急襲ガルトザム
ウォーーーーーーン!ウォーーーーーン!ウォーーーーーーン!
マリアとマーフィーが作業を続けていると、突然、緊急サイレンが数秒間だけ鳴る。しかしその後、何ごともなかったかのように、また静かになってしまった。
「今のは、何か変ね」
マリアは慌てて腰にぶら下げたツールベルトから、携帯端末機を取り出すと操作をし始めた。
「どういうことなんですか?」
マーフィーは携帯端末機が空中に四角く投影した、ホログラフ・ディスプレーを覗き込む。
「これは、大変だわ! 通常回線は内部も外部も全部アウト。見ての通りこのコロニーの通信および管制ネットワークが、完全にハックされたようね」
「じゃあ、さっきのは?・・・」
「つまり、このコロニーの管理システムが、物理的に完全に敵の手に陥ちたということだわ」
「敵?」
マーフィーはマリアの説明を聞いても、突然このコローニーで、いったい何が起きたのか、理解出来ないでいる。
ふいに、域内放送のスピカーから音声が流れ始めた。
「何が、起きたんですか?・・・」
「し! 静かに、これは、このコロニーに侵入した敵の放送よ!」
マリアとマーフィーは、スピーカーの前に釘づけになった。
「我々は傭兵チーム、ガルトザムだ、・・・ゴールデン・スピアの協力者に告げる。こちらはこのコロニーの中枢を完全に制圧している。現在、男3名女5名の人質を確保している。こちらは交渉の用意がある。域内ネットの第一映像にチャンネルを合わせろ」
域内放送はそれを五回ほどくり返して終わった。
しまった!・・・。どこかで、情報が漏れていたんだわ・・・。
マリアはがくっと、うなだれた。
「どうして!? こんな場末のさびれたコロニー占領して、何か利益があるんですか」
「それは、恐らくこれのせいよ」
マリアは目の前にある二機のアサルトマシーンを指さした。
「これはそんなに価値があるマシンなんですか?」
「このマシンは、将来は世界情勢をも左右する可能性がある。としか今は言えないけれど」
「マリアさん、このコロニーへは、だれかほかのメンバーと一緒に来てはいないんですか?」
「実は、わたし一人なの・・・。このアサルトマシーンの受け取りのミッションの立案から、実行まで全部」
マリアはそう言って、携帯端末機を操作する。
「域内ネットの第一映像チャンネルに、今、アクセスするわ。無線を経由して間にダミ
ーの端末を使って、こちらの居場所は相手にサーチされないからだいじょうぶよ」
「そんな大事なマシンなら、どうして一人なんかで・・・」
マーフィーはそう言いかけたが、マリアの表情を見て、語尾を濁らせた。
携帯端末のモニターに域内ネットの映像が映しだされる。
画面では、コロニーのコントロールセンターの職員らしい数人の男女が、後ろ手に縛りあげられているようだ。
中央に、リーダーらしい戦闘サイボーグが出て来た。
顔面以外はほとんど機械化しいて。その容貌はかなり凶悪そうだ。
そのサイボーグは、カメラの方を向くと、話しだした。
「おれは傭兵団ガルトザムのジャッカルだ。このコロニーの住人たち、よーく聞け。
お前たちはゴールデン・スピアとは何も関係が無い。さぞ迷惑なことだと思っているだろう。
おとなしく我々に、新型アサルトマシーンを差し出せ、情報をよこすだけでもいい。
目的さえ達成すれば、我々はここからすぐに去る。
だが、こちらの要求が受け入れられなければ、こういうことになる」
ジャッカルは人質の中から一人若い女性を引っ張りだしてきて、髪の毛をつかむと、無理矢理口を開かせ、そこに銃を突っ込む。
「イヤーー!! たすけて!」
若い職員らしい女性は、膝まづいたまま哀願し涙を流している。
そこに、中年の管理職らしい男性が前に飛び出して来た。
「やめろ、何をするんだ! 私はこの管理セクションの責任者だ。彼女らが逃げ遅れたのも、みな私の責任だ。殺すなら私から先にやれ」
「そうか・・・。じゃあ、お前から死ね!」
表情をまったく変えずに、ジャッカルはその姿勢のまま片足で、中年の男性を蹴りあげた。
ドゴッ!と鈍い音がしたかと思うと、武装サイボーグの金属製の尖った爪先が、男性の下顎から脳天まで突き破っている。
男性は血潮と脳漿を巻き散らして、その場に崩れた。
「アァァァァァァ!!!」
若い女性は、そのしぶきをもろに顔面にかぶって、口に銃を突っ込まれたまま、気絶してしまった。
「これは掃除が必要だな・・・」
ジャッカルは自分の体に着いた血糊を、犠牲者の上着でぬぐった。
「もう見ていられない!」
マリアはモニターのスイッチを、拳でドンと叩くように切った。
なんと声をかけたらいいのだろう・・・。
マーフィーはうつむいたマリアを、心配そうに後ろから見守る。
「こんなことになってしまって、本当にごめんなさい。あなたがわたしを、あいつらに突き出したって構わないわ」
「そんなこと、できるわけないじゃありませんか」
マリアは両手の拳を強く握りながら、肩を小刻みに震わせている。
マリアがこんなことをしているのも、何かよほどの訳があるのだろう。
マーフィーはそのことについて詮索するより、何かマリアの役に立ちたい・・・。そう思った。
「マリアさん・・・」
「もういいわ・・・。後はわたし一人でなんとかするから、あなたは危険な目に会う義務はない。だから、早くここから逃げなさい」
「でも・・」
「早く行って」
マリアはマーフィーに無理に微笑んでみせた。
その辛そうな顔を見たとたん、それまでためらっていた言葉が、マーフィーの口を突いてでた」。
「僕に・・。僕に手伝わせてください!」
「何言ってるの。死ぬかもしれないのよ」
「やりかけた仕事は、最後までやらないと気がすまない質だから」
「わたしは、傭兵チームに入った時から覚悟はできているけど、あなたは民間人でしょ」
「僕もあなたも、技術者に変わりはないでしょう。
アサルトマシーンを動かすことなら、僕の方が、まだ、あなたよりもましだと思います」
マーフィーのその言葉に、マリアは驚いてマーフィーの顔をじっと見つめる。
そして、ほんの少しの間だけ目をつぶって考えると、マーフィーの両肩に手を置いて。
「ほんとうに、ばかな子ね・・・。でも、ありがとう」
目を細めながら微笑んだ。




