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星屑の傭兵  作者: 磯野海月
第4章
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廃ビルでの激闘 その2

ノーマとアッシュは、運悪く、キュアーズ・ビジネスセンンタービルが倒れかかって来たビルで、狙撃のポジションについていた。

「ノーマ、アッシュ、大丈夫ですか!?」


「なんとかね、でもこのビルの反対側に逃げるのが遅れたら、ただでは済まかったわ」

「ティロール、もうこのビルからでは狙撃はできなくなった。バロンとザザのチームはどうなった」


「アッシュ、それが、バロンとザザのいるビルからも、ビルの残骸が邪魔になって狙撃が不可能になった」

「戦況はどうなっているの?」


「今ので一時戦闘が中断したみたいだが、かなりまずい状況だ、ジーンとヴォルフガングが、いつまで保つか」

「別の位置に移動するしかない」


「ちょっと、アッシュ! 移動するって、このビルを駆け下りて、反対側のビルまで行って、さらにまたそこを登るのよ、エレベーターも無しで」

「そうだな、新たな狙撃ポイントはあのビルがいい」

「あのビルにまた登るには、かなり時間がかかるわよ」


「分かっている、だがノーマ、お前一人ならすぐに移動可能だ。サイボーグだろう」

「あたしが行くって? あたしが狙撃するの!?」


「そうだ。もう、それしかないだろう」

アッシュは言い終わると、黙ってノーマを見つめる。

「あたしは、あんたのサポート役で・・・。分かったわよ、行けばいいんでしょ」

ノーマはブーツを脱ぎライフルを背中に背負う。

「飛び降りるわね。また、プラズマジェットのせいで、足の裏の皮、張り替えなきゃ」


ヒュンッ!

「遅いぞ!」

エキドナはジーンのFMソードの乱舞を軽々とかいくぐり、ジーンに接近する!

「うかつだな!」


その後ろからヴォルフガングが銃でエキドナの後頭部を狙う。

「それはどうかな」

シュバッ!

スペクターのボディーの背中から生えている、二本のロッドが、ヴォルフガングが引き金を引くのより早く、その銃を突き刺した。


「ウッ!」

エキドナはジーンの首を片手でがっちりつかみ、壁めがけて叩きつける!

「ジーン!!」

ドシャッ!!

ヴォルフガングは、素早く、ジーンを抱きとめ、二人は揃って壁に叩きつけられた。


「ウッ!・・・」

「ゲフッ」

「フフ、今のはかなり効いたようね」

ジーンとヴォルフガングは、意識はあるが、かなりのダメージで立ちあがれないようだ。


・・・歯が立たない! 肋骨をやられた、内臓にもきてるようだ。ジーンは両足を折られたのか? やつは、遊んでいるんだ。

「もっと、もっと私を楽しませてくれないの?」

「グッ、お前は何が目的なんだ?」


  ヴォルフガングは口から、血を吐きながら苦しそうに、声を絞り出す。

・・・キャプテンは無事か? だれか、こいつを狙撃できる位置まで、早く来てくれ。

エキドナは急に宙を見つめ、動きを止めた。

「私の目的? そうだ・・・私の目的は復讐だ!」


「復讐だと、だれに対する、復讐だ、タワーズ全体か? それとも」

「私が憎いのは、フェノメナ、いや! シャドウ。違う、違うぞ! そうではない、だが、なぜ!?なぜだ!?グゥ」


エキドナは頭を抱えて苦しみだした。

どうしたんだ? やはり、こいつ、脳に異常が。


「復讐するのなら、この私一人で十分だろう?」

「キャプテン!!」

フェノメナが瓦礫に埋まりかかった非常階段から、ゆっくり姿を現した。


「遅れてすまなかった。片足をやられてしまったのでな」

フェノメナは右足を引きずりながら、エキドナの正面に立つ。

その右足には血が滲み、不自然によじれている。骨折だろう。立っているのもやっとのはずだ。


「フッフッフ、よかったよ、生きていたんだ。これで、お前を私の手でじかに引き裂いてやれる。嬉しい」

エキドナは涙を流しながら、せせり笑った。


「私の妹の体、返してもらうぞ!」

フェノメナは、両袖の間から、三本づつ、六本の鞭をスルッ出し、両手に握った。

「フンッ!」


六本の鞭はまるで、それぞれが生を授けられたように、自在にあやつられ、六方からヒュン、ヒュンとエキドナに襲いかかった。


「これくらい!」

エキドナはフェノメナの鞭をたやすくかわす。

パシュン!

床に落ちていた鉄骨に、鞭が軽く触れただけで、鉄骨は簡単に切断された


「超振動か、だがな、スカラー衝撃波の敵ではないんだよ!」

ボボボボボッ!!!

小さいスカラー衝撃波の連続発射! フェノメナの鞭は悉く粉砕されてしまう。


「その足では、満足に動けないだろう」

エキドナは両手を広げゆっくりと、フェノメナに近づく。

「だが、両手は使える」

フェノメナはエキドナの両手首をつかんだ。


「何をするつもりだ? 人間の腕力で」

エキドナはフェノメナの両手を振りほどこうとした。

「クッ! 動かせない!?」

フェノメナは両腕を超振動させ、その振動する波長を微妙に特定方向にずらしてやることによって、強力な物理的力を発生させたのだった。


「こんなことができるのか? だがどれくらい、我慢出来るかしらね」

普通、超振動は媒体になる物体を使う。自分の肉体を直接使うということは、肉体のその部分を細胞レベルで、粉々にする。


フェノメナの腕のあちこちから、血が吹き出しはじめた。彼女はその苦痛に眉ひとつ動かさない。


「痛いのだろう。もっと、苦痛に顔をゆがめたらどうだ。泣いてもいいんだ」

「私の苦痛など、妹が味わった苦痛に比べれば。たわいのないことだ」


「妹? そうか、こいつは、お前の妹だったんだね。私はこいつが、うっとうしくってたまらないんだ!」


「うっとうしい?なぜだ」

「こいつが、入ってきたんだよ、私の心に」

「いるのか!? レイピヤがそこに!」

「お前に、お前に会いたいんだとよ! 悲しくて、苦しくて、それが、それが、私の心まで、しめつけるんだ!」


「レイピヤ!!」

フェノメナはエキドナの顔を凝視して、その目尻から、一筋の涙が、落ちた。

「やめろ!! きらいなんだよ!! お前なんか!!!」

エキドナはフェノメナから目線をそらす。

「フンッ!」

その瞬間を逃さずに、フェノメナは組み合ったまま、エキドナの額めがけ、頭突きをくらわせた。

「ウッ!」

エキドナはよろめいた。

人間と殆ど外見が同じ頭部。このタイプのサイボーグの最大の弱点は、脳に対する衝撃だ。

「フンッ!」

さらにもう一撃!


フェノメナの額が割れて、彼女の顔を血が滴る。

「うっ! おのれぇぇぇぇぇ!!!」

スペクターのボディーの、背中のロッドがぐるっとカーブして伸び、フェノメナの背後を襲う!

「キャプテン! 危ない!!!」

鋭いロッドの先端をヴォルフガングが両手でつかんで止めた。

「ウルフィー!!」

「こうなったら、最後の手段を使います!!」

「ハウアァァァァァァ!!!!!!!」

腹に響くような唸り声をヴォルフガングは発する。たちまち、スレンダーな体形の筋肉が盛り上がり、体が二回り以上大きくなった。

「グルルルル!!!!」


 ヴォルフガングの口が耳まで裂け、鼻から口にかけて、顔が前方に迫り出し、露出していた皮膚を黒い毛が覆いはじめた。

「グヲーーーーンンンン!!!!」


 ヴォルフガングは、狼の姿をした獣人となって、大きく咆哮した。

「ゾアントロピー(獣化)だと! そんなバカな!」

「だれなの!? あの狼型のBH」

ノーマはやっと、フェノメナたちがいる場所が見渡せる反対側のビルについて、ライフルのターゲットスコープから現場を覗いた。


「フェノメナが、あいつに頭突きを食らわしてる!」

フェノメナはエキドナの額に、三度四度と頭突きを見舞っている。


「さすが石頭・・・感心してる場合じゃない、あたしの腕だと、これじゃ狙撃は難しいわ・・・」

ノーマはスペクターのボディーの頭部への狙撃をためらった。それは勿論、自信のなさもあったが、それよりも、かつての仲間である、レイピアの姿を撃ち抜くことにためらいがある。しかし、フェノメナがさらに危険になれば、やらなければならないのだ。


ガツッンンン!!

五度目の大きく振りかぶった頭突きを額に受け、エキドナは意識を失い。床に崩れ落ちた。


「とどめを・・・」

フェノメナは拳銃を取り出し、エキドナの頭に向ける。

「ウッ・・ク」

フェノメナの両腕は超振動のため、ボロボロになって、血が全体から滲み出している。銃を握るのさえやっとのようだ。

ためらっているのか? それとも指が動かないのか? フェノメナは指が震え、引き金が引けない。

「何やってるの、フェン!」

ノーマはいらいらしながら、フェノメナの様子をターゲットスコープからうかがう。

「ウウ」

エキドナは意識を取り戻し、両手をフェノメナに向ける!

「まずいわ!!」

ノーマはライフルの引き金に指を掛ける。

ダーーーーーンンンン!

人気のないビル街に、一発の銃声がこだました。


フェノメナは硝煙が立ち上る拳銃を投げ棄て。よろめきながらスペクターのボディーに歩み寄る。

対サイボーグ用HP弾は、スペクターのボディーの額の真ん中から入って、脳を粉砕して後頭部から抜けている。エキドナの瞳は完全に宙を見つめ、瞳孔が開いている。即死だ。


「レイピヤ?」

スペクターのボディーの先程までの憎しみと怒りに歪んだ顔が、穢れのない、美しい聖女のような表情に変わる。


「何が、何が言いたいの!?」

完全に脳が破壊されているはずの、スペクターのボディーの口がかすかに動いた。

「・・・・・・・・・・」

その声にならない声をフェノメナは耳を近づけ、必死に聞き取ろうとしている。

一言。・・・ありがとう。

フェノメナにはそう聞こえた。


「ウルフィー!? あなたほんとにウルフィーなの!?」

ヴォルフガングは医療チームが持ってきた、毛布を頭から被って、全身を隠している。

「・・・・」

ヴォルフガングは何も答えない。よほどこの姿をみなに見られるのがいやなのだろう。

「ノーマ、お願いだ。ウルフィーはそっとしてあげて」

「フェン、あなたも他人を庇う余裕があるんなら、もう大丈夫ね」

「今回は、かなりこたえたわ。この腕も、もうサイボーグ化しなければ、だめでしょうね」


「キャプテン・フェノメナ、準備が出来ました」

「分かった、みんなを集めてくれ」

「でも、本当にこれでいいんですか?」


「いいんだ、ティロール。これはレイピヤも望んでいるはずだ」

フェノメナはノーマの肩を借りて、立ち上がった。


全員はキュアーズ・ビジネスセンタービルの前の、荒れ果てた公園に集まった。

公園の中央にある、直径2メートルほどの球形のモニュメントの上に、スペクターのボディーが横たえられている。

「ノーマさん、これって、いったい、何をするんですかあ?」

「マリー・ルイーズ。これからね、あのスペクターのボディーを処分するのよ」

「ええ? どうしてですかあ? あのボディーにはキャプテンの妹さんが、以前入っていたんでしょう。ちゃんと、火葬場で焼くとか、それなりのやり方が、あるんじゃないんですかあ」


「それが、できないのよ」

「ええ?だってえ・・・」

「あたしたち戦闘サイボーグのボディーはね。死んでも遺体にはならないの。兵器なのよ。持ち主のなくなった」

「それって、アサルトマシンなんかと同じ扱いっていうことなんですかあ?」


「そうね、だから、普通の人間みたいに、体を勝手に処分できないの。特に、このクラスの戦闘サイボーグになると、高性能破壊兵器だからね。

係官立ち会いの許、分解して、十年間厳重管理。その後廃棄かな」


「それって、そんなのかわいそう!」

「あたしも、死んでしまったらそうなるのよ。・・・フェンも、それには耐えられなかったんでしょうね。でも、他にも方法があったのね」

「ノーマさん、どうするんですか?」


「完全に、ボディーを消滅させることができればいいのよ」

「特殊金属や強化セラミックが使われているボディーを、どうやって完全に消滅させるんですう?」

「ほら、今ここには、彼女がいるでしょ。ロクサーヌ・ファイヤーが」


「ザザ、お願い」

「いいのか、キャプテン?」

「いいわ」


ザザはフェノメナの美しいクリムゾンの長い髪を、アーミーナイフで粗雑に切り落とす。

フェノメナの髪は、スペクターのボディーの上に、真っ赤な花を添えられるように、そっと置かれた。

「ファイヤー、やってくれ」

「分かった・・・」

ファイヤーは大きく息を吸い込み、目を閉じてモニュメントの前に立つ。


「マリー・ルイーズあたしがファイヤーのあれを見るのは、これで二度目だわ。あなたは?」

「あのう・・・。ノーマさん。私は、実は初めてなんですう」

「そうなの。ならよく見ておくといいわ。伝説の格闘技、シェイ・レーンのエクスプルージョン・フィスト(爆裂拳)を」


自然体に構えたファイヤーは、長い呼吸を止め、目をカッ! と見開く。

「エクスプルージョン・フィスト、奥義、レイ・ストリーム(光の奔流)」

全員、沈黙してファイヤーを見守る。


「ハァァァァァァッ!!!!!!」

ファイヤーは球形のモニュメントに、右の正拳を突き立てた。

グヲォォォォーーーーーーーーーーーンンンンンンン!

大きな釣り鐘を突いたような音が、響き渡り、


球形のモニュメントとスペクターのボディーを、細かい光の粒子が覆い始めた。

ファイヤーの拳から打ち込まれた気のエネルギーは、分子間の隅々まで浸透し、あらゆる物質を破壊する。


 シュババババ!!!!

「まぶしい、そして、なんてキレイなの!」


マリー・ルイーズは手の平を前にかざし、指の間から漏れてくる光に、目を細めた。

モニュメントとスペクターのボディーは光の奔流を迸らせながら、徐々に小さくなって、最後にはほんの一かけらになった。それも、なごりを惜しむかのように、少しの間だけ輝いて、そして、消えた。

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