美しき暗殺者
その後またノーマのせいで、マーフィーの周囲は多少ガタガタしたが、一週間が過ぎ、マーフィーは細かい手続きや登録が終了し、タワーズの寮には彼の部屋が用意され、やっと落ち着くことができた
。
昨日は顔見せということで、マーフィーの恐らくこれからの職場、ゴールデン・スピアのドックに行って挨拶してきたばかりだ。
「マーフィー、おはよー」
「おはよう。今日も元気だね。ロビナちゃん」
定刻通り、ロビナがマーフィーの寮に迎えに来た。
今日がマーフィーにとって初の出勤となる。忙しいマーガレットや、謹慎中のマリアに代わって、ロビナがマーフィーのオリエンテーションの役を引き受けている。
「マーフィーも今日からお仕事だから、頑張らないと」
「ロビナちゃん、今日はすごくきれいなな格好しているね」
「そうでしょう!そうでしょう!マーフィーもセンスがいいわ。
実はね、今日は後で大事な接待があるんで、経費でドレスを新調したの」
ロビナは嬉しそうにマーフィーの前でクルッと回ってみせた。
「色々な仕事しているんだね、ロビナちゃんは」
「ゴールデン・スピアに乗っていない時は、雑務や接待なんかのお仕事も多いの。
こういうお仕事も、わたしは結構好きよ。ごめんなさい、マーフィー。
だから今日は、マーフィーとはあまり一緒にいられないの」
「そうか。少し寂しいな。マリアさんもいないし・・・」
「マリアさんかー。ノーマさんのせいで、よけい落ち込ませちゃったかなー。
あの後、マリアさんの寮に行っても、一人にして欲しいって、わたしにも会ってくれなかったんだよー」
あの出来事以来、マーフィーもマリアに一度も会っていないし、連絡も気が引けてしていなかった。マーフィーは表情を曇らせた。
「マーフィー、きっと大丈夫だよ、マリアさんは。ゴールデン・スピアが帰ってきたら、査問会にかけられるかもしれないけど、あれだけ頑張ってミッションを成功させたんだからみんなきっと分かってくれるよー」
「ノーマさんやバロンさんやレイモンドさんが、マリアさんを悪いようにはしないと、僕も思うよ」
マーフィーは今まで自分が考えていた、傭兵チームのイメージがゴールデン・スピアの面々に会ってからは、だいぶ変った。今思い出してみると、マリアがゴールデン・スピアは特別だと、言った意味が分かる気がする。
タワーズがあるコロニーウェル3からシャトルで30分ほどの距離にジュノー第二コロニー、ウェル2がある。ここに今、一組のある男女がシャトルから降りて来た。
「ここが、ウェル2か。コロニー人口17万、ホテルやカジノ、娯楽や観光で高収益を上げていることはある。なかなかいいコロニーのようだ」
男は、金髪を肩のあたりまで伸ばして、白い気品のあるスーツを身に付けた長身の青年だ。
「ハウザー様。あの男は出てくるでしょうか?」
女の方は、プラチナブロンドに褐色の肌をした美女で、妖艶な雰囲気を漂わせている。
「エキドナ、お前は何も心配することは無い。
完全なルートを通して、偽の交渉を進めてある。お前は予定通り、あの男の足を止めていてくれればいい」
「あなたほどのお方が、わざわざこんな危険な敵地に赴かねばならないとは、我等の無能さを恥じるばかりです」
「もう言うな。あのボルツが二度も失敗したせいもあるが、あれは是非この私が自分の物にしたいと思っているからな。
それにこの私でなければ、あそこには侵入できないだろう」
「ごもっともです」
「私はすぐに、ウェル3に向かう。エキドナ」
「ハッ!」
ハウザーは自分の前に傅くエキドナの顎を持ち上げ、口付けをした。
「また後で会おう」
肌が褐色のため、赤くはならないが、エキドナは両手で自分の頬を押さえ、恥じらいの表情を、必死に隠そうとした。
ハウザーは振り向かずに、ウェル3行きのシャトル乗り場に向かった。
マーフィーはタワーズのマーセナリーオフィスでロビナと分かれ、ゴールデン・スピアの専用ドックに来た。
「おはようございます」
「おお、マーフィーか、今日からじゃったな、期待しとるよ」
マーフィーを出迎えたのは、カイヤン・ラシーム。ゴールデン・スピアのメカニックの責任者だ。
「僕が一番早いと思ったんですけれど、チーフはもうずっと前に来ていたみたいですね」
「わしは年寄りだからな、人より早く目が覚めてしまっての。じゃが、わしより早くここに来とった者もおるよ」
カイヤンはアサルトマシーン専用整備台を指差した。
「あの子は・・・」
「なんじゃ? もう顔見知りか」
「ええ、一度だけ・・・」
「それじゃ、フィヨリーナを手伝ってやってくれんかの? ちょっと変った子での、とっつきずらいかもしれんが、若いものどうし、仲良くやっとくれ」
「はい・・」
よりにもよって、最初の仕事はあの子の手伝いか・・・。
この前の一件もあるせいで、マーフィーがあまり元気が良くない返事をするのも、無理はない。、
マーフィーが近づいても、フィヨリーナは脇目もふらずに黙々と作業を続けている。このマシンはマーフィーとマリアで守った二機のうちの一機だ。
マーフィーは思い切って、フィヨリーナに声をかけてみた。
「フィヨリーナさん。マーフィー・ウォンです。作業を手伝わせてください」
「トカマク炉の臨界テストをやります。
セルフ(自立)モードにするためシステムをマニュアルでエンジンから切り離していますから、マーフィーさんは、私の作業の後をトレースして確認してください。
今、必要なデータを転送します」
フィヨリーナは自分の携帯端末からデータをマーフィーの携帯端末に転送した。
マーフィーはフィヨリーナがこの前の一件のことを、別に気にしていないようなので、少し安心した。しかし、このアサルトマシーンには疑問が残る。
・・まただ、どうしてメインシステムを起動しないのか・・? やはり危険だからだろうか?
。
またフィヨリーナは黙って作業に入る。彼女は無愛想というか、マーフィーと二人で作業していても、必要なこと以外は、まったく自分から口を開かない。
・・・表情やそぶりには出ていないけれど、やはり、僕のことを、不快に感じているのか?。
マーフィーはそれとなく、フィヨリーナに話し掛けてみることにした。
「フィヨリーナさんもメカニック所属なんですか?」
「いえ、違います」
「え、じゃあ、どうして、このマシンの整備をしているんですか?」
「これは、私のマシンです。それで自分で整備しています」
マーフィーは、一瞬、自分の耳を疑った。
「自分のマシンって、それじゃ、君は傭兵なのか」
「いえ、正確には、まだ候補生です」
フィヨリーナは相変わらず、抑揚のない口調で答える。
このアサルトマシーンは二機ともシャドウ専用じゃなかったのか?
「どうして? 君みたいな子が・・・」
「どうして・・・。私に何か問題があるのですか?」
マーフィーは、逆にフィヨリーナにそう問いかけられて、返答に困った。
フィヨリーナは無表情のまま、一旦、作業の手を止めてマーフィーを見るが、マーフィーが何も答えないと、また黙って作業を続ける。
・・・本当に、チーフの言うとおり変な子だ。何か出来の良くないAIと会話をしているような気分になる。もうこの後、どう話しかけていいやら。
マーフィーはとりあえずは、作業に専念することにした。
シャドウとロビナは重要な人物を接待するために、ウェル3の高級リゾートのゲストハウスにやって来た。
ロビナはVIPや名門の人間を接待するのを、よく任される。彼女の昔のオーナーはイオの財閥の名士で、彼女は礼儀作法から、ウィットに富むおしゃべり、ファッションから文学芸術まで、社交会のことを、完璧に仕込まれた。
「キャプテン! もう何度言ったらわかるんです。そのサングラスは外してください。相手に失礼な印象を与えてしまます。高級レストランなんかじゃ入れてくれないとこだって、あるんですよ」
「これは、外したほうが相手に不快感を与えるんじゃないかと思ってね・・」
シャドウはロビナに再三注意され、渋々サングラスを外す。
「そうそう、でもどうして、そんなに目をわざと細めるんです?」
「もう、長いことこれを、かけたままでいたものだから、まぶしくて」
「もう、みっともない。お客さまが来たら、ちゃんと、パチッと目を開いて、ニッコリいい笑顔ですよ、真心、それが接客の基本なんですから」
シャドウは接客にはめったに出ることはない。今回接待の相手は、木星圏最大の財閥、スピットローの御曹司、マーチン・デュワイデル・アーサーという人物だ。今回は先方のたっての希望ということで、シャドウもやむなく承諾した。
ゴールデン・スピアはスピットロー財団とアステロイド圏における保護及び反撃の請負契約を仮契約までこぎつけた。
つまり、アステロイド圏でスピットロー財団が攻撃されないよう保安を請け負うというもので、スピットロー財団にとって、アステロイド圏で商売を広げるための保険のようなものである。
この契約は戦闘がなくても継続的にゴールデン・スピアにかなりの利益をもたらす。
シャドウとロビナは広い庭園が見下ろせるゲストハウスのテラスで、白いテーブルに向
かって腰掛けて待っている。
「ロビナ、約束の時間を少し過ぎたようだけれど」
「ちょっとゲストの方が遅れてくるのが、木星圏では礼儀なんですよ。こういう場合」
それから時間が10分ほど経過した。
「おかしいなー? こんなに遅れるなんて、連絡もないし・・・」
ロビナは少し焦燥し始める。
テラスには木漏れ日が差し込み、爽やかな風に乗ってくる森の香りと、優しい小鳥のさえずり。シャドウは座ったまま、うつらうつらしている。
「お客様がお見えになられました」
ボーイに連れられて、美しい女性が一人テラスに出て来た。
「キャプテン」
ロビナに肘でつつかれ、シャドウが目を覚ます。
「初めまして、私は今回ホステスを務めさせていただく、ゴールデン・スピアのロビナ・ベアトリックス・ヤンセンです。こちらはゴールデン・スピアのキャプテン、シャドウ・エイブラムです」
「連絡もなく遅れて申し訳ありません。
お初にお目にかかります。私はマーチン・デュワイエル・アーサーの秘書を務めますエキドナ・サクリファスです」
エキドナはシャドウに歩み寄り、握手をする。
「非礼ながら、デュワイエル卿はもう少し遅れ、こちらに参りますので、後もうしばらくお待ちください」
エキドナはそう言うと、主を迎えに行くためか、一礼してテラスから出て行った。
「あのエキドナって人は美人ですね、キャプテン。特に、褐色の肌と白いドレスが、本当に良くマッチしていると思いませんか?」
「彼女はサイボーグだよ、ノーマと同じバイオパーツを多用したタイプ。握手してみて分かったけれどね。何かいやな予感がしてきた」
キーーーン 何かジェットを吹かしているような轟音が、テラスの真下から聞こえてきた。
「何なの!? この非道い音は!」
ロビナは我慢できずに、長い両耳を塞ぐ。
「ロビナ! しっかり僕につかまって!!」
シャドウはロビナを抱きかかえると、テラスから一気に飛び降りた。
「キャーー!!」
ズドオッドーン!!! 爆炎を吹き上げ、シャドウたちが今までいたテラスが吹き飛ぶ!
「走るよ!!」
シャドウはロビナを脇に抱えなおし、森の中に駆け込んだ。
「馬鹿め! そんなチビ助を抱えたまま逃げられるとでも思うのか、キリング・シャドウ」
燃え盛る炎の中から、エキドナが現れた。彼女はサイバーボディーに、ミサイルボットにマシンガン、飛行オプションまで装備したプロテクターを纏っている。
「キリング・シャドウも今日でデット・シャドウだ!!」
エキドナは背部のウウィングを開き、飛び上がった。
「クック、丸見えなんだよ!」
エキドナは赤外線アイに映った二人の人影に、ミサイルの照準をロックする。
シャドウとロビナは草むらに身を潜めている。
「ア~ン!!どうして、こんなことになっちゃったの~!!」
「これは、かなり巧妙に仕組まれた罠だったみたいだ、僕を暗殺するつもりか!?それとも・・」
キーーーン!!
「また来た!!」
シャドウはまたロビナを抱え、草むらから飛び出す!
ドッゴーンン!!
「キャー!!!」
草むらにミサイルが着弾し、爆風に煽られ、シャドウはロビナを抱えたまま草の生えた斜面を転がる。
ダダダダダダ!!!
そこめがけ、エキドナは機銃掃射をかける。
「チッ!!」
シャドウは体勢を立て直して一気に立ち上がり、不規則蛇行しながら、走って森の中に
突入した。
「チョコマカとすばしこい!! だが、反撃できまい」
エキドナは森の100メートルほど上空に滞空している。
「ロビナ! 君がいたんじゃ、反撃できない、どうせ僕が目標なんだから。僕が目立つようにあの女サイボーグを引き付ける、君はその間に逃げるんだ。君は足は結構早かったろう」
「分かりました、キャプテン。どうか、ご無事で」
シャドウは森の外へ、ロビナは森の奥へ、それぞれ反対方向に走り出した。
「おっ、二手に分かれたか、こっちに向かって来るのがシャドウか」
何を考えたのか、エキドナはシャドウではなくロビナの方に向かう。
「エッ? どうしてだ、あいつは僕が見えているはずだぞ!!」
ダダダダダ!!!
「ヒャーーーーー!!!」
ロビナめがけて機銃が掃射される。ロビナはその場に頭を抱えてうずくまる。
「ロビナ!!!」
シャドウは慌てて、引き返す。
「ハッハッハ、ハウザー様の言うとおりだ、連れの非戦闘員の方を攻撃すれば、シャドウはそちらを庇って反撃も出来なくなる。さあ、そいつを庇いながら逃げるがいい」
「大丈夫か!?ロビナ今は無理しなくていい! それにしても敵はこちらのことを、かなり知っているようだ、このままじゃ、まずいな」
「キャプテン、もういいです。わたしを置いて逃げてください」
「それが出来ないことを知っていて、敵は僕じゃなくて君を攻撃してくるんだ」
「なんだか、とても嬉しい、BHのわたしをキャプテンがこんなに命を張って守ってくれるなんて」
「僕はそんな差別はしないし、仲間は見捨てない」
・・・そういう意味じゃない方が嬉しいのにな。
ロビナは下を向く。
「こうなったら、とっておきの技を使うしかないな。ロビナ、頼みがあるんだ、君の体を少しの間僕に預けてくれないか、君の中に入る。憑依する」
ロビナは急にカーッと赤くなった。
「えー!!そんな、キャプテン!!わたしって、まだ経験ないんです。心の準備が!! でも・・・、キャプテンなら、わたしの操をあげても悔いはありません」
「ちっ! 違うんだ! ぜんぜん! 理解できないかもしれないが、そういう意味で言ったんじゃない!!」
シャドウは赤くなって、否定する。
「とにかく、時間がない! ロビナ、僕の目を良く見てごらん」
ロビナは大きく目を開いてシャドウの瞳を見つめた。
初めてこんな近くで見た。紫の瞳、なんて奇麗・・心が吸い込まれそう・・・。
森の上空ではエキドナが、シャドウたちが動きだしてから攻撃しようと待機していた。
「なんだ、動かなくなったな・・・。アン? おかしいぞ、シャドウだけが消えていく」
エキドナの目に映った赤外線映像からシャドウだけが次第に薄くなり、ついには消えてしまった。
「熱光学迷彩かそれとも!?」
エキドナは慌てて上空から、ロビナのいる地点に降りてきた。
ロビナは草の上に横になったまま目をつぶって動かない。
「このBH,気を失っているのか? シャドウは一人で逃げたというわけか。やむをえん。死ね」
エキドナはロビナにマシンガンを向けるが。引き金に指をかけず、銃をおろす。
「哀れなやつ、飼い主に見捨てられたか、見逃してやる、こいつを殺しても、もう意味が無い」
エキドナはロビナから背をむけた。
カサカサッ。
「いない!」
エキドナが振り返ると、もうそこにはロビナの姿はない。
ヒュン! エキドナの右腕に、何か糸のような物が絡み付く。
「貴様!!寝たふりか!?」
エキドナの正面に糸の端を持って、ロビナが着地する。
「クソッ!」
エキドナは左腕でそれを、振りほどこうとするが、ロビナは糸の端を指先だけの動きで素早く大木にからめる。
ビーン。 糸が突っ張り、エキドナの右腕が止る。マシンガンはこれで使えない。
「単分子ワイヤー!? 貴様、戦闘BHなのか!?」
エキドナ左腕から、電磁ナイフが伸びて、ロビナに突きこむ。
ロビナは、まるで猿のように身軽に、エキドナの腕の上に飛び乗り、単分子ワイヤーをからめ、自由を奪った。
「この距離ではミサイルは使えまい」
まるで、男のような口調でそう言うと、ロビナは次々に、ワイヤーでエキドナの自由を奪っていく。ついにエキドナはクモに捕らえられた獲物のように、がんじがらめになってしまった。
「フッフッフ、ミサイルが使えないだと、自爆覚悟なら使えるさ」
エキドナはロビナに向かって不敵に笑う。
「やらせない!」
突然、木の上から、シャドウが飛び降りきて、エキドナに突っ込んだ。
ドスッ! シャドウの人差し指がエキドナの乳房の下に突き刺さる。さらにシャドウはその指をぐるっと捻る。
「ウグワッ!!」
「エネルギージェネレーターを半壊した。生命維持装置には影響はないが、もう立っているのがやっとのはずだ」
シャドウはエキドナから離れ、二本の指でロビナの目蓋を閉じると、ロビナは気を失って倒れかける。
「すまなかった、ロビナ」
シャドウはロビナを優しく抱き上げた。
「君には質問したいことがある」
「私が質問に答えるとでも思っているのか、笑わせるな、さっさと殺すがいいさ」
エキドナはシャドウを鋭い目つきで睨みつけた。
「そうだろう、君ほどの戦士なら・・・」
シャドウは、おもむろにポケットからサングラスを出してかける。
「僕はもう行く」
「殺さないのか?なぜだ」
「それは、君がさっきこの子に言った言葉を、そのまま返す」
飼い主に見捨てられた哀れなやつ・・・。
「おのれ!!貴様!!ハウザー様を悪く言うのは絶対に許さんぞ!!」
エキドナは怒りに身を任せ、体を揺さぶり、単分子ワイヤーはさらに彼女の体に食い込む。
「ハウザー様って?」
「しまった!」
エキドナは慌てて口を塞いぐ。
「そうか、どうやら君は僕の足止めが目的だったようだね、ハウザーという人物は、君とともにこのジュノーにやって来た。何か別の目的で」
「クッ!!そんなこと知るものか!」
エキドナはシャドウから顔を背けた。
「まあいい、どちらにせよ、僕は連絡して、ウェル3のタワーズまで戻る」
「フン、馬鹿が、貴様はここからでは、タワーズには連絡もとれなければ、簡単に戻ることもできないはずだ」
「それは、どういう意味だ?」
「自分で確かめて見るといい」
「これは・・・???」
マーフィーは携帯端末を出して、タワーズにつないでみるが、全ての回線がエラー表示されてしまっている。
「ウェル2コロニー内も、特殊回線も全てアウトだ、ハッカー部隊も潜入しているのか? しかし信じられない、ここも、ウェル3もネットセキュリティーはアステロイド圏で最高のレベルのはずだ」
「フン、だから言ったろうが、貴様はしばらくこのウェル2からは出られないんだよ。これでもう私の役目は終わった」
「君たちは、タワーズを甘く見ているな。
僕やゴールデン・スピアがいなくても、今タワーズには、傭兵戦艦イーフリートが待機している。
キャプテンのフェノメナがいる限りタワーズが陥るようなことはない」
「我々を甘く見ているのは貴様の方だ。あの方はもうとっくに、タワーズに侵入しているころだろうよ。
タワーズに今いる兵たちでは、あの方を防ぐことは無理だ。ハッハッハ、ここのネットワークシステムが回復して、貴様が連絡をとったとしても、何とか無理にウェル3に向かったとしても、全て終わった後なんだよ」
・・・タワーズに今残っているスペシャルクラスの傭兵・・・。
イーフリートのキャプテンフェノメナとセブンシスターズ。それと、
ゴールデンスピアのノーマとレイモンド。彼らでは手におえない敵。僕だけを恐れ遠ざける者。
「まさか・・・。ハウザーという人物はアースユニオンのインスペクター・オブ・トウェルブの一人なのか!?そしてその目的はあの新しい二機のアサルトマシーン」
シャドウの表情から余裕が無くなる。
「フッ、どうかな」
「とにかく、僕はもう行かなければ」
「ハッハッハッ!せいぜい無駄な努力をするがいい! 私を殺さなかったことは、後で後悔させてやる」
シャドウはロビナを抱えて、ウェル2にあるタワーズのパニックセンターに急いだ。
パニックセンターは人知れない廃屋の地下にあった。
「くそう! ここのシステムまで外部から強力なハッキングを受けて、自閉モードになってしまっている。タワーズとの直接回線もつながらないぞ!」
どうすれば、タワーズに知らせなければ・・・。あのアサルトマシーンを奪われるわけにはいかない! だが、フィヨならなんとか出来るかも。
「もうこの手段しかない・・・」
シャドウは机の上にあった、カッターナイフを手に持って自分の腕に突き立てる。
「クゥッ・・・、これだと、痛覚を遮断できない。フィヨ、痛いだろうが、許してくれ」
シャドウは何と、自分の腕にメッセージを刻み始めた。




