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星屑の傭兵  作者: 磯野海月
第2章
14/41

バロン

マリアとマーフィーは、ドックのコントロールルームにたどりつくと、ゲートを閉鎖しドック内部に空気を入れた、

ドック内に空気が十分行き渡ると、通路を遮断していた隔壁が自動的に開く。

「さあ、急ぎましょう」


二人はその場に宇宙服を脱ぎ捨てると、コントロールルームを後にした。

マリアとマーフィーが輸送船を見下ろすテラスにさしかかると、マーフィーは、何か、いやな気配を感じて立ち止まる。


「また会ったな」

「ジャッカル!?」

先を急ぐマリアとマーフィーの前に、突然、物陰からジャッカルが現れた。

「そんな!いったいどうやって!?・・・」

マリアとマーフィーは、その場に凍り付いたかのように立ちすくんだ。


「後ろのガキは、お前の男か!・・・グハハハ」

 ジャッカルは、下品な声を出して笑った。

すると、横の通路からもう一体、別の戦闘サイボーグが現れた。少し図体の大きい、力のありそうなやつだ。

「止まらないと撃つわよ!!」

マリアはサブマシンガンを正面に構えた。

今度はきちんと安全装置をはずしてある。


マリアもマーフィーも、銃撃戦の経験はまったくない。

唯一の救いは、さきほど飛ばされてしまったのか、敵が二人とも銃を持っていないことだ。

「お前は女のくせによくやった。


誉めてやるぜ、だがな、運がなかったようだな。

おれたち二人はなんとかそこらへんにつかまって、飛ばされずにすんだのさ。

その後たまたま気密ハッチが空いていてそこに逃げ込んだのさ」


「いい気でおしゃべりするのも、それくらいにしたら! こっちが女と子供だと思って、なめてかかっているようだけれど、銃にはすべて高性能徹甲弾が装弾してあるんだから、当たればサイボーグのあなたたちだって、ただではすまないはずよ!!」

「そう、当たればな。当たればの話しだ」


ジャッカルは、じりじりとマリアとの間合いを詰めていく。

「いけ! ヘッケル」

ジャッカルが叫ぶと、横にいたもう一体のサイボーグがその大きい図体からは想像できないような早さで、飛び上る。

マリアはとっさに飛び上がったサイボーグを追い、銃口を上に向けた。


次の瞬間ジャッカルの左手の甲がパカッと開いて、ワイヤーが付いたアンカーがマリアに向けて発射された。

「アッ!」


マリアはサブマシンガンを盾にしてそのアンカーを防ごうとしたが、ワイヤーがサブマシンガンに絡み付き、ジャッカルに奪い取られてしまった。


「マリアさん!」

後ろからマーフィーがマリアを援護しようと拳銃で、ジャッカルを狙った。

「お前の相手はおれだ」


着地したもう一体のサイボーグがマーフィー前に立ち塞がった。

「じゃまだ!」

マーフィーはジャンプすると、左手をサイボーグの背中に突いて、まるで跳び箱を飛び越すようにして、サイボーグの背後に着地した。


「くらえ!」

ドンドンッドンドドンドンッ!

マーフィーは正確にジャッカルの頭部めがけて、数発の弾丸を打ち込む。

しかしジャッカルはしっかりと両腕で頭部をガードしている。


「クソッ!」

マーフィーが再び銃を構えようとすると、ゴスッと後ろからもう一体のサイボーグに殴り飛ばされその勢いで、マーフィーはジャッカルの前まで転がった。


ジャッカルは倒れているマーフィーの首を右手でをつかむと、ネックハンギングの体勢で高々と持ち上げた。

「あの女同様、いい根性したガキだ! 生憎、おれの腕は特殊合金製でな」

マリアは作業衣のポケットからもう一丁の拳銃を取り出すと、ジャッカルに向けた。

「彼を放しなさい! さもないと撃つわ!」


ジャッカルは片手高く掲げたままマーフィーをリフトの脇から外に突き出した。

下はドックの床までゆうに50メートルはあるだろう。

マーフィーは締め付けるジャッカルの指からのがれようと、足をばたつかせてもがいている。


「さあ、撃ってみろ! だが、おれを撃てば、このガキはこのまま真っ逆さまだ。ここは1G重力がかかっているからな。この高さで落ちれば、まず命は無い」

ジャッカルは勝ち誇ったかのように、マリアを見下ろした。


「わたしにどうしろって言うの?」

マリアはがくっとうなだれ、銃を下ろした。

「よし!物分かりのいい女だ。まず銃を捨てろ。そしてアサルトマシーンの本当のありかを教えてもらおうか」

マリアはジャッカルの足元に拳銃を投げた。


「アサルトマシーンはこの第18区画のはずれのジャンク置き場に、キャリアに積んだ状態で、周囲にジャンクをくっつけて、偽装して置いてあるわ」

「よし、信じてやるとしよう。

だがな、おれも自分のかわいい部下を、何人もお前たちに殺れたんだ。この始末は、どうつけてくれる?」


ジャッカルはマーフィーをさらに高く掲げると、マーフィーをつかんでいる指を小指のほうから開き始めた

「約束とちがうじゃない!彼を下ろして!」


「約束だ・・・?。人をはめておいて、よくそんなことが言えたものだ」

「お願いだから!彼をマーフィーを助けて!助けてくれれば、わたしはどうなってもいい!!」


「ほぉ・・・。これは面白い。なら、何かやってもらおうか」

そう言いながらジャッカルは薬指を離す。

「そうだな・・・。たとえば、お前がこいつの代わりに、ここから飛び降りるとか・・・」


「彼が助かるなら、それでも構わない!」

マリアは手すりから身を乗り出す。

「マ・リ・ア・さん・・・やめるんだ・そんな・・ばか・なこと」


マーフィーはジャッカルに首を吊り上げられたまま、苦しげに声を絞り出している。

馬鹿なこと・・・。そうかもしれない・・・。

どうせマリアが飛び降りたとしても、マーフィーも殺されるだろう。もう選択肢がない。


 マリアはもう迷う余裕すらなかった。

「さあ!どうするんだ!このままだとこいつはもう後がないぞ!」

ジャッカルはさらに中指を離す。もう一本離せばおしまいだ。


マリアは手すりからさらに乗り出すと、目をつぶる。

 みんなさよなら・・・。

マリアがさらに前方に乗り出そうとしたその時。


「でやーっっっ!!!!」


 マーフィーは自分の首をつかんでいるジャッカルの腕を軸にして、グルッと回転すると、その勢いでジャッカルの顔面を蹴りつけた!

「このガキー!」


マーフィーの蹴りの反動でジャッカルの指が外れ、マーフィーは空中に投げ出される。


「マーフィィィィィィーッ!!!!」


マリアは悲痛な叫び声をあげた。

マーフィーは自分の体が落下していくのを、まるでスローモーションのようにゆっくりと感じた。


僕は死ぬのか・・・?。

マーフィーが空中に投げ出された瞬間から、彼の体感時間が急激に延長されすべてがスローモーションのように感じられた。


マリアさんは、この場を切り抜けられるだろうか。

マーフィーはそのまま徐々に意識が薄れてきた。

ありがたい・・・。

床に叩きつけられる前に気を失えば、痛みを感じることはないだろう。


おかしな表現かもしれないが、マーフィーは自分の意識が完全になくなったと自覚した瞬間、マーフィーの眼前に、突然、広大な宇宙空間が広がった。



ここはどこだろう・・・。

死後のの世界か・・・。

いや違う・・・。

ここは宇宙の戦場だ。


きらめく星をバックに、無数の光の束が行き交う。

あちこちをまるでイルミネーションのように、爆発の光がまたたく。

美しい・・・。


この光のまたたき一つで、何人もの命が、この宇宙で消えていく。

人の命を奪っているはずのこの光が、こんなに美しいなんて・・・。


いやちがう・・・。

この光一つ一つが命の輝きなんだ・・・。

燃え尽きようとする命の・・・。

振り返ると今度は地球が見える。青く澄み切った海。その周囲ぼんやりと優しく包む大気。なんだかとても懐かしい。


これが本当に自らの命で息づく惑星、地球・・・。


突然、また周囲の景色が変わった。

ここは・・・。

周囲は透明なチューブが複雑に絡み合い、無数のクリスタルに接続している。それは光ファイバーではないようだ。虹色の光の滴が行き交っている。


「マーフィー」

だれかが僕を呼んでいる。

女の人の声だ・・・。

すごく懐かしい、暖かい響き。


「マーフィー」

だれなんだ?・・・。

中央の巨大なクリスタルが迫り出してくる。


その中には女の人が・・・。

美しい。

なんんて美しい人だ・・・。

その顔は、どこかで見た・・・。

いや、・・・ずっと見ていた。

だれだっかのか思い出せない。


「マーフィー。とうとうあなたはここまで来てくれたのね・・・・。私はずうっと待っていた」


 いったいだれなんだ・・・。

思いだせない・・・。

優しく微笑むその笑顔そのなかに、底知れない悲しみを秘めているような・・・。


「私はうれしい。あなたと再び会うことができて。さあ・・、マーフィー今こそ、今こそ私を殺しなさい」


「なぜだ?どういう意味だ」


  マーフィーは大きな声で叫んだ。

気がつくと、マーフィーの体は後ろから大きな腕にがっちりと受け止められ、宙にぶら下がっている。

ドシッ!!下を見ると、マーフィーの代わりにパネルが落下して、床に叩きつけられた。


「だいじょうぶか、少年・・・。君の勇気には感心したよ」

マーフィーを受け止めてくれたのは立派な体格をした中年の紳士だ。


後ろから抱きかかえられるような体勢で、顔を見ることはできないが、太い筋肉質の腕と、野太い良く通った声でそれが分かる。


「あなたは?・・・」

「私かい。私はマリアの友人さ」


さっきの光景はすべて幻覚だったのか・・・。

マーフィーは意識が徐々にはっきりしてきた。


「それよりも、この状態をなんとかせんとね・・・。腕が疲れてきた」

中年の紳士は、マーフィーを抱えている方と反対の腕に付けている腕時計に向かって、小さな声で囁く。


「ロールアップ」


腕時計にしこまれたワイヤーリールが自動的に巻き上げられ、二人は少しづつ上に登って行く。


「君は、マーフィー君だったかね?」

「そうです」

「私の胸のガンベルトの銃を取ってくれ」


マーフィーは中年の紳士のガンベルトから銃をはずした。拳銃だが、かなり重い。プロトタイプの物だろう。

「これ?」


「いや、ちがう。私に渡されても困るよ。私はこのとおり両手が塞がっている」

「じゃあ、僕が?・・・」

「そうだ。もうすぐ、やっこさんが下の方を覗くだろうから。君はその時にこれでやつの頭を撃つんだ」


ジャッカルは下に落ちてしまったマーフィーの事など気にしないで、マリアをどう料理してやろうか、思案の真っ最中であった。


「お前の連れは、自分からくたっばってしまったな。嬉しいだろう・・・。男がお前のために死んだんだ。女冥利に尽きるというものだ」


マリアはマーフィーがドックの床に、叩きつけられた音を聞いたと思った後から、茫然自失してしまって、声も出ない。


「あまり時間はかけられないが、お前をこれから、どういたぶって殺してやるかな・・・」

ジャッカルはマリアの髪をつかんで、彼女を立たせた。


「マリアさーん!」


死んだはずのマーフィーの声が突然!下から聞こえて来た。


「マーフィー!!」


マリアの瞳は輝きを取り戻し。涙があふれだした。

「なんだと!あのガキくたばってなかったのか!」

ジャッカルは手すりから乗り出して下を見る。

「しまった!!」


ワイヤーでぶら下がった男に抱えられたマーフィーが、銃をこちらに構えているのが、ジャッカルの目に飛び込んで来た。

ズドンッ! 一発の銃声がドックに響くと、ジャッカルの頭部が半分吹き飛ぶ。


「ジャッカルの旦那!!」


手下のサイボーグがジャッカルに駆け寄るが、ジャッカルは手すりに依りかかったまま脳味噌を飛び散らせ完全に事切れている。


「やべーぞ!!」


もう一体のサイボーグが逃げようとすると、後ろから頭に銃を突きつけられる。


「動くな!」


サイボーグの後ろにはマーフィーと中年紳士が立っていた。


「バロン!!!」


マリアは中年紳士の名をそう呼んだ。

マリアはバロンに駆け寄ろうと立ち上がる。

すると、ふいに横からもう一体の戦闘サイボーグが飛び出して来た。


「危ない!バロンさん」」

「くたばれ!!!!」


後ろのやつが、右腕に装着しているナイフを突き出して、バロンに突っ込む。


・・・しまった! 撃てない!

マーフィーは銃を構えるが、この角度からでは、マリアに当たる危険がある。


「とぅ!」


バロンはそれを後ろ向きのまま、体勢を低くして受け止めると、その勢いを利用して、その右手をつかんだまま、サイボーグの体を前方に放り投げた。


 サイボーグの体はテラスの手すりを飛び越え、ドックの下に落ちていく。

ドッシャ! サイボーグはスチールの床に叩きつけられた。


「ヤローー!よくも!!!」

もう一体のサイボーグが、金属製のウデを振り上げバロンに襲いかかる。


「ほい!」

バロンは難無くそれをかわすと、チョイともう一体の足元に自分の足を突き出す。


「ワッ!」

もう一体はバロンの足につまずき、前のめりに倒れる。


「ホッ!」

バロンは倒れたもう一体の後頭部に、掌底打を軽く一発打ち込む。


ゴーンと鐘の音のような金属音が響くと、サイボーグは白目を剥いて動かなくなった。


この間わずか5秒ほどで、バロンはニ体の戦闘サイボーグを、いともたやすくかたずけてしまった。

「すごい!」


マーフィーはあっけにとられて、バロンの闘いを見ていた。

バロンは自分の立派なカイゼル髭を指で扱く。


「マリア、間に合ったようだね。無事でなによりだ!」

「バロンー!!!」


マリアは泣ながらのバロン胸にしがみつく。


「もう大丈夫だ。かなり危なかったようだね」

バロンはマリアの両肩をしっかりかかえると、マリアの顔を優しく見下ろした。


「もう泣かなくてもいい。せっかくの美人が台無しになってしまうよ。それより随分乱暴な扱いを受けたようだね。顔があざだらけだ」

バロンは指でマリアの涙を拭ってやりながら、眉をひそめる。


「ごめんなさい。今度のことでみんなに迷惑をかけてしまって・・・」

「今はそのことはいいよ・・・」


 バロンは子供をかわいがるように、マリアの頭を撫でた。


「バロンさん、あなたはもしかして、ゴールデン・スピアの傭兵、セデーロ・アデブロスさんですか?」

マーフィーは驚きつつも訪ねた。


「そうだよ。フルネームで知っていてくれて光栄だな」

セデーロ・アデブロス。通称バロン(男爵)と呼ばれている。スペシャル級の傭兵だ。アサルトマシーンに興味がある人間には有名な人物の一人だ。


「バロン、それよりガルトザムの他のメンバーはどうなっているの?」


「心配には及ばない。このコロニーに侵入したやつらは、もう全員倒したよ。

外のガルトザムの母艦もアースユニオンの攻撃を受けて全滅したようだ」


「アースユニオン軍が来ているんですか?。外の状況はどうなっているのか、教えてください」

マーフィーは真剣な表情でバロンに聞く。


「私はケレス小惑星連合のパトロール艦に偽装したまま、アースユニオンの戦艦にやられたふりをして、このコロニーに入ったが、外は完全に包囲されてしまっているね」


「それで、戦力はどのくらいなんですか?」

「アースユニオンの戦力は、高速小型戦艦が一隻とアサルトマシーン・オーガンが3機、それと周囲を囲むようにしてバブルス(小型自動衛星砲台)が50機ほど、といったところだ。

このコロニーを囲むには、とても妥当な布陣だな」


「わたしたちは、アサルトマシーンにブースターを付けて、ここから脱出しようと準備してあるんだけれど、それで包囲網を突破することが可能かしら?」


「その必要はまったくないよ」

マリアの問いにバロンは気軽に答る。


「必要ないって?まさかゴールデンスピアがここに来るの?」

「いや、そうじゃない。あいかわらずゴールデンスピアは、シュタリアから離れられない状態だ。私も無理を承知でここに来たのだからね」

「ならどうして?・・・」

マリアが心配そうにバロンを見上げる。


「あっ、悪かった。私がエリクサーを持って来ていることを、言わなかったね。外にある警備艇に偽装してあるのがそうだよ」

「それを、早く言ってほしかったわ。エリクサーでバロンが外の敵を蹴散らしてくれるんなら、もう何も心配することはないわ!」


マリアは喜んでバロンの首にしがみ付いた。

「あ・り・が・と」

マリアはバロンの頬に軽く接吻をした。


「やれやれ。あいかわらず子供のようで困ったものだ」


バロンは少し眉を寄せてみせる。

友人とか聞いたけれど、マリアさんとバロンさんはどういう関係なのかな?。

マリアとバロンを見ていると、自分とマリアの、さっきまでの、関係も、霞んで見える。

マーフィーはもやもやが、胸に残った。


「ガルトザムが沈んでから、もう30分ほど経っている。アースユニオンの戦力が、そろそろ動きだすはずだから、もうこれ以上ここにいるのは危険だ。移動しよう」

バロンは、マリアとマーフィーの背中を軽く押した。


「マリア、アサルトマシーンはどこに隠してあるのかね?」

「アサルトマシーンなら、二機ともこの第18区画のはずれのジャンク置き場に、偽装して隠してあるわ。そう簡単には見つからないから、大丈夫よ」

「そうか、それなら安心だろう。ところで、すまないが、手伝ってもらいたいことがあるのだが・・・」

「何ですか? どんなことでも手伝います!」

「実は恥ずかしい話しだが、警備艇の偽装のまま攻撃を受けた時に、偽装甲板を剥離して、エリクサーを出すための装置がやられてしまってね。それを爆破してエリクサーを出したいのだよ。そういうわけで、爆薬を仕掛けるのを、マリアと二人でを手伝ってくれ」

「はい!」。

場末のファクトリーにいるマーフィーにとって、スペシャルクラスの傭兵であるバロンが操縦するアサルトマシーンを、直に見ることができる機会など、めったにないことだ。

三人はアストロスーツ(宇宙服)を着てコロニーの外に急いだ。


警備艇に偽装してあるエリクサーは、T-623のクレーターの窪みに引っ掛かるようにして、停船していた。

バロンはどこからか、数発のプラスチック爆弾を持ち出してきて、爆弾の設置箇所と作業手順を説明すると、マリアとマーフィーに手渡した。


「三人いれば、10分くらいで終わるだろう。二人ともなにか質問はあるかね」

「この作業が終わったら、わたしとマーフィーはどうすればいいの?」

無線は使えないため、マリアたちはアストロスーツ(宇宙服)のヘルメットをくっつけて話している。


「作業が終わり次第、私は、エリクサーでこのコロニーを包囲しているアースユニオンに攻撃をしかける。時間がかかっても10分ほどで片がつくはずだ。

君たちはその間アサルトマシーンのところで待機していてくれ。アースユニオンの兵士やガルトザムの残党が、まだいる可能性があるからくれぐれも注意するように」


バロンとマーフィーは内部の、マリアは外部の爆弾の設置に取りかかった。


 船内に入ると、内部はほとんどがらんどうで、偽装だということがよく分かる。

これがアサルトマシーン・エリクサー(賢者の石)か!


そこには、二つ四角錘の底面をくっつけたような、奇妙な形のマシンがカタパルトのレールに固定してあった。

バロンは『私はこっちのほうをやる』というジェスチャーを、マーフィーに向かって送る。

うなずくと、マーフィーは船内のカタパルトのジョイント部分で、作業を始めた。

後ろを向くと、ちょうど真後ろでバロンが作業をしている。密閉された船内でのレーザー通信なら外部に漏れる心配はないだろう。個人的に、マーフィーはバロンと話したいことがあった。


マーフィーは作業の手を止めることなく、思い切ってバロンで話しかけてみた。

「バロンさん、作業をしながらプライベートなことですみませんけど、少しお話ししても、いいですか?」


「ああ、構わんよ」

バロンは気易く応じてくれた。


「あの・・バロンさんにとって、マリアさんは、どんな人なんですか?」

「ハッハッハッハッ、マリアはいい子だし、美人だからね、君の気持ちはよく分かるよ」

バロンははかなり大声で笑っている。その声がマーフィーの無線に響いてきた。


「マリアの父親と私は古くからの友人でね、私はマリアが物心つく前からよく知っているのだよ。昔はしょっちゅう遊んであげたものだ。だから私はマリアにとっては、おじさんのようなものかな」


そのことを聞いて、マーフィーはさきほどから何か心に引っ掛かっていた物が、とれたような気がした。

「すみません! こんな余計なことを聞いてしまって」

「なーに、自信を持つことだよ。君は技術者としても、男としても、立派なものだ」

マーフィーの顔はアストロスーツ(宇宙服)のヘルメットの中でポーッと赤くなった。


 ・・・別にそんなつもりで訊いたわけじゃないんだけど。でも、やっぱりそうゆうつもりがあったのかな・・・。


爆弾を設置する作業は、予定どおり10分ほどで終わった。

マリアが船内に入ってくると、バロンはマーフィーの顔をしげしげと覗くと、また大きな声で笑った。


 今は無線を入れていないので、声はまったく聞こえないが、ヘルメットのガラス越しの表情でよく分かる。


「いったいどうしたって、言うのよ、変なバロン・・・」

マリアはバロンにヘルメットをくっつけて自分の声を伝える。


「いや、大したことではないよ」


バロンはマーフィーに視線を向ける。

マリアは今度はマーフィーのヘルメットに、自分のヘルメットを密着させる。


「マーフィー、どうかしたの?。顔がやたらに赤いようだけれど、酸素濃度が濃すぎるんじゃない?。調整したほうがいいわ」

「いえ! 大丈夫です、なんでもありませんよ!」


マーフィーは慌ててくびを振る。

「ほんとに?。二人ともなんか変なの・・・」

マリアは少し訝しそうな顔をして、マーフィーから離れた。

その様子を見ながらバロンは、後ろからマリアとマーフィーの肩をつかむと、二人のヘルメットの間に自分のヘルメットを挟む。

「さあ!後のことは私に任せなさい。君たちはアサルトマシーンで待っていてくれ」

バロンは二人を外に向かってそっと押し出した。


アースユニオンの高速小型戦艦スカッツでは、ボルツ艦長がコロニー内の情勢を把握しようと焦っていた。


「コロニー内はどうなっているのか、まだ分からんのか!?」

ボルツ艦長は、艦長席の肘掛けをドンと叩いた。


「それが、その40分ほど前に、第18区画L-48ブロックでエアロックが開放して、その後すぐ閉まったのが確認された以外、なにも分かりません。コロニー内に侵入したガルトザムのメンバーの動きも、完全に停止してしまったようで。ン?・・・・」


その時、ホログラフモニターに映っている、ガルトザムのメンバーにつけたマーカーに、変化が現れた。

「艦長!一人だけ動き始めました。これはジャッカルのようです」

「なんだと!それで、どこへ向かっている!?」

「同じ第18区画の外れの、ジャンク置き場に向かって、移動しているようです」

「どうやら、そこが本命のようだな」

ボルツ館長はニヤッとくそ笑んだ。


「至急、オーガン全機に伝えろ! 第18区画のジャンク置き場に通じるゲートに上空へ、急行しろとな!」


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