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星屑の傭兵  作者: 磯野海月
第3章
23/41

カフェテリアにて

時間はほんの少しだけ遡る。


 タワーズには、基地内やオフィスに直接雇用されている人間だけでも5000人はいる。12時から3時までの間交代で、昼休みはちょうど一時間、いつも基地内にある食堂や売店が賑わう。


「もうお昼か」

マーフィーは作業の手を休めた。

「マーフィー、元気にしてたー!」

マーフィーは、後ろから急に声を掛けられ、振り向く。


「ノーマさん! こんなところまで」

「今日はあたし一人で退屈だから、マーフィーと一緒にお昼ご飯食べようと思って、わざわざ来てあげたのよー。

喜びなさい、あたしが外のおいしいお店に連れてってあげるわよ」

「それは嬉しいんですけれど、遠慮します。

昼食は早めに切り上げて、作業の続きをやりたいんで、コンビニで何か買って食べるつもりなんで」

マーフィーはノーマを見上げながら、、申し訳なさそうな顔をして頭を掻いた

「何、言ってるのよー。そんなに初日から働いてどうすんのよ。あたしのおごりだから、心配しないでついて来なさいよー」


「でも・・・外まで行っていたら、食事の時間があまり取れないんじゃないかと・・・」

「分かったわよー。それならタワーズの中のカフェテリアで食べましょう。あそこは最近、結構品数が増えたし。そこなら時間は平気でしょう?」

「ええ、でも・・・」


マーフィーはフィヨリーナをチラッと見た。

「勿論、フィヨも一緒に連れてくわよ、だから行きましょう」

「ノーマさん、私は昼食は自分で用意して来ていますから。行く必要はありません」


「お弁当持って来てるの? あんたが。へー。以外なとこあるわねー。どんな可愛らしいお弁当作ってきたのか、見せて」


ノーマは目ざとく、ベンチに置いてあったフィヨリーナのカバンを見つけ、中を開けた。

「これね、L・F。イニシャルが入ってるから分かるわ」

「ノーマさん! ちょっと、それは良くないんじゃないですか?」

「別にいいじゃない、女どーしなんだから。ねー、フィヨ」

「私は構いませんけれど」

「どれどれ、んーー?? 何よこれー。あんた、こんな物普段食べてんのー!」

ノーマがフィヨリーナのカバンから取り出したのは、戦闘時用携帯食料だった。


「これが、あんたのお昼!? こんな物、今時戦闘時でも食べているやつは珍しいわよ。どういう食生活してるのかしらね、この子は?」

「キャプテンがここのメーカーの物が一番いいと、言ったので、100食分購入しました」

「シャドウがあんたにこんな物食えって? それで毎日こんな物ばっかり食べているわけ?」

ノーマは呆れた顔をして、フィヨリーナを見た。

「命令されたわけでは、ありません」

フィヨリーナはノーマに何を言われようと、相変わらず、いつもの調子を変えない。


「ダメダメダメ! こんな物、捨てなさい」

ノーマはフィヨリーナのカバンの中にあった、携帯食料を全部ごみ箱に投げ込んだ。


「ノーマさん、それは少しやりすぎじゃ・・・」

「いいから、マーフィーは黙っていなさい! いいこと、フィヨ! あんたねー、いい若い娘がこんなものばっかり食べてたんじゃ、どうにかなっちゃうわよ」


「ノーマさん、これで、一日の消費カロリーに見合った栄養を十分補給できると、説明が書いてあります」

「フウー、あたしはね、そういう意味で言ったんじゃないの!」

ノーマはやれやれと頭を抱えた。


「どういう意味でしょうか?」

「もう、どうでもよろしい! とにかく、あなたはあたしたちと一緒に、お昼を食べに行きなさい、これは命令よ!」


「はい・・・」

ノーマに返事をした後、フィヨリーナはゴミ箱の前に立って、捨てられた自分の携帯食料を見下ろしている。

その様子を見てマーフィーは眉間に皺を寄せた。

・・・ノーマさんも強引だなあ。フィヨリーナさんが、なんだか可哀想だ。


「もー、そんな情けないまね、やめなさい! 行くわよ」

ノーマはフィヨリーナの腕を引っ張った。


タワーズビルの地下二階に、収容人員が300名もある大きなカフェテリアがある。

 ここは最近メニューが増え、味も良くなったとのまずまずの評判で、利用する人も多い。


「ちょうど、一番混雑している時間帯のようね。でも問題ないわ」

ノーマたちスペシャルクラスの傭兵にもなれば、ここをあまり利用しないが、ノーマを知らない人間はタワーズ内には、まずいない。

 

マーフィーとフィヨリーナ連れたノーマの周囲から、潮が引くように、さぁーっと人がいなくなった。

やっぱり、僕は大変な人と懇意になってしまったんだなあ・・・。

マーフィーは思わず苦笑した。


「さあ、並びましょう」

三人がフードトレイを持って、一番人気のあるイタリア料理のコーナーの列に並ぶと、触らぬ神に祟り無し、と言ったところか、その前に並んでいた人たちは、なんだかバツの悪そうな顔をして、他のコーナーに移動する。


 そんなことは何も気にせず、ノーマは自分のトレイに次々と、料理を乗せていく。

「あたしはサイボーグで、体がいくら食べても太らないようになっているから、こういう時は本当に得をした気分になるわー」

他の人を無理矢理押しのけたようで、気が引けるが、マーフィーも自分のトレイに料理を取る。


何気なく横を向くと、フィヨリーナはトレイを持ったまま、じっと沢山の料理を見つめ、手を出さずにいた。

「フィヨリーナさん、どうしたんです」

「私はこういう物をあまり食べたことがなくて、どれを取っていいのか、よく分からないんです」


マーフィーはフィヨリーナが不安げな表情をしているのが、不思議に思えたが、少し気の毒な気がして、料理を見繕ってやることにした。

「フィヨリーナさん、僕がおいしそうな物を選んであげるよ」


「ありがとうございます。マーフィーさん」

マーフィーはこの時初めて、フィヨリーナが少し微笑んだような気がした。

「マーフィー、フィヨ、ぐずぐずしていないで、もう行くわよ」

「はい、今行きます!」


マーフィーはノーマに急かされて、ほぼ自分と同じ物をフィヨリーナに取ってやった。

「ほら、あそこのホログラフ・ヴュー・ウィンドーの側の席がいいわね」

カフェテリアの大きな窓には、美しい南の島のCGの立体映像が映しだされ、波の音まで流されていて、まるでその場にいるような雰囲気にさせられる。


また例のごとく、ノーマが窓際の長いテーブルに近寄ると、そこにいた人たちはいつの間にかいなくなった。長いテーブルの中央に一組だけ、男女が残っている。


「あら、レイとマーガレット。珍しい・・あんたらも来ていたの?」

「これは、これは、そう言うノーマさんこそ珍しい。今日はいったいどういうわけで?」

ノーマはレイモンドとマーガレットの向かいの席に座った。


「それがさー、レイ、今日はこの子たちに、ご馳走してあげようと思ったんだけど、外まで行ったんじゃ時間が無いって言うもんで、ここにしたわけ」

「イヤー、私も本来なら、タワーズの外で食事するするつもりだったんですけれどね。

マーガレット女史が許してくれなくて・・・」

レイモンドはマーガレットを横目で見ながら、造り笑いを浮かべる。


コホン、横のマーガレットが一つ咳払いをして、ノーマを見据えた。

「ノーマさん! あなたは、再来年の年俸まで前借りしているんですから、贅沢をするような経済状態ではないんです、食事はなるべくタワーズの中で取るようにしてください。そうしないなら、年俸の一部をここの食券で支給しますよ」

「うっ! それは勘弁して! お願い、前借りした分はなんとか返すから・・・」

ノーマは情けなさそうな表情で、マーガレットに向かって手を合わせる。


 マーガレット・ギブスンはゴールデン・スピア経理の責任者でもある。

 若く美貌の持ち主ながら、その実務能力の高さと、毅然とした態度でノーマからでさえ一目置かれている存在だ。


「分かっていただければ結構です」


・・・この前マーフィーのクレジットカードを勝手に使ったことや、他のことまで言われるかと思ったけれど、なんとか話題を変えたいわ。

ノーマは少し引きつったような笑顔で、黙って食事を始める。

・・・ノーマさんにこれだけはっきり物が言えるなんて、この人も大した人だなあ。

マーフィーは感心して、マーガレットを見た。


「ところで、レイ、ロビナはキャプテンと接待って聞いてるんだけれど、彼、よく引き受けたわねえ」

「それそれ、ノーマさん、キャプテンは接待なんかに向いていないと、私が再三に助言をしたんですけれどね。

 先方がどうしてもって譲らないもので、キャプテンも渋々引き受けたというわけなんですよ」

「フ~ン、それで、渉外のあなたは行かないの?」

「私も是非、この接待のは行きたかったんですけどね。なにせ、相手の秘書がこれまたものすごい美人で、残念な限りですよ、ほんとに」


 横にいたマーガレットの目が、ヒクッと釣り上がった。慌ててレイモンドは口を塞ぐ。


マーフィーは横でノーマたちの会話を聞きながら、料理に手を付けた。

 そして何気なくフィヨリーナを見ると、彼女はマーフィーを見ながら、彼とまったく同じ物を口に運ぶ。

マーフィーがラザニアをナイフで切ってそれをフォークで刺すと、まったく同じ動作でフィヨリーナは真似をする。


「君はどうして、僕を見ながら同じ物を?」

「私はこういう物を食べつけなくて、どう食べていいのか分からないんです・・・。私がマーフィーさんの真似をして、マーフィーさんは不愉快になったんですか?」

フィイリーナはそう言ってフォークを下ろした。


「そんなことはないよ。ただ、そんな風に食べていたんじゃ、料理の味も良く分からないと思うよ。ここは高級レストランじゃないんだ、こういう物は、ただ食べやすい大きさにして、そのままフォークやスプーンで食べればいいなだよ」

「分かりました」


 ・・・16歳にもなる少女に、こんなことを教えるなんて、この子は一体何者なんだろう。この子のこれまでの人生は、こんなことも知ることができないくらい、悲惨なものだったんじゃないのだろうか?。


 マーフィーはフィヨリーナの奇異な行動に、驚きや不快感より、なにか哀れみを感じた。


 フィヨリーナは前を向き、マーフィーに言われたとおりに料理を口に運んだ。

「・・・・美味しい。本当に美味しいです。マーフィーさん」

フィヨリーナはマーフィーの顔を見て、明るくニッコリと微笑んだ。

初めてだ・・・なんていい笑顔なんだろう。この子の心の底から涌き上がってきたような。

マーフィーもフィヨリーナの顔を見ながら、ニッコリ微笑む。

「あら? マーフィー、フィヨといい雰囲気になってるじゃないのよー」

「エッ、ノーマさんそんなんじゃ・・・」

「ほら、赤くなったじゃない。ロビナの次には今度はフィヨに手を出すわけ」

「ノーマさんやめてください、人聞きの悪い」

  マーフィーは周りを気にしながら、ノーマに詰め寄った。


「でも、気の毒ねえ。この子の意中の人はキャプテンのシャドウなのよ、この子はいつも金魚のフンみたいに、暇さえあればシャドウにくっついて歩いてるんだから」

マーフィーは一週間前の出来事を思い出した。

そうだった、この子はキャプテンとは何か特別な関係があるような・・・。

「ウッ!」

フィヨリーナが左手に持ったフォークを急に落した。

「どうしたの!?フィヨ」

フィヨリーナは右手で、左腕を押さえ苦痛に表情を歪めた。


「フィヨリーナさん血が!」

向かいに座っていたマーガレットも驚いて、席を立ちフィヨリーナの左腕に触った。

「大丈夫!?私に見せて。でも、どうして急に?」

フィヨリーナの腕から、真っ赤な血がたらたらと滴り出す。


マーガレットはハンカチを取り出し、フィヨリーナの袖をめくった。

「これは!?何なの・・・。文字?」

フィヨリーナの白い左腕に刃物で切り付けたような傷口が現れ、それが文字になって、さらに増えていく。


「これは、メッセージだわ・・・」

『タワーズに恐るべき敵が侵入した、目的はアーク・バスターかも、マーフィーでマシンをインプリンティングしろ、マシンを守れ。BYシャドウ』

「キャプテンからのメッセージ? でもこんな非道いことをするなんて。信じていいのかしら」


「マーガレット、私が確認してみる」

レイモンドは初めて真剣な表情になって、携帯端末でシャドウにアクセスする。

「だめだ! 特殊回線を使ってみたが、通じない。ウェル2のパニックセンターもだめだ、それはキャプテンのメッセージと断定していいだろう」


「あたしもこんな物を見たのは初めてだわ。まるでブラック・マジックね、悪趣味だわ」

ノーマは血文字から目を背ける。

「キャプテンも本意ではないだろう。とにかく緊急事態だ、センター・コントロール・ルーム(中央管理室)に急ごう」


「レイモンドさん、僕たちはどうすれば?・・」


「マーフィー君、君はフィヨリーナ君をメディカルルームに連れていってあげたまえ。

アサルトマシーンなら大丈夫だ、警備班を向かわせる。

それにいざとなったら、ここには私やノーマもいるイーフリートのキャプテン・フェノメナもいる。安心してくれ」

「そうよ、まかせなさい」


レイモンド、ノーマ、マーガレットの三人は、タワーズ第一ビルの最上階にあるセンター・コントロール・ルームに急いだ。


「さあ、フィヨリーナさん、僕たちはメディカルルームに行こう」

マーフィーが、フィヨリーナの肩に手を掛けた時、カフェテリア内の照明が急に落ちた。


「どうした、停電か?」

「マーフィーさん、違います。これは恐らく侵入した敵の破壊工作によるものです、ここの電源システムが故障等で落ちることは考えられません」


周囲の他の客たちも、ざわざわし始める。

「マーフィーさん、お願いがあります。私と一緒に来てください」

「フィヨリーナ、まさか、あのアサルトマシーンのところに!?」

「そうです」

「でも・・。レイモンドさんたちが、メディカルルームに行けってって・・・」

「私なら平気です。それよりも、もう一機のマシン、アークバスターを守らないと」

「でも、もしそこに敵が攻めてきたら!?・・・」

「私が命に代えても、あなたとアークバスターを守ります。お願いです、私を信じてください」

フィヨリーナはすがる様な目でマーフィーを見つめた。


・・・こんな子まで、あのマシンを守るために命を張るというのか、何のために、キャプテンのためなのか?。

「・・・分かりました。行きましょう」

マーフィーはフィヨリーナの視線に抗しきれずに、うなずいた。


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