君の細胞を採取したい
「ニノマイ……じゃなかった、ニノマエさん。実は例の『動物使い』の件なんだけど」
転生者たちの死闘を知る由もないニノマエは、診療所のスタッフから続報を聞かされていた。
「どうやら、彼がI連合国で壮大な事件を発生させてしまったらしくて。連行は中止されてしまったんだ」
「中止」
ニノマエがスタッフの言葉を復唱するのに対し「何じゃと!?」と少女が割り込む。
「『ムゲン』は!? 『ムゲン』はどうなったのじゃ!」
「えっ。ニノマエさん。この娘は……?」
「『動物使い』……アレンが所有していた武器に興味があったらしい」
「お、あ、そ、そうなんじゃあ! 最強武器とかいう凄い武器が見たかったんじゃ!!」
少女ことルラが辛うじて、ニノマエの話に合わせた。
シンゲツの一件から、寄生虫を取りつかせた動物使い=アレンという情報が合い。
ルラは『ムゲン』目当てで。
ニノマエはアレンのテイム解除目当てで心待ちにしていたのである。
しかし、想定外の状況の上、スタッフも頭をかいて返答に困った様子だった。
「うーん。ごめんよ、お嬢ちゃん。武器については何も聞いてないんだ。もし、動物使いの彼が所有していたなら没収されているかもしれないけど」
「な、なんじゃと」
とは言え。
最強武器と肩書のある『ムゲン』だ。
アイギスやルラのような能力を備えているのだから、心配の必要はないのではとニノマエは少し思う。
それよりも、ニノマエは疑問をぶつけた。
「なら。シンゲツに寄生している『魔喰虫』のテイムは。解除できないのか」
「あぁ、それなんだけど。大丈夫だと思うよ」
「大丈夫?」
「ここで一番レベルの高い『動物使い』に確認して貰ったんだけど、あの『魔喰虫』……もうすぐ寿命で死ぬようなんだ」
「寿命」
想定外の返答に、ニノマエは呆けたように復唱するだけだった。
対してスタッフはせせ笑って頭をかく。
「まぁ~、虫だから長生きはしないんだろうなとは想像ついていたけどね。『魔喰虫』が死んだら、こっちで処置を行うつもりだよ」
「……そうか」
何てことない会話として切り上げられ、ニノマエは釈然としない様子だった。
否、重く受け止めているのは、ニノマエの方である。
あそこに――『魔喰虫』の中に入っている魂は、アイギスの魂だ。
『魔喰虫』が死ねば恐らく、彼女の魂も……
肉体となる盾に魂を戻すべきだろうか?
しかし、そうすれば再び武器の能力を行使して暴れるのは目に見える。
「仕方ない。I連合国に向かうぞ」
一方、ルラは気持ちを切り替えたようだ。
ニノマエは地図の記憶を頼りの問う。
「I連合国は相当離れているが、大丈夫か」
「ワシの能力でひとっ飛びじゃ! ……って、それだと貴様をつれていけんか。ううむ」
「私はここで待っている」
「それなら良いが……あの人間が気になるのか?」
「ああ、色々と」
なら仕方ないと、ルラは一旦を納得をしてくれる。
「ランディーの奴が他の姉妹を解放しておるじゃろうし、奴のところにも一度顔を出しておかんとのう」
★
一方、エイダたちの方は……
「確認が取れたわ。子供の件は『人造人間』で代用しても問題ないみたい」
「『人造人間』!?」
「えー、なんかヤバそう! 大丈夫なの~??」
「ちゃんと説明しないとね。『人造人間』自体作るのは問題ないわ。私たちの前世にあった漫画とか小説とかとは全然違う用途で使用されているの」
『人造人間』
錬金術におけるフラスコの中で作られる人工生命体、とエイダたちの前世においてファンタジー作品で取り上げられている。
同じ名称、同じ錬金術で生成できる代物だが、意味合いは全く異なった。
「この世界での『人造人間』は細胞保管の役割を担う生命に限りなく近い物体のこと」
「細胞? い、遺伝子とかそういう……?」
「ええ。まだ理屈は解明されていないけど、この世界のジョブやスキルは遺伝子に宿っている。希少なレアジョブやレアスキルを持つ人間の遺伝子情報を複製・現存する為に『人造人間』が作られたらしいわ」
「ん~? でもさぁ、それって子供じゃなくない? 委員長」
そう、この段階では『人造人間』は子供とは呼べない。
ただの標本に過ぎない。
エイダは「そうね」と肯定しつつ、話を続けた。
「でも遺伝子さえ収集・複製すれば――私達の前世でいう人工授精が可能なの。これが大丈夫なら、彼の髪の毛とかを採取するだけでいい」
「な、なるほど!」
「神様それOKしてくれたんだ?」
「ええ。……ただ、少し気になる所があったけれど」
「は? 何??」
「『成功すれば良しとします』……って、まるで失敗するケースがあるような言い方をしてたから」
「ふーん。ま、とにかく髪の毛でも何でも取って来てよ、委員長♪」
「勿論。私に任せて」




