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Griffe et Aile ~死神の爪と恩寵の翼~  作者: 淡路帆希
王妃の日記
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第三十六話

 応接室にてレンを待っていたのはアルエットとセシリア、それから先王クロヴィスの弟ロドルフと王妃の兄ナサニエルだった。ハインツと侍女ニーナは部屋の隅で控えており、レンに付き添ってきたデジレもその隣に並ぶ。ロドルフたちの従者は控えの間にいるのか姿が見えない。

 ロドルフは相変わらず厳めしい顔つきをしていたが、現れたレンの姿を見てわずかに目を丸くした。

 それもそのはず。レンは今、ハインツやその部下たちと同じ制服を身に纏っている。アルエットはそのままでいいと言っていたが、主従として彼女に並び立つなら見た目で主人に恥を掻かせるなというハインツの言葉に従ったのだ。

「なんだ、そうしていればまともに見えるじゃないか」

 そう言ったロドルフは表情を和らげた。身元の定かではないレンに対し嫌悪感を露わにしていたようだが、ハインツが言ったように身嗜みへの不満があっただけのようだ。

 対し、様子がおかしかったのはナサニエルのほうだった。レンが部屋へ入ってきた時から青い顔をしていて、目が合った瞬間どういうわけかくしゃくしゃに顔を歪ませてレンに歩み寄りその手を力強く握った。

「君が……君がレン・マクベインなんだな……? あの時、死んだはずの……」

「え、あの、何事……ですか?」

 困惑するしかないレンは視線でアルエットに説明を求める。するとアルエットも困ったように首を傾げるばかりだった。

「全部話したんだ。君のことも、わたしと姉様の秘密も。ナサニエル伯父様はわたしが本当の神子だと知らないはずだったからね。でも、君のことを話したら会いたいと言い出してこの様子で……」

 それでレンを呼びつけたということらしい。あるいは、彼女たちもまたレンが何か事情を知っていると思っていたのかもしれない。しかしレンにはこの状況がさっぱり理解できなかった。

「「あの……どういうことなのか話していただけませんか。俺……私は貴方がアルエット……様の伯父上であるということ意外何も知りません」

 言葉を選びながら語りかける。するとナサニエルは顔を伏せたまま何度も頷き、自分自身を落ち着かせようとしたようだった。

「……五年前、アルエットが襲われたのは僕のせいなんだ」




 ナサニエルとミラベルの兄妹は、エテールネル王家と懇意にしていた伯爵家の生まれだった。

 親に連れられ幼い頃から聖殿に出入りしていた兄妹と、当時まだ王太子であったクロヴィス、その弟ロドルフは幼馴染みというべき関係であり、知己である。

 ただ、体が弱く大人しい性格だったミラベルは少年たちの遊びには加わらず、聖殿にいる時は侍女ニーナだけを連れて図書館や庭園にいることが多かった。特に、よく手入れされた薔薇の庭はミラベルのお気に入りで、彼女のための卓と椅子が置かれていたほどだ。

 それはミラベルがまだ七つの頃。見事に咲いた花々を、彼女の目の前でクロヴィスが踏み荒らし、手が付けられないほど大泣きしたミラベルをニーナとナサニエルで必死に宥めたことがあった。

 クロヴィスに理由を訊くと、彼女の傍を飛んでいた蜂を追い払おうとしたとのこと。なのに泣かれてしまって、クロヴィスはわけがわからないようだった。彼は三人の少年たちの中で一番やんちゃで不器用。虫や蛇を捕まえては喜ぶような子供らしい子供だった。大人しいミラベルは、そんなクロヴィスのことが元々苦手だったようで、以来、余計に彼を避けるようになってしまった。

「クロヴィス様はミラベルのためにやったんだよ。許しておやりよ」

「お兄様はあの方とお友達だからそんな風に言えるのよ。あの方はきっとわたくしのことが嫌いなんだわ」

 そう言って目も合わせようとしないミラベルを、やがて青年となり聖王の座を継いだクロヴィスは王妃に選んだ。

 それは求婚ではなく王としての命令に近かった。婚礼の儀の間、ただの一度も笑顔を見せなかったミラベル。そしてクロヴィスもまた鉄仮面のような顔をしており、ナサニエルはロドルフと供に深く深く溜め息をついたのだった。

 クロヴィスがミラベルのことをずっと好いていたと二人は知っていたのだ。できることなら気持ちが通じ合ったうえで結婚してほしかった。なのにクロヴィスはこんなことを言い出したのだ。

「俺はミラベルに嫌われてる。だから結婚を迫って、思いっきり振られてくる」

 それでミラベルへの気持ちを断ち切ろうとしたのか。しかしミラベルはその求婚を受け入れた。言い分はこうだ。

「わたくしをからかうおつもりで、あんなことを仰ったのよ。本当はわたくしのことがお嫌いなくせに。だったら受けて立ちましょう。わたくしを娶ってずっと後悔なさればいいわ」

 そんな反発心でミラベルが頷いたことをクロヴィスも理解した。だから互いに微笑み合うこともなく夫婦となったのだ。

 ナサニエルは妹の、ロドルフは兄の、拗れに拗れた仲を知っているからこそ諸手を挙げて祝うことができなかった。

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