娼館の騒動
ウェル2のD-12から24地区は、飲食店やカジノ、劇場などの雑多な娯楽施設の他に、裏に入ればストリップバーから娼館まで様々な店が営業していて、逃亡者が潜伏するには、最適の環境と言える。
「あー、雨が降ってきたね。ウェル2の天気スケジュール見てなかった。よくなかったね」
赤いチャイナドレスの若い女性が、娼館の立ち並ぶ路地裏で、中国風の笠を頭からかぶり、長いマントを羽織って全身を隠している人物と、立ち話をしている。
「それじゃ、イン、ワタシ今度はこっちの店に当たってみるね」
チャイナドレスの女性は、ハンカチを頭に乗せて走って行った。
「おれみたいなBHの客はお断りだと! この店まで、そんなふざけたことをいいやがるのか! ジュノーじゃBHの人権が認められてんだぞ!
」
黒光りする筋肉質の体長い首、彼は馬型BHだ、さっきから娼館のカウンターで鼻息を荒げ意気まいている。
「ですから、店としても、女の子に強制するわけにはいかないんですよ、あなたみたいなお客さんだと、普通の子じゃ壊されかねませんからね」
「そんな柔なのしかこの店にはいないのか!? この俺さまをだれだと思っていやがる! この俺さまは、傭兵戦艦鉄龍の傭兵、ダークホースとして恐れられている、雷風さまだぞー!!」
雷風は鉄龍の休暇を利用して、ウェル2に女を漁りに来ていたが、彼の体躯と一物に恐れをなし、どの娼館の女も彼を断っていた。こんな状況で、雷風はかなり頭に血が登っている。
「もちろん、お名前は存じていますとも、ですから、今日のところはこれでなんとか」
娼館の支配人は、下からそっとキャシュを雷風に手渡そうとした。
「ふざけるな、俺さまはゆすりにきたんじゃないぞ!」
雷風は支配人の手を払いのけた。
「う~ん、困りましたな」
支配人は若い者を呼んでこようかとも思ったが、鉄龍の雷風が相手では束になってもかなわないだろう。コロニー警察を呼んで騒ぎを大きくしたくもない。
「私なら、そのお馬さんの相手をしてもいいわよ」
関り合いになるのを恐れて、娼婦たちはみな部屋に引っ込んでいたのだが、一人だけ、階段に腰掛けてこの様子をさっきから見ていた女がいた。
「おお、メデューサか! お前が雷風さんの相手をしてくれるのか。助かったよ本当に!」
支配人はほっと胸を撫で下ろした
。
「ほっ、本当か~!? 何件も店を回った甲斐ががあったぜ!!」
雷風は興奮しながら鼻を鳴らし、メデューサの体を品定めする。
メデューサは褐色の肌に白いレースのドレスを身に纏い、妖艶な雰囲気を漂わせた美女だ
。
「それじゃ、早速!」
雷風はメデューサを連れて、上の部屋に上がっていった。
「ふ~」
支配人が椅子に腰掛け一服している所に、今度は別の来訪者がやってきた。
「今度はいったい何だっていうんだ?」
「いや、結構若くていい女が、支配人に話があるっていうもんで」
「ここで働きたいっていうのか?」
「いえ、どうもそうじゃないらしくて・・・」
支配人がボーイと会話をしているところに、赤いチャイナドレスの女性が、許可もなくずけずけとロビーまで入って来た。
「何だお前は? 入っていいとは言ってないぞ」
「ワタシこういうものね」
チャイナドレスの女はカウンター越しに、支配人に自分のIDと、特別捜査許可証を突き出した。
「ヤン・ルンさんですか、セブンシスターズの。そんな方がこんな娼館に何の御用なんです?」
支配人は怪訝そうに、ヤンの顔を見る。
「じつは、人捜しね。ここらへんに、危険人物が潜入している恐れがあるね」
「そういうことは、コロニー警察の仕事じゃないんですか?」
「コロニー警察、頼んでも協力してくれないね。それでワタシやってるよ。とにかくあなた協力するね。さもないと、タワーズであなたの店、圧力かけるよ」
ヤンは携帯端末を支配人の前に置いて、一人の女性の映像をホログラフに投影して見せた。
「分かりましたよ!」
支配人はヤンに半ば脅されるようにして、その映像を見た。
「こいつ、エキドナとか名乗っている戦闘サイボーグね。あなたの店この女いないか、見覚えないか、よく見るよろし。顔とか姿をいじっている可能性あるね。今そのバリエイション見せるよ」
ヤンはそう言いながら、映像を色々変えて、支配人に見せた。
「・・!」
ある映像を見た時に、支配人の顔色が変わるのを、ヤンは見逃さなかった。
「この女に、見覚えあるね。あなた」
「いや、私は何も言ってませんよ」
支配人はあせった。この女はさっき雷風を客に取ったメデューサかもしれない。彼女は数日前雇ったばかりで、身元がはっきりしていない。
「うそ言うのよくないね。とにかくこの店の娼婦たちみな、ワタシに面通しさせるね」
「そ、それは困ります! お客さんを取っている子もいますから。
私が一人づつ空いた子から訊いていきますから、それで堪忍してくださいよ」
「それだめね、まず、客のいない娼婦からみな、ここに呼んでくるよろし」
雷風はその容姿から想像されるのとは全く逆に、実にあっけなく
ことを済ましてしまった。
「フッ、一発の後の煙草は格別だぜ!」
雷風はベット腰掛け、メデューサに背を向け一服している。自分では男の哀愁を漂わせるいい演出だと思っているのだろう。
「あんたは、鉄龍の傭兵の雷風なんだってねえ。すごいねえ、雷風と言えば、タワーズでも三本の指に入る傭兵じゃないか。あたしはそんな男と寝れて嬉しいよ」
メデューサは、後ろから雷風の背中に自分の胸を押し付け、彼の長い首筋に舌を這わせた。
「ううっ! あたりまえよ、この俺様はタワーズでは実質的には最強の男だ」
雷風はメデューサの舌の愛撫にゾクゾクするのを堪えながら、粋がっている。
「ふふ」
メデューサは雷風の首に腕を回し、彼をベットにゆくり押し倒す。
「ねえ、そんなあなただから頼みがあるの」
メデューサは雷風の上に体をすり寄せ、馬型BHの彼の耳に優しく歯を立てる。
「おお! 何だ可愛いやつだな。何でも言ってみろ」
「実はね、私はあなたたちタワーズの傭兵の大ファンなのよ。それで、あなたたちのことをもっと良く知りたいの。
そのために、タワーズの個人情報データベースを閲覧したいんだけれど、パスコードをあたしに教えてくれないかなあ」
「何だ、お前、この俺さまのファンじゃないのか?」
「もちろん! 一番のファンなのはあなたよ。他の連中はあくまでも趣味の範囲で色々見てみたいだけなのよ」
「ふ~ん、最近はセブンシスターズみたいに、芸能人みたいな扱いの傭兵までいるくらいだからな、分からんでもないが・・・」
「機密事項だからだめだって言うの? でも、あなたが閲覧出来る範囲でいいのよ」
「そうだなあ。俺が許可なく見ることの出来るタワーズの個人情報なら、レベル1だから、たいした内容じゃないもんな。まあいいか」
雷風は自分の脱いだ衣類から携帯端末取り出し、パスコードを検索しはじめる。
「すまんが、チョットあっち向いていてくれ。おっ、あったあった」
雷風はメモ用紙にさらさらっとパスコードを書いて、メデューサに渡してやった。
「ありがと。ほんとにあなたっていい人ね」
メデューサが雷風の顔に口付けをしながら、にんまりと笑みを浮かべた。
・・・ほんと、タワーズで三本の指に入るおバカさんね。
「この店の娼婦はこれで全部ね?」
「ええ・・」
支配人はびくびくしながら、ヤンの様子をうかがっている。
「客を取っている娼婦はどこね?」
「それは、お客様に失礼ですから、申し上げるわけには・・・」
「今すぐ言うね! 協力できない言うなら、この店、営業停止するよう圧力かけるよ! それでもいいね!」
「そ、それは困ります。お教えしますよ。まだ時間が早かったもので、一人だけお客が入ってます」
「すぐその部屋のカードキー渡すね!」
ヤンは支配人の手から、カードキーをむしり取って、二階の部屋に駆け登って行った。
「あの部屋には、同じタワーズの雷風がいるんだ。どうなっても知らないぞ」
「ここね!」
ヤンはカードキーを溝に差し込み、部屋のドアをいきなり開いた。
「おわ!! 何だ! 何でてめえがこんな所に来たんだ?!」
雷風は慌ててパンツをはこうとするが、蹴つまづいて床に転ぶ。
「それはこっちが訊きたいね!」
「イン! いつからてめえは売春の副業まで始めたんだ!?」
「失礼な馬ね! ワタシ、インと違うヤンね! そっちの女に用事があるね」
「キャア! 雷風さん助けて! あの女は個人的な恨みであたしを追いかけているのよ!」
「へっ! そうと聞いちゃ黙ってられないぜ! ここはてめえの来るとこじゃねえ、とっとと失せな!」
「もう! 何馬鹿なこと言ってるね、その女は危険な戦闘サイボーグね、早くこっちに渡すよろし!」
「俺は、馬鹿じゃない! 馬だ! 危険な戦闘サイボーグはてめえの方じゃねえか! 俺はな、この女と寝て生身の体だって確認しているんだ」
「もう! 話にならないね! しょうがないね」
ヤンはハンドバックから拳銃を取り出して、メデューサにむけた。
「これには、対サイボーグHP弾、装弾してあるね! おとなしくこっち来るよろし」
「雷風さん! あの女あたしを殺そうと! お願い助けて!」
メデューサは雷風の影に隠れた。
「馬! 退くね!」
「フン! こっちが丸腰なのに飛び道具か、元バウンティイハンター(賞金稼ぎ)のやりそうな仕打ちだぜ! 俺は怒ったぞ」
ブンッ!
雷風は目にも止まらない早さで、ジャブをヤンめがけ放つ! ヤンはそれをうまくかわすが、拳が少しかすっただけで、銃が弾き飛ばされた。
「やったな! 馬! もうこっちも許さないね!ハイヤー!!!」
ヤンはカンフーの構えを取り、大きく後ろ回し蹴りを繰り出す!
「なんの!」
雷風はヤンの蹴りをかわしながら、カウンターで彼女にショルダータックルをぶちかます!
「きゃ!」
強力なタックルを食らったヤンは、部屋の壁をぶち破り、廊下までふっ飛ばされる!
「クゥー! この平義体じゃ馬にかなわないね。イン呼ぶね」
「どうだ! 俺さまの強さ思い知ったか!」
通路に倒れているヤンを見下ろして、雷風はいい気になっている。
その時! バリーン! と部屋のガラス窓を破って、笠をかぶり、長いマントで全身を被い隠した者が飛び込んで来た。
「イン! この馬鹿馬、たたきのめすよろし!」
「アイヤー! 姉さん、承知したね!」
インは笠とマントをばっと脱ぎ捨て、戦闘体勢をとった。
双子のサイボーグ、インはヤンとそっくりなのだが、インは今、チャイニーズスタイルの派手な彩色が目につく、強化ケプラー繊維と複合チタン装甲の、戦闘用ボディーを装着している。
「くそー! 二対一とは卑怯じゃねえか!」
「そんなこと、言える義理ないよ! いくね!」
インは手に持った八節棍を雷風めがけ振り下ろした!
スココココーン!!!
八節棍は節が外れ、二倍以上の長さに伸び、ダブルベットを真二つに叩き割る。
「わー!! 殺す気か!」
「大丈夫ね、その手前でやめておくね」
「キエー!」
今度は雷風の後ろから、ヤンが嵐のような連続キックを繰り出す。
「うっく!」
雷風はなんとかそれをガードするが、その隙を突いてインの八節棍が頭上を掠める。見事なコンビネーションだ。
・・・まじでやばいぜ、このままじゃややれちまう!
「ワタシたち姉妹二人揃えば、恐いものないね!」
・・・ここでインとヤンに詫びを入れるなんてみっともないまね、メデューサが見ているからできるわけねえ! メデューサ、あれ?
「メデューサが、いない!?」
「しまった、逃げられたね!」
インとヤンは攻撃の手を止めたが、時既に遅く、三人が部屋を見回しても、さっきまでいたメデューサの影も形もない。
「馬! お前のせいで、アースユニオンの破壊工作員に逃げられてしまたね!」
「あの女が破壊工作員だって! そんなの知らないぜ」
「ワタシたち、ウェル2に潜入したアースユニオンの破壊工作員を捜索してたよ。信じられないなら、うちのキャプテンに訊いてみるいいね」
「お前らの人違いじゃないのかよ?」
「あの女に間違いないね、顔と髪型を少し変えてるけど、あの女がウェル2に上陸したとき、通関で記録された、虹彩パターンが一致するね」
「えー、サイボーグにもそんな物があるのかよー!?」
「ワタシたちみたいな、バイオユニットを使ったタイプはあるね」
「姉さん! この馬どうするね?」
「ぶちもめしてやりやたいのはやまやまね、でも、そんなことしてもワタシたち何の得もしないよ。責任取ってもらうのが一番いいね」
「責任!? 俺さまにどうしろって言うんだ」
「もちろんここの弁償ね、それとワタシたちの捜索手伝うね。文句はないはずね」
「そんな~! 俺は有給休暇中なんだぜ」
「自業自得ね、あきらめるよろし」




