大浴場の雷風
翌日二日酔いのファイヤー他、イーフリートの面々は予定とおり全行程1ヶ月間の巡回パトロールのミッション航海に出発した。
勿論、コンディション最悪の雷風も一緒だ。
「ほら、ここがお前専用の部屋だよ」
「ほ~! 個室なのか、結構いい待遇じゃないか」
雷風は部屋の中をよく見回した。
「虎姉さん、この部屋トイレがむき出しになってやがるぜ」
「こういう雰囲気の部屋、見覚えないのかい? 鈍いやつだねえ!」
「するってえと、まさか・・・?」
「そうだよ! この部屋は独房だよ」
「ひでえじゃねえか! なんで俺がこんなめに!?」
「ガタガタ言うんじゃないよ! お前みたいな発情した雄馬を、可愛いうちのクルーたちと一緒の部屋にできるわけないじゃないか。ここだと監視もできるし、お前にはもってこいってもんだ!」
「くそう、人を悪党扱いしやがって」
「雷風、なんか言ったか?」
「いやあ、なんでもねえよ」
「じゃあ、あたしゃ行くからね」
トアルコは部屋から出る前に振返った。
「ああ、忘れてた。雷風、トイレはこの部屋の物以外は使うな、この船には他は女専用のトイレしかないんだからね。それと、この部屋は中からじゃドアが開かないようになってるから、外に出る時は内線でだれか呼ぶんだよ。いいね」
「やれやれだぜ・・・」
「キャプテン! どうして、あんな馬なんかこの船に乗せたね!?」
「ヤン、雷風のことはしょうがないのよ。鍾馗大人にはいろいろ借りを作っているし」
「この船に男、ちがう、雄馬を乗せるなんて、前代未聞ね、女だけの傭兵チームいう、うちのセールスポイントなくなってしまうよ!」
「そのことなんだけれど、みんなにも言っておきたいの。私達イーフリートは結成以来今まで5年、女だけでやってきたけれど、やはりこれは不自然なことじゃないかって・・・」
「まさか、まさか、キャプテン! この船のクルーを男女混合にするって言うね!?」
「まだ決めたわけではないわ。ただ、雷風はそのためのテストケースと思ってほしいの」
「エ~!!! そんなのってやだ~~」
ヤン他、メインブリッジのクルーの大半は不満の声を漏らす。
「いいじゃないか、あたしは気にしないよ。男もいたほうが張り合いがあっていいと思うな」
「ファイヤーさん! あなたはがさつな体育系だから男がいたほうがいいんでしょう!?」
ナビゲーターのアリシアにずばりと言われ、ファイヤーはムッ!とする。
「がさつでわるかったな!」
これをきっかけに、ブリッジの中のあちこちで、論争が始まる。
「私は男の子がいたほうがいいなあ。その代り、美少年ばっかり採用すればいいのよ!」
「だめよだめよ! 男なんか、男なんか、この美しいイーフリートには似合わないの!」
「どっちでもいいんじゃないんですかあ」
「ウルフィーなら、絶対反対するに決まってるね!」
「みんな! もういい! 静かにしなさい!」
フェノメナの一喝でブリッジ内は平静を取りもどした。。
「このことに関しては、外部に他言無用、いいわねみんな! このことに関する論議も今後控えること! いずれイーフリートの幹部会議にかけて、最終的にはクルー全員の投票で決めたいと思っているわ。以上!」
フーーー・・・
フェノメナは深くため息をついて、艦長席にドカリと腰掛けた。
・・・これは危機よ! 私達の女の城イーフリートの危機なのよ!
ナビゲーターのアリシアはイーフリートに男性を入れることを絶対阻止しようと決心したのだった。
「ほら! 雷風もっと性根を入れて磨かないか」
「何で俺様がこんなこと・・・。主砲の清掃なんて、タワーズのドックでメンテした時にやってるんじゃないのかよう?」
「ぶつくさ言ってるんじゃないよ! タワーズのメンテなんかじゃ、こんなとこのワックスがけまでやってくれないんだ」
「オートマチック装弾システムまで磨くなんざ、どうかしてるぜ、まったく」
「あたしゃ奇麗好きなんだ! ガタガタ言ってるとぶっ飛ばすよ!」
「へいへい」
イーフリートがタワーズを出発して早三日。今日も雷風は朝からトアルコにこき使われていた。
傭兵戦艦イーフリートのクルーは全員女性だけのことはあって、艦内は居住エリア以外も丁寧に清掃されていて、雷風の所属する鉄龍とは大違いだ。
「よし! 今日はこれでお終い」
「ア~ア、疲れたぜ! そんじゃ、お先に」
雷風がトアルコの横をすれ違った途端、トアルコは顔をしかめて、雷風の襟首をつかんで引止める。
「雷風、お前ちょっと臭いぞ、あたしゃ鼻がいいんだ。体ちゃんと洗ってるのかい?」
「いちいちうるせえなあ。部屋の備え付けの簡易シャワーで毎日洗ってらあ」
「そうかい、なるほどね。あんなちっこい設備じゃ、お前みたいな図体じゃ体全体うまく洗えないだろうね」
「だったらどうしろって言うんだよ?」
トアルコは少し考え込んだ。
「しょうがないねえ。大浴場を使うしかないか」
「大欲情? なんだいそりゃ?」
「この船にはね、色々な福利厚生施設があんのさ。エステや艦の中央にあるでかいローマ風呂もその一つだよ」
「なんでい風呂のことかよ。しかしよくやるぜ。戦艦なのにまるで豪華客船並じゃねえか」
「それがあたしたちの自慢さ。おかげでイーフリートの求人倍率はタワーズでいつもトップって話だな」
「で、どうせ女湯しかないんだろ?」
「そうだけれど、部署ごとに利用時間が割り振られてるから。その空き時間を使えばなんとかなるよ」
「そりゃありがたいぜ!」
「でも、いいかい。必ず大浴場の入り口に、お前が使用中って分かるように、貼り紙かなにかしとくんだよ。いいね」
「ああ、そうするぜ」
雷風は深夜大浴場の利用時間割を確認してから、入り口に『雷風入浴中』の貼り紙をして、中に入った。
「この時間帯なら1時間はだれも使うやつはいないから、ゆっくりできるぜ」
雷風は更衣室から浴場に入って。その設備の豪華さにあきれた。
「まるで健康ランドだな。大浴槽の他にハーブ湯とジェットマサージか。その上、総大理石貼ときやがる。戦艦がここまでやる必要があるか? 女のやることは分からん」
雷風は体を洗った後、ゆっくりと湯船に肩までつかる。
「ああ、良い湯だぜ」
見上げると浴場の壁面には、黒大理石の等身大の彫刻がびっしりと刻み込まれている。ギリシャ神話の神々のようだ。
「彫刻かよ。女湯に裸のオッサンの彫刻か。ここの連中、女だけで溜まってるんじゃないか?」
ナビゲーターチーフのアリシア・レビンスキーは、ブリッジでの深夜番の勤務を終え。洗面器にタオルとシャンプー、リンス等入浴道具一式を持って大浴場にやってきた。
「打ち合わせの時間が大幅に伸びて、こんなに遅くなっちゃったわ。早くお風呂に入って休みましょ」
アリシアの目に浴場のドアの『雷風入浴中』の貼り紙が目に止まる。
「何よこれ!? 大浴場をあの馬が独り占めしてるってこと。不愉快だわ。せっかく空き時間だと思って来たのに・・・」
アリシアは憤慨しながら、貼り紙を眺めているうちに、よからぬ考えがフツフツと頭に浮かんだ。
「クックック、雄馬め、思い知らせてやるいい機会だわ」
アリシアは貼り紙を丸め、ごみ箱に捨ててしっまった。
「ええ、あたしよ。ナビのアリシア。あなたたちの班は通し番で、仕事、明日の朝まででしょう。休憩時間なら、お風呂に入っちゃえば。わたしはもう済ませたけれど、今、ちょうど空き時間でだれもいないから」
アリシアは機関部の娘たちに内線で話かけた。
「そうですか、アリシアさん。どうもすみません。機関部は汚れ仕事が多いんで、できれば、一日に何回でもお風呂に入りたいですから」
「いいのよ、お風呂に入って、きれいに汗を流してちょうだい」
機関部第3班の五人の若い娘たちは、アリシアの言葉を信じ大浴場の更衣室に入って来た。
クツも衣類もロッカーにしまってあるため、雷風が先に入浴していることはだれも気付かない。
「アアー、疲れた。まだこの後、5時間も勤務時間が残ってると思うと、いやになっちゃうわねえ」
「そうそう、お風呂なんかに入っちゃうと、眠くなるかもしれないわよ」
「大丈夫よ、アッツイ! ってくらいのシャワー浴びれば、シャキットするからやってみなさいって」
「ん!?」
雷風は湯船でコックリコックリしていたが、娘たちの声で目を覚ました。
・・・ヤベエぞ! どうなってるんだ!? ちゃんと貼り紙してきたはずなのに、だれか入ってきやがったぞ。
大浴場の出入口は一ヶ所しかない! 雷風は焦って何処か隠れることができる場所を探した。
あたりまえだが、雷風のような図体の者が隠れることの出来る場所などあるわけない。
・・・くそう! 見つかったらただじゃすまねえぞ! どうすりゃいいんだ!?
ガラ
更衣室と浴場の境の戸にだれかが手を掛ける。
マジでやばいぞ! ・・・そうだ!!
せっぱつまった雷風の目に、濡れて黒光する、黒大理石の彫刻が目に入った。
ガラガラ・・・パタン
「それでさあ、マイケルったらあたしに無理矢理キスをせまってくるんだから」
「で、どうしたのよ?」
「あたしも聞きたい聞きたい」
「だから、あたしね、今日は危険日だからキスできないって、言ってやったのー」
「それで?」
「そしたら、アイツ、クック、子供ができたら困るから、キスするのは今日はやめとくよ。だってーーー、あっはっはっはっは!」
「きゃっはっはっはっは!!」
「あははっはっは」
「はあはは、苦しい」
五人の娘たちは、裸のまま露な姿態で、浴場の床で、笑い転げている。
「はっはっは! 強烈なボケかましてくれるわね、そのマイケルって子」
「それで、もう18だなんて言うんだからあきれちゃっててさあ」
娘たちは、一通り体を洗い流し、湯船に入ってきた。
「それで、今はどういう関係なのよ」
「それでえ、あたし母性本能感じちゃって、色々教えてあげることにしたのー」
「どんなことを教えるのよー?」
「どんなことって・・・どうでもいいじゃん」
「例えば、こんなこと」
ポニテールの娘は、オカッパの娘の後ろに回りこみ、体をピッタリとくっつけ、耳をそおっと噛む。
「ハウ、レイチェル、くすぐったいよう」
「くすぐったいんじゃなくて、感じるんでしょう、ホラ」
レイチェルはオカッパの娘の両乳首を後ろから指で優しく扱く。
「ハア、ハア、いやだよう。こんなとこで」
「ふふ、いやだなんて、あなたの体は正直なんだから、ほら、こんなに乳首が固く立ってきた」
「ヘ~、アンナってレズッ気もあったんだあ。かあいい! こうなったらあたしもかわいがってあげるよ」
「チョット、ローリー! まって・・ング」
ローリーはアンナに前から抱きつき、いきなり唇を奪った。
・・・こっ、これは、とてもラッキーなのかもしれない。
ギリシャ神話の神々の彫刻の間で、雷風はじっと同じポーズを取りながら、その様子を見て興奮した。
・・・い、いかん、あそこが・・・。
いくら我慢しようと、雷風の立派な息子は脈打ちながら、隆々とそそり立ち始める。
「ズルイ!アタシも仲間に入れて」
シャワーを浴びていた、ショートカットの娘と、お下げの娘も湯船に飛び込んで来て、アンナの体にまとわりつく。
「アウ! ダメ! そんなところ、汚い」
「だいじょうぶよ、アンナ。あたしたちでキレイにしてあげるから」
ショートカットの娘はアンナの腰を抱え込み股間に吸い付く、もう一人はアンナの乳房に下を這わせ始めた。
こっ、っこれは、禁断の女の園。
毎夜こんなことが、この船のあちこちで行われていると思うと、雷風の頭には血が登って、今にもどうにかなりそうだ。
辛いぜ!・・・・。
こんな物を観せられたまま、じっとしていることは、雷風にとっては拷問に等しい。
「フーッ」
レイチェルはポニーテールを後ろに払って一息つく。その髪がパラパラと雷風の体にかかる。
そして、なにげなく肩に掛けてあったタオルを後ろに投げると、タオルは雷風の息子に掛かってぶら下がった。
「むう・・」
「アラ、今だれか、野太い声でうめいた?」
「うめいたって、アンナはさっきからうめきっぱなしよ」
「そうじゃなくて、なんか変な声で」
「変な声って?」
「むう・・・。こんな感じかな」
「やだあ、それって男みたい」
「レイチェルって男役ばっかりやってるから」
「あたしじゃないって」
「あたし達を見て、後ろのギリシャの神様が欲情したりして」
「あっはっは、それっておかしい。でもこの神様たち、みんないい物持ってるからねえ」
ローリーはアンナから唇を離し、彫刻のギリシャの神々を上気した表情でポウッと見つめた。
「なんか、ちょっといつもと違うような気がするんだけど、気のせいかな?」
「何言ってるのよ、ローリー。そんなバカなこと、欲求不満が高じて、あなた彫刻に欲情したんじゃないの?」
「そんなことないもん!」
「はっはっは。いつもと同じ彫刻よ。ほら、上から、あれが神々の父ゼウス。そして海皇ポセイドンに、冥王ハーデス。ヘーパイトスにヘルメス。アテネにヘラ、アポロンにヘラクレス。えーとそしてミノタウロス」
「ねえ、でもミノタウロスって頭が牛だったんじゃない」
「それじゃ、これはケンタウロスね」
「おかしいわよ、ケンタウロスは下半身が馬で上半身が人でしょう? これは下半身が人間で上半身が馬よ」
「そんなのって、いたっけ?」
「ウ~ン??」
レイチェルは首を傾げながら、雷風の息子を、掛かっているタオルの上からギュッ!とつかんだ。
「オワッッッ!!!」
雷風は堪らず声を上げ、五人の娘たち押し倒すような格好で、湯船の中に転がり込む。
「キャャャャャャャャャャャーーーーーーーーー!!!!!!!!!!」
「イヤァァァァァァァァァァーーーーーーーーー!!!!!!!!!!」
「ダメェェェェェェェェェェーーーーーーーーー!!!!!!!!!!」
「タスケテェェェェェェェェーーーーーーーーー!!!!!!!!!!」
「ヘンタイィィィィィィィィーーーーーーーーー!!!!!!!!!!」
五人の娘たちの天地を切り裂くような悲鳴が、総大理石貼の浴室にこだました。
『異常事態発生! 異常事態発生! 艦内第7ブロック、大浴場にて、異常事態が発生した模様! 緊急配置K-12発令! 艦内警備班はただちに現場に急行せよ! 繰り返す・・・』
この悲鳴に、艦内に設置してあるセキュリティーシステムが反応し、中央電脳が緊急警報を発令した。
「何が起きたね!?」
今夜たまたま警備班の班長をやっているヤンは、慌てて詰め所から飛び出した。
「大浴場はいつも、監視カメラが外してあるから、じかに行ってみないと分からないね」
幸い、大浴場は詰め所からはそう遠くない。ヤンは一分もかからずに、大浴場の前に到着した。
「ウワアア!!!これは何かの間違いだ!やめろう!!」
「これは、雷風の声!?」
ドカッ!!
大浴場のドアをぶち破り、雷風が素っ裸で飛び出して来た。
パコパコパコパコ~~ンンン!!!
雷風の後ろから、洗面器や椅子、シャンプーが怒濤の勢いで投げつけられる。
「許さないわよ! このヘンタイ!!!」
雷風を追いかけて、五人の機関部の娘たちが、腰にバスタオル一枚巻いて、廊下に飛び出す。
「これでだいたい状況は分かったね・・・」
ヤンは眉間に皺を寄せ、額に掌を当てた。
「オ! ヤンか、助けてくれ。これはちょっとした手違いなんだ!」
「助ける? 助けるのはあの娘たちの方ね! いいかげんワタシ怒ったよ!」
ヤンは現在戦闘用ボディーを装備している。
ヤンはと両手に電磁トンファーを持って、間髪入れずにそれを雷風の首筋に打ち込む!
バシュ!
一撃で雷風は失神し、廊下に倒れた。
そこに五人の怒れる娘たちが襲いかかる。
「この! この! この! よくも! 」
「ケダモノ! 恥知らず!」
「ド変態! バカヤロー!!」
「こいつは女の敵よ! 許せない!」
「キィィィーーーー思い知れ!!!」
ドカ! バキ! ガシ! ドゴ! ゴン!
気絶した雷風を、五人の娘は踏んだり蹴ったり、嵐のようなタコ殴り。
「ちょ、ちょっと待つね! あなたたち、そこまでやらなくていいね。後はワタシが責任持つよ」
「ヤンさんがそう言うんなら・・」
「ねえ」
「うん・・・」
娘たちの興奮もやっと治まったようだ。
「雷風の処分は保留する。その代り、雷風の行動が全てモニターできるように、EPNを持たせる。何か異論は?」
「キャプテン! そんな甘い裁量じゃ納得いきません!」
「あたしもです!」
「キャプテンは鉄龍の鍾馗大人に、遠慮してるんじゃないですか?」
「アリシア、それはキャプテンに言い過ぎだ」
「いいんだ、ファイヤー。
アリシア、あなたの不満はよく理解できるけれど、今回の事件は、雷風に悪意がある者の嫌がらせの可能性もある。
雷風がこのイーフリートでは、ただ一人の男性であることは事実だが、それと同時に彼はBHでもある。
もし、それからくる差別的意識が、こんな騒ぎの原因なら、私はキャプテンとして容認できない!」
フェノメナの強い口調に、雷風を訴追したい面々は下を向いて黙ってしまった。
雷風は査問会で処罰を受けずに済んだが、アリシア他、雷風に悪意を持つグループとのわだかまりは、より一層深くなってしまった。




