明日は輝こう
「ご来光。ですよ」
由紀子は久しぶりに山に登っていた。普段共に登る森本はいない。
重く、気だるさに苛まれる小さな身体を奮い立たせ、その輝きを見ようと絶壁の上で背を張る。
その様子にパーティの皆は苦笑い。
「ゆっこちゃん。森本さんと別れたんだって」「うううう。誰が仰ったんでしょうか」
小柄な身体で大量の荷物を背負った由紀子の姿は『荷物が小柄な娘を下敷きにして』動いているように見える。
まだ冬の残滓が残る山をうら若き六名の男女が下っていく。山仲間である。
「うん? ゆっこちゃんフリーなんだ。俺貰おうかな」「あ。俺も」「はぁ」
由紀子から見れば山仲間は兄妹のような存在で、恋愛対象ではない。
「山男には惚れるなっていいますよ」「ひどっ」「ふふ。私もコイツと結婚して後悔したなぁ。山山でさ」
そういって微笑む女性は連れの男性のリュックサックを軽くたたいた。
山の中ではくだらない行動が命を左右する。小石一つの踏み間違えで人が死ぬこともある。
かるくはたいた。そういうわけで、男性は女性の行動に気付かない。
「男って鈍いわよね」「そうですよ」
思わず同意した由紀子に苦笑する女性。
「で。新しい男の人とは仲良くやってるの」「は? 」
由紀子はその丸い瞳を女性に向けた。女同士でも上背の差が激しい。
「え。彰子ちゃんから聞いたんだけど」「でたらめです。アイツとは絶交です」
「それ、俺五十回くらい聞いた」「俺も」「私も六十回は聞いたなぁ」口々に山仲間が呟く。
由紀子はひねくれている様で扱いやすい。
見た目は子供だが扱いを間違えなければ献身的で周囲に気を配る優秀な仲間になる。
……。
……。
「ねね。ゆっこちゃん。それなに」「ベーグル」
由紀子はリュックの中で潰れた丸くて穴の開いたパンにかじりつく。
「なにそのドーナッツ」「ベーグルです。阪神百貨店で買いました」
其の丸いパンは他のメンバーが苦労しながら口に運ぶ半分凍ったお握りより幾分食べやすそうだ。
太陽はぐんぐんのぼり、彼らを照らし出す。雪が残るが、彼らの身体は早くも汗が噴出している。
「いいな。これ。俺も今度買おうかな」「ペタンコになっても美味しいし日持ちします」
ベーグルを見ながら青年が呟く。
「問題は値段なのです。高いです」「うーん。お握りとよしあしか」
実際、作るうえで手間が掛かる。
この時代、魔法瓶の性能は良くない。
硝子で出来ていて、重くて割れる。持ち運びには細心の注意を必要とした。
保温力も良くない。少なくとも山に持ち歩けるものではない。
山男たちの装備はそれほどいいものではないが。
それでも山男たちは元気に山に登っていた。
理由なんて無い。由紀子だってわからない。
少なくとも由紀子は山が好きだったし、森本と別れたあともそれは続くと思われた。
「結婚式は呼んでくれるよね」「はぁ?! 」




