ファイヤー ザ ギャンブラー
二週間が過ぎ、イーフリートの航海も中盤に差し掛かる。
イーフリートはアステロイド自由会議に最近加盟したばかりのコロニー都市国家、アルタミラのドックに停泊し補給を行っている。
艦長のフェノメナは、用事でタワーズに残っているヴォルフガングの代りにジーンを引き連れ、アルタミラのオルヴス市長と会見するため、イーフリートを降りた。
今日こそ雷風を、この船から叩き出すいいチャンスだわ!
アリシアはあの事件以来蓄積してきた鬱憤を、キャプテンが不在の間に一気に晴らしてやろうと、何か雷風を陥れる策を弄すつもりだ。
補給作業もすでに終わり、イーフリートはアルタミラから少し離れたサテライトドックに停泊し待機している。
「何だよ! せっかく仕事が終わってやることが無いって言うのに、上陸もできないのかよ」
「雷風、お前の気持ちもわからんでもないよ。陸前にして、丸一日待機任務っていうのも、結構やなもんだからねえ」
第三砲塔で作業を終え部屋に戻る途中の雷風とトアルコに、ニコニコ顔のアリシアがパッタリと出会った。
「虎姉さん、お疲れさま、この後はお休みかしら?」
「なんだい、アリシアか。あたしと雷風はこれから12時間フリーで、艦内をブラブラするか、昼寝でもするかってとこだよ」
「そこでね、非番の者がサロンに集まってちょっとしたゲームでもやろうかって話になって・・・」
「で、何をやろうって言うんだい?」
「トランプなんかどうかしら」
「やれやれ、そんなことかい。あたしゃそんなのは興味ないね。やっぱり昼寝でもするよ」
トアルコはそう言うと、さっさと行ってしまった。
「雷風はどうなの?」
「お? 俺を誘うのか。お前、あんなに率先してこの俺様を邪険に扱ってたくせによ。どういう風の吹きまわしだ?」
「雷風には、私や他のみんなからも謝りたいのよ。ここ二週間、真面目に働くあなたを見て、みんなの気持もだいぶ変わったと思うの。今日はそのおわびの印として、あなたと大いに親睦を深めたいと思って・・・」
アリシアは少しはにかんだような表情で、雷風を見る。
「親睦、おお! そうかい、そりゃなによりだぜ! この艦の娘たちも、この俺を人畜無害だとやっと認めてくれたか」
クック馬鹿なやつ・・・。
「何だ?何かおかしいか?」
この女、俺様に気があるのかもしれないぜ、そうと分かれば情を深めるいいチャンスだ!
うまくいけば、こんなことも、あんなことだってできるかも・・・。
「いいえ! 何でもないわ。さあ、早く行きましょう」
雷風とアリシアはそれぞれ違うもくろみを心に思い浮かべ、ニヤニヤしながらサロンに向かった。
「ディエーーーイイ!!」
「なんの!」
サロンの端に置いてある卓球台で、ファイヤーとザザが髪振り乱しプレイに興じている。
「必殺ううううう! ファイヤーショット!!」
パシュン!
ファイヤーがピンポン玉をラケットで大振りに叩きつけると、玉はペシャンコに潰れ、弾け散る。
「ア~~!! またやっちゃった」
「これで、5個目だ。ファイヤー。あんた力みすぎだよ」
「もうやめよっと」
ファイヤーはふてくされて、ソファーでふんぞり返る。
ガチャ(サロンのドアはゴシック調の手動ドアなのだ)
サロンに二人の娘が入って来た。
「アリシアさん、ほんとにうまく雷風を連れてこれるかしら?」
「大丈夫でしょ、彼、かなり単純な性格っていうじゃない」
彼女たちは、確か機関部の娘たちだな・・・。
ファイヤーが黙って、彼女たちを眺めていると、二人の娘はファイヤーの視線に気付き、軽く会釈をして、サロンの右手にあるテーブルにつく。
ガチャ
ほどなく、雷風を連れて、アリシアがサロンに入って来た。
「雷風こっちよ」
雷風はアリシアに導かれ、二人の娘の前の席に座る。
「あれ、お前たちは?」
「そう、私はレイチェルよ。雷風さん、この前はどうもごめんなさい。あなたのこと、あんな酷い仕打ちをしてしまって・・・」
「ローリーです。私からも、この前のこと謝ります」
「はは、そういうことか、な~に心配すんな、おれはな~にも気になんかしてないぜ」
雷風はレイチェルとローリーの前で照れ笑いをする。
・・・思ったとおり単純なやつだわ。
アリシアは歯を見せずほくそえむ。
ク~! こいつらはこの俺様に気があるに違いないぜ。この船には男はこの俺様一人だけなんだから、当然と言えば当然だがな。
・・・雷風はニッと白い歯を剥き出して満面の笑顔をたたえる。
「カードか、それで何をやるんだ?」
「ポーカーがいいと思うわ」
「そうかい、まあ、なんでもいいぜ」
「でも、雷風。それだけじゃ面白くないと思うのよ。何か賭ける物がないと・・・」
「賭ける? おいおい、賭博行為は艦内じゃ御法度だろうよ」
「勿論そうだけど、規約には、金品を代価とした行為って書いてあるのよ。つまり金品じゃなければ、単なるゲームとして認められるってわけね」
「じゃあ、何を賭けるって言うんだ?」
「そうね、今いいことを思いついたわ。先ず一つは時間ね。私達のスケジュールの中の自
由時間を一時間単位で賭けて、負けた分相手の雑務を代りにやるっていうのはどうかしら。それと、・・・」
アリシアは、少しもじもじと恥ずかしそうな仕草をしてみせる。
「それと、何だ?」
「それだけじゃ、面白くないでしょうから、一枚づつ身に付けた物を脱ぐなんてどうかしら。そのどちらかを選べるようにすれば。これならあなたも楽しめるでしょ」
「ウウォウォウォ!!! そりゃいいぜ!! 俺は大賛成だ」
こっ、こいつらがこんなに積極的だとは思わなかったぜ! 俺様はこう見えても、飲む打つ買うの三拍子で鳴らして来た男だぜ。この俺様の気を引く為にギャンブルで勝負しようっていうんだから、かわいいやつらだぜ。
雷風は興奮して鼻息を荒げる。
「じゃあ、さっそくはじめましょ」
「ダイヤのフラッシュだ!」
「イヤ~ン、あたしはワンペヤー」
「あたしなんか、スカよう」
「さすが雷風、たいしたものね、よ! さすらいのギャンブラー。なんちって」
ポーカーが始まり、最初のうちは雷風を勝たせる手筈になっている。
「そうね、じゃあ、私、約束通り一枚脱ぐわ」
「私は、1時間自由時間を返上するわ」
「わたしはどうしようかしらねえ。ねえ、雷風どうして欲しい?」
「そりゃ勿論分かってるだろう」
「よし、じゃあ私も脱いじゃおっと」
ウホー! やったぜ! この調子でいきゃこの娘たちを全員スッポンポンにするのも夢じゃないぜ、その後、何もなくなったら、体で払わせて。なんて言ってきたりしてよ。ウッシッシッシ!
今に吠面かかせてやるから、そのつもりでいなさい。
アリシアはレイチェルとローリーに目配せをした。二人も目で応える。
なんか面白そうだな・・・。
ファイヤーはポーカーに興じている四人を、さっきから興味ありげに観ている。
そういえば、あたし、雑務役相当貯まってたっけ。
傭兵戦艦イーフリートは、タワーズでは珍しいケースだが、清掃や炊事等の雑務は専門の要員の他に、クルー全員が、ある程度交代で行うしきたりになっている。これは費用の節約のためではなくて、女性として一通りのことは出来るようにとの、キャプテン・フェノメナの配慮なのだ。無論、キャプテンのフェノメナやサブキャプテンのファイヤーも例外ではない。
ファイヤーはこれが大の苦手であった。それで、色々と理由をつけては
他の者と代ってもらうことがしばしばで、ペナルティーがだいぶ貯まってしまっている。
「ストレート! 今度は私の一人勝ちね!」
「くそう! じゃあ、俺は雑務1時間やるぜ!」
「そうね、じゃああたし、また雑務にしとこう」
「右に同じよ」
「よーし!この次は取り返すぜ!」
ふっふ、雷風め、だいぶ乗ってきたようね。
雷風はイーフリートに来て日が浅いため、知らないでいるが、実は雷風の席の後ろには監視カメラが設置してある。
このカメラも艦内セキュリティのために常設してある物の一つで、その映像は艦内ネット経由で携帯端末さえあればどこでも見ることができるシステムになっている。
『雷風の次の手はハートとスペードの4、スペードとダイヤの10のツーペアー』
髪の下に隠れたアリシアと二人の娘の耳には、超小型無線機が仕込まれていて、別の部屋でモニターを見ている娘が、雷風のカードの内容を逐一教えてくれる。
「よっ! 面白そうじゃないか、あたしも混ぜてくれるか?」
ファイヤーはそれまで迷っていたようだが、ついにソファーから立った。
「え!ファイヤーさん、そんなこと急に言われても・・・」
「何だよ、アリシア。あたしだとだめだって言うのか!?」
「そういうわけじゃないですけど、ちょと・・・」
「何だよ! お前ら、いいじゃないか! もう一人人数が増えた方が面白いじゃないかよ。ケチケチしないで入れてやろうぜ」
「でも、計画が・・・」
「ん?何だって」
「いえ、何でも・・・」
「よっし、決まった。ファイヤー、一緒にやろうぜ!」
「済まないな、雷風」
ファイヤーを入れて五人で、いかさまポーカーゲームの続きが始まった。
その後三回目あたりから、レイチェル、ローリー、アリシアの三人が交代で勝ち続け、雷風とファイヤーはほとんど負け続けている。
・・・まずいわ。まさかファイヤーさんが乱入してくるなんて、でも、今の二人のエキサイティングを見ると、やめようなんて言い出しづらいし。
「くっそう!! また負けか! 惜しかったのに、後一つでストレート揃ったんだ」
「ファイヤー、俺なんか、フルハウスで負けだぜ!」
雷風が元々博打好きなことは、結構知られていたが、ファイヤーまでがこんなに熱くなるとは、ロクサーヌ・ファイヤー。その名のとおり火がつきやすい女。
「また、1時間ただ働きかよ」
雷風は脱いでもいいのだが、女性陣が反対したので、負けても雑務代行が増えるだけだ。
「ク~!! もうあたしは限界だ。これ以上雑務代行が増えるくらいなら、脱ぐぞ!」
「オ~!! さすがファイヤー、いい根性してるぜ!」
ファイヤーはクツを片方脱ぐ。
「なんでえ! クツかよ、つまんねえ」
「身につけている物なら、なんでもいいんだろう!」
イーフリートの中は、比較的に高めに艦内温度が設定されている。艦長のフェノメナ他、冷え性の女性が多いためだが。熱がりのファイヤーはそのせいか普段は薄着だ。下着もあ
まり着けない。今身につけている物は、残りあと四つしかない。
ファイヤーはさらに二回負け、身に着けた物はTシャツとショートパンツのみになった。
「ファイヤーさん! もうやめたら・・・」
「うるさい! ここまで来てもうやめられるか!これでどうだ!」
「残念でした。私はスリーカード。ファイヤーさんはツーペアだから、私の勝ちね」
「ア~・・・とうとう」
「あたしは恥ずかしくなんかないぞ!」
ファイヤーはTシャツを脱ぎ捨てると、上半身が露になった。モチロンノーブラだ。
引き締まっていながら、ふくよかな胸、艶やかな肌。
「ク~! 生きててよかったぜ! セブンシスターズのファイヤーの生のヌードが見られるなんざ、タワーズの男じゃ俺が初めてだぜ!」
「絶対、これが最初で最後にしてやるうう!!」
アリシアは今回の策略がすでに失敗してしまったことを悟った。
・・・こ、これじゃあ、雷風を喜ばせるだけだわ!
「よーーーし!!これでどうだ!!」
「すみません! ファイヤーさん。ロイヤル・ストレート・フラッシュで私の勝ちです・・・」
「あわわ!なんでそうなるのーー!!」
「へっへっへ、さあ、約束とおり、そのショートパンツ脱ぐんだな」
「うう、・・・・・」
「何恥ずかしがってんだよ! さっき恥ずかしくないって言ってたじゃないか。その下にはショーツはいてるんだろう?」
「ないんだ・・・」
「え?」
「だから、この下は何もはいてないんだって!!!」
「ウッ!」
雷風はゴックンと生唾を飲み込む。
ファイヤーは椅子に座ったまま、ショートパンツを下ろし始めた。
「待って!! ファイヤーさん! そこまでする必要はないわ!」
「約束は約束だろ! あたしは筋を通しているだけだ!」
「ここは一回貸ということにして、私に良い案があるの」
「一回貸だあ、アリシアそんなのずるいぜ!」
「だから、あなたにも損をさせないいい対案があるって言ってるの!」
「フン!で、どんな対案だよ」
「ポーカーをやめて、ダイスにしましょう」
「ダイス、さいころか」
「そうよ、ここで気分を変えてみるのも、いいんじゃない?」
「でも、この次ファイヤーが負けたらどうするんだ? ファイヤーは一回貸まで作ってあるんだぜ」
「いいだろう! ペナルティーだ。今度あたしが負けたら、一晩あたしの体を自由にさせてやる!それでどうだ!」
やった!つ、ついに、やったぞ!
雷風はファイヤーの言葉を聞いたとたん、感動のあまり、無言のまま直立不動で感激の涙を流す。
ファイヤーはとんでもないことを言ってしまったことを、後悔した。
・・・し、しまったあ! もう引っ込みがつかなくなった。あたしってやっぱり副艦長失格かも。ウルフィーがいれば、こんなにはめを外したりはしなかったのに・・・。
実はなにを隠そう、セブンシスターズで生娘なのは、ファイヤーとマリー・ルイーズの二人だけだ。 こんな馬鹿げたことで、貞操を失うなんて、一生の不覚になってしまう。
「雷風、雷風! なにぼけっとしてるの! あなたね、副艦長のファイヤーさんにここまで言わせておいて、男としてなんとも思わないの!」
「なんともって、言われてもなあ・・・」
「ファイヤーさんがあそこまで言ったんだから、もしあなたが負けた場合、それに見合うくらいのことをやってもらわないと、割りがあわないでしょう?」
「まあ、そう言えばそうだけどよ、で、この俺様にどうしろって言うんだよ?」
「そうね! あなたが負けた場合、この船から降りてもらうっていうのはどうかしら?」
「この船から降りる!? ミッション航海途中のエスケープか。こりゃ結構重い罰くらうことになるぜ」
「どうしたの、怖じ気づいたの?」
「なにおーー! この雷風様がそんなことで怖じ気づくわけないだろう! おもしれえ!
やってやろうじゃないか」
「さらに、私からの提案なんだけれど、これは大事な勝負だから、ダイスを振るのは第三者にやってもらいたいの。いいでしょ?」
「ああ、別に構わないぜ」
「よかった。じゃあレイチェル、マリー・ルイーズを連れて来て」
「OK!」
レイチェルはコックリううなづき、サロンから出て行った。
マリー・ルイーズ。この名前を聞いてファイヤーはハッ!した。
いけるかもしれない!
大きな希望が湧いてきた。
マリー・ルイーズは射撃の天才、いや確率の女神とも言っていいほどの腕前だ。彼女は人間の到達できる技量の限界を越え、不確定要素の確率まで操ることが出来るウェイカー(異能者)と言われている。
ロシアンルーレットを平気で何回でもこなす恐ろしい娘だ。
彼女なら、彼女なら思いとおりの目をダイスで出せるかもしれない。
ファイヤーはアリシアのもくろみに気付き、後ろめたさを感じたが。背に腹は代えられない。黙っていることにした。
「アリシアさん、マリー・ルイーズを連れて来ました。でも」
「でも、って?」
「あーら、みなさん、今日は。面白そうな話なんでえ、わたしも混ぜてくださいなあ。ほらあ、みんなも遠慮しないで入ってよう」
「みんな?」
マリー・ルイーズの後からぞろぞろと人が続く。
「せっかくだからあ、今、非番の人たちみんな呼んじゃったのよお」
「う・・・・・・・」
この大人数に見物されたとあっては、さしものファイヤーも恥ずかしさを隠しきれない。
「ぐ・・・、ま、まあしょうがないわね。それじゃ、始めましょう。勝負は一回、いいわね二人とも」
アリシアはキッチンから銀製のサラダボウルを持ってきて、テーブルの中央に置いた。
「それじゃあ、いきますよう」
「俺は丁だ!」
「あたしは、それなら半にする!!」
神様どうか、どうか、マリー・ルイーズがとちりませんように!
おお、どうか、俺に勝たせてくれい!俺を男にさせてくれ!
ファイヤーと雷風はそれぞれ、自分の運命を賭けた。
「えいっと!」
チンチロリ~ン!
ダイスは銀のサラダボウルの中で、勢いよく回転している。
「お願いだ、丁出ろ丁!」
「絶対半だ、半!」
「あのう、つかぬことを、聞きますけどう」
「なんだよ!」
「雷風さん、丁とか半って何のことですかあ?」
「ゲゲッ!」
それまで、興奮して真っ赤だったファイヤーの顔が、見る見る青ざめる。
ダイスがサラダボウルの中央に停止しようとした、その時!
ドッドーーーンンン!!!
爆発音が艦内に響き、イーフリートの船体が大きく揺らいだ。
「うわっ! なんだ! いったいどうした!?」
「キャーー!!」
「たいへんよ!」
サロンで雷風とファイヤーの勝負を見物していたギャラリーたちは、慌てふためく。
ダイスの入ったサラダボウルは、その混乱の中、だれかがテーブルにぶつかって、ひっくり返ってしまった。
「みんな! 落ち着け!」
ファイヤーとザザは周囲をなだめる。
ドッドーーーーンンン!!!
さらに二回めの爆発音が響く。
『緊急事態発生!緊急事態発生! 本艦は外部から奇襲攻撃を受けた。速やかに戦闘体勢E-12に移行せよ、繰り返す・・・』
「奇襲だ!?こんなドック内でかよ」
「あたしはブリッジに急ぐ、雷風お前もフォーメションE-12だ」
「俺は、戦闘時の持ち場は聞いてないぜ!」
「そうだったな。雷風はお客さんだったっけ、それなら。自分のアサルトマシンで待機してろ」
「わかったよ、副艦長どの。勝負はお預けってことにしとこうぜ」
ファイヤーは脱ぎ散らかした自分の衣類を抱え、上半身裸のまま走って行った。エレベーターで着るつもりだ。




