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虚晶の賢者――異世界魔法を科学する  作者: kujo_saku
第八章【並び立つ者たち】
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第130話「同じ景色」

ゲオルグたちが立ち去り、場に残った緊張がゆっくりとほどけていく。

 その中で――

 サラは、カイの様子を見ていた。

 ミラを何度も見ては、言葉を探すように口を開きかけて、閉じる。

 剣を握るより緊張しているその背中を見て、サラは小さく息を吐いた。

(……ああ、これは)

 次の瞬間。

 サラはわざとらしく、足元を見て声を上げた。

「あれ?」

 しゃがみ込み、地面を指差す。

「……あ、私、何か落としたかも」

 ザイルが、胡散臭そうに眉を上げる。

「は? 今このタイミングでか?」

「ちょっと向こうまで一緒に来て」

 有無を言わせない口調。

「暗くて見えないの。手伝って」

 ザイルは一瞬、カイを見る。

 そしてミラを見る。

 カイの顔の赤さと、無駄に真っ直ぐな視線を見て――

「あー……」

 すべてを察したように、軽く天を仰いだ。

「なるほどね。はいはい」

 肩をすくめて、サラの後について歩き出す。

「ったく……」

 小声で、ぼそり。

「青春ってやつかよ」

 サラは、何も言わない。

 ただ、少しだけ歩幅を緩めて、二人から距離を取った。

 その背後で。

 カイとミラの世界だけが、そっと切り離される。


「……ミラ。今、話したい。いいかな?」

 ミラは一瞬だけ目を瞬かせたが、何も言わずに頷いた。

 ――沈黙。

 さっきまで、剣戟と殺気に満ちていた空間が、嘘のように静かだった。


 カイは、拳を握っては開き、また握る。

「……さっきの戦いでさ」

 前置きとしては、あまりにも不器用な言葉だった。

「正直に言うと……俺、自分がどれだけ弱いか、全部分かった」

 一度、言葉を探すように息を吸う。

 ミラは何も言わず、ただ聞いている。

「コハルねえちゃんはすごくて」


「ゲオルグは……もっとすごくて」


「俺は、何もできなくて」


 歯を食いしばる。


「それでも」


 顔を上げる。


「ミラが、俺を後ろから支えてくれたとき……あの時、初めてちゃんと“前に立てた”気がした」


 ミラの指先が、わずかに揺れた。


「だからさ」

 カイは、真っ直ぐにミラを見る。

 逃げない。誤魔化さない。


「俺……」

 一瞬、喉が鳴る。


「ミラのことが、好きだ」


 それは、飾り気のない言葉だった。決意表明でも、誓いでもない。


 ただ、胸の奥に溜めてきたものを、そのまま外に出しただけ。


「一緒に戦ってくれたから、とか。助けてくれたから、とか」


 首を振る。


「そういう理由じゃない」

「……ずっと、だ」


 ミラは、すぐには答えなかった。少しだけ視線を落とし、それから――カイを見る。


 その顔は、戦場で見せた“聖母のような笑み”ではなかった。


 年相応の、少し照れた、柔らかい表情。


「……カイはね」

 ゆっくり、言葉を選ぶ。


「自分のこと、弱いって言うけど。いつでも誰よりも前に立とうとする人だよ」


 一歩、距離を縮める。


「私は……」

 小さく息を吸う。


「カイが前を向くなら」


「その隣に立って一緒にその景色を見ていたいって、ずっと思ってた」


 それだけだった。

 告白というより、確認。


 けれど、それで十分だった。

 カイは、しばらく何も言えなかった。


 そして――

 堪えきれないように、笑った。


「……そっか」


 胸の奥が、じんわりと温かくなる。戦いの疲労も、痛みも、全部その奥に溶けていく。


「じゃあさ」


 照れ隠しのように、少し視線を逸らして。


「この先も一緒に、並んでいこうぜ」


 ミラは、はっきりと頷いた。


「うん。そうだね。」


 短く。


 けれど、迷いのない返事だった。その少し離れた場所で。


 サラは何も言わず、空を見上げていた。ザイルは、あえて振り返らない。


 言葉はもう、ちゃんと届いている。

 それだけで、十分だった。


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