いったんの終わり
藤崎の一件は、小夜の日常を静かに変えた。
それまで総務の中で完結していた仕事は、ある時を境に、そうではなくなった。自分の知らないところで判断され、自分の見えないところで警戒され、その結果として小夜は危機管理室へ仮配属されることになった。
表向きは業務上の措置だった。
だが実際には、それだけではなかった。
藤崎から小夜への接触、あるいはそれに準ずる動きがあるかどうか。
危機管理室はそれを見ていた。
小夜は守られる側であると同時に、観察される側でもあった。
最初の頃、小夜にとって危機管理室は完全に外側の場所だった。
澪の視線は鋭く、求められる精度は高い。高橋のやわらかさに助けられながらも、自分がここにいていいのか分からないまま、ただ目の前の仕事をこなすしかなかった。
それでも、日々の業務の中で少しずつ変わっていくものがあった。
総務で身につけた確認の癖は、危機管理室でも無駄にはならなかった。記録を追い、違和感を拾い、曖昧なまま流さないこと。その積み重ねの中で、小夜はただ置かれているだけの存在ではなくなっていった。
一か月が過ぎた頃、藤崎からの明確な接触は確認されなかった。
観察という意味では、ひとまず区切りをつけることができた。
だが同時に、その一か月は別の結果も残していた。
小夜は危機管理室の仕事を覚え始めていた。
危機管理室の側もまた、小夜を一時的な補助としてではなく、業務の一部を担える存在として見始めていた。
だからこそ、次に問われたのは保護の継続ではなかった。
小夜をどこに置くべきか。
そして小夜自身が、どこにいたいのかだった。
総務へ戻るか。
危機管理室に残るか。
その問いに、小夜は自分の意思で答えた。
危機管理室に残りたい。
もっとここで仕事を覚えたい。
その返答によって、仮配属は正式な配属へと変わった。
守るために置かれた席は、働くための席になる。
補助として預けられていた立場は、担当として仕事を持つ立場へ変わる。
藤崎の一件から始まった一連の流れは、そこでいったん区切りを迎えた。
少なくとも、その時点では。




