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星屑の傭兵  作者: 磯野海月
第2章
15/41

エリクサーの戦闘

小惑星T-623の周囲を完全に取り囲んで、蟻の這い出る隙もなく、50機のバブルス(自動攻撃衛星)が、配置されている。

その外側には、3機のアサルトマシーンが、お互いの死角をカバーするように待機していた。


「第18区画の第7エアロック上空へ急行、そこで待機か・・・。ついに、目的のアサルトマシーンが動きだしたな」

「こちら、カーマイン機。中尉、バブルス(自動攻撃衛星)の配置はどうしますか?」

「念のため、現状のままでいい。陽動作戦の可能性もあるからな」


 その時、急に切迫した声で、ミダス機とカーマイン機の通信の間に、緊急コールとともに、アイボリー機の通信が入ってきた。


「こちら、アイボリー機! たった今、第3区画上のクレーターで爆発が!・・・。あれは!!・・・・・・・・・・・・」

「どうした!!アイボリー機!応答せよ!」

「ザーーーーーー」


ミダス中尉の呼び掛けに、モニターに映っていた、アイボリー少尉のポートレートも消えて、アイボリー機の応答はまったく無くなった。


「通信不能か!アイボリー機のマーカー(識別信号)も消失だと!やられたのか!?」

ミダス中尉は慌てて、母艦のスカッツに通信をいれた。


「こちらミダス機。スカッツ応答願います!第3区画クレーター上空で、アイボリー機のマーカー消失! 何があったのか教えてほしい!」

「現在確認作業中! 第3区画上空で戦闘が開始された模様! バブルス(自動攻撃衛星)が次々と破壊されています!」

「敵はいったい何だ! 至急、情報をくれ!至急だ!!」

「敵はアサルトマシーンのようです。機種を現在確認中」

「アサルトマシーンだと!! どこのマシンなんだ!? まさか・・・・・・」


母艦のスカッツでは、アサルトマシーンからの突然の攻撃、という恐れていた事態に、ボルツ艦長らは焦っていた。

「アサルトマシーンの機種と所属は、確認できたか!?」

「機種、所属ともに判明しました。該当のアサルトマシーンは、プロトタイプ、傭兵国家タワーズ所属、傭兵戦艦ゴールデンスピア三番機エリクサー(賢者の石)です。

パイロットはセデーロ・アデブロス。スペシャルクラスです」

「そこまで言わなくとも、分かっている!!」


ボルツ艦長が、オペレーターを大声で怒鳴りつけると、ブリッジ内は、少しの間、静まりかえった。


「撤退だ」


ボルツ艦長は制帽のつばをぐっと下げると、ぼそっと呟く。


「今、なんとおっしゃったのですか?」


副官はよく聞きとれなかったらしく、もう一度訊いた。


「だから、撤退と言ったんだ」

今度は、はっきりとボルツ艦長の声は聞き取ることができて、ブリッジ内はざわめく。

「艦長!まだ戦闘の結果も分からないうちに撤退とは?」

「戦闘の結果が、分かってからでは遅い! 被害が最小限のうちに撤退する!」

「AIの予測では、こちらの現戦力では50%の確率で勝てる。と出ていますが?」

「デイツ副官!」

「はあ、なんでしょう?」

「君はここに来る前は、第127艦隊、月基地所属だったね」

「そうですが・・・」

「君は、スペシャルクラスの傭兵の恐ろしさを、まったく分かっていない。以前、君がいたところまで、敵が攻めてくるようなことは、絶対にありえないからね」

「そうおっしゃられても・・・・」


「いいかね、実戦において、AIの確率予測など、ほとんどあてにならんのだ。

とくにアサルトマシーンでの戦闘においてはな。スペシャルクラスの傭兵が相手なら、こちらの勝つ確率がたとえ99%でも、実際はどうなるか分からない」


「では、艦長はこのままでは、我々は負けると?」

「そうだ! 私の予測では、我々の戦力では100%負ける。間違いなく全滅だ。相手があのバロンではな」


通信オペレーターが、絶叫とともに、カーマイン機の最後の通信を受信した。

「艦長!カーマイン機が撃墜されました!マーカー消失」

「そういうことだ」

「・・・・・・・」

副官は額から脂汗を流しながら、もう何も言わなかった。


「ただちに、この空域から離脱する! 反転最大加速」

「ミダス機の回収はどうしますか?」

「ミダス機は本艦の盾になってもらう。彼なら少しは時間かせぎになるだろう。全力で戦え、と言っておけ。以後、ミダス機との通信はすべて遮断しろ」

ボルツ艦長は通信オペレーターに、淡々とした口調で命令した。


ミダス中尉のアサルトマシーン・オーガンは、母艦のスカッツから、全力で敵アサルトマシーン、エリクサーを撃破するように指令を受けて、戦闘空域へ急いだ。


「エリクサーのバロンか!いいだろう。やってやる」

おれが同期随一と言われているのは伊達ではない! 今回のミッションも、その能力を買われての抜擢だ! 今回の手柄をステップにゆくゆくはスペシャル・ガーディアンズ入隊を狙ってやる。


バロンはエリクサーで次々とバブルスを掃討しながら、アースユニオンの小型高速戦艦スカッツの動向に、注意を払っていた。

「ボルツめ!やはり逃げ出しおったか・・・」


エリクサーのレーダーのレンジから、スカッツは急速に離脱しつつある。

「オーガンは置き去りか、ボルツらしい」

バロンは気を取り直して、作業に近い戦闘を続けた。

エリクサーは、二つの四角錘の合わせ目が左右にスライドし、そこからドラムのように回転するガトリングレールガンを発射し、バブルスを粉々に粉砕する。


バブルスの攻撃はAIのコントロールによるもので、正確であっても、その動きは教科書通りで、予測は容易だ。

それ以外の二機のオーガンも不意を突いて、一撃で仕留めている。

「あと残るは、バブルス12機とオーガン一機か。これなら予定よりも早く終わってしまいそうだな」

バロンは残弾数を確認した。


「おっ! 最後のオーガンがやっとおでましか。母艦に見捨てられたのに戦意を失わなかったようだな」

ミダス中尉の操縦するオーガンが、コロニーの外殻をぎりぎりに飛行し、大型の作業用クレーンの影から飛び出してくる。


「もらった!!」

オーガンのレールガンは、バロンのエリクサーの背後から、完璧に防御シールドのブレイクポイントに、ヒットしたかに見えた。


「何!!」

エリクサーはオーガンの一撃を、なんなくバリアーで弾いた。しかも、今まで機体の後部だと思っていた方向を前にして、オーガンに突っ込んでくる。


「まずい!」

ミダス中尉はオーガンを急速右転させ、それを回避しようとするが、

「なんだと!!!」

何とエリクサーは今度は更に、その動きに合わせて、30度の鋭角バックターンをやってのけた。


「ど、どういう構造をしているんだ!あのアサルトマシーンは!」

ミダス中尉は、エリクサーの異常な運動性に、舌を巻いた。


 バロンの操縦するアサルトマシーン・エリクサー(賢者の石)は、かなり特異な構造を

している。

それは、一言でいうと、機体に方向がない。とでも言おうか。エリクサーの機体は、前後左右上下どの方向にも、火器やバリアー、プラズマ推進用のノズルを、開放することができる。

無論このような、機体を操縦することは、並み大抵のことではできない。スペシャルクラスの傭兵・バロンだからこそ可能なのだ。


 エリクサーはオーガーンの機体に寄り添うように、飛行すると、四角錘の頂点をオーガンの機体の真上に、突きつけるような形で、停止する。

距離は1メートルほどだろうか、お互いの防御シールドが干渉を起こして。閃光が飛び散る。

だがこれでは、あまりの近距離のため、お互い攻撃はできない。

「ちくしょう! 遊んでいるのか、バロンのやつは!」

オーガンはエリクサーを振り切ろうと、必死に機体を操る。とんぼ返り、錐揉み、メビウス捻り、なにをやろうとも、エリクサーとオーガンの相対位置関係は変らず、まるで見えない部品で固定されたように、くっついて離れようとしない。


「くそー!いいかげんに、しろ!!」

ミダス中尉はもう、いいかげんゲンナリしてきて、戦意が萎えかかってきた。


そんなおり、エリクサーから通信コールが入ってきた。

「話しがあるだと!?」

ミダス中尉は困惑した。


宇宙の戦場で戦っている敵と、個人的に会話をすることはまずない。アースユニオンの兵士なら、なおさらだ。 もし、あるとすれば、挑発か交渉のためだけだ。


「聞いてやる! このおれをなめやがって」

ミダス中尉が通信回線を開くと、バーチャルモニター(網膜投影装置)にバロンの顔が映しだされた。


「君がオーガンのパイロットかね?」

「そうだ! 名は名乗らないぞ」

「別に結構だ。私はご存じかもしれないが、セデーロ・アデブロス。ゴールデンスピアのパイロットだ。二機のオーガンに乗っていた君の仲間には、気の毒なことをした」

「そんなことを、わざわざ言うために、通信回線を開いたのか? 前置きはいい!何が言いたいんだ!」


「では、単刀直入に言おう。降伏したまえ。もう君には勝ち目はない。母艦も君を置いて、逃げて行ってしまったのではないかね」

「断る!! まだ負けたと決まったわけではない!」


ミダス中尉はバロンの申し出を、激しく拒否した。

「よく聞きたまえ。君をスカッツのボルツ艦長がここに残した、ということは、君に死んでもらためにやったことなのだよ。

この空域では条約上アースユニオン軍は活動できないことになっている。

もし、君が生き残って部隊に帰還できたとしても、機密保持のために処分されるだけだ」


「そんな、馬鹿なことはない!貴様!おれを捕虜にして、何かに利用でもするつもりなんだろう!?」

「そうではない!私が仕留めたかったのは、スカッツのボルツ艦長のほうなんだよ。君らではない。

彼は汚れ仕事ボルツ中佐と、われわれの間では呼ばれていてね。君は知らないだろうが、アースユニオン軍で裏の汚い仕事を専門にやっている男なんだ」

「そんなことは、もうどうでもいい! おれは貴様を、ただ!ただ!倒したい! それだけで、十分だ」

「どうあっても、だめかね。やむをえない、なら、戦士として礼をつくそう」

バロンは通信を切って、オーガンから離れた。


エリクサーは、オーガンの様子を見るためだろう。先に攻撃を仕掛けてはこないようだ。

ミダス中尉には勝算とは言えないまでも、うまくいけば、エリクサーを圧倒すことができるかもしれない切り札があった。

「これがあれば、やつにひとアワ吹かせてやれる!」

ミダス中尉がダッシュボードから取り出したのは、一枚のメモリチップだ。

これにはバブルスのプログラムを変更して自由に操るためのコードが、記録してある。

これは友人の技術者とともに極秘に、ミダス中尉が開発したものだ。

「これさえあれば、バブルスの性能は数倍にもなる。おれはこれを自在に操るために、特訓もしてきた」

ミダス中尉はメモリチップを装置に挿入すると、バブルスにリプログラムのコマンドを送る。


「バブルスをうまく使うつもりか?」

エリクサーではバロンがすでに、バブルスの行動パターンの変化に気がつき始めていた。

「全部で残り12機、さて、どう出てくるか」


オーガンの周囲に12機のバブルスが集まり始めた。そして次第にオーガンの前方に楔型に整列しはじめる。

「P12LZ05」

ミダス中尉の口頭コマンドで、バブルスの速度が急激に上昇する。


「ホウ、オーガンのパイロットもやるな! プログラムを変更しただけで、これほどの性能を引き出すとは、大したものだ」


「どうだ、これで、バブルスの速度は8倍以上だぞ! エンジンをオーバーランニングさせたから5分しか保たないが、エリクサーを倒すのに、5分もあれば十分だ」

バブルスは複雑な連携を取りながら、エリクサーに攻撃をしかける。


 その隙を狙ってオーガンが、攻撃する。巧妙な波状攻撃だ。

「これなら! やれるかもしれない!」

オーガンとバブルスを操りながら、ミダス中尉は思わず叫んでいた。

バロンのエリクサーは防戦一方に見える。

バブルスはエリクサーの周囲に、獲物を襲うピラニアのように執拗にまとわりつく。

「この速度では、バブルスを振り切れまい!貴様のエリクサーは運動性は恐ろしいほどだが、加速能力はそのノズルの付きかたでは、大きく見積もっても、このオーガンと同じくらいだ」

ミダス中尉はにやっと、口元を緩めた。


「これは、かなり騒々しくなってきたな。バブルスがこの速度だと、オプションなしでは振り切るのは難しい。と言ったところか」

バロンはまったく慌てる様子もなく、敵の攻撃に感心している。


「さて、十分に彼の相手もしてやれたし、残して来たマリアたちも心配だ。そろそろお開

きといこう。それでは、ご褒美に、私の得意技を見せてあげるかな」

バロンはコックピットの右下の赤いレバーを引く。


このシステムのロックは、バロンの趣味で手動解除になっていた。

「では! スパイラルトルネード発動!」

エリクサーは、その機体をまるで独楽のように回転させ始める。


「なっ!何だ!あれは!」

ミダス中尉はバーチャルモニター(網膜投影装置)に映ったエリクサーの様子を見て、何が起きたのか理解できなかった。

エリクサーはさらに回転を早め、その周囲の防御シールドは竜巻のように渦を巻き始める。


そのストームに巻き込まれ、バブルスは次々と爆発していく。

10秒ほどでバブルスは全滅してしまった。

オーガンは、AIの戦闘ナビゲーションの音声ををOFFにしているため、バーチャルモニター(網膜投影装置)の下に『敵急速接近』のテロップが文字だけが流れている。、

呆然とモニターを眺めているミダス中尉は、竜巻の中心にはすでにエリクサーの姿がないことに、気付かなかった。


ゴオン!!

オーガンの機体に、何か接触したような大きな金属音が響く。

「ワッ!」

ミダス中尉はその音で、我に還った。


「何が起きた!?」

モニターにはすでにエリクサーの姿はない。


「状況分析」

ミダス中尉はAIに口頭で命令する。

『メイン動力破損。出力3%。敵距離0メートル』


バーチャルモニター(網膜投影装置)に現状が表示される。

「敵距離0メートル!!!?。接触したのか?」

『メインエンジン停止。回路予備電源切リ替エ』

機内がオレンジ色の照明に切り替わる。


「やあ! 面白い勝負だったね」

通信回線も開いていないはずなのに、突然、バロンから音声通信が入る。


「マシンのシステムを、ハックしたのか!?」

「まあ、そういうことだが・・・、君のオーガンはもう戦闘能力はない。私のエリクサーが、オーガンの機体に突き刺さっているからね」

「いつの間に!?」

{さっきの、金属音がそうだよ」


オーガンは加速してはいなかったものの、エリクサーとの相対速度はかなりあったはずだ。そこに、相手の機体を手加減してこんなことをするのは、どんな精密な自動制御でも不可能に思えた。人間技ではない。

「おれの負けだ! 殺せ・・・」

ミダス中尉は、がくっとうなだれる。


「無益な殺生はしない主義でね。君はなかなか見所があるようだ、鍛えればまだまだ伸びると思うよ。いつでもリターンマッチを受けてあげるから、精進したまえ」

バロンの通信はぷつっと切れた。


「くそぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!覚えていろ!!!いつか!いつか!必ず貴様を倒してやるからな!!!」

オーガンのコックピットの中で、真空の宇宙空間まで響きそうな声で、ミダス中尉は咆哮した。


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