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星屑の傭兵  作者: 磯野海月
第4章
30/41

娼館の騒動

ウェル2のD-12から24地区は、飲食店やカジノ、劇場などの雑多な娯楽施設の他に、裏に入ればストリップバーから娼館まで様々な店が営業していて、逃亡者が潜伏するには、最適の環境と言える。


「あー、雨が降ってきたね。ウェル2の天気スケジュール見てなかった。よくなかったね」


 赤いチャイナドレスの若い女性が、娼館の立ち並ぶ路地裏で、中国風の笠を頭からかぶり、長いマントを羽織って全身を隠している人物と、立ち話をしている。


「それじゃ、イン、ワタシ今度はこっちの店に当たってみるね」

チャイナドレスの女性は、ハンカチを頭に乗せて走って行った。


「おれみたいなBHバイオ・ヒューマノイドの客はお断りだと! この店まで、そんなふざけたことをいいやがるのか! ジュノーじゃBHバイオヒューマノイドの人権が認められてんだぞ!

黒光りする筋肉質の体長い首、彼は馬型BHだ、さっきから娼館のカウンターで鼻息を荒げ意気まいている。


「ですから、店としても、女の子に強制するわけにはいかないんですよ、あなたみたいなお客さんだと、普通の子じゃ壊されかねませんからね」


「そんな柔なのしかこの店にはいないのか!? この俺さまをだれだと思っていやがる! この俺さまは、傭兵戦艦鉄龍の傭兵、ダークホースとして恐れられている、雷風さまだぞー!!」


雷風は鉄龍の休暇を利用して、ウェル2に女を漁りに来ていたが、彼の体躯と一物に恐れをなし、どの娼館の女も彼を断っていた。こんな状況で、雷風はかなり頭に血が登っている。


「もちろん、お名前は存じていますとも、ですから、今日のところはこれでなんとか」

娼館の支配人は、下からそっとキャシュを雷風に手渡そうとした。


「ふざけるな、俺さまはゆすりにきたんじゃないぞ!」

雷風は支配人の手を払いのけた。

「う~ん、困りましたな」


支配人は若い者を呼んでこようかとも思ったが、鉄龍の雷風が相手では束になってもかなわないだろう。コロニー警察を呼んで騒ぎを大きくしたくもない。


「私なら、そのお馬さんの相手をしてもいいわよ」

関り合いになるのを恐れて、娼婦たちはみな部屋に引っ込んでいたのだが、一人だけ、階段に腰掛けてこの様子をさっきから見ていた女がいた。


「おお、メデューサか! お前が雷風さんの相手をしてくれるのか。助かったよ本当に!」

支配人はほっと胸を撫で下ろした

「ほっ、本当か~!? 何件も店を回った甲斐ががあったぜ!!」

雷風は興奮しながら鼻を鳴らし、メデューサの体を品定めする。

メデューサは褐色の肌に白いレースのドレスを身に纏い、妖艶な雰囲気を漂わせた美女だ

「それじゃ、早速!」

雷風はメデューサを連れて、上の部屋に上がっていった。


「ふ~」

支配人が椅子に腰掛け一服している所に、今度は別の来訪者がやってきた。

「今度はいったい何だっていうんだ?」


「いや、結構若くていい女が、支配人に話があるっていうもんで」

「ここで働きたいっていうのか?」

「いえ、どうもそうじゃないらしくて・・・」


支配人がボーイと会話をしているところに、赤いチャイナドレスの女性が、許可もなくずけずけとロビーまで入って来た。

「何だお前は? 入っていいとは言ってないぞ」

「ワタシこういうものね」

チャイナドレスの女はカウンター越しに、支配人に自分のIDと、特別捜査許可証を突き出した。

「ヤン・ルンさんですか、セブンシスターズの。そんな方がこんな娼館に何の御用なんです?」

支配人は怪訝そうに、ヤンの顔を見る。

「じつは、人捜しね。ここらへんに、危険人物が潜入している恐れがあるね」


「そういうことは、コロニー警察の仕事じゃないんですか?」

「コロニー警察、頼んでも協力してくれないね。それでワタシやってるよ。とにかくあなた協力するね。さもないと、タワーズであなたの店、圧力かけるよ」


ヤンは携帯端末を支配人の前に置いて、一人の女性の映像をホログラフに投影して見せた。


「分かりましたよ!」

支配人はヤンに半ば脅されるようにして、その映像を見た。

「こいつ、エキドナとか名乗っている戦闘サイボーグね。あなたの店この女いないか、見覚えないか、よく見るよろし。顔とか姿をいじっている可能性あるね。今そのバリエイション見せるよ」


ヤンはそう言いながら、映像を色々変えて、支配人に見せた。


「・・!」


ある映像を見た時に、支配人の顔色が変わるのを、ヤンは見逃さなかった。

「この女に、見覚えあるね。あなた」

「いや、私は何も言ってませんよ」

支配人はあせった。この女はさっき雷風を客に取ったメデューサかもしれない。彼女は数日前雇ったばかりで、身元がはっきりしていない。


「うそ言うのよくないね。とにかくこの店の娼婦たちみな、ワタシに面通しさせるね」


「そ、それは困ります! お客さんを取っている子もいますから。

私が一人づつ空いた子から訊いていきますから、それで堪忍してくださいよ」


「それだめね、まず、客のいない娼婦からみな、ここに呼んでくるよろし」


雷風はその容姿から想像されるのとは全く逆に、実にあっけなく

ことを済ましてしまった。


「フッ、一発の後の煙草は格別だぜ!」


雷風はベット腰掛け、メデューサに背を向け一服している。自分では男の哀愁を漂わせるいい演出だと思っているのだろう。


「あんたは、鉄龍の傭兵の雷風なんだってねえ。すごいねえ、雷風と言えば、タワーズでも三本の指に入る傭兵じゃないか。あたしはそんな男と寝れて嬉しいよ」


メデューサは、後ろから雷風の背中に自分の胸を押し付け、彼の長い首筋に舌を這わせた。

「ううっ! あたりまえよ、この俺様はタワーズでは実質的には最強の男だ」


雷風はメデューサの舌の愛撫にゾクゾクするのを堪えながら、粋がっている。

「ふふ」


メデューサは雷風の首に腕を回し、彼をベットにゆくり押し倒す。

「ねえ、そんなあなただから頼みがあるの」

メデューサは雷風の上に体をすり寄せ、馬型BHの彼の耳に優しく歯を立てる。


「おお! 何だ可愛いやつだな。何でも言ってみろ」


「実はね、私はあなたたちタワーズの傭兵の大ファンなのよ。それで、あなたたちのことをもっと良く知りたいの。

そのために、タワーズの個人情報データベースを閲覧したいんだけれど、パスコードをあたしに教えてくれないかなあ」


「何だ、お前、この俺さまのファンじゃないのか?」


「もちろん! 一番のファンなのはあなたよ。他の連中はあくまでも趣味の範囲で色々見てみたいだけなのよ」

「ふ~ん、最近はセブンシスターズみたいに、芸能人みたいな扱いの傭兵までいるくらいだからな、分からんでもないが・・・」


「機密事項だからだめだって言うの? でも、あなたが閲覧出来る範囲でいいのよ」

「そうだなあ。俺が許可なく見ることの出来るタワーズの個人情報なら、レベル1だから、たいした内容じゃないもんな。まあいいか」


 雷風は自分の脱いだ衣類から携帯端末取り出し、パスコードを検索しはじめる。

「すまんが、チョットあっち向いていてくれ。おっ、あったあった」


 雷風はメモ用紙にさらさらっとパスコードを書いて、メデューサに渡してやった。

「ありがと。ほんとにあなたっていい人ね」


 メデューサが雷風の顔に口付けをしながら、にんまりと笑みを浮かべた。

・・・ほんと、タワーズで三本の指に入るおバカさんね。


「この店の娼婦はこれで全部ね?」

「ええ・・」


 支配人はびくびくしながら、ヤンの様子をうかがっている。

「客を取っている娼婦はどこね?」


「それは、お客様に失礼ですから、申し上げるわけには・・・」


「今すぐ言うね! 協力できない言うなら、この店、営業停止するよう圧力かけるよ! それでもいいね!」


「そ、それは困ります。お教えしますよ。まだ時間が早かったもので、一人だけお客が入ってます」


「すぐその部屋のカードキー渡すね!」

ヤンは支配人の手から、カードキーをむしり取って、二階の部屋に駆け登って行った。


「あの部屋には、同じタワーズの雷風がいるんだ。どうなっても知らないぞ」

「ここね!」


ヤンはカードキーを溝に差し込み、部屋のドアをいきなり開いた。

「おわ!! 何だ! 何でてめえがこんな所に来たんだ?!」


 雷風は慌ててパンツをはこうとするが、蹴つまづいて床に転ぶ。

「それはこっちが訊きたいね!」


「イン! いつからてめえは売春の副業まで始めたんだ!?」

「失礼な馬ね! ワタシ、インと違うヤンね! そっちの女に用事があるね」


「キャア! 雷風さん助けて! あの女は個人的な恨みであたしを追いかけているのよ!」


「へっ! そうと聞いちゃ黙ってられないぜ! ここはてめえの来るとこじゃねえ、とっとと失せな!」


「もう! 何馬鹿なこと言ってるね、その女は危険な戦闘サイボーグね、早くこっちに渡すよろし!」

「俺は、馬鹿じゃない! 馬だ! 危険な戦闘サイボーグはてめえの方じゃねえか! 俺はな、この女と寝て生身の体だって確認しているんだ」


「もう! 話にならないね! しょうがないね」

ヤンはハンドバックから拳銃を取り出して、メデューサにむけた。


「これには、対サイボーグHP弾、装弾してあるね! おとなしくこっち来るよろし」


「雷風さん! あの女あたしを殺そうと! お願い助けて!」

メデューサは雷風の影に隠れた。

「馬! 退くね!」

「フン! こっちが丸腰なのに飛び道具か、元バウンティイハンター(賞金稼ぎ)のやりそうな仕打ちだぜ! 俺は怒ったぞ」


ブンッ!

雷風は目にも止まらない早さで、ジャブをヤンめがけ放つ! ヤンはそれをうまくかわすが、拳が少しかすっただけで、銃が弾き飛ばされた。


「やったな! 馬! もうこっちも許さないね!ハイヤー!!!」


 ヤンはカンフーの構えを取り、大きく後ろ回し蹴りを繰り出す!

「なんの!」

雷風はヤンの蹴りをかわしながら、カウンターで彼女にショルダータックルをぶちかます!


「きゃ!」

強力なタックルを食らったヤンは、部屋の壁をぶち破り、廊下までふっ飛ばされる!


「クゥー! この平義体ノーマル・ボディーじゃ馬にかなわないね。イン呼ぶね」


「どうだ! 俺さまの強さ思い知ったか!」


 通路に倒れているヤンを見下ろして、雷風はいい気になっている。

その時! バリーン! と部屋のガラス窓を破って、笠をかぶり、長いマントで全身を被い隠した者が飛び込んで来た。


「イン! この馬鹿馬、たたきのめすよろし!」

「アイヤー! 姉さん、承知したね!」


 インは笠とマントをばっと脱ぎ捨て、戦闘体勢をとった。

双子のサイボーグ、インはヤンとそっくりなのだが、インは今、チャイニーズスタイルの派手な彩色が目につく、強化ケプラー繊維と複合チタン装甲の、戦闘用ボディーを装着している。


「くそー! 二対一とは卑怯じゃねえか!」

「そんなこと、言える義理ないよ! いくね!」


インは手に持った八節棍を雷風めがけ振り下ろした!

スココココーン!!!

八節棍は節が外れ、二倍以上の長さに伸び、ダブルベットを真二つに叩き割る。

「わー!! 殺す気か!」

「大丈夫ね、その手前でやめておくね」


「キエー!」

今度は雷風の後ろから、ヤンが嵐のような連続キックを繰り出す。

「うっく!」

雷風はなんとかそれをガードするが、その隙を突いてインの八節棍が頭上を掠める。見事なコンビネーションだ。


 ・・・まじでやばいぜ、このままじゃややれちまう!


「ワタシたち姉妹二人揃えば、恐いものないね!」

・・・ここでインとヤンに詫びを入れるなんてみっともないまね、メデューサが見ているからできるわけねえ! メデューサ、あれ?


「メデューサが、いない!?」

「しまった、逃げられたね!」


インとヤンは攻撃の手を止めたが、時既に遅く、三人が部屋を見回しても、さっきまでいたメデューサの影も形もない。


「馬! お前のせいで、アースユニオンの破壊工作員に逃げられてしまたね!」


「あの女が破壊工作員だって! そんなの知らないぜ」

「ワタシたち、ウェル2に潜入したアースユニオンの破壊工作員を捜索してたよ。信じられないなら、うちのキャプテンに訊いてみるいいね」


「お前らの人違いじゃないのかよ?」

「あの女に間違いないね、顔と髪型を少し変えてるけど、あの女がウェル2に上陸したとき、通関で記録された、虹彩パターンが一致するね」


「えー、サイボーグにもそんな物があるのかよー!?」

「ワタシたちみたいな、バイオユニットを使ったタイプはあるね」

「姉さん! この馬どうするね?」


「ぶちもめしてやりやたいのはやまやまね、でも、そんなことしてもワタシたち何の得もしないよ。責任取ってもらうのが一番いいね」


「責任!? 俺さまにどうしろって言うんだ」

「もちろんここの弁償ね、それとワタシたちの捜索手伝うね。文句はないはずね」

「そんな~! 俺は有給休暇中なんだぜ」

「自業自得ね、あきらめるよろし」


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