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星屑の傭兵  作者: 磯野海月
第4章
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タイタンから来た女

マーフィーたちは、プッチイが運転する大型ワゴン車で食料品やお酒の買い出しをした後、マリアの部屋があるタワーズの第3女子寮に着いた。


マリアはIDカードをチェックするだけでゲートを通過するが、その後の者は、一応ロビーで管理人に書類を提出することになっている。


「なんだ、めんどくせいな! いいだろう、そんな手続きやらなくても! 顔見りゃ、俺やノーマが分からねえやつが、このタワーズにいるわけないじゃねいか!」


「だめですよ! 猛虎さん、規則なんですから、ここは女子寮なんですから、男性はなおさらです」


管理人に食ってかかっている、1メートルも身長差のある猛虎を、ロビナは下から見上げるようにしてたしなめるた。


猛虎は少し口を曲げて不満そうにしているが、黙って巨体でカウンターに寄り掛かり、書類を書き込む。他の面々も、同様に書類を記入している。


「猛虎さん! くれぐれも言っておきますけど、酔っ払って、また通路で騒がないでくださいよ! そのせいで、わたしはここから出なくちゃいけなくなったんですから」

「そんなこともあったっけ?」


ロビナに釘を刺され、猛虎は苦笑いをしながら上を向いた。


マリアの部屋はワンルームだが、家具類は比較的に少なく、こざっぱりしていて、少し片付ければ部屋はかなり広く使える。


皆は車座になって腰を下ろすと、さっそく酒盛りが始まった。

「まずは乾杯!」

ノーマが音頭をとって、全員がグラスを傾ける。マーフィーとプッチイはジュースで乾杯だ。

「こら! マーフィー! どーしてあんたはジュースなのよ、男でしょうが、これくらい飲めないでどうすんのよ」

マーフィーは横のノーマに首っ玉を抱えられてしまった。

ほんとに強引な人だな・・・。

「だって、僕は未成年ですよ! プッチイだって飲んでないじゃないですか」

「タワーズには、未成年の飲酒を禁止しているような規約は無いの!

プッチイはね、アルコールが全く駄目ってもうあたしらの前で証明してみせたことがあんのよ。

あなたはそんなことは言わせないわよ」


マーフィーはノーマに差し出されたグラスを押し返した。


「何よ!つまらない子ねえ」


本来マーフィーは、アルコールは駄目というわけでもない、ただ、あまり気が進まなか

っただけだ。横目でノーマを気にしながらグラスのジュースを一気に飲み干した。

「プハーッ!」


「ノーマさん、あんまりマーフィーをいじめないでねぇ」

「わかってるわよ」


「は~」

ロビナはニンジンを噛りながら、ウォッカをちびちびとやっている。

見掛けはかわいらしい少女なのに、彼女は一体何歳なのか?・・・。


「今日はじーさんを偲ぶ会とマリアを慰める会だろう、じーさんは賑やかなのが好きだったんだ、だれか何かやれよ」

さっきから一番飲みっぷりのいいファイヤーがそう提案すると、猛虎がすっくと立ち上がった。


「それでは、みんな! 最強の陸戦BHバイオヒューマノイドといわれる、この俺の鋼の肉体美を見せてやろう」

「ああ、それは見たかない、酒が不味くなる」


ファイヤーはまたか、というそぶりをして、顔をしかめるが、猛虎は気にせず縞々のトランクス一丁になった。

「フンッ!」

2メートルの黄金色と黒の体毛の波打つ巨体が、ボディービルの選手よろしく、筋肉を盛りあげ様々なポーズをとる。


 ・・・スゴイ体躯だ。この体でぶっ飛ばされたら普通の人間はいちころだろう。

「あっはっは! いいぞいいぞ」


喜んでいるのは、ルーが一人だけ。

「もういい! それくらいにしな」


猛虎はファイヤーを無視して続ける。

「はっはっは、どうだ! ムン!」


ビリッ!

猛虎が粋がったせいか、トランクスが破け、彼の前が、露になる。

「キャー!!」


マリアとロビナは思わず声をあげる。


「だから見たかないって!」

ファイヤーは猛虎に背を向けたまま、彼の股間に裏拳を一発お見舞いした。


「うをっ! ムムム!」

猛虎は苦しげに背中をまるめ、床にうづくまった。

「あら、最強の陸戦BHバイオヒューマノイドも、股間だけは最強じゃなかったみたいね」


ノーマのこのセリフで、部屋中笑いの渦が巻き起こる。

これで沈んでいたマリアを含め、すっかり、この場の空気が打ち解け、明るくなった。



マーフィーとプッチイは、翌日寝不足のまま、マリアの寮から、直接ゴールデン・スピアのドックに出勤した。


「もう少しで、朝のミーティングに遅れるとこでしたね」

プッチイは大きなあくびをしながら、作業服に着替えている。


「しょうがないよ、僕も昨日はほとんど寝てないんだ、猛虎さんのいびきがものすごくて」

マーフィーも眠たそうな眼差しでプッチイに答えた。


「マーフィーさん、今朝、僕たちより早くマリアさんが、出ていったみた

いですけれど?・・・」

「そういえば、マリアさんは電話に出た後、急いで支度をしていたみたいだったけど、だれからだったのかな?」


・・・自主的に謹慎しているはずの、マリアの寮に無理矢理おしかけ、酒を飲んでいたことが、ばれたのだろうか?


プッチイとマーフィーは、マリアのことが気になった。

「おい! マーフィー、プッチイ、なにやってるんだ、早く持ち場についてくれよ」

二人の携帯端末に班長からの、コールが入る。

「いけない! 急ごう!」

マーフィーとプッチイはそれぞれ、違う持ち場に急いだ。


・・・見慣れない、女の人だな?

プッチイが作業中に、事務所を見上げると、マーフィーの部署の班長のキムが、見知らぬ女性と立って話をしている。

その女性は話が終わると、階段を降りて、マーフィーの作業している、アークバスターに向かって歩いて来た。


マーフィーはあの事件の後、ほとんどそのままにしてあったアークバスターの点検作業に、とりかかっていた。

機械類や工具には全く手が付けられていないようだが、血の海だった周囲はきれいに清掃され、カイヤンが殺害された場所には、花束が奉げられている。


あのときのことが、マーフィーの脳裏にはまだ鮮明に焼き付いている。

・・・チーフはもうこの世にはいないんだ。そして、僕を庇って敵にやられてしまったフィヨリーナは、どうなってしまってのだろう。

彼女に関しては、今生きてはいるが、どういう状態なのか、キャプテン以外はだれも知らないのだろうか?


「君がマーフィー・ウォン君ね」

顔を上げると、向こうから、見知らぬ女性がこちらに向かって歩いてくる。

「は? どなたです。なにか御用ですか?」

マーフィーは工作機械のスイッチを切って、急いで作業台から下りていった。


「はじめまして、私はリリス・ランカー。今朝タイタンから着いたばかりなのだけれど、このアークバスターとα-ω(アルファオメガ)の開発の責任者よ」


「どうも、僕はマーフィー・ウォンです。一応このアークバスターの担当メカニックです」

「聞いているわ。今後ともよろしくね」


リリスはにっこりと微笑むと右手を差し出し、握手を求めた。マーフィーは慌てて、油の着いた手袋を脱ぐ。

リリスは、年齢ははっきりは分からないが、かなりのキャリアがありそうな、知的で落ち着いた雰囲気の美人だ。短めにカットした髪に、恐らくシルク製の高級な純白のブラウスがよく似合っている。


「君は素直そうないい目をしているわね」

「え?」


「キャプテンから聞いたとうりの人ね」

「はあ」


なんと返事をしていいのか、マーフィーは戸惑っている。

「私は、今はこのマシンより君に興味があるの」

「え、そんな」

マーフィーは、顔を赤らめリリスから目をそらす。

「フフフ、本当に素直ね。・・・でも残念だけれど、私が興味を引くのは、君がこのアークバスターをインプリンティングして起動したことよ。そのうち、色々あなたのデータを取らせてもらうから、そのつもりでね」


「リリスさんは、兵器工学の技術者なんですか?」

「いえ、違うわ。私の専門はバイオ・サイバネティクス。生体による、システムコントロールの研究。一応学者かな」

マーフィーとリリスが立ち話をしているところに、マリアがやってきた。彼女がドックに来るのは、久しぶりだ。


「あ? マリア、マリアじゃないの。きれいになったわね」

リリスは目を細め、マリアを見て微笑むが、マリアは相手がだれなのか、見当がつかないらしく、目をぱちくりさせている。


「失礼ですが、どなたでしょうか?」

「無理もないわね、もう10年ぶりくらいかしらね。私よ」

リリスはそう言って、マリアの前髪を指の間にはさみ、ツゥーッと軽く扱くしぐさをしてみせた。


マリアはリリスの顔をもう一度凝視すると、その表情が急に固くなる。

「覚えてくれていたようね。髪型も変えたし、あちこちだいぶ顔や体も手を加えているから、すぐには分からなくて当然かしら」


「マーフィー、すまないけれど、少しあっちに行っててくれない」

マリアは険しい目つきでマーフィーの肩を押す。

「どうして? 別に構わないでしょ」

マリアとリリスのただならぬ雰囲気を察して、マーフィーはその場を遠慮しようとしたが、リリスはマーフィーの腕をつかんで彼を引き止めた。


「お願いだから、マーフィー。二人にしてくれない」

「その必要はないわ」


リリスは薄目を開けて、微笑んではいるが、反対にその内面にかなり強い気迫を感じる。その場においては、マーフィーはマリアより、リリスに従うしかなかった。

「どうして、ここに来たの?」

「マリア、何を心配しているの? 私は仕事で来ただけよ。あなたもあの人にも、何もちょっかいを出したりしないわ」


「だから、どうして来たのか聞いてるの!」

「私はこのマシンの開発責任者よ。あの人から聞いていなかったようね。ただ単にそれだけの理由よ」


「あなたと会いたくなかった」

マリアはリリスから顔を背ける。

「私はこのマシンの開発チームと一緒に、当分このタワーズでお世話になるから。それじゃまたね」


リリスは一度振返って頬笑んでから、そのままドックを去っていった。

マリアはしばらく下を向いていたが、マーフィーが困惑しながら、彼女のそばに立ちすくんでいるのに気がつき、顔を上げる。


「みっともない所を見せちゃったかな? わたし」

そう言いながら、笑ってみせた。

・・・また、あの笑顔だ。

マーフィーはマリアの悲しそうな笑顔を見て、胸を痛める。

「マリアさん・・・」

マーフィーはマリアの名を呼んだが、その後どう言葉を続けたらいいのか・・・。

「もう気にしなくていいわ。大丈夫だから。ただ、わたしとあの人がどんな関係なのだか、腑に落ちないでしょう。あの人はわたしの母だった人なの。形の上ではね」


・・・聞かれもしないのに、こんなことをに言ってしまうなんて。

自虐なのか、それとも、マーフィーがマリアの中まで踏み込んでくることを、マリアは期待しているのか、マーフィーには分からなかった。



タワーズのメディカルセンターの、特殊集中治療室にその日、かなりの器材が運びこまれた。その指揮を取ったのは、リリス・ランカーであった。


フィヨリーナが入院している病棟は、厳重な警備をされていて、それまでキャプテンのシャドウ以外はだれも、近寄ることすら許されていなかった。


「君に来てもらって、本当に助かったよ」

「それは本心かしら?」

リリスは目を細めながら、シャドウを見ている。

特殊集中治療室の中央に、青白く光を帯び液体が満たされたガラスの筒の中で、シャドウとフィヨリーナは全裸で抱き合っている。


シャドウはマイクを通じて、外部と会話出来るが、フィヨリーナには意識がないようだ。

二人は向き合って、隙間が無いほどに体を密着させていて、その体からは何本ものセンサーから伸びているコードと、透明なチューブが二人の体を繋げている。そして、その中を鮮やかな赤い血液が脈打ちながら、二人の間を循環している。

「どれくらい、かかりそうだ?」


「そうね、最低でも三日というところね、これが開始されると、あなたも昏睡状態になってまうんだったわね。不安かしら?」

「心配はしていない。その間のことは、すべてバロンやティロールに任せてあるから」


「そのことじゃないわ、あの子のことよ」

「マリアに会ったのか?」


「ええ、会ったわ。大きくなったわね。そしていい女に・・」

「僕はもう彼女には、ゴールデン・スピアのキャプテンという立場しか接してない。君も彼女には干渉すべきではないんだ」

「もちろんそれは承知しているつもりよ。でも、偶発的に避けられないこともあるわ」


「君は何がいいたいんだ?」

シャドウはガラスの筒の中から、リリスに向かって少し不快な顔をした。

「怒ったの? あなたにとっては、もうどうでもいいことのはずでしょう。それとも本当


はマリアのことが、気になるのかしら。あなたには、今抱いているその子と、マリアとどっちが大事なのかしらね?」

「もういい、始めてくれ」

シャドウはゆっくりと目を閉じた。

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