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星屑の傭兵  作者: 磯野海月
第3章
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異能者ハウザー

マーフィーとフィヨリーナは停電した基地内を、なんとかドックまでたどりつくことができた。

ゴールデン・スピアのドックには昼休みで、作業員は疎らだったが、残った者も緊急マニュアルに従って、安全措置をした後、どこかに移動したようだ。


「あんな裏道までよく知ってるね。思ったより早く着くことができた。でも、だれもいないな。警備の人間もまだ来ていないのか?」

「おい、そこにいるのは、マーフィーとフィヨじゃないのか」

暗がりからマーフィーは声をかけられ、とっさに身構えた。


「何をびくついているんじゃ、わしだよ」

非常燈の明るさに目が慣れてきて、チーフのカイヤン・ラシームの顔がはっきり見えて来た。


「チーフ、驚かさないでください。心臓が止るかと思った」


「ここも急に電源が落ちてな。

わし以外の人間はシステムの復旧に駆り出されて、わしだけ留守番じゃよ。

外の様子はいったいどうなっているんじゃ?」


「非常事態です。

このトラブルは単なるシステムの故障ではなく、潜入した敵の破壊工作だと思われます。

現在タワーズ内のネットワークは90%以上停止しています」


「フィヨ、なんじゃって!? そんな、信じられん・・・。

ここの電子的防御システムはアステロイドで一番なはずじゃ!。

部分的なハッキングならまだしも、こんな状態にタワーズを陥らせるには、センター・コントロール・ルームを乗っ取って、工事をやって別の大型コンピューターに、ネットを全て繋ぎ直さなければできん芸当だぞ」


「恐るべき敵がタワーズに侵入して、その目的がアークバスターらしいと、キャプテンからメッセージを受け取りました。これがそれです」

フィヨリーナは自分の左腕を捲くって、カイヤンに例の傷を見せる。


「これは?・・・確かにキャプテンの筆跡じゃ。また酷いことをしたものじゃ」

「これしか連絡の手段がなかったので、やむをえない手段だと思います」

「マーフィーでアークバスターを、インプリンティングと書いてあるが、本当にいいのかね?」


「マーフィーでも大丈夫だと思います。キャプテンにも何か考えがあるのでしょう。これから急いで始めます。チーフ、手伝ってください」


「分かった。とにかく作業をはじめよう。電源はアークバスターのバッテリーを使えば、なんとかなるじゃろう」


三人は作業を開始した。

「チーフ、インプリンティングて、いったい何のことなんですか?」

「そうだな、マーフィーはこの二機のマシンの搬送に関ったとは、聞いておったが、詳しくは知らないんじゃったな」


カイヤンはマーフィーを見ながら作業を続ける。


「この二機のアサルトマシーン、α-ω(アルファー・オメガ)とアークバスターのコントロールシステムは、そのシステムの要であるブラックボックスが

操縦者をインプリンティング、すなわち、刷り込みをして主と認めん限り動かんのじゃよ。α-ωはもうフィヨで登録をすませてあるが、アークバスターの方はまだなんじゃ」


「つまり、AIに対するユーザー登録みたいなことですか?」


「それとも違うな、このシステムはDNAや脳波パターンでパイロットを認識するわけではないんじゃよ。

なんだか非科学的で、信じられないじゃろうが、パイロットのスピリット、つまり、霊体を登録するとかいう話しなんじゃ」


「霊体!? そんな物が科学的に利用できるんんですか」


「今の我々の科学じゃ無理じゃな。ブラックボックス、つまり不可知の箱の中身を作った連中なら、可能じゃったかもしれんがの」


「このシステムが危険だと言うことを、マリアさんから聞いたんですけれど・・」

「実際に乗って操縦しなければ、危険はそれほどないと思う。

フィヨで平気じゃったからな、多分。だが、一つだけ問題があるんじゃが」


「問題って何ですか?」

「このシステムは一度インプリンティングをすると、そのパイロットが死なない限り、他の者を受け付けなくなる。ということじゃ」


「じゃあ、このマシンを僕が今後乗るはめに!?」


「それは無いじゃろう。これを敵に奪われないための緊急避難的措置で、キャプテンもそうしろと、言ってきたんじゃと思うな」


マーフィーは不安になって作業の手を止めた。

・・・ 本当に、そうじゃないと、いいんだけれど。

「マーフィーさん、システムの調整が終わりました。コックピットに入ってください」


 アークバスターの機体の中央が迫り出し、楕円形のカプセルが二つに割れ、コックピットが現れる。内部は真っ暗で、センサーやスイッチ類の明りが数個だけ点灯している。 


・・・最新型は計器類やスイッチは、少なくなる傾向にあるけれど、このマシンはそれを徹底しているな。

マーフィーは無気味な未知の洞窟に入って行くような、不安と緊張を感じつつ、コックピットに乗り込んだ。



「アー、死ぬかと思った。ほんとに」

「怪我がなくて、良かったと思いなさい!」

ノーマとレイモンドは、ドックに連絡するタワーズビルの最下層の、地下8階に降り立った。

「ドックはここを真直ね、行くわよ!」

「やれやれ・・・」


ノーマとレイモンドは通路を全速力で疾走するが、少し行ったところで急停止した。。

「何でこいつらが、こんなところに集まっているの!?」


通路の途中に、自動警備システムで作動している、六足歩行のガードロボットが、わんさとうごめいている。


「ノーマさん気を付けて! こいつら、システムが落ちたはずなのに動いている。敵にハックされているな、間違いなく」


  チキチキチキ。

ガードロボットはレイモンドとノーマを察知して、一斉に襲いかかった。

「やだな、どうやら電気銃が殺人モードになっている!」

「きゃあ! こいつら虫みたいで大嫌いなのよ、まとめて黒焼きにしてやるわ!」


チュドーン!!ドカ!ドカッ!ドッドーーン!

ノーマはプラズマ火球で、ガードロボットを手当たり次第吹き飛ばした。


「ウジャウジャ出てくる! いくらやっても、きりがないわ、レイ、いったいタワーズはこいつらを何匹くらい飼ってるのよー?」

「第一ビルだけで約120機かな、確か」


「そんなにいるの~!! もう~!どうにかならないの~」

「私は弾の無駄遣いしたくないから、ここはあなたにお任せ、っということで」

「チョット、待ちなさいってば!! も~!!」


レイモンドはノーマを置き去りにして、さっさと、先を急いだ。

前を見ると、100メートルほど先に白いスーツを着た見知らぬ長身の男が、悠然と歩いている。


「やあ、やあ、そこの彼氏!」

レイモンドは何を考えたか、ひょうきんな声で男に話しかけた。

「何だ・・・」


 チャカ、 男が振り向こうとした時、すでにレイモンドは男のこめかみに銃を突きつけていた。


「レイモンド・アルトマン。大した男だな、こんなにもいともたやすく、私の間合いに入ってくるとは」


「お見知りいただいて、光栄だけど、どこのだれだか知らないが、君を拘束するよ」


「私はハウザー・カスパー大佐。アースユニオン軍第三情報部指令官だ」


「あれ、あれ、やけに素直じゃないですか? こっちが質問をする前から、そんなことを言ってしまっていいのかなー」


「構わないよ。どうせお前は死ぬのだから」

「悪い冗談だ!!」


 レイモンドがそう言いかけた瞬間、ハウザーがレイモンドの視界から消える。

「早い!!」

ダンダンダン!!

レイモンドは振り向かずに、後ろ向きのまま三発、銃弾を発射した。

「手応えありっと」

ゆっくりレイモンドが振り返ると。

「何!?」


ハウザーは片手の指の間に、三発の弾丸を挟んで立っている。

・・・キャプテンと同じ技!?。

「返して欲しいだろう」


 ビンッ! ハウザーは指の間の弾丸を、レイモンドに向けて弾いた。

「ウワッ!!」


 三発の弾丸はレイモンドの体を貫通し、銃弾の勢いで、彼は後ろに積み上げてあった機材の山に突っ込む。


「こいつらが、もうここを嗅ぎつけて来るとはな、シャドウめ、どうやって連絡したのだ? どちらにせよ急がなくては、タワーズ内部を混乱させるのに、時間がかかりすぎた」


ドッカーンンン! ハウザーの後方で爆炎があがる。


「よくもここまでやってくれたわね! あんたは絶対このあたしが、ブッ殺ス!!!」

爆風にブロンドの髪をなびかせながら、ノーマはハウザーに向かって、中指を立てた。

「フン、ノーマ・レイか。馬鹿は死ななければ、直らんようだな」


「ぬかせっ!!!」

ノーマは両掌から特大の、プラズマ火球をハウザーめがけて放つ。

フォン、 ハウザーはプラズマ火球を、体の正面で受けるが、何の影響もなくすり抜ける。

ドッガァァァンンンン!! プラズマ火球は後ろの壁で炸裂し、大穴をあけた。


「効かない!? そんなバカな!!」

「そういうことだ!」

ハウザーは間髪入れず間合いを詰め、ノーマの咽笛をつかむ。

「グッ!!」

ハウザーは一瞬つかんだだけで、何もせず、ノーマからすぐに手を離した。

「何をした!?」

「すぐに分かる」

「アウッ!」


 ノーマの右腕が、突然何の前触れもなく痙攣をはじめる。

「ウッ!! イヤッ! どうなってるの!?」

痙攣は更に左腕、両脚と広がって行く。


「お前の中のバイオコンピューターをハックして、ワークエリアを乗っ取っているところだ」


「ありえないわ、ハイパープロテクトがかかった、あたしの電脳エリアを、外から触れたけでハックするなんて」


「いや、そういうことができる者もいるのだ、お前は知らないだろうが」


「ハウアーッ!! クウゥゥゥー!! アグア!!」

ノーマは苦しそうに全身を痙攣させながら、床をころげ回る。


「あたし・を・・乗っ取る気・そうは・させない」

ノーマは四つん這いになったまま、目と口を大きく開いて、蝋人形のように固まったまま動かなくなった。


「けなげに全機能を停止して、仮死モードに入ったか。しかし、これでは逃げることもできまい。今すぐにお前の大事な生身の部分、脳を叩き潰してやろう」


ハウザーはノーマの後頭部に手刀を振り上げた。


「ちょっと待った! まだ、私は健在ですよー」

レイモンドが機材の山からむっくりと起き上がった。


「まだ生きていたか。お前はチューンドマン(強化人間)か?」

「いえいえ、私はれっきとした人間。チューンされているのは根性だけですね」

「面白いやつだ。私の攻撃をかろうじて急所だけは、ずらしたな。しかし、その体で戦えるのか? 向こう側が穴から見えているぞ」


「調子のいい話かもしれないが、君には是非、私の渾身の一撃を見てもらいたいんだ・・・どうだろう?」

「よかろう。来い」

「それでは」


レイモンドは自分のネクタイを解いて、横に一回軽く振る、するとたちまちネクタイはピーンと真直に硬直し、剣のようになった。

「カフーーーーーッ」

下腹部に力を入れて、大きく息を数回、吸って吐く。みるみるうちにレイモンドの傷が、盛り上がった筋肉で塞がれる。

「ブドーというやつか?面白い見世物だ」

「圧して参る」

レイモンドは剣のようになったネクタイを、中段に構える。

「セイィィィ!!!」

電光石火! レイモンドはハウザーから5メートル離れた場所から、一瞬でハウザーの間合いに踏み込み、突きを入れた。


ズンッ! レイモンドの剣先が、ハウザーの左手の甲を突き抜け、胸に突き刺さった。

「これが、微塵流奥義、龍尖の突きだよ」

「残念だったな、あともう少しで心臓なのにな」

「そうねえ、あと10センチ踏み込みが深けば、君のハツの串刺しができたんだが」

パキィィィン!

レイモンドの剣が粉々に砕ける。

「ムンッ!!」

ドガッ!!

 レイモンドはハウザーの掌底打を喰い、壁に叩きつけられた。


「どうやら、これで終わりのようだな・・・」

「ゲフッ!そうかもね。・・・しかし戦ってみて、君の正体が分かったよ。君はアースユニオンのインスペクターのうちの一人だろう?」


「ホゥ、まだ口をきく力が残っているとはな。その通りだ。よく分かったな、誉めてやろう」


「私は口から先に生まれた男だよ。

黙る時は死んだ時だけだ。

ついでに、さっきの剣の手応えで分かった。

君の肉体は完全な人間らしいな。

ウチのキャプテンのような、超回復力はない。

その傷だと輸血をしなければ、30分で出血多量で死ぬ」


ハウザーの胸からトクトクと血が流れ出している。

「それで、私と相討ちに持ち込んだつもりか? 生憎だな。

私は、後はアークバスターの所に行ってマシンのインプリンティングをすませば、この肉体はどうなっても構わない。

バックアップがあるからな」


「バックアップ? やはりそういうことか。バックアップごと君たちを殺せるのは、ウチのキャプテンだけということか」


「話しが長くなったな。レイモンド、そろそろさよならだ」

ハウザーはレイモンドの頭を左手でつかんで立たせ、右手の手刀を水平に構える。

ヒュン! 細い糸のような物がハウザーの左手首に絡みつき、 シュパッ! ハウザーの手首が切断され、真っ赤な血が吹き出した。

レイモンドは支えを失って床にドサッと倒れる。

「レイモンドさん」

「フィヨリーナ君! ここに来ていたのか」

「フィヨリーナ・リリアンティス? 確かデータでは見習いの傭兵。単分子ワイヤーの超振動か。出血・・またタイムリミットが短くなった」


ハウザーはフィヨリーナに脇目も振らずに、駆け出した。

「レイモンドさん、怪我は大丈夫ですか?」

フィヨリーナはレイモンドを抱きかかえる。


「それより、マーフィーは? まさか、アークバスターのインプリンティングをやったのか?」

「今途中です」

「いけない! 私たちはいいから、早くマシンに行ってくれ。マーフィーが危ない!早く! 」

「了解しました」

フィヨリーナはレイモンドたちをそのままにして、ドックに走った。


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