フルーネ村の残響
【前話までのあらすじ】
森の中、リジとスレイに惑わしの術をかけようとする者がいた。
捕らえられた男は、アシリアを見るなり自分の母親と見間違える。
男の名はオーフェル。
それはエルフの言葉で――道を切り拓く者――という意味だった。
アシリアは、オーフェルが――花の詩に関わる者であることを察する。
13話 フルーネ村の残響
◇◇◇
リジ、アシリア、スレイが持ち帰ったのは、マルコブタのほかに、オーフェルという若者であった。
「アシリア..突然ベッドからいなくなっちゃうんだもん。心配したよ」
「すまない、ライス」
「それで、その人は誰?」
「こいつはオーフェルだ。エルフの血を継ぐ者だ。おそらくは――花の詩の関係者だろう」
「そうなの!? いったいこの世界で何が起きているの?」
ライスはアシリアに食いつくように質問した。
それは、一刻も早くロス・ルーラの魂を持つ子供を見つけたいという焦りからだった。
「落ち着くんだ、ライス。詳しいことは、このオーフェルから聞けばいい」
・・・・・・
・・
ライスたちは、戦闘があった場所からわずかに離れた場所で休むことにした。
なぜ――わずかに離れた場所――にしたかと言えば、アシリアがそうしたほうがいいと言ったからだった。
ギガウはミツメ木の種を植えると、身を隠せる場所と水の確保をした。
ミツメ木の幹の中は簡易的な宿となり、根と葉は土と空気中の水分を吸収する。
幹に傷をつければ、湧き水のように水が滴るのだ。
ライスは持ってきた乾いた黒い実を砕き、沸騰したお湯に投入した。
それを木製のカップに注ぎ、オーフェルに差し出した。
「これ飲むと落ち着くよ」
オーフェルはカップを恐る恐る口元に近づけると、驚いて遠ざけた。
「こ、これは何ですか? 今まで嗅いだことのない匂いだ」
「それは魔女の飲み物だよぉ」
「えっ!」
「ちょっと、リジ、変なこと言わないでよ。
それはね、私の果樹園で育てているカルデの実をお湯で溶いた飲み物だよ。
大丈夫だから飲んでみて」
オーフェルはゆっくり啜った。
「あ、甘い。それに鼻に残る、苦くて深みのあるこの香り.. すごくいい」
オーフェルはさっきより多めにすすると、ハァと息を吐いた。
「どう、おいしい?」
「はい。僕、これ好きです」
「ほんと? よかった」
オーフェルは、張りつめていた心がほどけていくのを感じた。
それが、この不思議な飲み物のおかげなのか、ライスの笑顔のおかげなのかはわからなかった。
ただ、目の前の人たちは信用してもいい――そう思いたかった。
「僕の村は..この世界で数少ない、エルフの血を受け継ぐ村でした。村の名はフルーネ村。
僕たちはエルフの血を継ぐとはいえ、その血は薄まり、普通の人間と変わりません。ただ、長い歴史の中で、時々―祖先がえり―をする者がいました。
僕の母もそのひとりでした。母の名はルレイサ。
あの花の詩は、母が詠ったものです」
「なるほど..花の詩は、すべてのエルフが詠えるものではない。ルレイサの祖先に、森の巫女がいたのだろう」
「はい、アシリアさん。母もそう言っていました。
だから母の血を受け継ぐ僕も、惑わしの術が使えるのです」
「それで、フルーネ村で何が起きた?」
「それが..僕は知らないんです」
「知らない.. だと」
「 ..はい」
オーフェルはうつむいたまま答えた。
「僕の留守中に起きた出来事です」
「なるほど.. そうか。
お前はいなくてよかったな。
..フルーネ村の人々は死に絶えたのだから。
これは、きっと誰かの裏切りにあったのだろう」
アシリアは、氷のように冷たい目でオーフェルを見た。
「裏切り.. アシリアさんに何がわかるというのですか」
「 ..レゲッド。奴が操る緑の炎。
あれはフルーネ村の人々の悔恨の炎だった。
人が恨みを抱くとき、そこには決まって裏切りがあるものだ。
だが、ひとつわからないことがある。
なぜレゲッドがそんな炎を操れるのかだ..」
「そんな.. ま、まさかっ、あいつら!」
オーフェルは顔を歪めて言った。
「オーフェル、何か思い当たることがあるの?」
ライスがオーフェルに質問した時だった。
「みんな、静かに。精霊の縄張りに何者かが近づいている」
「あいつら、やっぱり確かめに来たんだね」
戦闘があった場所には、ギガウが精霊の縄張りを敷いていた。
それはアシリアの提案だった。
多くの殺しの仕事をしてきたアシリアには、わかっていたのだ。
奴らがもう一度、仕事の結果を確かめに来ることを。
それが、殺し屋の性なのだと。
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