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糸を紡ぐ転生者【WEB版】【書籍3巻3月30日発売予定!、1巻重版】  作者: 流庵


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第450話 撃沈

 網を完成させた僕は、みんなを執務室に招集した。

 

 集まったのは、おじい様やアキラをはじめ、クレストやアザリエたちだ。テーブルの上には、縮小版のピンクの網の模型が置かれている。ミニチュアの船はリュングの作だ。


「……というわけで、この流し網を使ってみたいと思っているんだけど、どうかな?」


 僕の説明を聞き終えたクレストが口を開く。


「なるほど、船で海中を漂わせるから流し網ですか。確かに現在の四手網よりも効率は良さそうですね。それに、最近の港の状況を考えると、タイミングとしても悪くありません」


「港の状況?」


「はい。隻眼の赤兜、ロートヘルムを討伐して以来、近海の魔物の脅威は激減しました。漁師たちは以前よりも安全に船を出せるようになっています」


 クレストは手元の資料を見ながら続けた。


「加えて、エドワード様が作られた巨大冷凍庫のおかげで、獲れた魚を新鮮なまま保存できるようになりました。市場価格も安定し、港全体が活性化しています。この網が導入されれば、さらなる利益が見込めるでしょう」


 冷凍庫が役に立っているようで何よりだ。しかし、隣に座っていたサイモンが少し渋い顔をして腕を組んだ。


「エドワード様の漁法は素晴らしく、クレスト様の言う通りさらなる利益も見込めるでしょうが、少し別の問題も生じるかと」


「別の問題?」


「はい。現在、船を持っている漁師たちは景気がいい状態ですが、船を持っていない平民たちはそうではありません」


 サイモンは、マーリシャス共和国時代の情報網を持っているので、クレスト以上に労働者たちの懐事情に詳しい。


「今はまだアルクロの建設工事があるので仕事はあります。しかし、それもいつまでも続くわけではありません。工事が終われば、船も技術もない人たちは職を失い、路頭に迷うでしょう」


「ふむ……確かに、それは由々しき問題じゃな」


 それまで黙って話を聞いていたおじい様が、重々しく頷いた。


「町が完成して平和になるのは喜ばしいことだが、職を失った者があふれれば、治安が悪化する。儂らが目指すのは、誰もが安心して暮らせる町じゃからのう」


 おじい様の言葉に、僕もハッとさせられた。ただ効率の良い道具を作ればいいというものではない。その道具を使って、いかに多くの人に雇用を生み出すか――領主として、そこまで考えなければならないのだ。


「船を持っていない人たちでも、漁に参加できる仕組みがあればベストですね……」


 僕は腕を組んで考える。流し網は大規模な漁法だ。網を入れるのも、引き上げるのも、人手が必要になる。つまり、船さえ用意できれば、多くの人を雇うことができるはずだ。


「誰かが舵取りをして、組織的に漁を行うのがいいと思うんだけど……ギルドはどうかな?」


 僕の提案に、クレストが首を傾げる。


「商人ギルドでしょうか? しかし、商人ギルドに登録するには保証金が必要ですし、日雇いの労働者たちには敷居が高いかと」


「うーん、そうだよねぇ」


 商人ギルドはあくまで商売人の集まりだ。労働者の管理には向いていないかもしれない。もっとこう、荒くれ者……じゃなくて、体力のある人たちをまとめて、依頼ベースで動けるような組織は……。


「冒険者ギルドにお願いしてみよう!」


「冒険者ギルド、ですか?」


「うん。依頼を受けることに慣れているし、力仕事も得意だ。それに、魔物が出た時の護衛も兼ねられる」


 漁師の手伝いという依頼を出して、冒険者や仕事のない人たちを募る。獲れた魚の売上から報酬を支払えば、ギルドを通すことで金銭トラブルも防げるはずだ。


「よし、そうと決まれば早速交渉だ!」


 ◇


 善は急げとばかりに、僕はおじい様とクレストを連れて冒険者ギルドへと向かった。ギルドの扉を開けると、仕事を求める人たちの熱気が溢れ出してくる。冒険者ギルドは町の建設に関する仕事の取りまとめも担っているので、いつも賑わっているらしい。


 僕たちが入ると、一瞬にして喧騒が止んだ。まるで目に見えないレッドカーペットが足元からカウンターまで転がっていくかのように、屈強な冒険者たちや仕事を求める人混みが左右に割れる。


 奥にいたギルド長のエイレーネと副ギルド長のソニアが、慌てて前に出てくる。


「エドワード様。今日はどのようなご用件でしょう?」


 エイレーネが微笑み、ソニアも深々と頭を下げた。


「ちょっと相談があってね」


「相談ですか。立ち話もなんですし、応接室の方へどうぞ」


 案内された応接室へ移動する背中に、冒険者たちの視線が突き刺さる。ローダウェイクのように大公家専用とまではいかなくても、裏口くらいは用意してもらった方が心臓に悪くないかもしれない。


 席に座り、ソニアが手際よくお茶を淹れてくれると、エイレーネが本題を切り出した。


「それで、エドワード様のご相談とは?」


「新しい漁法の実験をしたいんだけど、手を貸してほしくて」


「漁法……ですか?」


「うん。これなんだけど」


 僕は持参したピンクの網を、ドサリとテーブルの上に置いた。鮮やかなピンク色の糸を見て、エイレーネが眉をひそめる。


「……随分と可愛らしい網ですね。これで魚を捕まえるんですか?」


「そうだよ。今からこれを船で引っ張って魚を捕まえる実験をするんだけど、もし成功したら、この網を使った漁の取りまとめを冒険者ギルドでお願いできないかなって思って」


「商人ギルドではなく、うちでですか?」


「うん。商人ギルドは登録のハードルが高いでしょ?」


 僕の意図を察したのか、エイレーネがニコリと笑った。


「なるほど。仕事にあぶれた連中の受け皿にもなる、か。悪くない話ですね」


「でしょ? とりあえず今日は実験だから、エイレーネとソニアにも立ち会ってほしいんだ。どうかな?」


「私たちが立ち会う必要があるのでしょうか?」


「もちろん! ギルドとして受けるかどうか、判断材料が必要でしょ?」


「確かにそうですね。そういえば私、港町にいるのに船に乗ったことがなかったわ」


「エイレーネさんもなんですか! 私も初めてなんです!」


 二人とも、アルクロに来てからはギルドと家の往復ばかりで、海を眺める余裕もなかったらしい。


 ◇


 港に行くと、船の準備をしている騎士団たちと、ワイルドウィンドの四人が手伝っているのが見えた。


「エディ様、準備は整っております」


 僕たちの到着に気づいたアザリエが駆け寄ってくる。


「アザリエ、ありがとう。それじゃあ、エイレーネとソニア、船に乗ってね」


「「……」」


 二人は口を開けて船を見つめている。


「どうしたの?」


「「こんな大きな船に乗るんですか!?」」


 用意したのは、白い船体にオオカミの船首像がついたホワイトロア号だ。僕専用の船は港でも一際目立っている。


「僕が自由に動かせるのはこの船だけだからね。とりあえず出発するから、乗って」

 

 恐る恐るタラップを上がる二人を乗せ、ホワイトロア号はゆっくりと港を離れた。漁をしている人たちの邪魔にならないよう、少し沖で試すことになっている。


 ◇


「この辺りなら、網を下ろしても大丈夫かな」


 ある程度沖に出たところで、僕は船を止めた。魚群探知機なんてものはないけれど、甲板の先端でヴァイスが鼻をヒクヒクさせている。


『エディ! この辺りは美味しそうな匂いがするぞ!』


 ヴァイスの食いしん坊能力は最新鋭の機械よりも信用できる。


「よし、網を入れるよ! みんな、手伝って!」


 騎士団のメンバーを中心に、ピンクの網が次々と海中へ投下されていく。樽の浮きがプカプカと水面に浮かび、網は海流に乗ってカーテンのように広がっていった。


 本来は夕方に網を投げ、夜間に魚がかかるのを待つらしいが、今回は試験運用なので、一時間ほどで様子を見ることにした。


 ◇


「ソ、ソニア。元気にしていたか?」


 待っていると、ワイルドウィンドの剣士アンディが、海を見ていたソニアに話しかけた。


「あら、アンディもいたのね。アルバン様からの依頼は完了したの?」


 アンディはソニアに気づかれていなかったことに、目に見えてダメージを受けたようだ。


「……もちろんだ。ちょうど帰ってきたところで、エドワード様から冒険者としての意見も聞きたいと言われて手伝っているんだ」


「さすがエドワード様です。確かに、冒険者として受けたくなる依頼かどうかは重要ですね」


 ソニアは真面目な顔で頷き、手帳を取り出して何かを書き留め始めた。完全に仕事モードだな。ちなみにワイルドウィンドは、ヴァルハーレン大公家の専属冒険者として、さまざまな任務をこなしてもらっている。


「と、ところで、今夜一緒に食事なんてどうだ? 旨い魚が食える店を見つけたんだが」


 アンディがいきなり勝負に出た! アレンやワイルドウィンドのノーラによると、アンディはソニアを狙っているらしいが、望みは薄いらしい。


「今夜はダメよ。副ギルド長として、エイレーネさんとこの新しい依頼について話し合わないと。それに、魚なら今日嫌というほど獲れるでしょうし」


 バッサリだった。ソニアは悪気なく、事実のみを淡々と告げる。


「そ、そうだよな……仕事は大事だよな……」


 撃沈したアンディは、肩を落としながらフラフラと仲間の元へ戻っていった。その背中は、夕日を浴びていないのに哀愁で染まっていた。


 望みがありそうなら手伝ってもいいのだが、今のソニアはギルドの運営と、今回の件をどう処理するかで頭がいっぱいのようだ。

 

 ちなみにアンディは昔、冒険者時代のアザリエに告白して振られたことがあるらしい。アザリエはまったく覚えていなかったけどね。僕は心の中でアンディに合掌したのだった。

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