案内人
【前話までのあらすじ】
旅立ちの準備を終えたライスとリジは、タスロク国の三賢者と合流する。 三賢者によって召喚された白鯨は、ライス、リジ、三賢者を呑み込んだ。
07話 案内人
◇◇◇
白鯨に飲み込まれた瞬間、ライスとリジは、パン生地のように意識を誰かに引き延ばされるような感覚に襲われた。
白く薄れゆく意識の中で、リジはセレイ村のキース・レックの言葉を思い出していた――
『第2世界カサヴァシアか..』
『もしかして先生、知ってるの?』
『いや、カサヴァシアそのものは知らない。ただ、カサヴァシアという世界がどんな世界かは想定できる。―武具の国―だ』
『武具の国?』
『そうだ。例えば、お前が身に着けている伝説の防具・銀鴉も、カサヴァシアの武具のひとつだと俺は見ている』
『カサヴァシアの..』
『それとリジ。お前も知っているゼルド国だ。あそこには―王家の秘宝―と呼ばれる武具があったのだろう?』
『うん。それを身に着けるだけで、ゼルド国の人たちの力と士気が上がったわ』
『カサヴァシアにも同じような武具があると思っていい。そういう武具は国を強くする。これは俺の勘だが、カサヴァシアでは国同士の―武具の奪い合い―が起きていると思う。だから俺は、お前が第2世界カサヴァシアへ行くことに反対だ。お前が死ぬからだ』
『先生! ..私、行くからね』
『ああ、知っている。だからこそ、お前は蹴門のセイラと戦う必要がある。見事にセイラにひとあわ吹かせろ。それができれば、生きて帰ってこれるだろう』
― 生きて帰ってこい、リジ ―
―――
「 ..ジ リジ、起きて!」
ライスに強く揺さぶられたリジは、地面の石に頭を打ちつけた。
「痛いっ!」
「あ、やっと起きた」
「..もう ―やっと起きた―じゃないよ。痛いじゃない」
「ごめんごめん。でも、リジがあまりにも起きないから心配でさ」
リジは頭を押さえながら、周囲を見回した。
「..で、ここはどこ?」
「ここは最果ての森だ、リジ・コーグレン」
「バルク..」
「すごかったね、リジ。覚えてる?
あんな小さな水たまりからドバーッて白鯨が出てきてさ。あれって白鯨グゼかな?」
「あれは私たち三賢者の空間移動の術式を具現化したものだよ」
「へぇ、私の式紙みたいなものか.. もしかして私にもできるかな?」
ライスは、術の発動を―生物として具現化する―という発想に胸を躍らせていた。
「さぁ、どうかな.. それよりも、この森に君たちの仲間がいるみたいだな」
「もしかしてアシリアとギガウがいるの?」
「ああ。きっと彼女にも―花の詩が届いていることだろう」
「どこにいるのかな?」
「ギガウの精霊の縄張りを探知できないかな?」
「いや、それは不可能だ。そもそも最果ての森は縄張りを敷くことができないんだ」
ギガウと同じ能力を持つオルサが言うのだから、確かだった。
「そっか。じゃ、地道に探すしかないか..」
「でも、この広い森の中、見つけられるかな」
「う~ん.. とりあえず、アシリアの名でも叫んでみようか」
「ライス、そんなあてのない作戦より、私が森の案内人を出してやろう」
オルサが地に手をつけて唱えると、地面が盛り上がり、毛深い手が突き出た。
土を押し分けて姿を現したのは、茶色い大猿だった。
猿は指でライスとリジを順に指さし、 ―任せろ―と言わんばかりに、二、三度胸をたたいた。
『ホッ ホッ ホッ』
「彼はアルボスクという猿だ。きっとアシリアとギガウを見つけてくれるだろう」
紹介が済むと、アルボスクはリジに向かって投げキッスをした。
リジは眉をひそめ、苦々しい表情を浮かべた。
その顔を見たライスは、腹がよじれるほど笑い転げた。
「では、私たちは自分の国へ戻るよ。君たちの目的が叶うことを祈っている。 帰ってきた暁には、私たちの国に寄ってくれ」
「うん、ありがとう、タスロクの三賢者」
「リジ、アルボスクをこのオルサだと思って、やさしくしてやってくれよ。はっはっは」
「..くっ」
リジの渋い表情とは対照的に、アルボスクは嬉しそうに胸をたたいていた。
三賢者は森の中へと消えていった。
『フホ フホ フホ』
アルボスクを見ると、指でクイクイと―ついて来い―のサインを出していた。
そして、リジに向かって熱烈なウィンクを送った。
「とりあえず、ついて行こうか、リジ」
振り返ると、リジが身震いを起こしていた。
ライスの笑い声が、最果ての森に響き渡った。
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