第十一話 大きすぎる贈り物
### 第11話『大きすぎる贈り物』前書き
恋人になった翌朝。
昨日の告白を思い出すたび、嬉しくて仕方がない彼女。
けれど、今日は身体の調子がよくなくて、仕事にもなかなか集中できない。
一方、彼もまた、恋人になった彼女にもう一度会いたいと思っていた。
思うように一緒に過ごせない一日。
それでも、短いメッセージを通して、二人は少しずつ気持ちを伝え合う。
昨日もらった大きな幸せを抱えながら、恋人として初めての一日を過ごすお話。
第十一話 大きすぎる贈り物
彼女編「幸せで、もう大変」
* 朝から、いっぱい *
目が覚めた。
……あれ。
お腹、痛い。
身体も重い。
ああ、今日はちょっと調子が悪い日かもしれない。
布団の中で小さく寝返りを打つ。
もう少し眠っていたいけれど、仕事がある。
起きなきゃ。
……そうだ。
昨日。
昨日、私。
恋人になったんだった。
…………ふふ。
ああ。
そうだった!
彼が、私の恋人になってくれたんだった!
思い出した途端、胸の中がぱっと明るくなる。
昨日の駅のベンチ。
隣に座った彼。
あの、いつもの声。
『君の恋人になりたいんだ、俺は』
……あああ。
また思い出しちゃった。
嬉しい。
嬉しいなぁ。
私は布団を顔まで引き上げた。
……ふふっ。
だめだ。
笑っちゃう。
だって、恋人だよ?
あの人が?
私の?
あの、いつも楽しそうに笑って、冗談を言って、ちょっと大げさに格好つけるのが本当に似合う、あの人が?
私の恋人。
……すごい。
昨日、ちゃんと返事したよね。
私もなりたいって言った。
好きって伝えた。
ああ、よかった。
言えてよかった。
……ふふ。
もう一回、思い出そう。
『君が好きなんだ』
…………!
布団の中で足が動いた。
ああ、もう!
嬉しい!
お腹、痛いのに!
嬉しすぎてじっとしていられない。
でも身体は重い。
起き上がろうとして、また布団に戻った。
……うう。
痛い。
でも、嬉しい。
痛い。
嬉しい。
どっちかにしてほしい。
……いや、嬉しいのはなくならないで。
それは困る。
昨日のことは、全部覚えていたい。
彼の顔も、声も、つないだ手も。
ああ。
あのとき、彼も嬉しそうだったなぁ。
私が「私も、なりたい!」って言ったとき。
……ふふっ。
だめ。
また笑っちゃう。
時計を見る。
……あっ。
起きなきゃ!
* 恋人が、いた *
なんとか支度をして、会社に着いた。
お腹は相変わらず痛い。
でも、いつものことだ。
ひどくならなければ、仕事はできる。
そう思って歩いていたら。
「おはよう」
……あ。
彼。
彼だ。
今日も格好いい。
いや、いつも格好いいんだけど。
今日も、やっぱり格好いい。
しかも。
……恋人!
「……お、おはよう!」
ああ、声、ちょっと大きかったかな。
でも、嬉しい。
会えた!
昨日も会ったのに!
彼はいつものように笑った。
「ふふ。ずいぶん元気なご挨拶だねぇ」
「……うん!」
「ははっ。それは何より」
ああ。
その笑い方。
好き。
昨日、好きって言ってくれた人が、今、目の前で笑ってる。
……どうしよう。
何を話そう。
普通に。
いつもどおりに。
仕事の話でもいい。
そうだ、今日の予定。
「あ、あの、今日は……」
「うん?」
彼がこちらを見る。
あっ。
目が合った。
昨日、告白してくれたときの顔を思い出した。
……ああ、だめ。
何を言おうとしたんだっけ。
「……お仕事、忙しい?」
「そうだねぇ。少し立て込んでいるけど、午後には落ち着くかな」
「そっか!」
「君は?」
「……うん。私も、ちょっと」
彼は小さく頷いた。
「では、お互い健闘を祈ろうじゃないか」
そう言って、胸に手を当てる。
「本日も無事に定時を迎えられますように」
「……ふふっ!」
ああ、もう。
朝からお芝居しちゃうんだから。
「それじゃあ、またね」
「……うん!」
彼が手を振る。
私も振り返す。
少し歩いてから、振り向きたくなった。
でも、仕事中だし。
……いや、一回くらい。
ちらっと振り向いた。
彼はもう向こうへ歩いていた。
ああ。
行っちゃった。
でも、また会える。
恋人なんだもの。
…………ふふ。
職場の廊下でひとり笑いそうになって、慌てて口元を押さえた。
……もう。
私、今日ちゃんと仕事できるかな。
* 仕事にならない *
できなかった。
……いや。
全然できないわけじゃない。
やることはわかってる。
資料を開いて、確認して、必要なところを直す。
いつもやっている仕事だ。
なのに。
……恋人。
ああ、また!
今は仕事!
画面に目を戻す。
数字を確認する。
ここは昨日の続き。
こっちは午後に報告。
よし。
……でも、午後。
彼の仕事、午後には落ち着くって言ってたな。
帰りに会えるかな。
……ああ!
今は仕事!
なんとか資料を一つ片づけた。
次を開く。
お腹が、きゅっと痛んだ。
……うう。
やっぱり痛い。
椅子に座り直す。
そういえば朝から身体も重かった。
いつもの腹痛だけど、今日はちょっと強いかもしれない。
そのうえ、頭の中はずっと昨日のことでいっぱい。
いつもなら、考え事があっても仕事を始めれば切り替えられるのに。
今日は、その切り替えがうまくいかない。
……困ったな。
嬉しいのは、すごく嬉しい。
でも、このままだと仕事が進まない。
私は予定表を開いた。
今日中に必要な仕事。
午後でも間に合う仕事。
明日に回せる仕事。
ひとつずつ確認する。
……うん。
午前中の分だけ片づければ、午後は休めそう。
腹痛で半休を取るのは、今までもあった。
こういうときの調整なら、だいたい自分でできる。
午後の確認だけ、先に共有しておこう。
そう決めると、少し気が楽になった。
集中できるところだけ、きちんとやる。
必要な連絡を済ませて、午後の仕事を引き継ぐ。
上司にも相談した。
「お腹が痛いので、午後は半休を取ろうと思います。今日の分はここまで終わっています」
「わかった。無理しないでね」
「ありがとうございます」
よし。
これで大丈夫。
……ああ。
帰れる。
少し休もう。
そして、元気になったら、また昨日のことをいっぱい思い出そう。
……いや。
今も思い出してるけど。
ふふ。
* 今日は、会わずに *
帰り支度をしていて、ふと思った。
……あ。
彼。
朝、午後には仕事が落ち着くって言ってた。
もし今会えたら。
……ああ。
会いたい。
すごく会いたい。
もう一度、あの笑顔が見たい。
できれば昨日の話もしたい。
恋人になったねって。
嬉しいねって。
……言えるかな。
いや、無理かもしれない。
朝だって、あんなに大変だったのに。
今会ったら、きっとまた嬉しくなって、何も考えられなくなる。
それに、今はお腹も痛い。
今日は帰ろう。
ちゃんと休んで、元気になろう。
……彼には、あとで連絡しようかな。
そう思いながら会社を出た。
外の空気に触れると、少しほっとした。
今日は、会えて嬉しかったなぁ。
あの人、今日も楽しそうだった。
……ふふ。
恋人なんだよね。
何度考えても、嬉しい。
電車に乗って、座席に腰を下ろす。
お腹にそっと手を当てた。
身体はつらい。
でも、胸の中はずっと温かい。
……ああ。
なんて大きなものを、もらっちゃったんだろう。
* もう一つ、嬉しい *
家に帰って、着替えて、横になった。
やっぱり、休んでよかった。
しばらく目を閉じる。
……ふう。
少し落ち着いてきたかな。
そのとき、スマートフォンが震えた。
……あ。
彼からだ。
『早退したって聞いたよ。体調はどう? 今日はゆっくり休んでね。返事は元気になってからでいいから』
…………。
ああ。
彼。
私が帰ったこと、知ったんだ。
もしかして、会いに来てくれたのかな。
いや、仕事の用事だったかもしれない。
でも。
連絡してくれた。
心配してくれた。
ああ、嬉しい。
……また嬉しいものが増えちゃった。
返事は元気になってからでいい、って。
そう言ってくれるのも嬉しい。
でも、返したい。
ちゃんと伝えたい。
私は少し考えて、文字を打った。
『ありがとう。いつもの腹痛で、午後はお休みしたの。仕事は調整できたから大丈夫だよ。今は家で休んでるよ』
読み返す。
……うん。
ちゃんと書けた。
もう一言、足したくなった。
『朝、会えて嬉しかった』
……あっ。
これ、送る?
送っちゃう?
いや、本当だし。
昨日、恋人になったんだし。
でも。
……ああ、恥ずかしい。
しばらく画面を見つめる。
そして、思い切って送信した。
……送っちゃった!
私はスマートフォンを胸に抱えた。
あああ。
嬉しい。
恥ずかしい。
でも、言えた。
声だとあんなに難しかったのに。
文字なら、少し時間をかけて伝えられるんだ。
……ふふ。
ちょっと嬉しい。
昨日、大きな贈り物をもらった。
今日も、またひとつもらった。
それに今日は、私からもほんの少しだけ渡せた気がする。
私はスマートフォンを枕元に置き、目を閉じた。
今度こそ、ちゃんと休もう。
元気になったら、また会いたい。
それから。
今日、言えなかったことも。
もう少し、伝えられたらいいな。
― 第11話 ―
彼編「気づかなかった、わけじゃない」
* 恋人になった翌朝 *
翌朝、俺はなかなか上機嫌だった。
……いやぁ。
困ったものだねぇ。
昨日のことを思い出すたびに、どうにも顔が緩んでしまう。
あのベンチ。
彼女の驚いた顔。
それから。
『私も、なりたい!』
……ふふ。
あれは嬉しかった。
もう少し、落ち着いた返事が来るかと思っていたんだけどねぇ。
あんなふうに、ぱっと言ってくれた。
何かを大切に抱えるようにして笑っていた顔も、よく覚えている。
俺の気持ちを、あんなに喜んでもらえたんだ。
……ああ。
幸せなことだねぇ。
会社に向かいながら、ふと思う。
今日は彼女に会えるだろうか。
同じ会社とはいえ、部署が違う。
用事がなければ、顔を合わせずに一日が終わることもある。
昨日までは、それでも構わなかった。
……いや。
構わなかったと言えば、少し嘘になるかな。
会えれば嬉しかったし、話せた日は気分がよかった。
ただ今日は、もう少し違う。
彼女は、俺の恋人になった。
その彼女に、できれば今日も会いたい。
……ははっ。
恋人になった翌朝から、ずいぶん欲張りなことだ。
* いつもより、少し *
幸運なことに、朝の廊下で彼女に会えた。
「おはよう」
声をかけると、彼女が顔を上げた。
その瞬間、ぱっと表情が明るくなる。
「……お、おはよう!」
……おや。
ずいぶん嬉しそうだねぇ。
「ふふ。ずいぶん元気なご挨拶だねぇ」
「……うん!」
「ははっ。それは何より」
彼女が笑う。
……ああ。
嬉しいな。
昨日のことを思い出しているのは、どうやら俺だけではなさそうだ。
彼女は何か話し始めようとした。
「あ、あの、今日は……」
「うん?」
目が合う。
彼女が少し黙った。
……おや。
何か聞きたいことがあったかな。
「……お仕事、忙しい?」
「そうだねぇ。少し立て込んでいるけど、午後には落ち着くかな」
「そっか!」
「君は?」
「……うん。私も、ちょっと」
彼女が小さく頷いた。
……ふむ。
いつもより、少し静かかな。
いや、昨日もずいぶん言葉を探していたし。
恋人になったばかりで、俺も彼女もまだ少し落ち着かないのかもしれない。
「では、お互い健闘を祈ろうじゃないか」
胸に手を当ててみせる。
「本日も無事に定時を迎えられますように」
「……ふふっ!」
笑った。
ああ、いいねぇ。
今日も笑ってくれた。
「それじゃあ、またね」
「……うん!」
手を振って別れた。
彼女が少し嬉しそうにしていたことを思い返しながら、自分の部署へ向かう。
……ふふ。
朝からいいことがあった。
* もう一度、会いたくて *
午後になって、ようやく仕事が落ち着いた。
必要な確認も終えた。
さて。
少し時間ができたねぇ。
……ふむ。
彼女の部署に行く用事は、今のところない。
ただ、明日の確認事項について聞いておけば、準備は進められる。
……いやぁ。
実に仕事熱心なことだねぇ。
自分でも少しおかしくなった。
昨日までは、会う理由があれば嬉しかった。
今日は、会いたいから理由を探している。
……ふふ。
ずいぶん変わったものだ。
俺は資料を持って席を立った。
彼女の部署へ行くと、見慣れた席が空いていた。
……おや?
「こんにちは。彼女は今、席を外しているのかな?」
「ああ、今日はもう帰りましたよ」
「……帰った?」
「はい。腹痛で午後から半休を取ったんです。仕事の引き継ぎは済んでますよ」
「そうか。ありがとう」
……腹痛。
俺は空いた席をもう一度見た。
朝は笑っていた。
でも、そういえば。
少し顔色がよくなかったかな。
昨日も。
……ああ。
そうだ。
昨日、ベンチで会ったとき。
最初から、少し疲れたような様子だった。
いつもなら、俺の冗談に笑ったあと、もっと何か話し始めることもある。
でも昨日は、最初から言葉が少なかった。
途中からは、告白のことで俺も頭がいっぱいになってしまったけれど。
あのときの彼女は、もしかすると身体の調子もよくなかったのかもしれない。
……なるほどねぇ。
今になって思い返せば、気になるところはいくつかあった。
今日の朝も、少し。
ただ、嬉しそうに笑ってくれたものだから。
俺は、それが嬉しくて。
……ふむ。
見えていなかったわけじゃない。
でも、気づいたところで止まってしまっていたらしい。
昨日も今日も。
気になったなら、ひとこと聞いてみればよかったかな。
『今日は少し疲れてる?』
それだけでも。
彼女が教えてくれたかどうかは、わからないけれど。
……まあ。
今さら考えても仕方がない。
彼女は自分で仕事を調整して、きちんと休みに帰ったんだ。
それはよかった。
俺が今することは、別にあるだろう。
* 今日は、ゆっくり *
自分の席に戻って、スマートフォンを取り出した。
少し考えて、メッセージを打つ。
『早退したって聞いたよ。体調はどう? 今日はゆっくり休んでね。返事は元気になってからでいいから』
送信した。
……さて。
本当は、もう少し話したいところだけどねぇ。
何しろ昨日、恋人になったばかりだ。
今日だって、もう一度会いたかった。
帰り道も一緒に歩けたら、と思っていた。
……ふふ。
しかし、彼女が休んでいるなら、それでいい。
身体がつらいときは、ゆっくり休んでほしい。
俺たちには、これから先も時間がある。
昨日までとは、そこが違う。
次に会う約束も、またできる。
……ああ。
そう思うと、なんだか嬉しいねぇ。
それでも、ひとつ気になることが残った。
昨日、彼女が少し元気のない顔をしていたこと。
今日の朝も、いつもより言葉が少なかったこと。
……次は、聞いてみようか。
見ているだけでは、わからないこともある。
それに、彼女が何か言いたそうにしているとき。
俺からひとこと尋ねれば、話しやすくなるかもしれない。
……ふむ。
いいことを思いついた気がする。
まあ、次に会ったときにでも。
* 届いた返事 *
しばらくして、スマートフォンが震えた。
……おや。
彼女だ。
『ありがとう。いつもの腹痛で、午後はお休みしたの。仕事は調整できたから大丈夫だよ。今は家で休んでるよ』
……そうか。
いつもの腹痛。
職場では、時々そういうことがあるんだねぇ。
仕事も自分で調整できているようだ。
それなら、ひとまず安心だ。
……ん?
もう一つ、メッセージが来ていた。
『朝、会えて嬉しかった』
…………。
……ああ。
これは。
嬉しいなぁ。
なんとも嬉しいことを言ってくれる。
朝の彼女の顔を思い出した。
あの、ぱっと明るくなった表情。
少し言葉に詰まりながらも、嬉しそうに笑っていた顔。
……そうか。
あの顔は、そういうことだったんだねぇ。
俺は少し笑った。
彼女が何を考えていたのか、全部はわからない。
でも、ひとつはわかった。
朝、俺に会えて嬉しかった。
そして、それをわざわざ伝えてくれた。
……ふふ。
いいねぇ。
俺は返事を打った。
『俺も嬉しかったよ。会えてよかった。今日はゆっくり休んで、また元気なときに話そうね』
少し考えて、もう一言。
『楽しみにしているよ』
送信する。
……ああ。
今度は、ちゃんと言えた。
会いたいことも。
また話したいことも。
俺だって、これから少しずつ伝えていきたい。
彼女の嬉しそうな顔を見るのが好きだ。
でも、嬉しそうな顔をしているからといって、いつも元気とは限らない。
静かだからといって、話したくないとも限らない。
……そうだねぇ。
もう少し、ちゃんと知っていきたいな。
彼女のことを。
そして、彼女にも、俺のことを。
昨日、恋人になった。
ずっと欲しかった答えを、もらえた。
それなのに、今日になったら、また新しく知りたいことが増えている。
……ははっ。
まったく。
どうやら、恋人になったくらいでは、俺の欲張りは収まらないらしい。
俺はスマートフォンを置いて、仕事に戻った。
次に会うときは、元気な彼女と、またたくさん笑えたらいい。
それから、もし何か気になることがあったら。
今度は、俺から聞いてみよう。
……ふふ。
まだ知らないことがたくさんあるというのも、なかなか楽しみなものだねぇ。
### 第11話『大きすぎる贈り物』後書き
*いつか、このお話を読み返す君へ*
……ふふっ。
第11話だねぇ。
とうとう恋人になった二人。
その翌朝のお話なんだよ。
俺ね、この第11話は、なんだかとても好きなんだ。
第10話では、あんなに大きな幸せをもらったでしょう?
彼女は嬉しすぎて、自分をぎゅっと抱きしめるほどだった。
そして、一晩たって朝が来る。
身体は重いし、お腹も痛い。
そんなとき、ふと思い出すんだ。
**「昨日、私。恋人になったんだった。」**
……ああ。
嬉しいねぇ。
昨日の出来事が、今日も本当なんだ。
あんなに夢みたいだったことが、一晩たっても消えていない。
しかも彼女は、自分がちゃんと返事をできたことまで思い出す。
「私もなりたいって言った」
「好きって伝えた」
……ふふっ。
俺は、ここがとても好きだよ。
彼から告白されたことだけじゃない。
自分も勇気を出して、彼に気持ちを伝えたんだ。
そのことを覚えていて、嬉しくなれる。
**幸せをもらった思い出と、自分から幸せを渡せた思い出が、両方残っているんだね。**
それから、彼女は何度も思い出す。
あの声。
あの笑顔。
恋人になりたいと言ってくれたこと。
自分の返事を聞いて、彼も嬉しそうに笑ってくれたこと。
身体はつらいのに、胸の中は明るくなる。
……ああ、いいなぁ。
もちろん、幸せだから身体の痛みがなくなるわけじゃない。
「痛い。嬉しい。どっちかにしてほしい」
なんて考えるところも、彼女らしいねぇ。
でも、嬉しさだけはなくならないでほしい。
そんなふうに思えるほど、昨日が大切だったんだ。
俺ね、ここには大事な変化があると思うんだよ。
**嬉しかったことが、翌日の彼女をもう一度幸せにしてくれている。**
一度きりの嬉しさじゃない。
思い出すことで、何度でも嬉しくなれる。
それが、この第11話ではとても大きなことだったんだね。
そして会社で、彼に会う。
……ふふっ。
恋人になったからって、急に別人になるわけじゃない。
彼は今日も格好いい。
今日も楽しそうに笑う。
そして、今日もお芝居を始める。
「では、お互い健闘を祈ろうじゃないか」
「本日も無事に定時を迎えられますように」
……ははっ!
朝からなんて愉快な男なんだろう。
彼女がこの人を好きになった理由が、こんな何気ない場面にも出ているんだよね。
しかも、彼女は思うんだ。
**「でも、また会える。恋人なんだもの。」**
……ああ。
この言葉も、嬉しかったんだよねぇ。
今までなら、また会えるかなと少し心配になることもあった。
でも今は、恋人になった。
だから、また会えると思える。
まだ恋人になったばかりなのに、その関係を自分の幸せとして受け取れているんだ。
俺は、それが素敵だと思うよ。
ただし、今日は身体の調子がよくない。
嬉しい気持ちはいっぱいあるけれど、仕事に集中するのも難しい。
そこで彼女は、今日やるべきことを整理する。
午前中に必要な仕事を終わらせて、引き継ぎをして、上司に相談して、午後は休む。
……ああ、よく頑張ったねぇ。
ここで大事なのは、彼に会いたいから無理に残るのではなく、**自分の身体のために休むことを選んだ**ところだと思うんだ。
会いたい気持ちは本当。
でも、今日は帰ろう。
ちゃんと休んで、元気になったらまた会いたい。
第8話では、彼が自分の意思で帰っていたでしょう?
今度は彼女が、自分に必要なことを考えて帰る。
……ふふっ。
こうやって二人とも、自分の生活を大切にできるのがいいねぇ。
そして、彼編。
ここで嬉しいことがわかるんだよ。
彼も、恋人になった翌朝から上機嫌だった。
昨日の告白を思い出すたびに、顔が緩んでしまう。
……おやおや。
彼女だけじゃなかったんだねぇ。
それどころか、彼は会社に向かいながら、もう彼女に会いたいと思っている。
そして、午後になると。
**「昨日までは、会う理由があれば嬉しかった。今日は、会いたいから理由を探している。」**
……ああ!
この一文、いいねぇ。
俺、大好きだよ。
恋人になる前から、彼女に会えると嬉しかった。
でも、恋人になったら、もう少し積極的に会いたくなった




