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Griffe et Aile ~死神の爪と恩寵の翼~  作者: 淡路帆希
結びの庭
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第四十話

「あの時、私が余計なことを言わなければ、兄上はあんなことにはならなかったんだ」

 眉間に深く皺を寄せ、ロドルフは重々しくそう言った。

「予想もつかないことをしでかす兄だと、わかっていたつもりなのにな。……ただ、あんな男ではあるが兄上は決して妻や娘たちを蔑ろにしていたわけではないんだ。やり方が馬鹿で不器用だったのは、まったくその通りだが」

「そうか……」

 ロドルフの言葉を受け止めたナサニエルが答えた。彼にとって、妹を苦しめていたクロヴィスは幼い頃からの友であっても憎い存在だったのかもしれない。その心の澱みがほんの少しだけ晴れたように、ナサニエルは微苦笑を浮かべた。

「しかし、僕が言うのもおかしいが何故これまで黙っていたんだい? 君を疑う声は僕も耳にしたことがあるよ。信じはしなかったけど、もし投獄でもされれば命だって危うかっただろう?」

「私が言ったことで兄上が亡くなったのは事実だからだ。それに、己の潔白を主張するには兄上が自ら崖を降りようした理由を話さなければならない。兄上を亡くし、アルエットを遠ざけたことで心が弱りきっていたミラベル殿にはとても聞かせられなかった」

 珍しい花をミラベルに見せたかった。そのために命を落とした。確かに、そんなことを知ればミラベルの心に追い打ちをかけただろう。

 妹の性格を熟知しているナサニエルは苦い表情を浮かべながら頷いた。

「すまなかったね。ありがとう……」

「構わん。もう過ぎたことだ。それより今は、これからのことを考えねばな」

 そう言ってロドルフはレンに視線を向けた。

「レン・マクベイン。もうわかっているとは思うが、アルエットは真の神子だ。内外に周知されている以上、これからもセシリアを聖王として立てていくが、アルエットの守護者となればその責は重いぞ」

「はい」

「……アルエットは兄上によく似て奔放だが、それでも大丈夫か?」

「あぁ……はい」

 ロドルフの何か言いたげな視線に、兄の供として重ねてきた彼の苦労を察したレンは深々と頷いた。

「その点は心配いりません。……子供の頃から、よくわかっているので」

 ちらりと横目でアルエットを見る。視線がぶつかって、彼女は慌てて下を向いてしまった。やはりあの一件以来、態度がよそよそしい。

「俺からも、ひとつ伺ってよろしいですか」

 レンはロドルフとナサニエル、そしてセシリアに向けて言った。

「俺は暗殺者としてアルエット様に近づきました。そのうえ、俺の中にある魔獣の力はまだ消えたわけではない。あなた方はそれでも、俺をここに置いて平気なのですか」

「アルエットの首の傷は、お前がつけたものだったな? 恩寵の翼が、お前の牙を防がなかった。その意味を私は知っている。それが理由だ。魔獣の力も、下手に放逐して今回のように悪意ある連中に利用されるより、手元に置いて管理するほうがずっと良い」

「アルエットにはクララック嬢もついているからね」

 ロドルフに次いで、ナサニエルが答えた。そしてハインツやニーナと共に控えるデジレへ目を向ける。デジレは無表情のまま両手の親指を上げてみせた。

 まるでその様子が見えているみたいに、セシリアが朗らかに微笑む。

「そうやって、自らの過ちを常に忘れないでいることです。わたくしはアルエットを信じているから、あなたのことも信じます。だって、アルエットは手紙でいつもいつもあなたのことを」

「わー! 待って待って、姉様だめ!!」

 セシリアが何かを言おうとした途端、顔を真っ赤にしたアルエットは慌てて彼女に飛びついて口を塞いだ。視界の端でハインツが身構えたものの姉妹のじゃれ合いだとわかっているらしく、その場からは動かない。

「あら、どうして? 彼にはもう言ったんじゃないの?」

「い、言ったけどあれは勢いというかなんというか……」

 こそこそ話しているが全部聞こえている。気まずいうえに方々から視線を感じてレンは俯くしかなかった。伏せた顔が熱い。

「まぁ、なんだ」

 呆れのような、気遣うような声でロドルフが言う。

「今のお前たちに必要なのは話し合いだな。――兄上はそれができなかったからああなった。お前は間違えるなよ」

 兄を諫められなかった後悔を抱えているロドルフからの、精一杯の激励だった。

 セシリアにしがみついてよしよしと宥められているアルエットが肩越しに振り返ってレンと視線がぶつかる。すると彼女は臆病な猫みたいに震え上がり、セシリアのふくよかな胸に顔をうずめてしまった。

「……わかっています」

 小声で答えたレンだったが、そもそも今のアルエットがまともに話して聞いてくれるかどうかだ。

 それに、レンにはどうしても彼女に伝えておきたいことがある。

 結果次第では、アルエットの傍を離れることになるだろう。

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