカサのブヨブヨゴワゴワ感は損なわれてない。

 マロニーもスープの旨味と一緒に口中へ飛び込んでくる。ツルツルの食感と喉越し。細かく切った物を忘れずにブレイナーくんの水槽の中へ。


「ああ、ありがとうございます。美味しいです」


 ウットリとした声音。


「スープもこのマロニーのツルツル感も」


 気に入ってくれたみたいだね。

 俺は続けて、エビをいただく。うん、プリプリの身に塩ちゃんこの味が染みてる。流石は相性抜群だな。鮭の切り身も美味い。噛むとほぐれて、魚の旨味が口内を満たした。


 他のみんなもそれぞれ味わっている。ワンアイは目を閉じて、ゆっくり咀嚼している。ていうか、いつの間にか親父さんは帰ってるみたいだな。影のような性質は相変わらずだ。

 ニュイは豆腐をハフハフ言いながら少量ずつ食べている。ガランドはパンが無くて少し物足りなさそうにも見えるが、白菜をモグモグとやっていた。

 サーシャは鮭に骨が残っていたようで、嬉しそうに爪の間に刺している。ブレイナーくんも塩ちゃんこスープにすっかり虜にされたようで、黙々と吸収してる。シイタケをモシャモシャしているザコーイも、招聘した時とは大違いのリラックスした笑顔を見せていた。


「うん。やっぱ鍋は大人数だな」


 魔族でも人間でも、同じ料理を沢山の仲間で食べるのは……なんかホッとする。コミュニティに属してるって感じがするというか。孤児の俺には特に、そういう願望が強いのかも知れないけど。


「ルイ様、こちらノ鍋が空ニなりまシた」


「ああ、それじゃあ雑炊にしようか」


 ちょうど飯も炊けた頃だ。ドカッと投入して、溶き卵も回し入れ、またグツグツと煮る。10分ほど待ってから、みんなで堪能した。

 ちゃんこスープと、野菜や魚から出たエキスを十分に吸って、そこに卵の優しい口当たりも含んだ雑炊は……そりゃあ当然美味しかった。

 

 こうして、ザコーイの逝きすぎ問題から端を発した事件は幕を閉じたのだった。

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