追跡
「姉さん、敵の発見と監視を指令されたね」
「インあなたのセンサーで、敵の現在位置分かるか?」
「今、ウェル2の管理システムに接続して探してるね。資料によると、スペクターのボディーの動力はポジトロンバッテリーね。何処かでチャージすれば、すぐに反応あるね」
「なーんだ、やつの居場所分かるんじゃねえか!」
「特殊なタイプだから、メイン動力を起動さえすれば、すぐ分かるね」
「ア! 姉さんあったよ! DF-145地区、ここは、再開発地区で現在は無人になってるね。
ここの休止してた変電施設、今急に起動したよ!ポジトロン反応あり」
「よし! それじゃこれから、現地に向かうね!」
DF-145地区は、ウェル2では最も早くから、開発が進んだ地区だったが、現在はインフラが老朽化したため、住民はすべて立ち退き、再開発地区になっている。
昼間はあちこちで工事が行われているが、夜間はほとんど人気はない。
だれもいないはずの変電施設に明かりが灯り、誰かいる様子が伺える。
「おかしいね? やつもサイボーグなら、暗くても目が効くはずね。こんなに明かりをつけるなんて、罠かもしれないね」
「イン、ヤン、突入するか? やつのデータだと、エネルギーをチャージして戦闘形態に変化しなけりゃ、たいしたことないはずだぜ・・」
「馬、それは慎重にしたいね。もしやつが戦闘形態になっていたら、ワタシたち全滅ね」
「このまま、タワーズから狙撃部隊が到着するのを待つしかねえか・・・」
「これから、三ヶ所に別れて、監視するね」
イン、ヤン、雷風はそれぞれ変電施設を半径200メートルほど離れ、建物の上から取り囲むようにして、監視位置に着いた。
バリーンンン!!
突然! 変電施設の窓ガラスを破り、中から一人の女が飛び出して来た。なぜかその女の全身は、真っ白い包帯でぐるぐる巻きで、顔や姿がはっきりしない。
「しまった! 気付かれたね!」
「こっちへ来た!!!」
全身包帯づくめの女に、雷風はびびって、思わず身を引く。
「ウワッ! おっかねえ! 何がスペクター(悪霊)だ! まるでマミー(ミイラ)じゃねえか」
「馬! やつを追うね! やつはまだ戦闘形態に変化してないね! それで、ごまかすために、あんな格好で逃げだしたね!」
「ほっ、本当かよ! なら、俺達でやつをとっ捕まえようぜ! ここで名誉挽回だ」
女はだれもいない夜明け間近の、工事用道路を駆け抜けて、古いビル街に入って行った。
「ワタシたち、三方からやつを追い詰めるね!」
三人はそれぞれ別の方向から女を追跡する。
少し行って、大型工事車両置き場付近で、雷風は女を見失ってしまった。
「チクショウ! 巻かれちまったか!?」
そこにヤンも走ってきた。
「馬、やつはどこいった?」
「面目ねえが、見失っちまったぜ」
「確かにこっちに来たはずね。いいよイン呼ぶね。インのサイバーボディーのセンサーなら、すぐみつかるね」
ピカッ!
やにわに、ヤンと雷風の後に停めてあった大型破砕車のヘッドライトが点燈する。
「何!?」
まぶしさにヤンと雷風は一瞬目が眩んだ。
「危ねえっ!!!」
ガコ~ンッ!!!
地面に大型破砕車の巨大な鋼鉄のアームが食い込み、雷風はヤンとともに転がって、寸でのところでその一撃をかわす。
「やつが運転してるね!」
大型破砕車はアームを引き抜き、横払いに、ヤンめがけアームを叩きつけた。
「しまった!」
ヤンが転がった場所は、大きな壁面の角の隅で、逃げ場が無い!
「うっしゃ!!」
そこに雷風がものすごい勢いで、ヤンの前に駆け込んだ。
「馬鹿! いいかっこするよくないね!」
ゴンッ!!
雷風は迫り来る鋼鉄のアームを、両手でガッチリ受け止めた。
「さすが、馬だけあって、たいした馬力ね!」
「ウウォー!!! そんなこといってねえで、早く、運転席のやつをーー!!」
雷風の足がじりじりと、地面にめり込みはじめる。
「わかった!」
ヤンは運転席に急ぐが、雷風の悲鳴を聞いて振返った。
「アリャー!!」
大型破砕車は地面に押し付けていたアームを、今度は高々と振り上げ、雷風はそこにぶら下がっている。
「馬鹿! 手を放すね、そのまま叩きつけられたら、あんたお終いね!」
「手を放したって、着地した瞬間、潰されちまう!」
「今、運転席こじ開けるね!」
大型破砕車の運転席は、安全のため強固な装甲に全体が被われていて、外部はモニター
を見ながら運転するしくみになっている。
ダンッ! ダンッ!
「ウ~!!これ開かないね!!」
ヤンはドアに銃弾をぶち込むが、頑丈なドアは内部からしっかりとロックしてあって、びくともしない。
「アイヤー!!姉さん任せるね!!」
「イン!! 助かったね!! すぐ、このドアこじ開けるよろし!」
駆けつけて来たインは、即座に強化チタン製の指を、大型破砕車の運転席のドアの間に
突き入れ、グイとつかんでドアを引き剥がす。
「こら、女!観念するね!」
ヤンは運転席に座っている全身を白い包帯で覆った女に銃を向けた。
ギュンッ!
「キャッ!」
女がいきなり、アクセルを下まで踏み込む、大型破砕車は急発進し、その反動で、インとヤンは体勢を崩した。
「危ない!! やめるねーー!!」
大型破砕車はその勢いのまま、前の壁面に突進した。
ドッゴ~ンンン!!!
大きな音とともに、あたりに土煙が立ちこめた。
雷風は大型破砕車が壁に激突する直前、とっさに飛び降りて難を逃れたようだが、打ち所が悪かったらしく、地べたでひっくり返っている。
半ば潰れた運転席で、インとヤンは埃まみれだ。
「姉さん、大丈夫か?」
「ワタシなんとか大丈夫ね、それよりあの女は?」
「しっ、しまった! 反対のドアから逃げたね」
インが身を乗り出し、反対側のドアから顔を出すと、前方をあの女が走って逃げて行く。
「イン! すぐ追うね! ワタシは馬が心配だから、悪いけど、後から行くね」
「分かった! 任せるね! あれならワタシ一人でも大丈夫ね!」
インは女の後を追って走って行った。
「スペクターのボディー、戦闘形態でなくても、けっこう足は早いね」
ヤンの前方を、女もかなりのスピードで逃げて行く。女は幅1メートル程の細い通路で急に曲がった。
「逃がさないね!」
インもその路地に飛び込む、しかしそこにはだれもいない。
「ウッ? どこに隠れたね、動体センサー。真上!?」
インの頭上から、無言で鉄パイプを振り上げ、あの女が襲いかかる!
「チッ!!」
インはそれを素早くかわし、得意の八節棍を手に持って構える。
「お返しね!!」
スココココーン!!と八節棍ジョイントが外れ、倍以上の長さに伸び、女めがけ斜めから降り下ろされる。
パキーン!! 女は手に持った鉄パイプでそれをガードするが、鉄パイプはたやすく折れ曲がり、女の脇腹に八節棍が深々と食い込む。
「はあ、どうやら勝負あったね」
白い包帯の間から、ポタポタと赤い人工血液が滴る。かなりのダメージのはずだ。インは自分の勝利を確信し、ニッと白い歯を見せる。
女は自分の無言で、脇腹に食い込んだ八節棍をグッと外ずし、横に投げた
「まだやる気ね?」
インは構えるが、女はいきなり、路地の衝立の突っかえ棒を強く蹴った。
路地の衝立が通路側に倒れ、その横に積み上げてあった廃材がガラガラガラとインの上に崩れ落ちる。
「ア~!!」
その隙に女は、またその場からいなくなった。
「くそう! また逃げられたね! でも馬鹿なやつね、あの深手で人工血液を滴らしながら逃げて・・・。これならすぐに追いつけるね」
インは地面に落ちている赤い血痕を追った。
赤い血痕は点々と廃ビルの中に続いている。
「この中ね」
インは階段を登って、血痕の続いている部屋の前で止まった。
「行くね!!」
インは八節棍を構え、部屋に飛び込んだ。
しかし、部屋は何事もなかったかのように静まりかえっている。薄く白み始めた、人工の空の夜明け前の光が、ぼんやりと窓から室内を照らし、床にあの女が、全身の白い包帯に真っ赤な血を滲ませ、ピクリともせず横たわっている。
「拍子抜けしたね。もう事切れたか?・・・」
インは念の為、八節棍の先で下を向いたままの女の顔を、上に向ける。
はらりと、顔を覆い隠していた包帯が解け、浅黒い地膚がのぞく。
「この女、この女は、あのエキドナね! まだスペクターのボディーに入ってなかったか!?」
その時インは自分の項を、薄ら寒い夜風が撫でるのを感じた。床にだれかの影が落ちている。
ヤンはいわれの無い戦慄を感じ、ゆっくりと、顔を上げる。
「・・・・!!?」
目の前の窓の縁に白い絹のシミーズを身につけた美しい女性が座っている。透き通るような白い肌、風にユラユラとなびく漆黒の髪。
「可哀想に・・・」
その女性は窓の縁から降りて、床に倒れているエキドナを抱き上げ、その口に愛しげにキスをした。
インは、自分でもどうしてなのだか分からないが、金縛りにあったようにその場に立ちすくんでしまう。
逆光で顔が良く分からない・・・。フィルター、画像解析。
インの脳に補助電脳から直接結果が伝達される。
『該当者、レイピヤ・カサンドラ、SSC386年死亡・・・』
インの心の中で何かがプツッ!と切れた。
「ウワーーーー!!!!!!」
次の瞬間インは叫び声を上げて、それに飛びかかっていた。




