表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
果樹園の魔法使い~カサヴァシアの祈り  作者: こんぎつね
1章 精霊が住まない世界 カサヴァシア
PR
4/20

花の名を冠する国 

004話 花の名を関する国

◇◇◇


―第3世界 エスタレノフ―


 多くの精霊が息づく世界、エスタレノフ。

人類は長い歴史の中で5王国5領主国に分かれ、自然の調和のひとかけらとして暮らしてきた。


 しかし600年前、強大な力を持つ闇の従者によって、王国のひとつ―ルメーラ国―が滅亡した。

現在、世界は4王国5領主国となっている。


 約2年前。

世界の平和を願う鐘が鳴り響いたその日、勇者パーティ最後のひとり、大魔術師リベイル・シャルトがこの世界を旅立った。


 その瞬間、大地が震え、闇の従者たちが息を吹き返した。

それは破滅の息吹だった。


 キャスリン王国の姉妹国であるリキルス国も、闇の従者によって滅亡の危機に直面した。

だが、リベイル・シャルトはこの世界に4つの若い芽を残していた。


◇ヴァン国の次期領主・リジ・コーグレン

◇土の精霊に愛されるチャカス族の戦士・ギガウ

◇森の巫女の血を受け継ぐエルフ・氷のアシリア

◇大魔法使いを夢見る少女・ライス・レイシャ


 旅する4人はやがて―果樹園パーティ―と呼ばれ、闇の従者の謀略により滅亡の危機にあったリキルス国を救った。


 そして今日、リキルス国の三賢者はリヴェヴァリオ王国へ招かれていた。

最果ての森に再建された新たなリキルス国を祝うためだ。


―リヴェヴァリオ国 リヴァーナの間―


「うわっ、すごく大きな広間だね」


「ちょっと、ライス。

こういう場ではあんまりキョロキョロしないでよ。

田舎者だと思われるでしょ」


「いいじゃん。

だって私、田舎者の農婦だもん」


「ったく..」


 あきれたリジは、自分たちの席のあるテーブルへ歩を進めた。


 しかし、さっきまで賑やかだったライスの声が急に途切れ、リジは思わず振り返った。


 ライスは広間の中央で、手を広げ人類を祝福する女神リヴァーナの像を見つめていた。


―落魄の闇―との死闘で、ライスが女神レイスの転生者だと知ったあの瞬間。

あれから一年が過ぎ、リジの中からはその記憶が抜け落ちていた。


 ただ、女神像を見つめるライスの横顔に、説明のつかない違和感だけが残っていた。


「..ライス、どうしたの? 

なんで女神リヴァーナを見てたの?」


 リジの空白を埋めようとする気持ちが、無意識にこの問いとなった。


「ん.. ううん。ただ、この女神像を見てたらロスさんを思い出しちゃって.. だめだね」


 もちろん、ライスからも自分が女神レイスの転生者である記憶は消えていた。


 覚えているのは――

―落魄の闇―に捕らわれたロス・ルーラの魂を解放し、光の中へ帰っていくのを見届けたことだけだった。


「ああ!! 

ライスお姉ちゃん!!」


 会場に響き渡る高い声。


 ライスの名を呼びながら抱きついてきたのは、砂の王国マガラのユウラ王だった。


「ユウラ! 久しぶり!」


「うん、久しぶりだね。

お姉ちゃん、ぜんぜん遊びに来てくれないんだもん」

ユウラは少し甘えたように、すねて見せた。


「ごめん、ごめん。

ちょっと、いろいろ忙しくって」


「うん、知ってるよ。

果樹園の再建で大変だったんでしょ。

だから我慢した。

でも、今日こうして会えて、ユウラはとってもうれしいんだ!」


一国の王と田舎町の農婦。

少しの距離をまったく感じさせない会話に、周囲の侍女たちは困惑していた。


「ユウラ王様、おひさしぶりです」


「おお、ヴァン国次期領主のリジ・コーグレン。

よくぞここに―ライスお姉ちゃん―を連れてきてくれた。

ほめてやろう。

それと『王女』ではない。『王』だ。

今日は機嫌がいいから見逃してやるが、二度と間違えるな」


 この態度の違いにリジは苦笑した。


 しかし、一年前から次期領主として学びを進めるリジは、幼くして国を治めるユウラに尊敬の念を抱いていた。


 隙を見せないよう強硬な態度を貫く彼女が、唯一甘えることを許す存在――

それがライスであることを、リジは少しずつ理解しつつあった。


―ピピッ ピピピッ


 突然、ライスの耳元にハチドリが羽ばたき、小さな声で何かを告げていた。


「来たみたいだね、ライス」


「うん」


 古の女神の物語が描かれた天井に、もくもくと雲がかかる。

稲妻が会場の空気を切り裂き、眩しい光が広間を照らした。


 やがて純白の絨毯が扉から伸び、ライスの足元で止まる。


「まったく.. 

いちいち騒がしい奴らじゃの」


 ライスに甘える時間を邪魔されたユウラは、少し不機嫌になった。


 扉が開くと、3人のハーフエルフが姿を現した。

颯爽と歩み寄った3人は、ライスとリジの前で膝をつく。


「これは、久しぶりでございます。ライス様」


「はは.. 

あ、あの、ちょっと..」


 三人のハーフエルフはリキルス国を治める三賢者。

その三人が膝をつき礼を尽くす姿に、会場の誰もが驚きを隠せずにいた。


 しかも、たかだか17歳の小娘に対してだ。


「おい、三賢者。いいかげんお姉ちゃんが困ってるだろ。

膝をつくのをやめろ」


「いえいえ、こればかりはユウラ様のお言葉でも、そういうわけにはいきません。

私たちリキルス国が再建できたのは、ライス様のおかげなのでございますから」


 相変わらずカランドは真面目一辺倒だった。


「お姉ちゃん、このバカ真面目は、お姉ちゃんが―立っていいよ―って言わなきゃ立たないよ」


「えっ、ああ..

どうか立ち上がって。

それと、ちょっと危ないから、バルクさんの稲妻も引っ込めたほうがいいかなぁ..って」


 バルクが指で空を切ると、雲が晴れ、天井の神々しい絵画が再び顔を出した。


 バルクは横にいるリジに気づくと、がさつな声で話しかけた。


「おおい! リジ、久しぶりだなぁ。元気にしていたか?」


 背中をバンバン叩かれ、リジは口に含んでいたお茶でむせてしまった。


「バルク、私たちは三賢者だ。

そのように淑女を叩くものではない。

私たちは民の手本にならなければならない身だ。

このようにするのだ」


 オルサは深く頭を下げると、そっとリジの手を取り、唇を当てた。


 思いもよらない行動に、リジの顔は火がついたように赤くなった。


「おい、三バカ。

お前ら、いいかげんにしろ。

私は一応、お前らの後見人だ。

それはキャスリン国のレミンばぁちゃんに頼まれたからだ。

言うことを聞かなかったら、この場から追い出すことも許されているんだぞ」


 その言葉を聞くと、三人はユウラに一礼し、それぞれ自分の席へ向かった。

去り際、バルクはリジにウィンクしてみせた。


「ねぇ、ライス..

バルクの奴、何のつもりなのかな。

ぞわっとしたよ」


「ははは..」


 大きな会場に澄んだ笛の音が広がった。

その響きは、アシリアが持つルースの横笛の音にどこか似ていた。


 正面の扉が開くと、リヴェヴァリオ国王ヴァレノールがマントを翻し入室した。


 式典用のテーブルは大きな楕円形をしており、見慣れない席がずらりと並んでいた。

各国の偉い人たちが座るのだろうと思うと、ライスは少し緊張した。


 だが、実際にそこへ座るのは―有識者―と呼ばれる護衛であることが多い。

彼らは時に王の盾となり、提供された料理の毒見もする。


 ヴァレノールは三賢者、ユウラ、そして特別に招かれたライスとリジを見渡すと、大きくうなずいた。


「皆さん、今日は遠くからご苦労様です。

まずは席について、話を始めましょう」


 王位を継承して一年。

あの頃の落ち着きのなさや浮足立った雰囲気は影を潜め、今では堂々とした懐の深ささえ感じさせる語り口だった。


 三賢者からの報告は、国づくりにおける支出、リヴェヴァリオ国からの借り入れ金の残高と返済計画、そして国としてどう財を築いていくかという内容だった。


 また、その計画を実行するための他国との協調方針や、具体的な施策も示された。


 しかし、十七歳の少女であるライスには、まったくもって退屈な話ばかりだった。


 途中、ライスがあくびを噛み殺したのに気づき、リジが肘でつついた。


「―以上が、これからの国の商業計画です」


「なるほど。

それならば、キャスリン国とキャカの木の管理体制が重要となりますね。

実は先日、レミン殿からも書簡が届いております。

そこには、―キャカの木の管理権を三賢者に移譲する―と書かれていました。

キャカの木とは、三賢者の母・ルミラウェが姿を変えたもの。

当然、その群生も三賢者が見守るべきだと記されていました。

レミン殿は、自分が生を全うした後、再び人間とハーフエルフの間に遺恨が残らないようにと、私にこの書簡を送ったのです。

この思いを、しっかりと受け止めてほしい」


「はい。

私たち三賢者は、国の発展のためにもキャカの木を守っていきます」


 三人は、ヴァレノールの言葉を厳粛に受け止めた。


「ところで、リジさん、ライスさん。

実は今日この場に果樹園パーティを招いたのには、理由があります」


「は、はい。

あ..あの..すいません。

ギガウとアシリアは、その..ちょっと..」


「ああ、大丈夫ですよ、リジさん。

彼らがルメーラ国復興のために旅に出ていることは知っています。

実は、カランドさんから果樹園パーティに伝えたいことがあるそうなのです。

そうですよね、カランドさん」


「はい」


 カランドは正面に向き直り、ライスの目を見つめながら語り始めた。


「リキルス国の危機から一年が経ち、果樹園パーティの皆さんのおかげで、再建も思ったより早くめどがつきました。

妹ミーアは望みました。

―民がタスロクの花のように、明るく力づよい笑顔でいられるように― と。

だから私たちは、国の名を『水の国リキルス』から『花の国タスロク』に改めたいのです。

それを、あなた方に聞いてほしかったのです」


 ライスとリジは、最後まで民の明るい未来を願いながら命を閉じたミーアの姿を思い出していた。


「うん。とっても素敵な名前だね」


 そう言うと、ライスはタスロクの花のような明るい笑顔で応えた。

次回は火曜日22:00です

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ