脱出か応戦か
小惑星T-623を離れること20kmあたりの地点に、一隻の輸送船が停泊している。
この船の名はスカッツ。実はアースユニオンの小型高速戦艦が偽装した姿である。
艦長が、いらいらしながらブリッジの中央の席で、食い入るようにモニターを見つめている。
「ガルトザムのやつらからは、まだ何も具体的な報告はないのか?」
「それが、まだのようです。なにせT-623は中が迷路のようで、しかも管理システムがかなり旧型なために、マップを頼りに人手で探索をおこなっているようで・・・」
横にいる副官が、少し曖昧に答える。
「このような仕事は、我々が直接にやるようなことではないからな、しょうがなかろう・・・。急ぐように連中に伝えろ」
「しかし最近は、金次第でどんな仕事でもを引き受ける傭兵連中が増えてきて、われわれも重宝しますな」
「やつらの場合は、傭兵と言うよりごろつきだからな。こちらの意図も汲み取れていまい。予定通り目的の物を確保したら、連中には用はない。全員始末しろ」
「後のことは抜かりありません。そのためのアサルトマシーンとパイロットも、わざわざ用意してきたのですから」
マリアとマーフィーは、二機のアサルトマシーンをキャリアーに乗せたまま、なんとか無事にジャンク置き場まで搬送した。
この小惑星T-623はケレス小惑星連合に属すコロニーで、宇宙開発のかなり初期の段階から、資源採掘用として開発されてきたが、現在はほとんど資源も堀尽くされ、内部に虫食い状態で開けられた坑道が、中小のファクトリーやドックとして利用されている。
現在は、この周辺のコロニーは戦略的な重要性はほとんど無く、この近辺で戦闘らしい戦闘は十数年なかった。
マリアとマーフィーは作業用パワードスーツで、宇宙船の残骸や、太陽電池のパネルなどの様々なジャンクを、アサルトマシーンの周囲ににかき集めてきた。
「もう、こんなものでいいでしょう」
すでに二機のアサルトマシーンはキャリアーの上で、ほとんどがらくたの山と見分けが付かなくなっている。
「見て、これがわたしの作戦よ」
マリアは携帯端末機のフォログラフ・ディスプレーを、ピッと拡大した。
彼女の作戦とは、まず、ジャンクとしてT-623に繋留されている通信サテライトを再起動して情報を獲る。
その後、もっとも警戒が手薄な外部のエネルギーチャージポイントで、キャリアーに取り付けた、核融合エンジンのブースターに点火して、一気に敵の包囲網を抜く。というものである。
「このブースターなら、最大出力まで一気に加速すれば、高速駆逐艦クラスならなんとか振り切れるわ。ただし、一度点火したらもう軌道修正は効かないから」
「わざわざこれを、キャリアー乗せたままカーゴで脱出するなんて、このアサルトマシーンは、なにか理由があって動かせないんですか?」
マリアは少しためらうと、マーフィーに答えた。
「そうよ・・・。このアサルトマシーンは、さっきあなたが気付いた通り、EOT(超古
代技術)をコントロールシステムに使用しているの」
「やっぱりそうでしたか・・・。それで、動かした時になにか危険性があるんですか?」
「それが、・・・まったく現状では予測がつかないのよ。このマシンのシステムは、三個だけタイタンで発掘された物で、かろうじて使い方が分かるけれど、その原理や構造が、今の科学では解析できない代物なの」
「タイタンでテストとかは、行われなかったんですか?」
「したらしいわ・・・」
「その結果は?」
「常識を越えた、機動性と戦闘能力を発揮したらしいけれど・・・」
マリアは一瞬口ごもる。
「パイロットは、発狂して死んだそうよ」
「そんな物をわざわざどうして?・・・」
「あの人ならこれを扱えるかもしれない。ということでタイタンの研究所から依頼があったの。極秘でね」
「あの人って?」
「もう、素性を隠していてもしょうがないわね。そう、あの人って、史上最強の傭兵とか言われている人・・・」
「キリング・シャドーですか」
マーフィーは少し緊張した面持ちで、その名を口にした。
「そうよ、そしてわたしは、キリング・シャドーがキャプテンを務める傭兵チーム ゴールデン・スピアの技術者」
傭兵チームはほとんどが、自分たちの母艦名をそのままチーム名に使用している。
「・・・ん?」
気がつくと、マリアはマーフィーに、何か思い詰めたような視線を投げかけている。
「マリアさん! 僕に何でもできることがあったら、言ってください」
「こんなことまで頼んでしまって、あつかましいかもしれないけれど、あなたは、一人でこのアサルトマシーン二機とともに脱出してほしいの」
「エッ! じゃあ、マリアさんはどうするんですか!?・・・」
「人質を開放させるために、私があいつらのところに行くわ」
「アサルトマシーンも引き渡さずにそんなことをして、マリアさんはどうなるんですか?!」
「わたしのせいで、こんなことになってしまったんだから、あの人たちをそのままにはしておけないわ」
マリアの真剣な眼差をマーフィーに送る。
「いざという時のために、武器を幾つか持ってきているの。見て」
マリアは、幾つかある工具箱の中から、頑丈そうなメタルケースの物を持って来てマーフィーの前で開いた。
「これは、少ないけれど、ビートル ボム(対人ロボット地雷)、それとサブマシンガン一丁とハンドガン二丁。両方とも対サイボーグ用高性能徹甲弾が装弾してあるわ」
「マリアさんはこれだけの武器で、たった一人で数十人相手に戦うっていうんですか?」
「もちろん、正面切って戦える相手ではないことは分かっているわ。
でも、わたしのことなら大丈夫、あなたが脱出した後に、自力で脱出してみせるわ。
連中をアサルトマシーンまで案内すると騙しておいて、トラップに誘い込むのよ。
そこに武器も隠しておくわ」
マーフィーは目の前に出された武器を見ながら、チラと、マリアの表情をうかがう。
「マリアさんは実戦の経験はあるんですか?」
マーフィーの問いに、マリアはマーフィーから少し視線を外しながら、声に力を入れて答える。
「もちろんあるわ! ゴールデンスピアのスタッフは非戦闘員でも十分な戦闘能力があるんだから!」
マリアはケースから武器を取り出して、点検を始めた。
本当のことではなかろう。
その強い語気の中に、マーフィーはマリアの虚勢を感じた。
こんな戦闘員でもない女に、こんなことを言わせるなんて、傭兵チームとかとは、どんな集団なんだろう?。
マーフィーはこの時ばかりは、傭兵チームというものが、訝く思えた。




