ドックでの惨劇
「マーフィー、どうじゃ気分は」
「なんだか、みんなのことが心配で落ち着きませんよ」
アークバスターのコックピットの中で、ホログラフ・モニターに投影されたカイヤンの顔にマーフィーは不安そうに返事をした。
「これから最終ロックを外す。意識活動に影響があるかもしれんが、マーフィー、どんなことがあっても、気をしっかり保つんじゃ。終わるまで絶対に途中でやめてはいかん」
「外部モニターとマイクはどうしますか?」
「そのままで、別に問題は無いじゃろう」
「その方が安心できます」
「それじゃ、始めるぞ」
カイヤンはアサルトマシーン整備用のコントロールデッキから、遠隔で操作して、最終ロックを外した。
「あれは、だれじゃ? 怪我をしとるようじゃが、まさか、敵!」
いきなり、カイヤンの目の前に、白いスーツに血を滲ませた知らない男が、駆け込んで来た。
「いかん! まだ、インプリンティングの途中じゃ」
カイヤンは引出の中から、銃を取り出して、男に向かって走った。
「お前は何者じゃ! ここから出ていけ! さもないと、撃つぞ!」
「今日は、邪魔ばかり入るな。もうたくさんだ! 消えろ! 虫けら!」
シュバッ! ハウザーは右腕を水平になぎ払った。
カイヤンの首が胴体から離れ、ゴトンと床に転がる。そしてゆっくりとカイヤンの胴体は倒れ、床一面が血の海になった。
「チーフ!!!」
・・酷い! 何てことだ。またこのマシンのために!
マーフィーはこの一部始終を外部モニターで見ていた。
「クソウッ! コックピットのハッチも手動で開かない! インプリンティングが終わるまで、外部からしか開けないのか!?」
マーフィーはコックピットの中で、怒りと悲しみに身を震わせる。
ハウザーはモニターに映ったマーフィーの顔を見つけた。
「このマシンに小僧が乗っているのか。
このマシンは、お前には荷が重すぎる。
狂って死ぬのがおちだ。
その前に、私がお前をそこから引きずり出して、殺してやるがな」
ハウザーはコントロールパネルのスイッチに手を掛けた。
その時、ヒュン!! ハウザーの右手にフィヨリーナのワイヤーが絡まった。
「小娘、またお前か! 今度はさっきのようにはいかんぞ!」
ハウザーは右手に絡み付いたワイヤーを自分に手繰り寄せる。
「マーフィーさん、約束しました。あなたとアークバスターは私が必ず守ります」
「フィヨリーナ!! だめだ、逃げてくれ! こんなマシンと僕なんか、守ることはない!」
アークバスターの通信回線と外部モニターは、そのまま開いているので、外の様子は手に取るように分かる。
ヒュンヒュン! フィヨリーナは次々と何本ものワイヤーを、ハウザーに投げ付け、全身に絡めていく。
「この技は? スパイダー・プレイ(クモの餌食)。あの男の技か。よく習得できたな。だがその程度では私には通用しない!」
ダッ!! いきなり、ハウザーはフィヨリーナとの間合いを半分まで詰め、たるんだ数本のワイヤーでフィヨリーナの体を絡める。
ビーンッ フィヨリーナとハウザーの体は5メートルの距離を挟んで、お互いの体を絡め合った数本のワイヤーで、じりじりと引き合った。
キュイーン 目に見えないくらい、高周期でワイヤーが振動し始めた。
「馬鹿なことを、この状態で超振動を使えば、お前の方が傷つく」
フィヨリーナの胸、胴、腕、太股に食い込んだワイヤーから、血が滲み出し、彼女の衣類がパラパラと剥げ落ちていく。
マーフィーは二人の闘いを固唾を飲んで見守っている。
フィヨリーナの眉が僅かに歪む。彼女は激しい痛みを、表情に現すまいと、必死に堪えている。その様子を見続けるのは、マーフィーには、もう酷すぎる。
「フン!」
ハウザーは右腕を絡めているワイヤーを、別のワイヤーに接触させて、切断した。
キュルル!! 切断されたワイヤーの端がフィヨリーナの首に絡み着く!
「来い!」
ハウザーはフィヨリーナを、一気に自分のすぐ前まで引き寄せた。
「アウ、グッ!」
自分の首を押さえてもがくフィヨリーナを、ハウザーは高く吊り上げる。そして、ワイヤーのもう一方の端を、手首から上の無い左腕にからめ、ゆっくり左右に引く。
「ダメダァァァァーー!!!」
マーフィーはコックピットの中で絶叫した。
プアーッと鮮血がフィヨリーナの首の周囲から吹き出す。宙にぶら下がったフィヨリーナの両脚がバタバタと数秒もがき、そして、痙攣して動かなくなった。
「くうぅ、かなり、手間取ってしまったな」
ハウザーは血の海になったドックの床に、無造作にフィヨリーナの骸を投げ棄てる。
フィヨリーナの骸は、まるで壊れた人形のように、不自然な格好で床に転がり、目を開いたまま、アークバスターのカメラの方向を向いた。
なぜか、その顔がマーフィーの目の前のモニターでアップになった。
「ウヲオゥゥゥゥゥゥゥゥゥーーーーーーーー!!!!!」
アークバスターの機体を震撼させる、マーフィーの咆哮!
『インプリンティング、終了』の字幕がモニターに流れる。
アークバスターのコックピット内のホロフラフ・モニターが360度マーフィーの周囲に展開し、目映いばかりの光を放つ。
「すぐに、お前を引きずりだしてやるからな!」
ハウザーはコントロールパネルを触る。バチバチッと火花が飛び、ハウザーは手を引っ込めた。
「インプリンティングが終了したのか? だが、なぜだ! コントロールパネルの端末にさえアクセスできない」
ハウザーは自分の踵が誰かにつかまれたのに気が付き、驚いて後ろを向いた。
「お前! まだ生きていたのか!? ありえん! お前はただの人間のはずだ!」
「ウワッ!」
フィヨリーナはハウザーの踵を持ち上げ、ハウザーはバランスを崩し、前のめりに倒れる。
フィヨリーナは無表情のまま、倒れたハウザーの踵を放さないで、軽く手首を返した。
ブオン!! それだけの動作で、ハウザーの足首が千切れ、ハウザーの胴体が10メートルもふっ飛ぶ! ハウザーの体はズンッと壁にめり込んで止まった。
「ウオオ、おかしい、そんな馬鹿な! 痛みがある! 痛覚は、完全に遮断しているのに!」
フィヨリーナはハウザーに向かって、ゆっくり歩いて行く。
薄暗い中に、殆ど衣類を身に付けていない、血だらけの青白い肌が揺れている。
一歩一歩進むごとに、今まで短かったフィヨリーナの髪がどんどん伸びて、床につくほどの長さになった。
フィヨリーナはハウザーのすぐ前で止った。
漆黒の、のたうつ髪の間から、さっきとは別人のような、残忍な歓喜にうち震えた笑みを浮かべ、フィヨリーナはハウザーを見下ろした。
ウェル2では、ようやくネットが回復しつつあった。シャドウは沈痛な気持ちで一人、スペースポートでウェル3行きの特別チャーター便のシャトルが、出発するのを待っていた。
「どんなに急いでも、あと30分。もう、手遅れなのか!? どれだけの被害がでていることか・・・。やはり、あんなことをフィヨに知らせなければよかったか・・・」
ベンチに腰掛けたまま、突然、シャドウの全身を強烈な悪寒と戦慄が走る。
「うっ! この感覚は!?」
シャドウは堪えきれずに、床に嘔吐して、倒れた。
・・・大変だ! フィヨが僕のコントロールを離れようとしている。もし、彼女が暴走したら、ウェル3ごとタワーズが壊滅するかも。・・これも、みんな、あのマシンの影響なのか?
フィヨリーナはハウザーの体に覆い被さるように、体を密着させ、唇を奪う。口を離すと今度は、ハウザーの血だらけの首筋から胸にかけて、ゆっくり舌を這わせる。
「お前はまさか、14番なのか!? どうやって、やつはどうやって、お前を制御している!? 私の霊体に侵入して、ペタ・セントリスの私の本体を破壊するのか!?・・・ウッ! やめろ! やめてくれぇぇぇぇぇーーーーー!!!」
フィヨリーナはハウザーの胸の傷口から心臓を咥え、ゆっくりと引きずり出した。生暖かい脈動する心臓を、慈しむように、舌の先で愛撫し顔中を血に染める。
フィヨリーナは目を閉じ、満足したような笑みを浮かべると、ハウザーの心臓に牙を立てた。
短い断末魔の叫びを上げ、ハウザーは完全に絶命した。
すぐに、ハウザーの体から、白い結晶が吹き出し、全身を包む。
見る見るうちに、ハウザーは真っ白な塩の塊になって、フィヨリーナの腕の中で粉々に崩れていく。
フィヨリーナはその塩を一掬い掌に乗せ、パッーと空中にばらまく。塩の結晶は、薄暗いなかを、キラキラ輝きながら舞い降りた。
フィヨリーナは振り返り、アークバスターに向かって歩きだした。
マーフィーはまぶしい光の中で、どのくらい時間が経過したのか、見当がつかなかった。
・・・意識がはっきりしているのに、光が見えているっていう感覚以外、何もない。僕は今、どうなっているんだ。
・・・ン? 風の匂いがする。これは、五月の新緑の匂い。
マーフィーの住んでいたコロニーにも人工的ながら、季節はあった。
しかし、この風の匂いは、もっと複雑で力強い、本当の自然のエッセンスのように感じる。
スウッと、マーフィーの眼前に抜けるような青空が広がる。
・・・青空? バーチャルな映像か? それともまた、あの時のように、幻覚を見ているのか?。
・・・背中に温もりを感じる?
マーフィーは自分の後ろに手をまわし、ギュッと何かをつかむ。
草? 大地か・・・。
マーフィーは美しい青草が風に波打つなだらかな丘で、ゆっくりと起き上がった。
ここは、コロニーの中じゃないのか?
マーフィーはぐるっと周囲を見渡す、コロニーの不自然に湾曲した地平ではなく、どこまでも、まっすぐな地平線が続いている。
「すごい! なんて立派な樹だ」
マーフィーの真後ろで、高さ100メートル以上、幹の周囲だけでもかなりありそうな大木が、五月の風に梢を揺らしている。
「なんじゃ、この樹が見えるのか」
樹幹の陰から老人が一人、ゆっくり出て来た。
「あなたは?・・そうだ、あなたは、チーフ! カイヤン・ラシーム」
「たしか、さっきまでは、そう呼ばれていたかもしれんが、残念じゃが、もう、違う存在じゃ」
「そうだ、思いだしたぞ、あなたは、確か、殺されたんじゃ!・・・と、いうことは、ここは、まさか」
「それは、あまり正しい推測とは言えんな、間違っているとも言えんが」
「そうだ、僕はこんな所にいられない、急がなくちゃ! フィヨリーナが」
「マーフィー・・・。慌てなくてもいい、ここは時間はあまり意味を持たんのじゃよ。それよりも、この樹がお前に見えるのなら、良く見て行くがいい。この子もそう言っとるよ」
老人の後ろから、少女がニッコリ微笑み、顔を出した。
・・・ロビナ? 違うな、もっと小さい子だ。
「ほら、おにいちゃん。上を見て。本当にこの樹は立派でしょう。こうやってじっと見ていると、なんだかとっても心が軽くになるの」
マーフィーも樹を見上げる。緩やかな木漏れ日が、顔をくすぐるようだ。
「お嬢ちゃん、この樹はなんて名前なのかな?」
「そうね、宇宙樹とか、生命の樹とか言ってる人もいるみたいだけど、名前なんか、どうだっていいの。素敵な樹とか、立派な樹とか、好きなように呼べば、それでいいの」
「フ~ン。そんなものかなあ」
いつの間にか、老人はいなくなり、マーフィーと少女だけが樹を見上げている。
「ねえ君、この樹はどうしてここにあるの?」
「そんなことも分からないの。おにいちゃん、いいわ、教えてあげるね」
少女は梢の一本の先端を指差し、そこから、空をなぞる。
「ほうら、おにいちゃん、良く見て。この樹はね、全ての枝が数えきれないくらい、たくさん、たくさん先が分かれていて、その先が全てと繋がっているの」
「全てって」
「そうね、例えば、おにいちゃんとわたし、そして、おにいちゃんの大好きな人たちや、嫌いな人たち、他にも、草や花や、小鳥や、石ころや、宇宙船まで、どれもこれもゼーーンブ」
「なんだか、僕には難しくてよく分かんないや」
「どうして、どうして分かんないの? この樹はだれでも持っているものなのよー」
「どうして分かんないのかも、分からないんだ。もしかしたら、未だ分かりたくないのかもしれない・・・」
マーフィーは下を向いた。
「どうしても、知りたくないの?」
「エッ?」
少女の声が急に少し低くなって、マーフィーは顔を上げた。
「フィヨリーナ?君なのか」
樹の幹に裸の少女が寄り掛かっている。顔形はフィヨリーナだが、漆黒の長い髪が風に揺らぐ。
「私はフィヨリーナと言うのか?」
「僕も分からないから、君に聞いているんだ」
「そんなことは、どうでもいいが・・・」
「君はどうしてここに?」
「その言葉は、お前にそのまま返そう」
「分からない、だからさっきから、分からないって言ってるじゃないか。ここがどこかも、なぜここにいるのかも」
「知りたいのだろう。お前は」
少女はゆっくりとマーフィーに歩み寄り、両腕をマーフィーの背中に廻す。少女がマーフィーを抱きしめると、二人は崩れるように、地面に横になった。
「どうして、君は?」
「どうして? それは、お前が望んでいるからだ。ここでは、何も隠すことはできない」
少女はマーフィーの上にぴったりと自分の体を重ねる。少女の柔らかい胸のふくらみが、マーフィーの胸にきつく押し付けられた。
「僕が望んでいる?・・・いったい何を望んでいると言うんだ」
「未だそんなことを言う。分かっているはずだ、ヨーコやマリアそしてロビナやノーマ。みなにお前は、同じことを望んでいたんじゃないのか?」
「そうなのか? 僕は本当にそう望んでいたのか?」
マーフィイーも少女の長い髪をかき分け、その背中に手を廻す。
「そうだ、それがお前がここにいる理由ではないのか?」
少女はマーフィーの頬を掌で撫でた。
「だから、お前は私と一つになればいい。私を受け入れれば、全ての疑問が解ける。全てを知ることができる。この樹のことも、命と宇宙のこともお前なら、お前なら、その権利がある」
「でも・・・。でも君の体はとても冷たい」
少女はマーフィーのその一言に、はっとして身を起こす。
「私の体は冷たい。そして心も。あの男もそう言った。そして私を未だ、本当には受け入れていない」
少女は一人、青草の上に腰を下ろす。
少女の貌から険が消え、所在なげな視線を下に向ける。
「やはり君はフィヨリーナなんだろう?」
「フィヨリーナ。その名前も仮の名。そして私の心も仮の心。全て造られた虚構のもの」
その言葉とともに、フィヨリーナの片隅に追いやられていた、止めどもない渇ききった空しさと寂しさが、ダイレクトにマーフィーの胸に響く。
悲しい・・・切ない・・・。こんな感じは、前にもあったことが。
難民船の中で、小さなマーフィーは一人うずくまっていた。周りは疲れ切って空ろな目をした大人たち。
だれも自分に声をかけてくれる人はいない。愛してくれる人などもちろんいない。
僕はここにいる。だれか、僕に気がついて・・・。
私はここにいる。だれか、私に気がついて・・・。
マーフィーの思い出と、フィヨリーナの心の悲鳴が重なった。
マーフィーは少女の横に座り、片方の腕を少女の肩に廻す。
「マーフィー。私の心が消えてしまいそう。この小さな何も中身の無い心が、塩の柱のように崩れてしまう」
「僕はここにいるんだ。そして君も」
マーフィーはフィヨリーナの両肩を力強く抱きしめた。
「ありがとう、マーフィー。私の心を繋ぎとめてくれて」
二人の姿と周囲の景色が、光の中に解けこむように、白く淡く薄れていった。
その後3時間ほどかかって、タワーズのシステムが回復した。
レイモンドもノーマも一命を取り留め、マーフィーはアークバスターのコックピット内で意識を失ったまま発見された。
しかし、タワーズの中が平静を取り戻し、いつも通りの日常がまた始まるのに三日かかった。
マーフィーはロビナとマリアの三人で、タワーズのメディカルセンターにレイモンドの見舞いにやって来た。
「やあ、やあ、三人とも元気でなによりだねえ。私は情けないが、この様だよ」
「レイモンドさんも、だいぶ元気そうで安心しました。ドックの通路で、敵と遭遇して戦ったそうですね?」
「そうなんだよ、マーフィー君。もうちょっとの所で、あいつを倒せたんだがねえ。ノーマさんと一緒に散々やられてしまったよ。でも、ここも私はなかなか気に入っているんだ。看護師さんが、美人揃いでねえ」
そういいながら、レイモンドは横で作業をしている、看護師の手を握った。
「もう、レイモンドさん! 何度言ったら分かるんです! そういう冗談はやめてください!」
「いや! これは冗談ではない、君があまりに美しいから・・・」
レイモンドは若い看護師の瞳をじっと見つめる。
「もう! 放してください」
「何をやっているんですか!? 室長!!!」
そこに、ちょうどマーガレットが入って来て、レイモンドを睨みつけた。
「あは、あは、いやいや、これは、ここで普段御世話になっている御礼のつもりで・・・」
レイモンドは残念そうに看護師から手を離した。
「私がいないと、いつもこうなんですから」
マーフィーもロビナも吹き出しそうになった
。
「レイモンドさん、ノーマさんとフィヨリーナさんはどうなっているんですか?」
「そうそう、ロビナちゃん。
まだ知らされてなかったね。
ノーマさんはここじゃなくて、サイバネ・ドックの方だよ。
これを機会にまた全身の調整をやるって言ってたな。
今回のダメージは公傷ということで、治療その他の費用は、全部ゴールデン・スピア持ちということだからね。
あと、フィヨリーナ君の状態は、まったく分からないんだ。
彼女は発見した人に聞いてみたんだが、ほとんど、怪我はなかったそうだ。
今はなぜだか、特別治療室で面会謝絶で、キャプテンしか会っていない」
「そうなんですかー。じゃあフィヨリーナさんの所には御見舞いに行けないですね」
せっかく、もう二束持ってきた花の片方を、ロビナは寂しそうに見つめる。
「そうですか。僕もなんだか記憶がはっきりしなくて・・・。確か僕と彼女は、一緒にアークバスターの中で発見されたそうですね」
「そうらしいね。あそこで一体何があったのか? 侵入した敵はどうなったのか? 未だに何も分かっていない。ただ今回の事件で、一人犠牲者が出てしまったことだけは、確かなことだ・・」
レイモンドがそう言うと、その場の全員の表情が暗くなった。
こらえきれなくなったように、マリアが口を開く。
「レイモンドさん!! チーフが、チーフが殺されたのは、みんなわたしの責任です。あの二機のマシンは、本来ならわたしの担当です。あそこにわたしがいれば、こんなことには・・・」
「マリア君、自分を責めちゃいけないよ。あそこで君が、代わりに殺されていたとしても、同じことだ」
「そうですよ、マリアさん。カイヤンのおじいちゃんがいなくなったのは、ほんとに、わたしも悲しい。そして、マリアさんがいなくなってしまったら、わたしはもっともっと悲しいよ」
ロビナはマリアの体にギュッとしがみついた。
「ありがとう、ロビナ・・」
マリアとロビナは抱き合って涙を流した。
「あ、いいな・・」
一言、そうレイモンドが呟くのを、マーガレットは聞き漏らさずに、黙って彼の腕を抓る。
「レイモンドさん、チーフの弔いはどうなるんですか?」
「あ、マーフィー君、その事なら、マーガレット氏に聞いて」
「カイヤンさんの葬儀は、一週間後、ゴールデンスピアがタワーズに戻って来た日に行います。
多分、公葬になるでしょう。
身内はいないそうですから。
喪主はキャプテンがやるそうです。
キャプテンとカイヤンさんは、タワーズが出来る前からの、ずっと長い付き合いだそうで、キャプテンもだいぶ落ち込んでいますから・・・」
「今回は色々なことがあったけれど、まあ、後のことは全て、ゴールデン・スピアがここに帰って来てから、ということかなあ」
レイモンドの言葉にマーフィーもうなずく。
・・・ゴールデン・スピア。早くその船体を見てみたい。金色に輝く美しい戦艦だと聞いているけれど。




