第二十三話
オルガ特製の花の香りがするお茶を一口含んで、己の生い立ちを語り終えたアルエットは一息つく。
「そんなわけで、わたしは母さんのところでお世話になってたんだ」
母さんとはオルガのことだ。彼女に育てられた子供たちは皆そう呼んでいる。
それはともかく。
「レン、どうしたの?」
黙り込むレンにアルエットは首を傾げた。その唇の端には焼き菓子の食べかすがついている。
「話が重すぎて何も言えないし、そんな身の上を茶菓子食いながら話すお前に引いてる」
しかも腹が減っていたのかさくさくさくさく次から次に。
レンが眉間に皺を寄せて溜め息をつくと、アルエットは照れたように笑った。
「ごめんごめん。母さんのお菓子が美味しいからつい……。それに、ここにいる皆はもう知ってる話だしね」
アルエットが一同に視線を向けると、皆が頷いた。まだ子供のエリーとマリー、侍女のデジレも知っていたようだ。自分だけが渋い顔をしていることに気がついて、レンは閉口する。
「……事情はわかった。けど、なんで男のふりなんかしてたんだ」
正直なところこれが一番訊きたかったことだ。おかげで随分な醜態を晒してしまった。
「あぁ、あれはねぇ……」
アルエットは少し、いやかなり言いにくそうに頬を軽く掻いた。
「人目を避けて山の中で暮らすとはいえ、母さんのところには薬草を買いに患者さんも来るし、人の出入りはあるからね。勢いで髪も切っちゃったし、どうせならってことで男装したんだけど、一緒に暮らす皆には追々本当のことを話すつもりだったんだよ。でも……レンがわたしのこと、男の子だって信じて疑わないものだからどんどん言い出しづらくなっちゃって……」
話しながらアルエットの視線が徐々に下がっていく。顔は笑っているのに声が暗い。
「それはその……悪かった」
いや騙されていたのはこっちなんだけど、とは言いたくても言えなかった。男だと思って言ったこと、やったこと、過度な触れ合いが怒濤のごとく思い出されて恥ずかしい記憶に溺れそうだ。
「三年も一緒に暮らして気づかないって奇跡的な鈍さだよね」
カーラが隣に座るハンナに耳打ちする。だが聞こえている。互いに生きていたことを知った時は泣いて喜んでいたくせに、生意気さは健在だ。わざと聞こえるように言ったのか、レンの視線に彼女はにやりと笑った。
「エリーとマリーはまだ小さくてわからなかったみたいだけど、わたしたちはすぐに気づいたもんね。ねぇ、ハンナ?」
「え、えっと……まぁ、うん」
カーラに同意を求められ、ハンナはレンに気を遣うように苦笑いを浮かべた。
要するにあの頃のレンは六歳児並の洞察力だったというわけだ。平和で暢気に生きていた子供時代とはいえ、自分で自分に馬鹿めと言いたくなる。
咳払いをひとつして、レンはアルエットに「続けてくれ」と先を促した。
もう一口お茶を飲んで、彼女は居住まいを正す。
「じゃあ、ここからが本題だね。――あの日の夜に、何があったか」




