話を戻そう
「お久しぶりです。試練開始から、そろそろ一か月が経過しました」
唐突に転生者たちへ神が呼び掛ける。
「今日までに新たな脱落者が13名。これで残るは9名ですか。表面上、あまり変化はありませんが、意外と試練は佳境へ突入しつつあるようです」
しばらく、何も変化がないと思った矢先、世界の裏側では13人の脱落者が発生していた。
転生者らの脳裏に13人分の姿が浮かぶ。
残る転生者は一桁の9名のみ。
すると、神がこれまた唐突に告げた。
「正直な感想。あまりに期待外れの展開に飽き飽きしています。いえ、既に飽きてしまって、どうでもよくなっているのです。なので、ここらで趣旨を変える事にします」
あまりにも気まぐれで飽き性な神に、転生者たちが不満を抱く中。
神が告げたのは――
★
時は、ニノマエがD連邦で治療師として過ごしていた頃まで遡る。
当初はD連邦の山脈を乗り越えた先を目指す予定だったニノマエだったが、シンゲツの一件がどうなるかを確かめる為、居座る事にした。
ニノマエが乗っ取った『アイギス』の能力は格別であった。
基本的な光魔法の行使は勿論、ステータス表記の偽装まで可能。
所謂、アイギスが村での襲撃に使った幻影の派生を使っているのだが、ニノマエはステータス内容を控えめにしていた。
というのも、本来のステータスが逆に際立ったもので、隠すしかないのだ。
そして、治療師としても重宝されたお陰で、逆に疑われる暇もなかったのも大きい。
「あいだだだ! 無理じゃあ!! やめてくれえ!」
「た、立てない、こ、ここに座ったままやっとくれぇ!」
「腕が上がらん……ワシはもう……」
腰痛、筋肉痛……肉体労働で酷使した体の治癒を求めるドワーフで溢れ返っていたからだ。
彼らの治癒だけでも、慌ただしい中。
他の病気などでも駆り出される医療現場は戦場だった。
ニノマエは特別経歴などはないし、推薦状もない。
だけど、人手不足だからと経歴不問で即採用されてしまった。
これが前世――ニノマエのいた世界、そして彼のいた国では、到底信じ難い話ではあるが、ここは異世界。
D連邦は穏やかな国ではあるが、異世界全土で法整備は充実していないのが現実。
むしろ、こんなガバガバな世界観だから、ニノマエのような無法者もやっていける抜け穴が用意されているようなものだ。
黙々とドワーフの肉体メンテナンスを熟し続けたニノマエ。
彼是、一週間程度経過した頃だろうか、医療スタッフの一人がニノマエを呼び出す。
「あ! ニノマイさん」
「ニノマエです」
「はは、すまない。変わった名前だから呼び間違えてしまうんだ。って、そうじゃなかった。ニノマエさん。君が村で発見した……寄生虫が宿っていた男がいただろう? ちょっと大事になりそうでね。君も当事者として呼び出されるかもしれないんだ」
「大事」
「ああ、うん。あの男はD連邦の強制労働所から脱走した罪人ではなかった。C公国でギルドの規定違反を犯した元冒険者、って所かな。まあ、だから法で裁かれた前科者ではない」
ただ。
スタッフは何とも言えない表情で告げる。
「私も把握していなかったんだが、あの男に『魔喰虫』を寄生させた『動物使い』は……どうやら無資格者だったらしくてね」
「無資格」
「うん。『魔喰虫』を取り扱うには、ちゃんとした資格がないと駄目らしい。まあ、普通に考えれば『魔喰虫』は魔力を吸う寄生虫。取り扱いを誤れば、人に害を齎すからね。それと……」
「まだ何か」
「その『魔喰虫』が……あの男を操って、人を殺害した可能性がある」
ニノマエは少し言葉を止めた。
殺害。
Bランクパーティー『コスモツリー』。
人形使い『フランチェリナ』。
そして、光盾『アイギス』。あるいはアイギスの同行者『カミロ』。
ニノマエは彼らを害した罪悪感よりも、何故その可能性を問われているのかの疑念が先に来た。
「殺害。寄生虫が」
「うーん。私も俄かに信じ難いんだが、『魔喰虫』が脳にいる事や、あの男の足跡からB共和国で活躍していたBランクパーティー『コスモツリー』の殺害に関与しているのではないかと言われたよ」
「もしそれらが事実の場合、どうなるのだろうか」
「いやぁ。私に法律の事は分からんから、どうなるかは判断つかないね。ただ、あの男に寄生している『魔喰虫』は殺処分されるかも……」
殺処分。
なるほど、ニノマエは確信を得る。
やはり、相手の狙いがシンゲツではなくニノマエの方だと。
「とにかく、あの『魔喰虫』をテイムしている『動物使い』を連行して、担当弁護士が来るそうだ。その時になったら、また連絡が来ると言われたよ」
「分かった。どうもありがとう」




