待ち人
【前話までのあらすじ】
天樹の扉から第2世界カサヴァシアへ渡った果樹園パーティ。森の中で目を覚ますと轟音とともに地面が揺れた。すでに戦闘は始まっていた。ライスとリジの目の前で、ギガウの一撃を受け止める少年の姿があった。
009話 待ち人
◇◇◇
吹き飛ぶ少年に、ギガウが追撃をかける。
「じじぃ、こいつらも武具使いなのか。そんな話、聞いていないぞ」
「ふぅむ.. デボォ、お前は戻って、この異邦人の襲来を報告するのだ。私が足止めをしておこう」
「わかった。じじぃ、殺られるなよ」
手袋をはめた少年が大地をたたくと、森全体が大きく揺れた。
脚に重傷を負っているギガウは、態勢を崩した。
「ガキが.. この年まで伊達に生き抜いたわけではないわ」
少年の軽口を真に受けた老戦士は、不機嫌そうに独り言を漏らしながら、杖を地面深く突き刺した。
「..存分に悔恨をまき散らすがいい」
老戦士の不気味な声とともに、杖から緑色の巨大なサンショウウオが這い出した。
サンショウウオは、動けないギガウへゆっくりと迫っていく。
「ギガウ!」
ギガウの危機に、リジは思わず叫んでしまった。
「仲間か!」
緑炎のサンショウウオは、ライスとリジのほうへ向きを変えた。
聖剣―イブキ―を構えたリジは、真空の鞭で攻撃した。
しかし、サンショウウオの緑炎を揺らすことさえできなかった。
「リジ、思念の塊は炎とは違うんだ」
「思念の塊? それって何なのよ! ギガウ、岩でそいつを弾き飛ばしてよ!」
「ダメだ! なぜか精霊フラカが眠りについてしまっているんだ!」
サンショウウオが短い手足の爪で大地をかく音が、リジをさらに焦らせた。
「じゃ、じゃぁ、お守り様、お守り様を呼びなさいよ!」
「今は留守だ」
「留守ってなんなのよ! こんな時に!」
サンショウウオはリジとライスを丸呑みしようと大きな口を開けた。
しかし、何故か背中を向けて引き返した。
「いったい、どういうつもり..」
「つまらん。どうやら思惑違いのようだ。いったい今まで何を警戒していたのだ..
このような異邦人に.. 弱者に闘いなど無用。貴様らなど、名誉ある死よりも濁流に沈む石になるほうがお似合いだ」
老戦士が杖に語りかけると、杖にはめられた闇色の宝石が鈍く点滅した。
サンショウウオが大きな口を開けて空気を吸い込むと、風船のように膨れ上がっていく。
「リジ、きっとこれがさっきの濁流の正体だよ.. すごく嫌な気配だ」
「なら、ライス、早く黒炎で結界を..!」
「うん!」
ライスは耳飾りをはじき、式紙に息を吹きかけた。
そして黒炎のイタチを召喚した。しかし..
頭にロウソクほどの小さな火を灯したイタチが、ライスの足の後ろに隠れた。
しかも、風にあおられると白く細い煙をのぼらせて消滅してしまった。
「なに、これ?」
「へへ..ごめん..なんか..私も力が出ないみたい..」
そう言うと、ライスは糸の切れた人形のように力なく膝から崩れ落ちた。
「ははは.. 急にイタチが出てきて何かと思ったが、ただの手品か.. すでにネタ切れのようだな。
よし、貴様らに死ぬまでの時間を決めてやろう。三十秒だ。それまで女神ララにでも祈るがいい。まぁ、女神は聞く耳を持たぬがな」
そう言うと、老戦士は背中を向けて霞のように消えた。
緑炎のサンショウウオの巨体はパンパンに膨れ上がり、今にも破裂しそうだった。
サンショウウオの頭の緑炎が、ひときわ大きく爆ぜた。
しかし、大空へ舞い上がった緑炎のひとかけらは、一枚の木の葉へと姿を変えた。
そして、意志あるそよ風に流れていく..
その先に眠る者を目指し..
木の葉はふわりと草むらに横たわるアシリアの胸元へ落ちた。
―森の巫女よ.. どうか、どうか起きてください..
閉じられたアシリアの瞼から、一滴の涙がこぼれ落ちた。
新投稿は火曜日と金曜日の22:00です。おたのしみに♪




