第5話 忍び寄る影と、ティータイムですの♥
翌日。
王都の午後は、驚くほど静かでしたの。
――にもかかわらず、テーブルの向かいには、昨日火花を散らしたニンジャお嬢さまが座っております。
「改めてお招き感謝しますわ。まさか貴女とお茶することになるとは。」
「ええ。紅茶の香りと爆薬の香り、意外と共通点がありますの♥」
アヤメ・ツバクラ嬢。
東方公爵家の令嬢であり――そして今、殿下の新しい婚約候補。
⸻
「そういえば、殿下から伺いましたわ。
“元”婚約者が、まだブーメランを投げているとか。」
「まあ。元という言葉は便利ですのね。
呼び方ひとつで、過去も人も軽くできますの♥」
私は笑いながらも、カップの底に沈んだ紅茶の渦を見つめた。
沈むものと、回るもの。――軌道の違い。
「殿下も、誤解しているんですのよ。
わたくし、ギルドに入ったのは“立ち直るため”ではなく、“立ち向かうため”ですの。」
「立ち向かう?」
「名誉ですの。失われた名は、放っておいても帰ってきませんの♥」
⸻
「ふふ……そういう貴女、嫌いじゃないわ。」
アヤメはカップを置き、軽く視線を上げた。
「けれど、このお茶会が終われば、私は殿下の婚約候補。
貴女は、破棄された側。――つまり、敵ですわ。」
「敵なら結構。
ですが、お忘れなく。
――私のブーメランは、必ず帰ってきますの♥
名誉も、想いも、全部まとめて。」
アヤメの唇が、わずかに笑った。
「……だから貴女は危険なのよ。
回転の理屈で、運命まで巻き取るんですもの。」
⸻
ちょうどそのとき、扉を叩く音。
ギルドの使者が慌ただしく報告する。
「緊急任務です! 地下水路で異常反応、殿下の視察中に魔物が――!」
アヤメと私、同時に立ち上がる。
「……殿下が?」
「どうやら、助ける側と見られているようですわね。」
「では、証明して差し上げますの。
どちらが本物の令嬢か、軌道で決めましょう♥」
紅茶の香りが冷めていく。
二人の影だけが、まだ揺れていましたの。




