傷を待つ
木津川吉成は接骨医だ。
最近この仕事もチェーン店のような囲い込みをする同業者が増えた。
いわゆる「ほねつぎ」ははやらなくなっている。ほとんどは外科がやっているし、法律的にも苦しくなる一方。
若者を学費を出す名目で抱え込んで複数の接骨医の看板を出すやり方は、賢いとは思うが真似する気は無い。たぶん、この仕事は彼の代で終わる。息子はレントゲン医師になって彼の仕事を手伝ってくれるが。
朝起きて、深夜までご近所の皆と語らいながら按摩を行い、電気を運動部や格闘技をやる子供達に流す。
昨今は急患もない。ほとんどが外科の仕事になっている。
彼が空手や柔道の余技として覚えた時代は遙か彼方に去っていった。
「親父? どうした? 」息子の幸太郎はもうすぐ40前だ。
そろそろ結婚して欲しいのだが、息子は苦笑いして受け流している。
「母さんのほう、行ってやれよ」
幸太郎はそういうと、吉成を生活空間になっている二階に追い立てた。
定時などあってないようなもので、夕方5時までと書いている診療所は今夜も深夜10時まで近所の老人が押しかけてきていた。
妻、松子は脚を悪くして長い。介護が必要な身体だ。そして、彼女を救うことは、彼には出来ない望みだった。
「松子。ご飯だ」「……あなた。お疲れ様」
松子と呼ばれた女性は儚げに微笑む。
格闘技に熱心な青年と柔道部のマネージャーはそのまま接骨医と薬局を営むようになった。
松子は薬剤師だった。もっとも、今の診療所の薬局部分は倉庫となって長い。
「……あなた。ほら。星が綺麗」「ああ」
白い髪。何年もおしゃれから遠ざかり、運動など望むべくもない松子の手足を少しでも良くするべく、吉成は丁寧に動かし、按摩してやるのだった。
彼が自分自身の食事を行う時間は、夜明け前まで居酒屋で一杯と決まっている。




