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星屑の傭兵  作者: 磯野海月
第4章
31/41

悪霊(スペクター)の義体(ボディ)

深夜のウェル2の高級墓地に、一台のワゴン車が横付けされた。


スペースコロニーで土地は貴重だ。土葬できる者は一部の裕福な者に限られる。特にこのレークサイト墓地は、美しい人工湖を見渡せる丘陵に、死者は冷凍保存のためのカプセルに葬られている高級墓地だ。


「レイピヤ・カサンドラ。SSC362~SSC386。ここか・・・」


 レイピヤの墓の前には、赤いバラが二束手向けてある。

エキドナはそれを無造作に投げ棄てた。そして墓を開放し、死者の姿を拝むためのコードを入力する。


 しばらくして、墓のプレートが二つに割れ、冷凍カプセルが迫り出して来た。


「ハッハッハ、これが、悪名高いスペクター(悪霊)のボディー。これさえあれば、ハウザーさまのかたきは・・・。タワーズのやつら、そしてシャドウめ、思い知らせてやる!」


白絹の死装束に身を包んだ、美しい女性の骸を見ながら、エキドナは邪悪な笑みを浮かべた。


タワアーズの本部ビルを見渡せる、見晴らしのいいバーのラウンジで深夜、フェノメナは一人コニャックの入ったグラスを傾け、夜景をぼんやり眺めながら物思いにふけっている。


「やっぱりここにいたのね」

フェノメナの隣に、席を一つ開けてノーマが座った。


「よくここが分かったわね」

「この時間、タワーズの近くで開いてるのはここぐらいよ」

「ノーマ、ありがとう・・・。私より先に、レイピアのにバラを供えてくれたのはあなたでしょう?」


「はは、まあね。カイヤンのじいさんの葬式で、次の日たまたま、レイピヤの命日だって気がついたものだからね」


ノーマは少し照れ笑いをする。

「毎年あなたも、私の後を見計らって、墓参に来てくれていたこと、私は知ってたわよ。今回は偶然私が遅くなって、順番が前後したようね」


「いやー、ばれてた」

「ノーマ、このあいだは、力になれなくて、ごめんなさいね、もう少しであなたも危ないとこだったそうね」


「ああ、あれね。もういいわよそんなこと。おかげで、公傷扱いで全身のオーバーホールもできたし、気にしてないわよ」


「こうやって、二人でいると昔を思い出すわね。若かったあのころ・・・」


ノーマがフェノメナとさしで語り合うのは何年ぶりのことか。

ノーマとフェノメナ、そしてその妹のレイピヤ、この三人は無二の戦友だった。


 レイピヤが死に、それぞれが別々の道をあゆむこととなった。

二人がマーセナリーギルド・タワーズに所属することになったのは、全くの偶然とも言える。

「そういえば、フェン、あんたも結構ふけたわね。部分的にいじくってたんじゃ、もう埒が開かない年でしょう? この際あたしみたいに、フルサイボーグ化すれば」


「お互い年の話はやめましょう。空しいだけよ・・・ン?」

フェノメナはノーマとの会話を中断し、上着の内ポケットをまさぐる。


「どうしたの? フェン」

「呼び出しみたい・・・」


フェノメナは、取り出した携帯端末のバイブレーターを止めて、回線を開く。

鐘馗しょうき大人、すみません、私の代りにこんな遅くまで」


 フェノメナはホログラフの映像に頭を下げた。


「そんなことは、いいある。それよりも大変ね!ウェル2のレークサイト墓地から、あんたの妹の遺体が盗まれたいう連絡あったね」


「・・・・・!!!」


フェノメナは無言のまま、携帯端末を落とし、茫然としている。

「だいじょうぶ!? フェン!」

ノーマはフェノメナの両肩に手を掛けて彼女をゆすった。


「こんなことになるなんて!」


  フェノメナはかなり動揺した様子で、再び椅子に腰を下ろした。


「遺体を盗むなんて、生体パーツ目当てか、それとも変質者かしら? どちらにせよ、見当外れの泥棒さんね。確か、レイピヤの遺体は脳以外はイミテーションのお人形でしょ」


「違うのよノーマ・・・」

「違うって? 違うってまさか!?」


「そう、あそこにあったのは、レイピヤが最後に使っていたサイバーボディー。あのおぞましい」

「スペクター(悪霊)のボディー!!? まじでそうなの!? あれは処分したんじゃ・・・」


「私には処分できなかった。あんな死に方をした妹を私は、あのボディーはそれまで使った人間の死霊が、その怨念と一緒に封じこまれている」


「それは迷信よ! あなたは、レイピヤをいつまでも側においておきたかっただけだわ! 死んでしまった後まで!」


「そうよ、全部私のせいよ!! あの子が死んだのも、だから、だからあのままにしておきたかった。もう、だから!!・・・」


あのフェノメナが泣いた。レイピヤが死んだ時ですら涙を見せなかったフェノメナが。


「しっかりして! フェン! もう、もうあなたは自分を責めることはやめなさい! 自分で自分に復讐するなんて、馬鹿げているわ! そんなことって・・・」


ノーマはフェノメナをきつく抱きしめる。

フェノメナはやっと落ち着きを取り戻したようだ。


「ごめんね、ノーマ」

「何言ってるの、友達でしょうが。鉄面皮のあんたの、こんな様子拝めただけで、いいわよ」


「アイヤー・・。女の友情もなかなかいいものあるね」

床に落ちていた、携帯端末から鐘馗しょうきの甲高い声が聞こえる。


「こら! 鐘馗しょうきのオッサン! 聴いてたでしょう?」

「ノーマ、悪かった、悪かった。つい集音率上げて聴いてしまったね」


「プライベートな部分は秘密よ! それと、これからの手配、すぐにお願いね」

「分かったある!緊急招集かけるね。もちろん、タワーズのうるさい連中には知らせないあるよ」



ピッピピピ! ピッピピピ! ピッピピピ・・・

「アー、うるせいな! こんな真夜中に何だっていうんだ。呼び出し音切ってから寝りゃよかったぜ」


雷風は宿をとったビジネスホテルの一室で、深夜に携帯端末のコールで目を覚ました。

「たくよう! ン? 暗号通信、コード129で解読。面倒くせえ! タワーズからかよ。俺は休暇中なんだぜ、これ以上仕事増やされてたまるかよ!」


雷風は自分の軽率さ故、アースユニオンの破壊工作員の女戦闘サイボーグ、エキドナを逃がしてしまった。その代償として、インとヤンにいやおうなしにその捜索に駆り出され、こき使われてくたくたの状態。


「セーブしといて、明日見ることにするか・・」


ピンポーン

「だれだよ! 今度は。こんな夜中に」


雷風は眠そうに目をこすりながら、インターホンに出た。


「馬、 起きてるか? ワタシね ヤンね」

「ああ、ちゃんと、モニターに映ってるよ。俺さまのところに、こんな夜中に夜這いにきたか?」


「何馬鹿なこというね!! ぶちのめされたいか!?」

「だからよ、言ったろう。俺は馬鹿じゃなくて馬だって」


「この!! もう、ふざけるにもほどがあるね!!」


ヤンは部屋のドアを蹴り破ろうとするが、インに後ろから止められる。

「アイヤー! 姉さん! 落ち着くね。他のお客に迷惑なるね」


「でー、要件はなんだ!?」

「今、タワーズから、緊急通信受けたか?」


「ああ、受けた、でも暗号通信なんで面倒くせえから、セーブしてそのままだ」


「ハア~・・・。どうせそんなことだろうと思ったね。とにかくここ開けるよろし」

「開けりゃいいんだろ、開けりゃ」


インとヤンは雷風の部屋に入る。

「大変なことになったよ! ワタシたちの捜している女、スペクターのボディー手に入れたらしいね」


「何だ、何だ、言ってることの意味がわからねえぞ!?そのスペクターってのは何だ?」


「もう、しょがないね、スペクター(悪霊)のボディーは強力な戦闘用サイバーボディーね。

恐らく単体では最強の部類ね。

今までその使用者が悉く悲惨な死に方をしている、呪われたボディー言われてるね」


「何でそんな物が、このウェル2にあるんだよ? ここには軍事施設はないぜ」


「それが、言いにくいけど、その最後の使用者がうちのキャプテンの妹だったらしいね。それで、死んだ妹と一緒にレークサイト墓地に埋葬してあったのが、盗まれたらしいね」


「そんな物、墓地に黙って埋めとくなんて、どうかしてるぜ!」


「こら! 馬! うちのキャプテンの悪口言うのだめね! 馬、それより、あの女と寝た時、何か心当たることないか?」


「心当たりねえ。そう言えば、あの女は最高だったぜ!」

「そんなことじゃないね! 真面目に思い出すね!」


「ウ、そう言えば・・・」

雷風の表情が急に不安げになる。

「あー! お前、何か色仕掛けで、機密事項あの女に教えたね!?」


「いや! それほどのことじゃ・・・」


「こら!!はっきり言うよろし!!」


ヤンは雷風の首につかみかかる。

「言うから放せよ! そういや、タワーズの個人情報閲覧のパスコード教えてくれってな、彼女言ったもんで」


「それで、教えたか?」


「ああ、でもよ、俺が許可なしに閲覧出来る範囲だぜ、機密度レベル1だからな、どうってことないどろう?」


「どうってことあるね!! それであの女、キャプテンの妹の墓のこと知ったね」


「何だって! そんなとこに、スペクターのボディーことまで記録されてたのかよ!?」


「それはないね、ただ、あの女そのことを前もって知ってて、墓の場所だけ捜してたらしいね」


「そんな! それじゃ、みんな俺のせいみたいじゃねえか!」

「そうね! 馬、お前が馬鹿なこと、これで証明されたようなものね。あの女がタワーズのデータベースに雷風の名でアクセスしたことは、もう記録に残ってるはずね」


「アー!! こんなこと、鐘馗しょうきのおやじにばれたらただじゃ済まない。どうしたらいいんだよう!!」


「とにかく、名誉挽回ね、ワタシたちで、なんとかあの女がスペクターのボディーに入る前に捕まえるね。あれが盗まれてから、まだ推定3時間くらいね。急げば間に合うね」

「もし間に合わなかったら?」


「これから、ゴールデン・スピアとイーフリートと鉄龍の傭兵、狙撃部隊編成してこっちくるよ。最悪の事態に備えてね。それまでになんとかするね」


「姉さん、今、ウェル2のもぐりのサイバネドック、裏情報網で調べたね。これから、かたっぱしからあたるしかないね」


「全部で8軒か、こんな真夜中に」

「もう叩き起こすしかないね! とにかく手分けして急ぐよろし!」


「ここでもなかったね。次のサイバネドック探すね」


ヤンはスクーターに飛び乗って、隣の地区のもぐりのサイバネドックに急ぐ。

ピピピピ! ピピピピ! ピピピピ!


「こちらインね。姉さん、大変ある! AF-124地区で火災が発生したね」


「そこは、馬の担当のポイントね! 馬と連絡は!?」


「今、三極通信で繋ぐね」

「馬! 馬! 聞いてるか?」


騒がしいサイレンと喧騒をバックに雷風が、応答する。


「ああ! 雷風だ! すまねえ。今連絡するとこだった。

今こっちは無許可の液体酸素タンクが爆発したって大騒ぎだ。

目的のもぐりのサイバネドックの一つはその真っ只中らしい。

消防車も出動して大騒ぎだぜ」


「なんとか、目的のサイバネドックにたどりつけないか?」

「なんとか、やってみる、おめえらもすぐ来てくれ」

「了解したね!」


居住区と商業地区が繁雑に入り乱れる、狭い路地をぬけて、ヤンはAF-124地区にスクーターで到着した。


「ああ、お嬢さん! ここからは危険だ! 立ち入り禁止だよ」

「ワタシこういう物ね!」


避難誘導の警官に呼び止められ、ヤンは自分のIDと特別捜査許可証を彼の目の前に突き出す。

「これは、失礼しました。そう言えばさっき、馬のBHバイオヒューマノイドが私等の制止を振り切って危険区域に入っていきましたよ」


・・・雷風ね。怪我しないといいあるね。

「姉さん! 遅れてすまないね!」

そこに、インが猛スピードで駆け込んできた。


「戦闘用義体の最高速度で来たね。イン、これから中に入るよ」

インとヤンは炎の燃え盛る危険区域に入って行く。

少し行って、炎の向こうから、雷風が飛び出して来た。


「アチッチッチ!!」

「馬、どうだった?」

「おお! インとヤンかよ。これ以上先はだめだ! 耐火服か、戦闘スーツ着てなきゃ焼け死んじまう。モグリのサイバネドックがあるあたりが、火災の中心らしいぜ」


「だいじょうぶね! ワタシ戦闘用義体なら、600度で30分は動けるね」

「すまないけれど、イン頼むね。何でもいいから情報仕入れてくるね」

「任せるね!」

インは真っ赤な炎を難ともせず、火勢の激しい方に走って行く。


しばらくして、インが炎の中から戻って来た。


「おう!無事でなによりだぜ。そんでもってどうだった?」


「爆発と火災の出火原因は、例のサイバネドックだったね。

無許可で設置していた地下の酸素タンクが爆発して、周辺の建物は燃える瓦礫の山で、手におえない状態ね」


「何か、あいつの痕跡とか、生存者はどうね?」

「両方とも絶望的状態ね。とにかくこれは、事故じゃなくて、人為的な証拠の隠滅としか思えないね」


「これが事故違うなら、もう、やつはスペクターのボディーに入って、逃走した後いうことになるね。

でも、念のため、残りのサイバネドック捜索するか・・・」


「姉さん、それはもう時間の無駄ね。とりあえずタワーズに状況連絡して、キャプテンに指示仰ぐね」


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