異能者ハウザー
マーフィーとフィヨリーナは停電した基地内を、なんとかドックまでたどりつくことができた。
ゴールデン・スピアのドックには昼休みで、作業員は疎らだったが、残った者も緊急マニュアルに従って、安全措置をした後、どこかに移動したようだ。
「あんな裏道までよく知ってるね。思ったより早く着くことができた。でも、だれもいないな。警備の人間もまだ来ていないのか?」
「おい、そこにいるのは、マーフィーとフィヨじゃないのか」
暗がりからマーフィーは声をかけられ、とっさに身構えた。
「何をびくついているんじゃ、わしだよ」
非常燈の明るさに目が慣れてきて、チーフのカイヤン・ラシームの顔がはっきり見えて来た。
「チーフ、驚かさないでください。心臓が止るかと思った」
「ここも急に電源が落ちてな。
わし以外の人間はシステムの復旧に駆り出されて、わしだけ留守番じゃよ。
外の様子はいったいどうなっているんじゃ?」
「非常事態です。
このトラブルは単なるシステムの故障ではなく、潜入した敵の破壊工作だと思われます。
現在タワーズ内のネットワークは90%以上停止しています」
「フィヨ、なんじゃって!? そんな、信じられん・・・。
ここの電子的防御システムはアステロイドで一番なはずじゃ!。
部分的なハッキングならまだしも、こんな状態にタワーズを陥らせるには、センター・コントロール・ルームを乗っ取って、工事をやって別の大型コンピューターに、ネットを全て繋ぎ直さなければできん芸当だぞ」
「恐るべき敵がタワーズに侵入して、その目的がアークバスターらしいと、キャプテンからメッセージを受け取りました。これがそれです」
フィヨリーナは自分の左腕を捲くって、カイヤンに例の傷を見せる。
「これは?・・・確かにキャプテンの筆跡じゃ。また酷いことをしたものじゃ」
「これしか連絡の手段がなかったので、やむをえない手段だと思います」
「マーフィーでアークバスターを、インプリンティングと書いてあるが、本当にいいのかね?」
「マーフィーでも大丈夫だと思います。キャプテンにも何か考えがあるのでしょう。これから急いで始めます。チーフ、手伝ってください」
「分かった。とにかく作業をはじめよう。電源はアークバスターのバッテリーを使えば、なんとかなるじゃろう」
三人は作業を開始した。
「チーフ、インプリンティングて、いったい何のことなんですか?」
「そうだな、マーフィーはこの二機のマシンの搬送に関ったとは、聞いておったが、詳しくは知らないんじゃったな」
カイヤンはマーフィーを見ながら作業を続ける。
「この二機のアサルトマシーン、α-ω(アルファー・オメガ)とアークバスターのコントロールシステムは、そのシステムの要であるブラックボックスが
操縦者をインプリンティング、すなわち、刷り込みをして主と認めん限り動かんのじゃよ。α-ωはもうフィヨで登録をすませてあるが、アークバスターの方はまだなんじゃ」
「つまり、AIに対するユーザー登録みたいなことですか?」
「それとも違うな、このシステムはDNAや脳波パターンでパイロットを認識するわけではないんじゃよ。
なんだか非科学的で、信じられないじゃろうが、パイロットのスピリット、つまり、霊体を登録するとかいう話しなんじゃ」
「霊体!? そんな物が科学的に利用できるんんですか」
「今の我々の科学じゃ無理じゃな。ブラックボックス、つまり不可知の箱の中身を作った連中なら、可能じゃったかもしれんがの」
「このシステムが危険だと言うことを、マリアさんから聞いたんですけれど・・」
「実際に乗って操縦しなければ、危険はそれほどないと思う。
フィヨで平気じゃったからな、多分。だが、一つだけ問題があるんじゃが」
「問題って何ですか?」
「このシステムは一度インプリンティングをすると、そのパイロットが死なない限り、他の者を受け付けなくなる。ということじゃ」
「じゃあ、このマシンを僕が今後乗るはめに!?」
「それは無いじゃろう。これを敵に奪われないための緊急避難的措置で、キャプテンもそうしろと、言ってきたんじゃと思うな」
マーフィーは不安になって作業の手を止めた。
・・・ 本当に、そうじゃないと、いいんだけれど。
「マーフィーさん、システムの調整が終わりました。コックピットに入ってください」
アークバスターの機体の中央が迫り出し、楕円形のカプセルが二つに割れ、コックピットが現れる。内部は真っ暗で、センサーやスイッチ類の明りが数個だけ点灯している。
・・・最新型は計器類やスイッチは、少なくなる傾向にあるけれど、このマシンはそれを徹底しているな。
マーフィーは無気味な未知の洞窟に入って行くような、不安と緊張を感じつつ、コックピットに乗り込んだ。
「アー、死ぬかと思った。ほんとに」
「怪我がなくて、良かったと思いなさい!」
ノーマとレイモンドは、ドックに連絡するタワーズビルの最下層の、地下8階に降り立った。
「ドックはここを真直ね、行くわよ!」
「やれやれ・・・」
ノーマとレイモンドは通路を全速力で疾走するが、少し行ったところで急停止した。。
「何でこいつらが、こんなところに集まっているの!?」
通路の途中に、自動警備システムで作動している、六足歩行のガードロボットが、わんさとうごめいている。
「ノーマさん気を付けて! こいつら、システムが落ちたはずなのに動いている。敵にハックされているな、間違いなく」
チキチキチキ。
ガードロボットはレイモンドとノーマを察知して、一斉に襲いかかった。
「やだな、どうやら電気銃が殺人モードになっている!」
「きゃあ! こいつら虫みたいで大嫌いなのよ、まとめて黒焼きにしてやるわ!」
チュドーン!!ドカ!ドカッ!ドッドーーン!
ノーマはプラズマ火球で、ガードロボットを手当たり次第吹き飛ばした。
「ウジャウジャ出てくる! いくらやっても、きりがないわ、レイ、いったいタワーズはこいつらを何匹くらい飼ってるのよー?」
「第一ビルだけで約120機かな、確か」
「そんなにいるの~!! もう~!どうにかならないの~」
「私は弾の無駄遣いしたくないから、ここはあなたにお任せ、っということで」
「チョット、待ちなさいってば!! も~!!」
レイモンドはノーマを置き去りにして、さっさと、先を急いだ。
前を見ると、100メートルほど先に白いスーツを着た見知らぬ長身の男が、悠然と歩いている。
「やあ、やあ、そこの彼氏!」
レイモンドは何を考えたか、ひょうきんな声で男に話しかけた。
「何だ・・・」
チャカ、 男が振り向こうとした時、すでにレイモンドは男のこめかみに銃を突きつけていた。
「レイモンド・アルトマン。大した男だな、こんなにもいともたやすく、私の間合いに入ってくるとは」
「お見知りいただいて、光栄だけど、どこのだれだか知らないが、君を拘束するよ」
「私はハウザー・カスパー大佐。アースユニオン軍第三情報部指令官だ」
「あれ、あれ、やけに素直じゃないですか? こっちが質問をする前から、そんなことを言ってしまっていいのかなー」
「構わないよ。どうせお前は死ぬのだから」
「悪い冗談だ!!」
レイモンドがそう言いかけた瞬間、ハウザーがレイモンドの視界から消える。
「早い!!」
ダンダンダン!!
レイモンドは振り向かずに、後ろ向きのまま三発、銃弾を発射した。
「手応えありっと」
ゆっくりレイモンドが振り返ると。
「何!?」
ハウザーは片手の指の間に、三発の弾丸を挟んで立っている。
・・・キャプテンと同じ技!?。
「返して欲しいだろう」
ビンッ! ハウザーは指の間の弾丸を、レイモンドに向けて弾いた。
「ウワッ!!」
三発の弾丸はレイモンドの体を貫通し、銃弾の勢いで、彼は後ろに積み上げてあった機材の山に突っ込む。
「こいつらが、もうここを嗅ぎつけて来るとはな、シャドウめ、どうやって連絡したのだ? どちらにせよ急がなくては、タワーズ内部を混乱させるのに、時間がかかりすぎた」
ドッカーンンン! ハウザーの後方で爆炎があがる。
「よくもここまでやってくれたわね! あんたは絶対このあたしが、ブッ殺ス!!!」
爆風にブロンドの髪をなびかせながら、ノーマはハウザーに向かって、中指を立てた。
「フン、ノーマ・レイか。馬鹿は死ななければ、直らんようだな」
「ぬかせっ!!!」
ノーマは両掌から特大の、プラズマ火球をハウザーめがけて放つ。
フォン、 ハウザーはプラズマ火球を、体の正面で受けるが、何の影響もなくすり抜ける。
ドッガァァァンンンン!! プラズマ火球は後ろの壁で炸裂し、大穴をあけた。
「効かない!? そんなバカな!!」
「そういうことだ!」
ハウザーは間髪入れず間合いを詰め、ノーマの咽笛をつかむ。
「グッ!!」
ハウザーは一瞬つかんだだけで、何もせず、ノーマからすぐに手を離した。
「何をした!?」
「すぐに分かる」
「アウッ!」
ノーマの右腕が、突然何の前触れもなく痙攣をはじめる。
「ウッ!! イヤッ! どうなってるの!?」
痙攣は更に左腕、両脚と広がって行く。
「お前の中のバイオコンピューターをハックして、ワークエリアを乗っ取っているところだ」
「ありえないわ、ハイパープロテクトがかかった、あたしの電脳エリアを、外から触れたけでハックするなんて」
「いや、そういうことができる者もいるのだ、お前は知らないだろうが」
「ハウアーッ!! クウゥゥゥー!! アグア!!」
ノーマは苦しそうに全身を痙攣させながら、床をころげ回る。
「あたし・を・・乗っ取る気・そうは・させない」
ノーマは四つん這いになったまま、目と口を大きく開いて、蝋人形のように固まったまま動かなくなった。
「けなげに全機能を停止して、仮死モードに入ったか。しかし、これでは逃げることもできまい。今すぐにお前の大事な生身の部分、脳を叩き潰してやろう」
ハウザーはノーマの後頭部に手刀を振り上げた。
「ちょっと待った! まだ、私は健在ですよー」
レイモンドが機材の山からむっくりと起き上がった。
「まだ生きていたか。お前はチューンドマン(強化人間)か?」
「いえいえ、私はれっきとした人間。チューンされているのは根性だけですね」
「面白いやつだ。私の攻撃をかろうじて急所だけは、ずらしたな。しかし、その体で戦えるのか? 向こう側が穴から見えているぞ」
「調子のいい話かもしれないが、君には是非、私の渾身の一撃を見てもらいたいんだ・・・どうだろう?」
「よかろう。来い」
「それでは」
レイモンドは自分のネクタイを解いて、横に一回軽く振る、するとたちまちネクタイはピーンと真直に硬直し、剣のようになった。
「カフーーーーーッ」
下腹部に力を入れて、大きく息を数回、吸って吐く。みるみるうちにレイモンドの傷が、盛り上がった筋肉で塞がれる。
「ブドーというやつか?面白い見世物だ」
「圧して参る」
レイモンドは剣のようになったネクタイを、中段に構える。
「セイィィィ!!!」
電光石火! レイモンドはハウザーから5メートル離れた場所から、一瞬でハウザーの間合いに踏み込み、突きを入れた。
ズンッ! レイモンドの剣先が、ハウザーの左手の甲を突き抜け、胸に突き刺さった。
「これが、微塵流奥義、龍尖の突きだよ」
「残念だったな、あともう少しで心臓なのにな」
「そうねえ、あと10センチ踏み込みが深けば、君のハツの串刺しができたんだが」
パキィィィン!
レイモンドの剣が粉々に砕ける。
「ムンッ!!」
ドガッ!!
レイモンドはハウザーの掌底打を喰い、壁に叩きつけられた。
「どうやら、これで終わりのようだな・・・」
「ゲフッ!そうかもね。・・・しかし戦ってみて、君の正体が分かったよ。君はアースユニオンのインスペクターのうちの一人だろう?」
「ホゥ、まだ口をきく力が残っているとはな。その通りだ。よく分かったな、誉めてやろう」
「私は口から先に生まれた男だよ。
黙る時は死んだ時だけだ。
ついでに、さっきの剣の手応えで分かった。
君の肉体は完全な人間らしいな。
ウチのキャプテンのような、超回復力はない。
その傷だと輸血をしなければ、30分で出血多量で死ぬ」
ハウザーの胸からトクトクと血が流れ出している。
「それで、私と相討ちに持ち込んだつもりか? 生憎だな。
私は、後はアークバスターの所に行ってマシンのインプリンティングをすませば、この肉体はどうなっても構わない。
バックアップがあるからな」
「バックアップ? やはりそういうことか。バックアップごと君たちを殺せるのは、ウチのキャプテンだけということか」
「話しが長くなったな。レイモンド、そろそろさよならだ」
ハウザーはレイモンドの頭を左手でつかんで立たせ、右手の手刀を水平に構える。
ヒュン! 細い糸のような物がハウザーの左手首に絡みつき、 シュパッ! ハウザーの手首が切断され、真っ赤な血が吹き出した。
レイモンドは支えを失って床にドサッと倒れる。
「レイモンドさん」
「フィヨリーナ君! ここに来ていたのか」
「フィヨリーナ・リリアンティス? 確かデータでは見習いの傭兵。単分子ワイヤーの超振動か。出血・・またタイムリミットが短くなった」
ハウザーはフィヨリーナに脇目も振らずに、駆け出した。
「レイモンドさん、怪我は大丈夫ですか?」
フィヨリーナはレイモンドを抱きかかえる。
「それより、マーフィーは? まさか、アークバスターのインプリンティングをやったのか?」
「今途中です」
「いけない! 私たちはいいから、早くマシンに行ってくれ。マーフィーが危ない!早く! 」
「了解しました」
フィヨリーナはレイモンドたちをそのままにして、ドックに走った。




