花の詩
【前話までのあらすじ】
リヴェヴァリオ国では再建されたリキルス国を祝う式典が開かれた。果樹園パーティの代表としてライスとリジは、関係者だけの席に立ち会う。そこでリキルス国3賢者は、妹ミーアの願いを胸に、国名を―水の国リキルス国―から―花の国タスロク―へと改めることを宣言した。
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005話 花の詩
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堅苦しい式典がひと通り終わると、それからはライスが一番楽しみにしていた祝宴が始まった。
リヴァーナ川でしかとれない、2メートル級のエルメトルチェの塩釜焼き。
さらにタスロク国から、最果ての森で採れた果物が次々とテーブルに並べられた。
こんがりと焼けた塩の鎧を小槌で割ると、エルメトルチェの脂と塩、そしてヴェリスというハーブが混ざりあい、食欲をそそる香りが会場いっぱいに広がった。
その魚の身は、肉のようにガツリとした噛み応えがあるかと思えば、口に入れた瞬間ホロホロとほどけていく。
ライスばかりか、リジまでも言葉なく食事に夢中になるほどだった。
「さぁてさて、次は果物いっちゃおうよ、ライス」
「うん、そだね。リジ、頼むよ」
リジは不敵な笑みを浮かべると、目の前のロシスレックという巨大桃にナイフを向けた。
その様子を見た給仕が、桃の実を分けようと慌てて駆けつけたが、それよりも早くリジの手によって皿に盛り付けられた。
「さらに鮮やかな腕になったな、剣士リジ」
「やぁ、バルク」
声をかけてきたのは、三賢者のうち空の賢者バルクだった。
「このロシスレックって、うちの果樹園の桃の原種でしょ」
「ほぉ、よく知っていたな、ライス。そうだ。最果ての森になる果実のほとんどは、農地で育てられる果実の原種だ」
「私も果樹園の経営者だから勉強したよ」
「そうか。だが、食べたことはないのだろう?
早速、味わってみるといい」
「もちろん!」
ライスとリジは、切り分けた桃を大きな口をあけてほおばった。
二人は体を小さくして肩を震わせた。
ライスはぎゅっと閉じた目を開けることができず、リジは涙と鼻水が止まらない。
「がはははは。味までは知らなかったのだろう。この果実は芳醇だが、人の舌には少し野性味に溢れていてな。ふつうは砂糖漬けにして食べるんだぜ」
「こら、いたずらが過ぎるぞ、バルク」
バルクの悪ふざけを見て、カランドが水を持ってやってきた。
「ほら、この水を飲むといい」
手渡された水を勢いよく飲み干し、ライスとリジは少ししびれる舌を指で確かめていた。
「ところでリジ、君の持つ聖剣からとてつもない力を感じるのだが、それは本当に聖剣―空の羽―なのかい?」
「ああ、俺も感じたぞ。お前の聖剣に宿る風の精霊フゥとは、また違う力だな」
二人の疑問に、リジは少し得意そうに鞘に収められた剣を取り上げた。
そして、呪いから解放された勇者たちの魂がそれぞれ武器に宿ったことを説明した。
「この剣には勇者ソルトの魂も宿っているの。
そして聖剣―イブキ―となって生まれ変わったんだよ」
「なるほど。聖剣―イブキ―か。いい名だ。その影響だろう。風の精霊フゥも、さらに高位な精霊になったな」
「リジ、ギガウ、アシリアの武器は恩恵を受けたようだが、ライス。お前は何かを得たのか?」
「んとね、へへ。私はそういうのはないけど..
ただ勇者の魂を解放した時、ロスさんが笑顔になってくれた気がした。それで私は十分なんだ」
「そうか。そうだな。ロス・ルーラは、きっと最後までやり遂げたお前を誇りに思っているにちがいない」
その時、リヴァーナの聖室の扉が轟音とともに吹き飛ばされた。
渦巻く風がテーブル上のご馳走を一瞬でさらっていく。
「このオルサの結界を跳ねのけ、入り込むとは..! 何者だ!?」
オルサの叫びに、竜巻は回転を緩めた。
白い花びらが舞い上がり、森の巫女エレンフェが姿を現した。
「エレンフェじゃないか! どうしたんだ、こんなに慌てて」
ライスが差し出した水に、エレンフェはわずかに口をつけた。
「ライスさん、急いで準備してください。
あなたは子供を救わなければならない..
そして今度こそ、ロス・ルーラの魂を救い出すのです」
「ロスさん!? どういうことなの..?」
「ライス、まずはエレンフェさんの傷の手当てをしよう」
エレンフェの腕や足、頬には、血が滲む傷がいくつもあった。
ヴァレノール王は給仕に薬草と清潔な布を用意させ、城に常駐する典医に治療をさせた。
そして、森の巫女の慌てぶりから只ならぬ事態と察した王は祝宴を取りやめ、ライス、リジ、三賢者だけを残し、他の者を下がらせた。
「エレンフェ、あなたは最果ての森にいたはずじゃないか? そんなに慌ててどうしたんだ」
「森に..花の詩が届いたのです」
「花の詩?」
「はい。これは私たちエルフが持つ能力です。
私たちエルフ族の寿命は長い。その命が突然断たれた時、行き場を失った膨大な霊力が森を駆け抜けるのです。
私たちはそれを―花の詩―と呼んでいます。
先ほど、ひときわ大きな霊力が弾けました。
おそらく、私と同じ“森の巫女の宿命”を持つエルフのものです」
「ま、まさか..アシリアが!?」
「ライスさん、安心してください。あの子のものではありません。アシリアは今もギガウさんと旅をしています。
そして、おそらくはあの子も、この花の詩を受け取ったはずです」
「それで、その花の詩がどうしたというのですか、エレンフェさん」
「ヴァレノール様。お久しぶりでございます。このような祝宴の場を台無しにしてしまい申し訳ございません。
しかし、どうしてもこの詩をライスさんに届けなければならなくて..」
「エレンフェさん、ロスさんを救うってどういうことなの?」
「ライスさん、落ち着いて聞いてください。
ロス・ルーラは新たに生まれ変わりました。
私に届いた花の詩は、そのことを告げるものでした」
「ほ..ほんとに? ロスさんの魂は消えなかったってこと?」
「はい。この城で起きた落魄の闇との闘い。
本来なら、禁忌の魔法を使ったロス・ルーラの魂は消え去る運命にありました。
しかし、唯一ロスの魂を転生させることができる場所が、あの時ここに存在したのです。
その場所こそが―時静の絵画―です」
「時静の絵画!? ライスの魔法によって作られた、時の静止空間!」
「はい。その場所で、慈悲の魔人は密かにロス・ルーラの魂の欠片を異世界へと飛ばしたのです」
「よかった..本当によかった。ロスさんは消滅しなかった」
「うん、よかったね、ライス」
ライスはリジの胸に縋りついて泣いた。
「そして、花の詩は伝えました。
―ロス・ルーラの転生者の命が危ない― と」
「リジ、私、助けに行くよ!
エレンフェさん、いったいどこに行けばいいの?」
「それは.. 第2世界カサヴァシアです」




