コロニーでの激闘 その1
VIPルームでは、入り口にバリケードを築き、五名の警備兵がニ体のパワードスーツと交戦を始めていた。
「他の警備兵は、どうなっているのかね!」
グリーン・サイトのマーカス首相が、床に這いつくばったまま秘書官に訊ねるが、そのようなことは秘書官が知る由もない。
拳銃と防弾チョッキのみのSPたちも役に立たない。
「タクッ! どうして警備をこんなに甘くして、その上、こんなチャチな銃しか持たせなかったんだ! そのせいで他の警備兵は、ほとんどやられたか逃げちまってるぜ」
秘書官に代わって、重装警備兵がマーカス首相に答える。
重装警備兵といっても、パワードスーツ等とは違い、動力がまったく付いていない。VIPのための動く弾除け、鎧そのものだ。
「君は女性か? そんな重いものを着てよくやるな」
重装警備兵は、全身の重装備のため、体形はおろか、顔も性別も見分けが付かない。その兵士は声で女性であることが、かろうじて分かる。
「いったい誰の差し金で、こんな警備体勢になったんんだ!?」
女兵士が厳しい口調で首相に訊ねた。。
「直接の責任者は、警備局長だが、警備をこのように指示したのは、副首相と聞いている」。
「今回のこの講和会議は、国民の平和の願いがこめられている。それは平和の祭典として演出しなければ、国民も納得しない。ものものしい警備や、強力な火器を用意したのでは、まるで、この会議が決裂して、戦争がまた始まるような印象を与えてしまいますからな」
部屋の隅の方で縮こまっていた副首相が、女兵士に弁解がましく話した。
「その結果がこの様だ! 政治家ってやつは、体面ばかり気にして、リスクをまったく理解してない!」
女兵士のぞんざいな口調に、副首相は腹を立てたようだ。
「失敬な! 君は一兵士のくせに、この副首相の私に説教するつもりか!」
ズドッズドドドッド!!
銃声がかなり近くにせまってきた。
「ルー、もう前衛が突破される。徹甲弾がある。おれが出ようか?」
バリケードごしに外を覗いていた兵士が、抑揚の無い口調で女兵士に訊く。
「いや、アッシュ、あたしが行くよ! もう、この暑苦しい重装備にうんざりしてたとこだ」
ルーと呼ばれた女兵士が、ガントレット(鉄甲)を手から外すと、銀色の薄い毛におおわれた地肌が現れた。
「慣れてないから、これを着るのに10分もかかった」
女兵士のその手から、ニュと爪が伸びる。
バリ、ビリビリッ! あろうことか、ルーはその爪で、強化ケプラー繊維の重装を引き裂き始める。
ルーは身につけていた重装備を、すべて脱ぎ捨てた。彼女は赤茶色の迷彩色のタンクトップだけを身につけた、軽装になる。
「き、君はBHなのか!!?」
首相は、驚いてルーを見据える。
ルーの全身は銀色に輝く薄く細かな体毛が、均整の取れた美しいボディを覆っている。尖った耳に、縦に割れた虹彩。容貌は猫科の動物を思わせる。
「そうだ、あたしは戦闘BHだよ、そして、傭兵さ、ソフィア・ダイソン女史に感謝するんだね」
ルーは首相を一瞥すると、バリケードを飛び越え、ダッ!とものすごい勢いで側面の壁駆け出した。
「ウラァァァァァ!!!」
ルーは一体のパワードスーツに、真正面から飛び込む!
パワードスーツは銃を構えるが、引き金を引くのが間に合わない!
ドシャッ!!! ドッガラガラ!!!
パワードスーツはルーの体当たりをもろに喰い、壁にめり込んだ!
「オラ!オラ!オラ!オラッ!」
ルーは馬乗りになって、そのパワードスーツをしこたま殴りつける。
パワードスーツの装甲が、殴られる度にボコボコにひしゃげていく。
「化け物め!」
もう一体のパワードスーツが背後から、ルーを狙う!
ズダダダッダッダ!!
パワードスーツの銃撃より一瞬早く、ルーは後ろ向きのままジャンプして、後方宙返りで、もう一体のパワードスーツの真後ろに立った。
「ウワッ!何だ、どうした?!」
パワードスーツの中の男は、脚が地面から離れていくのに戸惑う。
ルーは200キロ以上もあるパワードスーツを、後ろから抱きかかえるようにして持ち上げた。そのまま、バックドロップの体勢で頭から床に叩きつける!
ドガッ!!
大理石の床が直径2メートルも陥没し、パワードスーツは逆さまのまま床にめり込み、動かなくなった。
「ルー、すんだのか?・・・」
ルーの前にシャドウが駆けつけて来た。
「シャドウか。ああ・・・。チョット遅かったな」
「すまない。少し手間取った」
ピーピーピー!
シャドウとルーの無線の呼び出しシグナルが鳴る。
「ティロール、どうした!?」
「シャドー、新手だ! パワードスーツの飛行オプション装備したやつが、5機そっちに向かってるぞ、あと30秒で首相府に突入する」
「この装備じゃ、苦しいな」
「とにかく、無線で誘導するから、首相たちをシェルターまで避難させてくれ」
「了解」




