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星屑の傭兵  作者: 磯野海月
第5章
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奇襲 アルタミラ

フェノメナとジーンはアルタミラ市庁舎でオルヴス市長と会って、ビジネスの話をしてきたところだ。

「アルタミラがアステロイド自由会議に順加盟から正式加盟に移行した時点で、ここもタワーズの守備範囲に入るから、また忙しくなるわね」


「私ではビジネスの話にあまりお役に立てなくて、すみません」

「気にすることはないわ。今日は挨拶みたいなものよ。後はマーセナリーオフィスがやってくれるから」


フェノメナとジーンは市長室を出て、エレベーターに乗り込んだ。

エレベーターのドアが閉まったとたん、ジーンは険しい表情で床を睨みつけた。

「どうしたの、ジーン?」

「私達に対する悪意の臭いを感じます。このエレベーターの床には、恐らく爆薬が」

「何だって!?」

エレベーターが下に降り始める。

ボォォォォォンンブ!!!!

「やったあ! イーフリートのフェノメナとジーンをやったぞ!」


エレベーターのドアから漏れてくる煙を見て、ハイミスの女戦士は数名の部下と共に踊りあがって喜んだ。

彼女の名は、ゲヘナ・ボルジャーノ。

傭兵ギルド・タワーズと敵対関係にある、傭兵ギルド・ギュンターズに所属する、傭兵戦艦ポイズンのキャプテンで、イーフリートのフェノメナとは只ならぬ因縁がある。

「死体を、服の切れ端でもいい、確認しろ」

部下はゲヘナに命令されて、エレベーターのドアをこじ開けた。

「こりゃ、だめですぜ。中はすっかりふっ飛んじまって、底と天井も抜けちまって何もありゃしませんよ」

「ふん、まあいい。しかしあっけないものだな」


「相変わらず、間が抜けたことをやっているな、ゲヘナ」


「だれだ?」

ゲヘナは後からふいに、自分の名を呼ばれ振返った。

「フェノメナ! 貴様! 生きてたのか!?」

「あたりまえだ! ジーンが気付いてすぐ脱出した」

「くそう! 今日こそはと、万全を期したのにぃぃぃ! お前ら! やっておしまい!」


ダダダダダダッダッダッダ!!!

ゲヘナの部下が、フェノメナとジーンに向け、一斉にマシンガンを発射した。

「無駄よ」

ジーンはスッとフェノメナの前に出て、フレキシブルソードを、翻す。ソードは細長い新体操のリボンのような形になって、ジーンのしなやかなダンスに合わせ、空中をうねり舞う。

チュチュチュチュチュイーーン!!

弾丸はそのリボンに全て弾かれた。


ゲヘナの部下たちは、ジーンの美しい舞とその威力に茫然となって、攻撃の手を止めた。

「おのれは化け物か!? チッ!何をやってる、スナイパー!」

「スナイパーがいるのか。ゲヘナにしては上出来だな」

「位置は確認しました。キャプテン、任せてください」

ジーンはフレキシブルソードを大振りに横に払う、すると、リボン状の刃の先端はぐんぐん伸びて行って、300メートルも伸びると、針のような太さになった。

鋭利な先端が、300メートル先の廊下のベンチに隠れていたスナイパーの目をグサッ! と突き刺さる。

「グワ!」

スナイパーは一発も弾丸を発射することなく、一撃で倒されてしまった。


「くそう! お前ら、ここは任せたよ、」

「逃げるのか?」

「フン! あいにくだねえ。そろそろ部下が市長を人質にしたころさ」

「キャプテン、後は私が片付けます。ゲヘナを追ってください」


ゲヘナは隣のエレベーターに乗り込んだ。

「逃げ足だけは早い」

フェノメナは袖口から鞭を出し、エレベーターのドアに叩きつけた。

エレベータのドアは切り裂かれた。間髪入れずにフェノメナは、暗い縦穴の壁に這う電線を切断した。


「これでよし、このエレベーターは止るはずだ」

フェノメナは走って、200メートル先の別のエレベーターに乗り込んだ。

チン

フェノメナを乗せたエレベーターは、市長室のある階で止まった。

ドアが開いて、飛び出すと、フェノメナの前をゲヘナが走って行く。

間に合ったか。

「逃がさない!」

フェノメナは鞭をゲヘナに向かって投げつけた。


「うわあ!!」

フェノメナの投げた鞭はゲヘナの体に絡み付き、ゲヘナは市長室のちょうど前で、ズデーン!とみっともない格好でひっくり返った。

「ちくしょうめ!」

ゲヘナは床に倒れたまま、芋虫のように這って市長室の中に入った。

その後を追って、フェノメナも市長室に入る。


「どうだ、フェノメナ! 市長の命がおしかったら、おとなしくこっちの言うことを聞くんだね」

床にころがったまま、ゲヘナはたんかを切った。

市長はゲヘナの部下の男に銃を突きつけられている。


「フェ、フェノメナ君か、助けてくれ」

「大丈夫です、市長」

「ち、近寄るな! 撃つぞ!」


ゲヘナの部下はかなり興奮している。

「どうだ、フェノメナ! 手も足もでないだろう!」

「手も足も出ないのは、お前だろう」

フェノメナはジリジリと男に近寄る。

「来るな! 本当に撃つぞ!」

「撃つ? 本当に撃てるものなら撃ってみるがいい。だが! お前が引き金を引こうと少しでも指を動かしたら、引き金を引く前に、お前の首が胴体から離れることになる!」


フェノメナは凄味の効いた声で、男にそう言い放った。

「ヒィーーー!! すんません! 命だけはお助けを」

男は銃を投げ棄て、床に這いつくばる。

「わたしは、傭兵なんかには向いてないんです、つい甘い言葉に乗せられて」


「そういうことだそうだ、ゲヘナ」

「ハッハッハ! これであたしがあなたに負けたと思うのは気が早いわね。あなたが留守中のイーフリートが、攻撃を受けているってことは知らないでしょう」

「何だと!?」

その時ちょうど、フェノメナの携帯端末のバイブレーターコールが振動した。


「通信状態が回復して、キャプテンと連絡がやっととれました」

「キャプテン、無事でしたか?」

「こっちも襲われたが、敵は鎮圧したから心配いらない。ファイヤー、そっちの状況は?」


「こちらもドック内で、至近距離から攻撃を受けました。ドックに潜入した敵の部隊はヤンとザザが掃討しましたが、メインエンジンにダメージを受けてしまったようで。あたしがいながら面目ありません」

「非番の者も、全員船に残して来て正解だったようね」

「敵はどこのだれだったんですか?」


「こいつらはギュンターズのポイズンの連中だ。私に対する個人的恨みと当人たちは言っているが、どうも腑に落ちない」


「雇い主がいるんですか?」

「分からない。それより、どうも気分が落ち着かなのよ」

「副艦長! ロングレンジレーダーに戦艦らしい船影が」

「そうきたか」


「中立地帯に進入します、艦名判別しました。ギュンターズのポイズンです」

「キャプテン、どうしますか?」

「ポイズン程度なら、あなたたちのだれかが、アサルトマシン二機で出ればそれで十分だけれど、そんな分かりきったことをするなんて、まだ何かあるな。タワーズの防衛情報網にアクセスして、ここに一番近いアースユニオンの戦力の動向を調べてみて」

「大変です! アースユニオンの辺境第16艦隊のうちの、戦艦ニ隻、駆逐艦三隻、別働隊がメルクリウスラインに接近して来ています」

「しまった! そういうからくりだったのか!」

「あと、30分でメルクリウスラインのメセナシティーが射程距離に入ります」

「後30分! イーフーリートは動けるか?」

「なんとか、航行可能です、でもエンジン出力が50%ダウンしていますから、間に合いません!」

「アサルトマシンではどうだ!?」

「副艦長、だめです! セブンシスターズのアサルトマシンでは、追撃はできますが、その前に敵がメセナシティーを攻撃する時間が、十分あります」

「万事窮すね・・・」


「待って! キャプテン! そうだ、アイツがいたんだ!」

「あいつ? ファイヤー、あいつって、雷風のことね!?」

突然、フェノメナとファイヤーの交信している回線に、雷風が割り込んで来た。

「オ! キャプテン・フェノメナ、ファイヤー、悪いな。さっきからブリッジの会話はモニターしてた。俺様の黒の韋駄天なら間に合うぜ!」


「雷風、今どこだ?」

「コックピットの中だ、いつでも出られる」

「すまない、もう時間が無い。行ってくれるか?」

「おお! 美人のキャプテンの言うことなら、なんだってOKだぜ!」

「頼む! 後からセブンシスターズを出す、それまで一機で持ちこたえてくれ」

「カタパルト、開きます」

「そんじゃ、行ってくらあ!」


  雷風のアサルトマシン黒の韋駄天は、ドックから出ると、のっけからエンジンを最大出力で発進した。

「さすが、タワーズ一の駿足マシンだ」

レーダーに映る黒の韋駄天は、どんどん加速していく。

「大変です! 副艦長!」

「今度は何だ!?」


「今計算しましたが、黒の韋駄天がこのままの加速を続けると、敵がメセナシティーを攻撃する前に間に合いますが、交戦推定エリアに到達して、減速したら、もうその後推進剤が殆ど残っていません!」


「どれくらい戦えるんだ?」

「多く見積もっても、せいぜい10分」


「何だって!! 雷風! 聞いているか!?」

「聞いてるよ、10分戦かえりゃなんとかなる」

「本気か、今インとヤンに後を追わせたけれど、追い付くのは、お前が敵に遭遇してから更に20分後だ」

「その間10分か・・・。耐えてやるぜ、死なずにな!」

「なんて無茶なやつだ!」


「ファイヤーよう! この俺様を信じられねえのか?」

「そうじゃない! そうじゃないけど・・・」

「なあ、ファイヤーこの俺に賭けてみないか? 生きて戻れるかどうか」

「賭ける?こんな時になんてことを言うんだ!」


「実はよ、さっきさいころ勝負の時、敵の奇襲で勝敗が分からなくなったけど、さいころ目は2だったんだ。つまり俺の負けだったんだな」

「そんなことは、いまさらどうでもいい」

「おれにとっちゃ男の勝負だ、いいわけないぜ。だからよ、ファイヤー、この俺に賭けてくれ、生きて帰れたら勝ち。それでさっきの勝負も帳消しだ」


「たく! お前は本当にどうしようもない馬鹿だ」

ファイヤーはあきれて。ホログラフモニターに投影された雷風の映像にパンチをお見舞いする仕草をした。

「副艦長! 心配ない、心配ない。雷風はあたしたちが、絶対死なせたりしないよ!」

「この俺様に惚れたか? イン、ヤン、嬉しいセリフを言ってくれるじゃないか」

「雷風! あんまり調子に乗ってると、痛い目に合わせるよ!」

「ヘイヘイ」


雷風のアサルトマシン、黒の韋駄天はリミッターを解除し、フル加速でアースユニオン艦隊に接近する。

「早くキャプテン戻ってこないかな、そうすればあたしもすぐに、ホットブラッドで出るんだけど」

「副艦長! アースユニオンの艦隊が進路を修正しました」

「黒の駄馬天の動きに気づいたな。敵の無線は傍受できるか?」

「敵も量子暗号コードを使ってますから、内容は解読不能です」


「くそう、黒の韋駄天を迎撃するのか?それとも・・・」

雷風の機体がさらにアースユニオン艦隊に接近する。

「副艦長! 黒の韋駄天が減速予定ポイントをフル加速のまま通過しました。このままだと、艦隊の中央に突入します!」


「何だって! 雷風! 雷風! どういうつもりだ!」

「け、決まってらあ。このまま敵さんの中央を抜けて、真後ろを取ってやるのさ!」

「馬鹿野郎! 推進剤が残り少ないんだ、減速できないでそのまま通り過ぎてしまうぞ!」


「俺にいいアイディアがあるんだ、黙って見てな!」

「第一波、敵の攻撃が来ます」

「おお! 来やがった」

ドド!ドド~ン!

アースユニオン艦隊が発射したレールガンの高速実体弾が、黒の韋駄天の防御シールドに当たり、大きな干渉波を響かせて、弾かれる。

「敵アサルトマシン7機、迎撃に発進しました」

「フン! この速度にゃついてこれねえよ!」


「黒の韋駄天、15秒で艦隊中央に突入します! ア! ダメ! 二番目の戦艦に近過ぎます!接触するかも!」

「無茶苦茶だ!」

「敵艦進路変更!」

「ウォォォォォ!!! ぶつかるか!?」

グウァンン!!

黒の韋駄天とアースユニオンの二番艦の防御シールドが接触し、黒の韋駄天の進路が変わる。

「マズイぜ! 減速だ! おい! くそAI!ミサイルを発射後0,5秒で自爆にセットだ!」


『ラジャー(了解)』

「それ!いきやがれ!」

雷風はミサイル発射スイッチを、ガツン、と叩く!

「制動だ! 逆噴射!」

ドシューーーーー!!!

グウォォォォ!!!!!!ンンンン!!!!

逆噴射ををかけてほんの0,2秒で、黒の韋駄天の正面20メートルでミサイルが炸裂した。

「うがっがーーーがああああ!!!」

Gキャンセラー(重力免減装置)がフル作動していながら、激烈な重力加速度がコックピットの雷風を襲う!


雷風の体にシートベルトが食い込み、目と鼻と耳から血の滴が吹き出し、口からは胃の内容物が飛び出した。

「はあ、はあ、こ、これは、かなりきたぜ・・・。もう少しで気絶するとこだ。俺が戦闘BHじゃなかったら・・・くたばってるな」


「信じられない!! 雷風は自機のミサイルの爆発を利用して、機体に制動をかけました」

「雷風、雷風は無事か!?」

「おう! なんとかな」

「敵艦隊が全艦、方向を転換します」

「そうはさせるか! この距離で敵の後ろを取ったぜ! ケツが丸見えだ、攻撃を開始する」

バシュン! ババ、バシューン!バシュン!

雷風はアースユニオンの艦隊の後方から、レールガンを連続発射する。

「やりました! 駆逐艦1、撃沈です。戦艦1大破、さらに戦艦1中破」

「どんなもんでい!」


「敵アサルトマシン7機、黒の韋駄天に接近します」

「逃げろ! 雷風!」

「それがよ! もう、推進剤がねえ!」


「何をやってるんだ! このどじ野郎! 死ぬぞ!」

七機の敵アサルトマシンは大きく迂回して、黒の韋駄天の後に回り込んだ。

「こうなったら、やけだ、砲撃反動吸収システム解除」

バシューーンン!!

雷風はあさっての方向に向かって、レールガンを発射した。

「とうとう頭が切れたのか!?」

黒の韋駄天は砲撃の反動でくるくると回転しだす。

「ど、どうだ、これなら簡単に後ろは取れないぞ!」

不規則に回転する黒の韋駄天に向かって、七機のアサルトマシンがレールガンの集中砲火を浴びせる。

「ウウォウォ!! こなくそ!こっちもおかえしだ!」

黒の韋駄天は、回転しながら無茶苦茶に全火器を発射し始めた。


 ドーンンンン!!!

そのうち、敵の放った砲弾の一つが運悪く、黒の韋駄天のエンジン付近にヒットした。

「やられた! トカマク炉停止だ!」


「イン! ヤン! もっと急げないのか!?」

「ファイヤー、日華と月華の速度はもうこれで限界ね! あと8分かかるよ」


「黒の韋駄天の防御シールドが消失しました!」

「絶対絶命か!」


「あ! 副艦長! 敵のアサルトマシンが攻撃をやめて、引き上げていきます」

「ほんとか!!」


「アースユニオン艦隊は全艦、方向を転換して、メルクリウスラインから離脱するもようです」

「やったあ!!!!!!」

ブリッジにいるクルーは、全員歓声を上げた。

「雷風! 聞こえるか! 敵は撤退を始めた。よくやった、助かったぞ」

「お、お、お、お、そ、そ、う、う、か、か、で、で、も、も、よ、目が、目が、回る、止め、止め、て、くれ、くれ、くれ」

黒の韋駄天は雷風を乗せたまま、回転し続けている。

その後雷風は無事インとヤンに救助された。

ギュンターズのポイズンはアースユニオンの艦隊が撤退したことを知ると、キャプテンのゲヘナを見捨ててさっさと逃げてしまった。


イーフリートは艦の修理のため、予定より三日余計にアルタミラに滞在することになった。

幸い、雷風のダメージもたいしたことは無かったので、非番の者たちと街にくりだしている。


「キャプテンが、上陸を許してくれたのも、雷風さんのおかげですねえ」

「そうとも!マリー・ルイーズ。 はっはっは、この俺様がいなけりゃ、今頃どうなっていたことか、なあ、ファイヤー」


「わかってる! 一日に何回同じことを言えば気が済むんだ! しつこいぞ!」

「でも、雷風、いい格好みせるため、またあんな無茶したね! 女の前だと、どんなことやっても目立とうとする、よくないよ、命がいくつあっても足りないね」


「違うぜ、ヤン、俺たちゃ戦士だ。戦士ってもんはな、いつでも自ら地獄に飛び込んで、生と死の境に本当の自分を見出す。それが男の真骨頂だぜい!」


 雷風は橋の欄干に片足を掛け、斜めにポーズを決めて、ニッ!ときざっぽく笑った。

「フッ」

・・・決まったぜ、我ながらかっこいい!

「何気取ってるんだか、みんな行こう、行こう」

ファイヤーたちは雷風を無視して、とっとと先へ行ってしまった。

「おい、この俺様を無視する気か!? ちょっと待てって!」

ネオン輝くアルタミラ銀座の夜は、更けていくのでありました。

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