久さん。そのスーツはなんでしょうか。
「そのスーツはなんでしょうか」「嵌められた」
何を言っているのか良くわからないのですが。久さん。
久しぶりにお店を閉めてゆっくりしていますと久さんが訪ねてきました。
「ゆぎこ」「ゆぎー」子供たちが抱きついてきて落ち着きません。
「とりあえず、人目もありますのでお店の奥に入ってくれませんか」
このお店の居住空間は男一人、女二人、子供二人が暮らすには狭すぎます。
6畳一部屋と廊下兼炊事場。トイレしかありません。
着替えをするときはお義兄さんを追い出さないといけません。もしくはお店を閉めてそちらで行うか。
必然的に、子供たちは誰かに掴まったり抱きついたりする癖がついてしまっています。
ええ。久さんのお顔が凄いことに。
「二人とも。久さんの顔で遊ばないで下さい」「きゃきゃ」「だぁだぁ」
「人見知りしない子たちだな」「ええ。困っています」
いつの間にかお馬遊びをしています。子供が好きなんですね。
「義兄さんは? 」「今日は用事です。お店はお休みです」姉もいません。
「まさか義兄さんのいない隙を狙って不届きなことをしに」「するか」む。
「テレビがあるんだ」「さすがに最近は」ついこの間まで高級品だったのが嘘のよう。
日本はどんどん凄いものが溢れるようになって行きます。漫画のような空にかける道すら出来てきました。
「そうそう。最近は月曜日をお休みにしなくてもいいんですよね」「停電ないしな」
習慣的に床屋は月曜日はお休みですが。ちょっと前は月曜日は停電でパーマ機が使えませんでした。
「アレはやられた」「あの子、変な道具が好きですから」
先日のアレならばと私はお金を取り出します。大学にいく貴重な資金がなくなります。
「とりあえず、あの子は今月お金が無いらしいので、私が立て替えておきますから」「いんや。タダになっちまった」は?
「スーツも、貸してくれた」「理解不能です」
「いや、結婚しろって皆が」「はぁ? 」
「義兄さん」「な、なんだ由紀子」
いつも高圧的な義兄ですが、義妹思いな所もあります。
感謝はしていますが。時々余計な気遣いもします。
「仕事サボって、何やってるんですかっ!!!!!!! 」「公園でたそがれていた」だらず。
「一応、言っておくが、そういう事は一切していない」「この玉無し」悪態をつく義兄さんに口元を引きつらせる私達。
「あ。そか。子供が邪魔だった。俺と言う者が」
ポンと手を叩いて頭をかく私の義兄と姉。『理容サンフラワー』店主に。
「ばかあああああっ?! 」「アホッッ ……失礼しました」
私達の罵声がかかりました。
「え。貴方たち結婚するっていうから席を外したのに」「やっぱ、ヤル場所には苦労するよな」
「……」「……いや、そんな気遣いは結構ですから」
(作者註訳:この時代の一般家屋は防音機能が乏しく、色々と丸聞こえでした)
「だれがそんなことを」「武田さん……もとい彰子ちゃん」「俺は喫茶店のオッサンから」
聞けば、喫茶店のおじさんがあちこちに言いふらしているようです。あのだらずは絶交ですね。
「二百回くらい絶交してないか」「どうして貴方が御存知なんですか。久さん」「いや、なんとなく」
「で。結婚しないといけない状況に追い込まれたと」
会社では見合いは上手く行っていると火野さんや風鳴さんに吹聴され、
同僚の木下さんという方にはからかわれ、先輩や上司には色々いわれ、喫茶店のアレが決定打と。
「ああ。とりあえず貰ってやる。感謝しろ」むかか。
「帰れ。だらず」
二度と来るなっ。私は彼に塩をぶつけていました。




