真夜中の闖入者
「いらっしゃいませ。お一人ですか? 」
しばらくして扉が開き、女将が穏やかな笑みを浮かべる。
その視線の先には、あまり見かけぬ顔の男。
「ええ。一人で申し訳ありません。今度来るときは彼女でも連れてきて売り上げに貢献しましょう」
いませんけど。そう男は言い切ってウインク。「女将さん。独身ですか? 」
女将の穏やかな笑みは動かない。「ふふ。お上手ですね」「そうですか? 」
「……ホルモンうどんで……あとカンパチのおつくり。飲み物は後で」「はい」
常連二人はカウンターに座った見知らぬ青年に注意を向ける。
青年と言うべきか、少年と言うべきか、老人というべきかわからない。
青年が口に運ぶのは丁寧に皮を剥かれた刺身。
皮際の表面に縦3つ、横2つの綺麗な切れ込みが入っている。
「美味しそうですね」青年はそういうと割り箸を割り口に運ぶ。
ニコリ。その笑みは子供のように見えた。
二合酒を手酌する仕草は、老人のようだ。
不思議な青年に瞳を凝らす。二人。小柄で細身に見えるが、手足は太い。
「兄ちゃん男前やなっ?! 」
出来上がった男に曖昧に微笑む青年。
「いえ、お兄さんには敵いません。私はこの通りですので……お姉さんのように素敵な女性もいませんし」
そういうと、出来上がった男以上に出来あがった女は顔を赤らめた。
「二十歳そこそこでしょ? お上手♪ 」
そういってしなだれかかろうとするのだが、青年はずっと遠くに座っている。
出来上がっている男は女の行動に苦笑いしかけるが。「もっとこっちきいやっ? 」と愛想良く言い放つ。
この辺、年齢が生み出す余裕を感じさせる。
「いえいえ。素敵なご夫婦の時間をお邪魔する気は……それに、私はお姉さんと同い年くらいですから」
そういって、女性的な笑みを浮かべ、手酌した二合酒を二人に掲げる。
「お二人の仲に。乾杯(完敗)」
……冗談らしい。その所作は酒が入り、少し女性的だ。
「はははっ! 面白いわぁ?! 」
酔った男はカウンターから立って、青年の肩をペチペチ叩く。
青年は曖昧に笑っている。その笑みはなぜか艶かしい。
「40前ですよ? 私」
「へっ? 」「へっ? 」
女将も一瞬だけ驚いたが、黙ってうどんを作る。
生卵と混ざった甘いホルモンの味と、臭みのある焼きうどんが出る。
青年はそれを美味しそうに食べていく。見た目に反して大食漢だ。
「……みえないね」「えっ? そうですか? 」
「ホント、上手いこと言うわねぇ。この子……キズちゃんもコレくらい言ってよ」「莫迦いえ」
二人は愉しそうにお互いの身体をつつきあう。偶然か故意か、時々手がお互いの局所に触れる。
青年は柔らかな笑みを浮かべ、二合酒を口に含んだ。
仕事明け。今宵も彼は一人酒。




