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飲み友達と杯と
彼は今日も歩く。
真っ暗になった商店街。深夜に灯る赤い提灯をまっすぐめざし、
藍色の暖簾をくぐって。
「こんばんは。……よっ! 」
女将に挨拶するが早いが、手を振り上げる。
「もう。遅いわよ? 」
そう言った女はかなり出来上がっている。
「もう、3杯目。キズちゃんのおごりでいいよね? 」「おいおい」
そういって苦笑する男は、いまどきのクールビス姿の還暦前くらい。
白い髪の上は薄くなっていて、濃い目の眉と力強い瞳、恰幅が良いが筋肉もあって強い印象を与える。
「マチちゃん。呑みすぎだぞ」「キズちゃんが来ないからだも~ん♪ 」
子供のような声を上げて小首をかしげて見せる女性も還暦ほど。
ブラウンに染めた髪の根元に白さが、頭の上はウィッグが乗っている。
若干痩せ方で、若い頃はそれなりの容貌だったのだろう。
エプロンドレスに身を纏い、言動の怪しさに反して動きはキビキビしている。
「ハイボールくれ」「はい」
「では、深夜までおつかれ~! 」「マチちゃんもな」
長年の飲み友達は杯をかわす。
二人はお互いの正確な名前を知らない。




