人間として常識がブレている
『よかったわ! ニノマエ。貴方、無事……ええ!?』
シンゲツがいる病院の前で意味深に留まっていたニノマエの元に現れたのは、マーサだった。
だが、彼女は……魂だった。
他の魂とは異なり、何か特殊な楔に囲われた状態で、ニノマエと再会を果たす。
ニノマエが目を見開いて尋ねる。
「君は……何故」
『そ、その……恥ずかしい話だけど、死んで……しまったのよ』
「……」
『ああ、でも気にしないで。死んでおいて、気にしないでって変な話だけど。私は死後、エレシュキガル様の元に向かう事が決まっているの。でも、少しの間だけ留まれるから、貴方に色々と伝えておきたくて』
「……」
『実は貴方をテイムしていたアレンを探して、テイムの解除を頼もうとしたのだけど。彼は、頑なに貴方のテイムを解除しようとしなかった。いえ、どちらかというと、シンゲツに対する警戒心でテイムを継続しようとしていたわ』
「……私については」
『え?』
「シンゲツではなく、私については」
マーサは記憶を思い返すと、息を飲んでしまう。
アレンは……『魔喰虫』の心配なんてしていなかったのだと。
それどころか、『魔喰虫』を『虫』と呼ぶだけで思い入れもない様子だった。
命令に関しても、そんな命令を出していないと言う始末。
マーサが申し訳ない表情で事実を伝えた。
『何も。貴方の事は、ただの虫としか呼んでいなかった。心配もしていなかった。命令も、自分はそんな命令していないって……正直、酷いと思うわ』
「そうか。なら、私も何とも思わない」
『えー……と。それでニノマエは、どういう状況なの?』
「擬人化する武器の魂と入れ替わった」
『擬人化? 確かにそんな話、聞いた事あるような……元々武器にあった魂は、『魔喰虫』の方にいるのね??』
「彼女も敵の刺客だった。再び元に戻すのは危険だ」
『……ねえ。多分、ニノマエは魂を掴んだのでしょうけど。魂が簡単に取れたんじゃない?』
「ああ」
『でしょうね』
「?」
★
――何よ何よ何よ! 何なのこれ!!
――アイツが、アイツが何かしたの!?
――それともカミロが言ってた神が私に嫌がらせをしているの!!?
――いいから戻して!
――戻しなさいよ!!!
アイギスは、ただただ喚く事しかできなかった。
喚く、といっても、彼女はシンゲツの肉体に寄生する虫。叫ぶ事はできない。
その代わりに、シンゲツの体内で暴れ続ける。
最初、アイギスもニノマエと同じで、シンゲツの肉体をコントロールする事が叶わず。
だけど、段々とコツを掴んで、立ちあがったり、体を動かしたり。
自由が利くようになる。
男の肉体を操作する。
ましてや、その男の寄生虫に成り果てたアイギスは、屈辱を感じるばかりだった。
しかし、ここは執念でシンゲツの体を利用してやろうと彼女は意気込む。
ただ。
アイギスとニノマエとで異なるのは環境。周囲の状況だ。
誰も手を差し伸べてくれず、放置されていたニノマエの時とは違う。
アイギスは、寄生虫の支配を確認。
更には弁護士『ドゥーシュ』から寄生虫が脳を支配している可能性を伝えられた医療現場では、アイギスが暴れないように措置が取られてしまったのだ。
鎮静剤などを投薬されたせいで、アイギスの動きは鈍り。
ニノマエ自身が命に瀕していない状況の為、アレンのスキルも効果を発揮しなかった。
――不味い……元に戻ろうにも、私自身がいない!
――どうすればいいのよぉ……!
――あの『動物使い』だって私の声を聞いてくれなかった。
――待って。そうだわ、『動物使い』! この虫をテイムしている『動物使い』に頼めば!!
『残念ね。少しは改心していると思ったのに』
突如、声が響き渡りアイギスはハッと我に返る。
浮遊する一人の少女がアイギスの元、正確にはシンゲツの元に現れた。
――だ、誰!? アンタが私を虫にさせたの!!?
『いいえ。貴方は偶然、その虫に入る事ができたのよ。貴方は……もう死ぬ定めよ』
――何を……! 私はまだ!! ルークを蘇らせていない! ルークがあんな風に死ぬなんて、認められないわ!! もう一度だけチャンスを頂戴!
『……そういう問題ではないわ。貴方に残酷な事実を教えてあげる。……魂には寿命があるの。肉体が老いるように、魂も老いる。肉体が健康的でも魂に力がなければ、魂は肉体から離れるのよ』
――はあ!? ごちゃごちゃ言ってないで私を元に戻して!!!
『貴方についての話よ。つまり、体……いえ、武器に貴方の魂を戻しても、貴方の魂に肉体に定着する力がないから戻しても意味がないの』
――……ちょっと
『貴方は封印されていたと聞いたけど、実際は封印から逃れて、活動し続けていたようね。でもそのせいで魂は摩耗し、力を失った。もう一度言うわ。貴方の魂は寿命が尽きたのよ。他でもない。貴方自身のせいでね』
他の擬人化武器のように封印され続けれいれば、魂の寿命は伸びた筈。
だけど、アイギスはかつての主、ルークを復活させようと奔走し続けた。
やがて、アイギスの魂も少女のように宙へ浮かび上がる。
虫の体から解放されたが、虫の体にも戻れなくなり。
段々と自身が霧散するのを理解し、強情な態度だったアイギスにようやく恐怖が浮かぶ。
――た、たす、けて
――わた、わ、た し
――ルークに
――あえ




