表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
星屑の傭兵  作者: 磯野海月
第5章
38/41

フェノメナの快気祝

スペクターのボディーの一事件の後、1ヶ月が過ぎた、幸い戦闘で負傷した者たちも、全員ほぼ回復し、今日は最後に退院したフェノメナの快気祝いということで、マーフィーたちも宴席に招かれている。


・・・この人たちは、ほんとにこういうのが好きなんだなあ。

マーフィーは雷風の他にルー、猛虎、ジーン、ヴォルフガング、インにまでその都度快気祝いに誘われ、もうすでに食傷ぎみだ。


というわけで、マーフィーは目の前の料理に箸を付けづにいる。

「ハーン。マーフィー、宴会続きでいいかげんうんざりしてるんでしょう?」

「いえ、ノーマさんそんなんじゃ・・・」


「でもね、それはあなたが、みんなから目をかけられているってことよ。喜びなさい」

座敷の襖が開いて、シャドウがフィヨリーナとリリスを伴って座敷に入って来た。


「遅くなりました」

「アイヤー、キャプテン・シャドウ」

鍾馗しょうき大人、僕の不在中色々とありがとうございました。その後も仕事の都合で直接合う機会がなくて、礼をいいそびれてしまったようで」


「何言ってるか、気にしない、気にしない。ところで、そっちの美人のお嬢さん方はだれあるか?」

「この子はパイロット候補生のフヨリーナ・リリアンティスです。彼女は・・」


シャドウがリリスを紹介しようとすると、その言を遮り、リリスはシャドウの前に出て、自己紹介を始めた。

「はじめまして、私はリリス・ランカーです。先月にタイタンのラボからタワーズに赴任してきた科学者グループのチーフです。ご挨拶がおくれてどうもすみません」


 リリスはにっこり微笑みながら、腰を曲げお辞儀をする。和室に似合ってなかなか清楚な印象だ。

「ほうー、そうあるか。私は鉄龍のキャプテン鍾馗しょうきある。

キャプテン・シャドウもこんな美人を連れて、なかなか隅に置けないあるねえ。

自分の奥さんにしたらいいあるね。

そうじゃなければ、あなたほどの人なら、ワタシの後妻にしたいくらいあるよ。

ハッハッハ」


「またご冗談を、おほほほほ」

リリスも鍾馗しょうきに連られて笑う。

シャドウの目がサングラスの下で苦笑いをした。鍾馗しょうきには悪意はないが、シャドウにとって、これは実際かなりきつい皮肉になってしまった。


「キャプテーン!! こっちこっち」

座敷の奥でルーとロビナがこちらに手を振っている。

シャドウたちは、ルーとロビナの間の空いている座布団に腰を下ろした。


「お疲れさまですキャプテン」

マーガレットがシャドウの盃に酒を注ぐ。


「レイモンドはまだ帰ってこないんですか?」

「ああ、まだ何かとやることが残っていてね。でも彼のおかげで、予定とおり統合軍事演習は三ヶ月後にはできそうだ。これから特にオフィスは忙しくなるな」


「今、ゴールデン・スピアの特別予算の算定をやっていますけれど、何かと予定外の出費も多くて・・・」

「いつも済まない。やりくりで不足した分は僕が個人的に負担するから、みんなには不自由な思いをさせないようにしてくれ」


シャドウは小さい声でマーガレットに囁いた。

「ワ~ン! ノーマさんてばイケズなんだからん」


ロビナがシャドウの背中に抱きついて来た。酒もかなり入って顔が赤い。

「な~に言ってるの! マリアを誘おうって言ったのはあなたでしょうが」


「だって、だって、マリアさんがあんなに機嫌が悪かったなんて知らなかったんだも~ん!」

「ロビナ、ちょっと髪が濡れるわよ」

ロビナの髪が垂れ下がり、シャドウの持った盃に掛かっている。


「ネ~、ネ~、キャプテン~。マリアさんを許してあげてよ~。まだ処分保留のまま一月以上だなんて」

「ロビナ、そのことはまだ検討中なんだ。こんな席では言うことはできないよ」

「エ~、だってえ」


「フ~ン。あなた愛玩タイプね。プロトタイプの・・・。シリアルは?」

リリスは、シャドウの背に抱きついているロビナのあごをつまんで、自分の方に顔を向けさせる。

「シリアル(製造番号)、シリアルなんて忘れました。そんないやなこと・・・」

ロビナはそう言うと、こちらから背を向け押し黙って座る。


「そう、それは残念ね。でも、愛玩タイプはいいわね、可愛がられて。だれに何を言っても許されるし、責任も無い」

「リリス、言い過ぎだ」


「あらごめんなさい。仕事がらこういうことに興味があって」

リリスは自分の盃を持って、鍾馗しょうきの近くの座に移って行った。


「なんなの! あの態度。キャプテン、なんであんなの連れてくんのよー!?」

「ノーマさんいいんです、わたしそんなに気にしてなんかいません」


「すまない、ロビナ。僕から謝るよ」

「ちょっと、ちょっと、どうしてキャプテンが謝る必要があるのよ!? 納得いかないわ」

ノーマに痛いところを突かれて、シャドウは答えに窮する


「エヘ、エヘ、みんな! 何やってるんだー」

ちょうど都合よく、ルーが自分の座から銚子片手にやってきた。

「あらら、すっかりでき上がっちゃって、酔っぱらいネコ」


ルーはふらふらと千鳥足で、シャドウの隣のさっきまでリリスが座っていた場所に腰を下ろす。

「こら、ロビナ! あたしだって、愛玩タイプじゃないけれど、かあいいんだゾー」

ルーはトロンとした目でシャドウをじっと見つめる。


ゴクン

シャドウは生唾を飲み込んだ。

「シャドウーーー!! 好きだゾーーー!! お前のためなら死ねる!!」


ルーはシャドウに勢いよく飛び付いた。

「ウニャー!」


その勢いで、シャドウは横につんのめる。

「ウワ!」

「エッ!?」

ドシャッ!


 その隣で、箸を使って冷奴の食べかたをマーフィーに教えてもらっているフィヨリーナの上に、ルーとシャドウは乗っかる形で倒れ込んだ。

「アララララ~~!」

フィヨリーナの顔には冷奴がグッチャリと潰れて張り付いた。

「マーフィーさん。お豆腐ってこうやって食べるものだったんですか?」


「ちがうって・・・」

「マーフィー、ルーは?」

「もう完全に酔いつぶれて寝ちゃってます」


「やれやれ、マーフィー、悪いけどプッチイと二人で、ルーを隣の座敷に連れてって、仲居さんに布団敷いてもらって、寝かせてきて」


「ええ、ノーマさん、そうします」

「なんでい、なんでい、もう潰れちまったのかよ、ルーのやつ」


「雷風、お前のペースに合わせて飲んでたからだよ」

「そういうファイヤーだって、ルーにガンガン酒を注いでたじゃねえか」


「そうだっけ?」

「ルーの体じゃ、俺達とじゃ容量が違うってもんだからな」

「アンタたちより、もっとすごい酒飲みが後ろに控えているね」

「ヤンよ、ありゃ飲むっていうより、流し込んでるみたいなもんだぜ」


ヤンが指差した方で、猛虎とトアルコがさしで酒杯を飲み干している。

周囲は全く眼中にない、といった様子で、たった1時間の間に、ビールが4ケース、ウイスキーボトルが5本、一升瓶が10本も空になって二人の回りに転がっている。


 トアルコはイーフリートのベテラン砲術長だ。彼女は虎型戦闘BHバイオ・ヒューマノイドで、猛虎と同じタイプの女性型、つまり二人は姉弟のようなものだ。


「雷風! チョットこっちに来るよろし」

「あ? おやじが呼んでやがる。ファイヤー、ちょっと行ってくるわ」

「雷風、キャプテン・フェノメナによく挨拶するよろし」

「挨拶? 挨拶ならさっきしたけどよ」


「違うね! 今キャプテン・フェノメナと相談して、お前のこの間の不始末の懲罰を決めたあるよ」

「懲罰だあ! おやじ、それはもう不問にしてくれるって話じゃ!?」


「そんなこと、いつワタシ言ったね?」

「そりゃないぜ! でもなんで、キャプテン・フェノメナなんかと相談する必要があるんだよ!?」


「それが大ありね、雷風、お前の懲罰は、イーフリートが明日から出発するミッションに一人同行することね、迷惑かけた分、好きなだけこき使ってくれるようにキャプテン・フェノメナにお願いしたよ。いいあるね!?」


「勿論! 全く! 完璧に! 了解しましたであります。キャプテン・フェノメナふつつかものでありますが、どうかよろしくお願いしますでありますです」


雷風はかしこまってフェノメナの前で敬礼をした。

「何かと不便があるかもしれないが、こちらからもよろしく頼む」


 ・・・ウウォウォ!! そりゃ何だか、懲罰ってよりも、ご褒美じゃねえか。イーフリートが今度一月後に帰ってくるまで、女の園でやりたい放題、し放題、俺のあそこはビンビンだぜい!!

傭兵戦艦イーフリートはパイロットからメカニックまで全てのクルーが女性だけの構成になっていることは有名な話であった。しかも美人が多いとの評判だ。


 雷風は今にもデッサンが崩れそうな顔で、鼻の下を伸ばし、一人にやけている。

「こら、雷風、何、笑っているね?」


「おう! インか」

「ワタシはヤンね! もう何度いったら解るね!」

「どっちでもいいぜ! それより、俺様は明日から一ヶ月間、お前んとこで厄介になることになったからな、よろしく頼むぜ」


「何、馬鹿言ってるね。イーフリートは女だけの傭兵チームね。そんな馬鹿なことキャプテンが許すわけないね!」

「馬鹿、馬鹿、ってうるせえやつだぜ、うそだと思うんだったたら、お前んとこのキャプテンに聞いてみな!」


「聞かなくても、アタシが保証するよ」

さっきから猛虎と酒を飲んでいたトアルコが、こちらにやってきて雷風の前にどっかり腰を下ろした。

「虎姉! これは一体どういうことね!?」

「雷風をね、こないだ馬鹿やった罰として、うちであずかることになったのさ」


「それじゃ、ぜんぜん罰になんかなってないね! こいつ喜んでるよ!」

「それはこいつが何も解っちゃいないだけさ。こいつはイーフリートの若い娘にチョッカイ出すつもりだろうがね、このアタシやファイヤーがそうはさせないってことさ。この馬はアタシがみっちりこき使ってやるから」


トアルコは雷風の長い首をガッチリ捕まえて、もう片方の手で一升瓶をラッパ飲みにする。

「なんでい! そういう魂胆だったのかよ! 畜生め!」

「やっと分かったかい、この馬鹿タレ! お前は女に囲まれながらおあずけの状態で、欲求不満のまま股間を押さえて悶え苦しむってことだよ。あきらめな!」


「まあ、雷風にゃいい薬だぜ」

「猛虎の兄貴まで知ってたのかよう! そりゃないぜー」

「まあ、飲め飲め、一ヶ月間の辛抱だ、帰ってきたらまた女買いにでもいきゃいい」

「くそうーー!! こうなったらやけだ!」

雷風は猛虎からウイスキーボトルをひったくり、ゴクゴクと飲み干す。

ついでに、猛虎の前の皿に山と盛られている、刺し身をつかんで自分の口に押し込み一気に飲み込む。


「おい、バカ! やめろ! それはだけは! お前は食っちゃいけねえ!」

「ヘン! 兄貴、気にすんなって、俺は悪食だ! 馬型BHでも肉魚OKだぜ!」

「違うんだ! そうじゃなくって! それは・・・・」


猛虎は口籠った。

代ってトアルコが言った。

「雷風、お前の食ったのは馬刺しだよ」


同族の誤食によるショック症候群、草食系や雑食系のBHで希に発生する疾患。

ウェル2の高級日本風割烹、角華の前に救急車が到着した時点で、キャプテン・フェノメナの快気祝いはお開きとなった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ