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果樹園の魔法使い~カサヴァシアの祈り  作者: こんぎつね
1章 精霊が住まない世界 カサヴァシア
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14/19

無知を裂く銛

【前話までのあらすじ】

リジは狩猟の成果であるマルコブタとともに、 エルフの血を継ぐ若者オーフェルを連れ帰った。

彼はフルーネ村の生き残りだったが、事件は彼の留守中に起きたため、 詳しい事情は分からないという。

そんなオーフェルを、アシリアは懐疑的に見つめていた。

一方その頃、エルアドルの戦士たちは再びライスたちへと近づきつつあった。

14話 無知を裂く銛

◇◇◇


「おいおい、レゲッドさんよ。あんた本当にここで闘ったのかい? 死体どころか森だって燃えてねぇじゃねぇか」


「ヴァーグよ、お前に良いことを教えてやる。闘いとは――無知を克服することなり」


「なんだ、そりゃ」


「つまり、無知な者はその場で死ぬということだ」


「いったい何が言いたい」


「お前さんは、もう少し物事を知ったほうがいいということだ」


「おもしれぇ.. ようするに、俺に喧嘩売っているんだな」


「この杖より出でる緑炎は、森は焼かんのだよ。なぜならば、この緑炎は精霊の思念でできているからだ。この深い悔恨から逃れられる人間はいない」


 レゲッドは、愛おしそうに杖をなでていた。


「ちっ、変態が.. だけどよ、死体がないのは事実だぜ」


「うむ.. もしや他に仲間がいたか?」


「なんだって。あんた敵の人数も確認しなかったのかよ」


「ばかめ、この広大なソメズの森の中に敵の正確な人数を数えられるわけなかろう」


「言い訳ばかりだな.. ところで班長さんよ、あんたの探知はどうよ?」


「ああ、さっきから――私の髪の毛を四方に這わせている。死体は燃え尽きてしまったのではないか? 武具どころか衣服のひとつも見つからない」


――やはり、レゲッドたちは戻ってきた。アシリアの予想通りだった。


 奴らは仕事の仕上げとして、死体の確認と武具の回収に来たのだ。

ギガウの大槌やリジの聖剣は強力な武器であり、この世界では常に――伝説の武具を奪い合っている。


 その様子を、果樹園パーティは森の奥から観察していた。

ただ観察していたのだ。


 まだこの世界に体が馴染めず、相手の能力もわからないうちは、闘いは避けたほうがいい。

まさにレゲッドが先ほど言ったことを、果樹園パーティは行っていた。

無知を克服しているのだ。


 ギガウは、奴らに気付かれないよう森に精霊の縄張りを敷いていた。

それによって姿はもちろん、わずかな気配すら土の奥底にしまいこんだ。


 しかし──


 何かが凄まじい速さで空を裂き、縄張りに穴をあけた。

そしてリジの額をはじいた。


 リジは無防備のまま、三メートルも後ろへ吹き飛んだ。


「!.. リジ!!」


 ライスは、その瞬間何が起こったのかわからなかった。

そして、吹き飛んだリジを目の前にし、激しく動揺した。


 地面には、返しのある固く重たい銛が転がっていた。

そんな銛が、リジの額にさく裂したのだ。


「なんだ? 向こうの森が騒がしいな」


「..リコトか。ヴァーグ、お前、リコトにここに来ることを話したであろう」


「そうよ。じぃさんだけじゃ頼りないから、私が来てあげたのよ」


 樹木の上から、身軽にリコトが降りてきた。


「おいっ、レゲッドはともかく、俺はまだジジィじゃねぇぞ」


「ふん、たいして違わないわ。十六歳の私から見れば、どっちもジジィよ。それより、森の向こうに何かの気配を感じたわ。何か不自然な感じがしない?」


「そうか? 俺には何も感じねぇけどな」


「鈍感ね。ほら、どこからか鼓動の高まりを感じない?」


「ふむ。リコトの勘を侮ることはできまい。どれ、タウル班長。あなたの能力を全開にして探知する必要があるぞ」


「今は無理だ。ここで実の弟に殺されるなんて、まっぴらごめんだ。だが、やれる限りはやってみよう」


 タウルはそう言うと、ヴァーグに髪留めを外すよう指示した。


「面倒くさいなぁ」


「何を言っている、ヴァーグ。働くのは私の髪の毛だ。お前はただ髪を解放するだけだろうが」


 渋々、ヴァーグが髪留めを外すと、毛先が地面を這い始めた。

数十メートルも伸びた髪が、ギガウの縄張りの境界線に触れようとしていた。


「むっ..」


「何か、探知したか? 姉貴」


「 ..いや」


――キュン キューン。


 森の中から、二頭のココカモシカが逃げていった。


「なんでぇ。獣じゃねぇか。リコト、お前の言う気配ってのはこいつらだろ」


「違うわよ! こんな獣じゃないわ」


「じゃあ、お前の銛を確認してみればいいだろ。何かに命中したなら、そいつの血でよごれているはずだ」


 リコトが紐を手繰るようなしぐさをすると、銛が手元に戻ってきた。


 しかし、銛は先端が潰れているだけだった。


「血は付いていないようじゃな」


「おかしいな.. 何かを仕留めた手ごたえはあったのに」


「これだけひしゃげているんだ。よっぽど固い岩でも射貫いたんじゃねぇのかよ。ガハハハ」


 リコトは、潰れた銛の先端を指で触りながら、ふくれた。


「ところでよ、この先どうするよ、まだあてもなく探すのか? 姉貴」


「ヴァーグ、仕事中だ。班長と呼べ! ..ふむ、仕方がない。捜索隊を編成して仕切り直すか」


「ああ、それがいい」


 四人は馬に跨るとその地を離れた。


・・・・・


「よくやったわ.. ライス。式紙の..おかげで、みんな助かっ..た」


 リジはそのまま気を失った。


「リジ! リジ!!」


「大丈夫だ、ライス。気を失っただけだ。銀鴉ギンアがちゃんとリジを守った」


「..うん」


「しかし、凄まじい精度と威力だ。銀鴉ギンアが無かったら、リジは死んでいたぞ.. 俺たちも帰って作戦を立てる必要があるな」


 白虎を召喚し、リジを乗せると、ライスたちは早々にその場を離れることにした。


「行こう、オーフェ..」


 その時、オーフェルは怒りに満ちた表情で、何度も何度も呟いていた。


「許さない.. 許さない.. あの女め!」

投稿は火曜日と金曜日の22:00です。お楽しみに♪

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