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星屑の傭兵  作者: 磯野海月
第4章
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トランスフォーム

「馬! しっかりするね!」

ヤンは気絶している雷風の横面を、パンパンと平手で叩いた。。


「い! 痛てえな! 何しやがんでえ!!」

「たいしたことないね! 脳震倒なっただけね、心配して損したね」


「ほ~! お前がこの俺さまをか?」

バコン!

「ホゲッ!」


ヤンは雷風の鼻面に拳固を一発お見舞いした。

「そういう意味違うね! ミッションパートナーとしてね! 誤解しないよろし!」


ヤンは少し頬を赤らめ横を向く。

が、その表情が突然、険しく緊張する。

「何だ! どうしたんだ?」


「イン、インが危ないね!」

「どうして、そんなことが分かるんだ? まさか双子のテレパシーとでも言うのか?」

「違うね! ワタシとインは無線の専用特別回線、体に内臓してるよ。今それで、緊急信号受信して、それがプッツリ切れたね」


「それってもしかして・・・、インがやられちまったってことか!?」

「まだ、生命反応のマーカーは出ているね。とにかく急ぐね!」

ヤンと雷風はインの生命反応マーカーを頼りに、インの入っていった廃ビルまでたどり着いた。


「どうやらこのビルの3階、右から3番目の部屋らしいね」

「一気に突入するか?」

「ワタシはドアから飛び込むね。馬、あなたは隣の部屋から、ベランダ伝いに窓から入るね」


「分かったぜ、でも、もしやつが戦闘形態に変化してたらどうするんだ?」

「その時は、ワタシ最後の手段を使うね。その間に馬はヤン担いで逃げるよろし」

「最後の手段って何だ!? お前はその後どうするんだよ!?」


「ワタシのことは心配ない、大丈夫、大丈夫」

ヤンは少し顔を引きつらせ、笑っている。


・・・ヤンのやつ、自分を身代わりに、俺とインを逃がすつもりか。

雷風でも、ヤンの決心の程は痛いほど良く分かる。

「よっしゃ! じゃあ行くぞ!!」


雷風とヤンは一気にビルの階段を駆け登った。

インがいるはずの部屋の前まで来て、二人は立ち止まる。そして二人は黙ってうなづき、雷風は隣の部屋に入って行く。

「動くな!!」

ヤンは拳銃を構えて、部屋に飛び込む。

「またお前たちか・・・」

ヤンの正面には、さっき彼女たちが追いかけていた、包帯で全身を覆った女ではなく、白い絹のシミーズを身につけた別の女性が立っている。床に目をやると、あの包帯の女が倒れている。インは見当たらない。

「これはいったい、どういうことね!?」


「フフフ、まだ、気がつかないの、オバカさんたちね。

その床に倒れているのは、私が数時間前まで入っていたボディーだ。

人工知能が動かして、お前たちの注意をそらしてくれたのさ。

その間に私のこの新しい体、スペクターのボディーのエネルギーチャージが終わった」


「クウ~! そういうしかけだったね。まんまと騙されてしまったよ」

スペクターのボディーに入ったエキドナは、ヤンが銃を向けているにもかかわらず、ゆっくりヤンに向かって歩く。


「止まれ、言ったはずね!! お前まだ、戦闘形態にはなっていないはずね。私でも倒せるよ!!」


「そうかしらね。でも、あなたの片割れはあっけなかったわよ」

ヤンは一歩後ずさりしたところで、天井から彼女の肩の上に、何か暖かい液体が垂れてかかる。

「血!?」

ヤンは上を向いた。

「イン!!!」

天井にはインが自分の八節棍で串刺しにされ、コンクリートに張り付けになっていた。

「このぅぅぅぅぅーーー!!!!!」

ダンダンダンダンダンダン!!!

ヤンを銃弾を切れめ無くエキドナに打ち込んだ


「ハッハッハ!! これくらいなら、戦闘形態でなくとも、効かないわ!!」

エキドナはヤンの放った銃弾を、すべて両手で、触れもせずに弾く。


「スカラー波!?」

「そのとおり。お前にはこれから、いいものを見せてやろう。このスペクター(悪霊)のボディーの真実の姿を!」


エキドナは白い絹のシミーズを脱ぎ捨て、一糸纏わぬ姿となった。

人工とはいえ、輝くような白い肌。完全に均整の取れたプロポーション。そして黒い瞳。

・・・美しい。

ヤンは底知れぬ恐怖と同時に、スペクターのボディーにこの世の物とは思えぬ美しさを感じた。


エキドナのその白い肌に漆黒の電子回路のような模様が、浮かび始め、体を走る。背中の皮膚が盛り上がり、なにかが背中を突き破って生えようとしている。


・・・もうこうなったら、あの手しかない。

ヤンは覚悟した。

「させるかよ!!!」


そこに、窓から雷風が飛び込んできた。

「アチャー! まだ早いね!」

雷風は変身途中のエキドナに後ろから組み付く。


「うぬっ! 貴様! いたのか!?」

雷風のパワーはBHの中では大した方だが、スペクターのボディーに勝るはずがない。にもかかわらず、エキドナは慌てた様子だ。


「どうだ! もう放さないぜ! ヤン! インを連れて早く逃げな! ここは俺さまがなんとかするぜ!」


「放せ! この家畜もどきめ!」

ドゴッ!!

エキドナは後ろから雷風に組みつかれたまま、壁に体当たりをして、振りほどこうとする。


「クッ! まだ平気だぜ! どうやらこいつ、変身の途中がもっとも機能が低下するみたいだぜ」

「そういうことね!」

「おのれ! だが、それもじきにおわる!背中のロッドさえ生えれば」


メリメリとエキドナの背中がさらに盛り上がり、雷風はそれを後ろから必死に押さえつける。

「イン! しっかりするね!」


その隙にヤンは天井に張付になっているインを下ろした。

「雷風! 今、加勢するね!」

「ウグア! だめだ! そんな余裕無いぜ! 早く逃げろ!」

スペクターのボディーの背中から生え始めたロッドが、雷風の両肩の肉を突き破り始めている。


「ダメ! 雷風! いいかっこする、ほんとによくないね!」

ヤンは半べそで、雷風に叫んだ。

「へっ! これが! 俺さまのやり方でい! デェーイイイ!!!!!」

雷風はエキドナを抱えたまま、窓から飛び出した。


「雷風!!!!」

ヤンはインをその場に置いて窓辺に走った。

「いない!」


3階の窓から地上を見下ろしても、そこには雷風もエキドナの姿もない。

「グワァァァァァーーーーー!!!」


「上!?」

上空から、雷風の悲鳴とともに、血の雨がヤンの顔に降り注ぐ。

「雷風!!!!」

空に浮かぶエキドナの背後に負ぶさるようにして、雷風がその背中から生えた二本のロッドに両肩を貫かれ、ぶら下がっている。

 

 二本のロッドは2メートルほどの長さに伸び、その先がくの字に曲がり、薄い陽炎のように揺らめくフィールドの翼になってゆっくりと羽ばたいている。


「これが! これが、スペクターのボディーの真の姿・・・」

それはあまりに、美しくもおぞましい。天国と地獄を合わせて混沌にしたような。

ヤンは目眩をもよおして、立ちすくんだ。


 エキドナは静かにヤンの目の前まで下りてくる。

・・・ワタシ、これで、終わりね。

「どうした・・・ そんなにこの体が美しいか?」

「さあ! さっさとやるね」

「ああ、どんな最後がお望み・・・ア?何!?・・・」


 エキドナはそう言いかけて、急に宙を見つめ、口を無意味にぱくぱくしはじめる。

・・・こいつ、脳のカプセルアタッチメント入れ替える時、何か接続

ミスって、脳に障害でたか?

「私は、私はずっとここにいる。姉さん! どうして私を・・・」


「あなた一体何言ってるか?」

「そんなことは・・。うっ! どうなっているんだ! 私は!」

エキドナは混乱して自分でも何を言っているのか、分からない様子だ。


「ハア、ハア、ハア、心が苦しい。なぜだ!」

エキドナは自分の頭を抱え苦悶の表情を浮かべる。

「もういい! ハア、ハア、ヤン! お前らは、見逃してやる。この馬は私があずかる。人質だ、だが! 必ず! 必ず、私のところへ、フェノメナを連れてこい! いいな!」


「わかた・・・」

その異常な言動に戸惑うヤンを後にして、エキドナは雷風を連れ、人工の夜明けの光がさしはじめた薄紫色の空に消えた。


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