マリアの作戦
「まだ、見つからんのか!!約立たずどもめが!」
ジャッカルは母艦のゲイザーから、タイムリミットを突きつけられて、かなり焦燥している。
「ン、その女は?」
そんなところへ、マリアは手下に銃を突きつけられながら、ジャッカルの前に引き出されてきた。
ジャッカルはマリアの全身を、を怪訝そうな目つきでながめた。
「ジャッカルの旦那、この女はさっきの放送を見て自分から出て来たそうです。なんだかこのコロニーの技術者でゴールデンスピアに雇われたとか言っていますが・・・」
マリアは両手を上げさせられたまま、ジャッカルのことを睨みつける。
「あんたがこいつらの頭なわけ、手下同様下品な顔してるわね!」
「貴様! ふざけた口ききやがって!」
横にいる男が、いきなりマリアの顔を殴った。
「ウッ!」
マリアは口を押さえた。
唇を切ったらしい。
赤い血が数滴床に垂る。
ジャッカルは人差し指と親指でマリアの顎を挟むと、グイと上を向かせて、残忍な目つきでマリアを見下ろした
。
「念のため武器を持っていないか調べろ」
ジャッカルに命令されて、手下の一人がマリアを壁に両手を付かせた格好で、服の上から体をまさぐった。
「くー! いいアマだ、たまんねえぜ」
男は後ろから、マリアの胸を鷲づかみにして揉みしだく。
「間違いなく生身の女だ、サイボーグとかじゃありませんぜ」
マリアの耳元に、臭く荒い息づかいが後ろからかかる。
男は興奮してさらに激しく手を動かし、マリアのショートパンツに手を差し込もうとした。
「ウッ!なするの!」
「ヒッヒッヒ!」
あまりのおぞましさを我慢できずに、マリアがその手を振りほどこうとすると、横からもう一人の手下に、脇腹にぐっと銃口を押し付けられる。
「遊ぶなら後にしろ!!」
ジャッカルに怒鳴られた男は、ビクッとなってマリアから手を放した。
「さて、こちらは聞きたいことが色々ある。分かっているな」
「ちょっと待って!わたしがあなたたちの要求どうり、こうやって出て来てやったんだから、人質をすぐに開放して」
「ほうー。そうきたか。だが、お前がこっちの質問に答える方が先だ」
「なんだか、あなたたち時間に追われているみたいね。わたしを拷問でもなんでもするがいいわ。でも、人質が開放されなければ、何も話さないから」
ボルツ艦長との約束の時間は、もう、あまりはない。
ジャッカルは目を細めマリアを睨んだ。
「・・・フッ、いいだろう、おまえの勇気に免じて人質は開放しよう」
「ジャッカルの旦那、いいんですかそんなことして」
「構わんさ。おれはゲイザーなんかとは違う。善人なんだ」
ジャッカルの善人の一言で、手下の何人かはヘラヘラ笑いだす。
それをジャッカルがキッと睨むと、手下たちは表情をひきつらせて笑うのをやめた。
このT-623の中央管制室の地下には数区画のAクラスのシェルターがある。そのうちのいくつかは未使用のままの状態で開いていた。
「はやくしろ!」
ガチャン
人質だった人達が中に入ると、核攻撃にも耐えられる構造になっているシャルターの、重たい扉は閉じられ、内側から完全にロックされた。
これで、この人たちは一応は安全だ。
「約束どおり人質を開放したぞ。アサルトマシーンのありかを、話してもらおうか」
「分かったわ・・・」
ジャッカルは手下の半数とマリアを連れて、第18区画のオータムファクトリーまでやって来た。
マリアとジャッカルたちの乗ったリフトは、第3ドックの輸送船を見下ろせるコントロールルームの脇に止まる。
「ジャッカルの旦那、どうして、全員で来なかったんです?」
「念のためだ」
マリアが予想していた以上に、ジャッカルは用心深かったようだ。
ここにいる8人は、前もってしかけておいたトラップで、なんとかなるだろう。しかし残る8人は、直接マリアが戦わなければならないかもしれない。
撃ち合いになるかも・・・わたしにやれるだろうか?。
マリアは緊張して手に汗を握っている。
「何だ?このリフト故障してやがるぞ」
手下の一人がリフトのスイッチを何度か押してみるが、テラスから下に降りるリフトはまったく動かなかった。
「チッ!しょうがねえ、階段で降りるしかねえか」
このリフトは前もってマリアが故障させておいたものだ、ここは階段を使えば有に往復3分はかかるだろう。いい時間稼ぎになる。
マリアはジャッカルらと共に、階段で輸送船まで降りていった。
そのころ、アースユニオンの偽装戦艦スカッツのメインブリッジでは、T-623に侵入したジャッカルたち動きを、すでに察知していた。
「艦長、どうやらジャッカルとその手下の半数が、移動を始めた模様です」
ブリッジの中央のホログラフモニターに、立体的に映しだされたT-623の内部に、幾つもの光の点がついている。
「どちらに向かっているのだ?」
「第18区画、L-48ブロックです。
これらの動きからAIの推測によると、ガルトザムのメンバーがこのエリアのオータムファクリーに、目的のアサルトマシーンの所在を探知した模様です。その確率は80%」
「やつらの体一人ずつに、マイクロマシーンでマーカー(識別信号発信機)をつけておいて正解だったな」
ボルツ艦長はにやっとほくそえんだ。
「よし! ただちに次の段階の作戦に移る。第一級戦闘配置をとれ」
「メインエンジン出力上昇。本艦は第三戦速に移行」
「武器管制システムオールグリーン。主砲レールガン装弾します」
「アサルトマシーン・オーガン三機発進!バブルス(自動攻撃衛星)全機放出しました」
「防御シールド、レベル1で展開します」
アースユニオンの高速小型戦艦スカッツは、偽装甲板を徐々に剥離しつつ移動を開始した。
傭兵戦艦ガルトザムは、ちょうどT-623をはさんで反対側の、直径300mほどの無人の小惑星の影に潜んでいた。
「キャプテン、スカッツが戦闘体制で、急即にこちらに接近して来ます」
「何だと! そんな作戦は、やつらからは何も聞いていないぞ。やつら、コロニーでも攻撃するつもりか?」
「スカッツのボルツ艦長から、レーザー通信はいりました」
ゲイザーの前のディスプレーに、陰険そうな笑みを浮かべてボルツ艦長のアップが映しだされた。
「ご苦労だったなキャプテン・ゲイザー。君達の仕事はもう終わった」
「終わった・・・。それはどういう意味だボルツ艦長」
「そんなことより、君達ガルトザムはコロニーT-623で海賊行為を行った。
われわれは偶然に急病人の発生で、立ち寄ったこのコロニーで、君達の掃討を依頼された」
「まっ! 待ってくれ!」
「もう貴様たちを全員始末することは、最初から決まっていたのだ。それでは・・・」
ボルツ艦長は一方的に通信を切った。
「ちきしょう!! はめられた!」
ゲイザーの顔面から血の気が引いていく。。
「キャプテン!敵アサルトマシーン3機こちらに接近して来ます。バブルス(自動攻撃衛星)約50機360度に展開。逃げ道を塞がれました」
「やっ! やってやろうじゃないか! こうなったらこっちも死に物狂いだ!荒くれガルトザムの底力を見せてやる」
ゲイザーは全身から冷や汗を吹き出しながら、両手の握り拳をがたがた震わせている。傭兵戦艦ガルトザムは、自分達より戦力が上の相手とは一度も戦ったことがないのだ。
戦艦ガルトザムからは5機ほどのSFP(宇宙戦闘機)が出て来たが、次から次へと、アサルトマシーンの攻撃を受けて撃墜されていく。
ミダス中尉は、あまりにも手応えのない相手に興ざめしている。
「チッ! 話しにならん。この程度の戦闘では、おれが出向くこともなかったな」」
ほとんど抵抗らしい抵抗もないまま、3機のアサルトマシーンは戦艦ガルトザムにレールガンを打ち込んでいく。
もうすでに、ぼろぼろになったガルトザムは、あちこちから爆炎を吹き上げながら慣性でゆっくり回転している。
「こちらアイボリー機。ガルトザムは完全に沈黙しましたが、まだ艦内に多数の生存者がいるようです」
「了解。ドブネズミどもをPFB(プラズマ焼夷弾)できれいに消毒してやろう」
3機のアサルトマシーン・オーガンから発射された数発のPFB(プラズマ焼夷弾)はガルトザムの船体に打ち込まれると、青白い超高温のプラズマの炎を噴出し、艦内にある物すべてを焼き尽くした。
マリア両手を後ろで縛られたまま、二人の男に両脇を抱えられるようにして、輸送船のエアロックの前まで連れてこられた。
「この格好じゃロックを解除できないわ。両手を自由にして」
「分かった。だが、変なまねをしてみろ、すぐに撃ち殺すからな!」
マリアは腕の拘束を解かれると、ポッケトからカードキーを取り出して、溝に挿入する
と、ロックの脇にある四角いボックスが開いた。
「ロックヲ解除シマス。声紋ヲ照合シマスノデ、キーワドヲドウゾ」
マリアは自分の後ろの、ジャッカルたちの方を振り返ると、少しためらうようにして下を向く。
「何をやっているんだ! 早くキーワードを言わないか!」
「今、言うわ・・・」
マリアは輸送船のエアロックの正面を向いているが、視線は右側の通路の方向を見ている。
「LE103TO7.オーヴァー」
マリアはそう言い終わると同時に、右側の通路に飛び込んだ!
「待てこのアマ!!」
先頭の男が銃を構えて右の通路に飛び出したが、その瞬間。
ボンッ!! と爆発音がドックに響き、なにか生暖かい物が飛び散った。
先頭の男は首から上を吹き飛ばされて、床にどさっと倒れる。
「ヒーッ!! チクショウー!! やってやる」
ダダダダダッダダッダダダダッ!!
二番目の男が右の通路に向けて、自動小銃を乱射するが、もうそこにはマリアの姿はない。
「わっ!! なんだこりゃ!!」
最後尾にいた男が自分の項を押さえた。何か5センチ程の虫のような物が張付いている。
ボンッ!
「クソッ! ビートル・ボムだ!! はめられた!!!」
ジャッカルが大声で叫んだ。
マリアは、後方で聞こえる男たちの悲鳴を振り切るようにして、輸送船のエアロック中に飛び込んだ。
マリアが、輸送船の中に入ると、輸送船のエアロックは自動的に閉まる。
ウーーーーーーーーーーーーー!!
ほどなくして、緊急避難のサイレンが鳴り始めた。
そして、ゴゴーンという音と同時に、二重になっているドックのゲートが、通常ではありえないほど急激に開放した。
ゴーッと凄まじい烈風が、ドックの中を宇宙空間に向かって吹き出し始める。
ジャッカルの手下どもは、あっという間に宙に舞った。
「ヌガーッ!くそー!こういう魂胆だったのか!」
ジャッカルは手すりに必死にしがみついている。
サイボーグの腕力がなければ吹き飛ばされていただろう。
輸送船の外は強烈な風に煽られて、ゴミクズや工具、機材などが飛んで輸送船の船体をコンコンひっきりなしに叩く。
そのうちドックの周囲に通じる通路の隔壁が、すべて自動的に下ろされ、ドックの内部は完全に真空状態となり、風は止んだ。
・・・もう完全に空気がなくなったみたいね。
船腹の小窓から外を見ると、ドックの中は完全に静かになっている。
マリアは輸送船のブリッジに急いだ。
マリアは狭い輸送船の通路で道に迷っていた。もう少し行けばブリッジに着くはずなのに、周囲の様子から動力室の近くに来てしまっているらしい。
エレベーターが動かない船内で移動することが、こんなに大変だなんて・・・。
マリアはマーフィーからこの輸送船の船内図を携帯端末にコピーさせてもらわなかったことを、今になって後悔している。
とにかく、残っているジャッカルの手下たがち来る前に、ここから抜け出さいと・・・。
「アッ!」
マリアが狭い通路の角を曲がったところで、さっき船外でトラップにはめたはずの男に、正面から出くわしてしまった。
しまった! 一人、船内に逃げ込んだやつがいたんだ!
マリアはとっさに、肩から下げていたサブマシンガンの引き金を引く、だが! 安全装置が外れていなかった。
「このアマッ!!」
男は銃を身構えたマリアに一瞬顔色を変えたが、マリアが安全装置も外さずに、引き金をを引きながら後ずさりするのに気がつくと、目をぎらつかせてマリアに襲いかかる!
男はマリアから銃をひったくると、マリアを後ろから羽交い締めにした。
「この雌キツネめ!! さっきは、よくもやってくれたな!もう少しで他の奴等と一緒に、くたばるところだったぞ!!」」
マリアは立ったまま両足をばたつかせて必死にもがくが、男の腕力にはかなわない。さらにグイグイと絞めつけられる。
「くそ! 放せ! 痛いじゃないの!」
「そうかい。じゃあ放してやろうか」
男がわざと腕の力を緩めると、マリアが男から離れようとして身をよじった。
するとすかさず、男はマリアの横から彼女の脇腹に、手加減なしの膝蹴りをくらわせる。
「ウグッ!!」
マリアは脇腹を苦しそうに押さえて、通路に転がった。
「これぐらいじゃ、気がおさまらねえな」
男はマリアの髪の毛をつかんで彼女に上を向かせ、マリアの顔を舐めるように見る。
「ヒヒ、よく見りゃ、お前、かなりの上玉じゃねえか」
「けがらわしい!」
マリアは男の顔に唾を吐きかけた。
「じょうとうだ!!」
男は自分の袖で唾を拭うと、マリアの上半身を通路の壁に叩きつける。
ゴン! 鈍い音が通路に響く。マリアは後頭部を打って、壁によりかかったまま気絶してしまった。
5分ほど経っただろうか。マリアは自分の両腕が壁の配管に縛り付けられているのに気がついた。
前を見ると、あの男が立ったままニヤニヤしながら、マリアを見下ろしている。
マリアは力任せに腕を引いてみるが、コードがしっかりと腕に縛りつけられていて、びくともしない。両足も大きく開かれた格好のまま、その上に重たいワイヤーの束が乗せられていて動かせない。
「気がついたようだな」
「わたしを、どうするつもり!!!?」
「馬鹿か、やることは決まっているだろうが」
マリアは憎悪の眼で男を睨みつける。
「いい目だぜ、たまらねえや」
ビシッと一発、男はマリアの頬を平手で打つ。
「この変態のサディスト! 腐れ外道!」
「まだ口だけは元気だな。その口も、今きけなくしてやる!」
男はさらにマリアの頬を平手で打った。
「ヒッ」
左右から両手で一回、ニ回、三回、マリアの首はその勢いに煽られ、左右に大きく振れる。
「はあ、はあ、こ、これでどうだ」
男は汗だくになって肩で息をしている。
つうっとマリアの鼻と口から流れ出した血は、頚を伝わって襟の間から胸の谷間に降りていく。
「ふっ、やっとおとなしくなったか」
男はマリアの両襟をつかんで、勢いよく左右に開く。プツプツプツとシャツのボタンが弾け飛び、マリアの白い胸が露になる、
男はさらにマリアのブラジャーに手をかけ、乱暴に引きちぎる。
「おっ! こりゃあいいぜ。おれ一人でタップリ楽しんで、その後に殺してやるからな」
男はベルトを緩めてズボンを下ろしはじめた。
こんな・・・こんなはずじゃなかった。いくらマーフィーが無事にこの後アサルトマシーンとともに脱出できたとしても。自分がこんなことになって殺されてしまうなんて。
いやだ・・・死にたくない。みんなに、ゴールデン・スピアのあの人に会いたい!
だれか・・。そうだ、こんな時マーフィーがいてくれたら・・・。
マリアは宙を見つめ、まったく表情を変えないまま、その頬を涙が一筋つたわった。
「泣いているのか、そそらしてくれるじゃないか」
男はそのまま、マリアに覆い被さろうとする。
その時! ガタンと後ろで物音がして、男は振り返った。
「だれだ!」
そこには、マーフィーが立っていた。
手に鉄パイプを握り締め、ものすごい形相で男を見下ろしている。
「ヒヒッ」
男はうすら笑いを浮かべると、横に置いてあった銃に手を伸ばす。
「ウワァァァァァァァァァーーーッ!!!!!」
マーフィーは雄叫びをあげて、横殴りに鉄パイプを男に叩きつけた。
ガシッ!! 男はそれを両腕でガードしたが、前腕の骨が両方とも折れてしまった。
「ヒゲギェェェェェェェー!!」
男は悲痛な叫び声を上げると、立ち上がって逃げようとしたが、下ろしかけていたズボンに引っ掛かって床に倒れる。
男は必死に起き上がろうとするが、両腕が折れてしまっていて起き上がれない。
「このっー!! この! この! この! この!」
マーフィーは怒濤の勢いで、男を鉄パイプで殴りつける。
「よくも!この!この!この!この!この!マリアさんをよくも!」
マーフィーは完全に切れてしまって、男の反応がまったく無くなっているにもかかわらず、さらに殴り続ける。
その様子を見て、マリアはやっと正気を取り戻した。
「マーフィー! だめっ! しっかりして!」
マリアの呼び声に、マーフィーはっと我に返った。
マーフィーは血だらけの鉄パイプを両手で握り締めたまま、がくっと腰を下ろす。
なんてことなの・・・!
マリアは唖然としてマーフィーを見つめている。
マーフィーはやっと落ち着きを取り戻して来た。
手に握った鉄パイプを放そうとするが、指が鉄パイプを握ったまま硬直してしまっていてなかなか離れない。
やっと鉄パイプを手から放すと、マーフィーはマリアに歩み寄った。
「マリアさん、だいじょうぶですか?」
「見ないで! でも、それは無理ね・・・」
マリアは自分の姿態を恥じらい、目をつぶってマーフィーから顔をそむける。
「いま助けます」
マーフィーは自分の作業衣を脱ぐとマリアにかけてやる。
「こんなひどいことをするなんて、こいつら絶対に許せない!」
お前も十分ひどいんじゃないか言われそうだが。
マーフィーは床に倒れている男を一瞥すると、マリアの縛めをほどきにかかった。
死んだのだろうか。男は血まみれのずたぼろになって、ピクリとも動かない。
「助けてもらって、こう言うのもなんだけど、マーフィー、あなたどうしてこんな所にいるの?。ニ機のアサルトマシーンはどうしたの?」
「すみません。あそこに、そのまま置いてきちゃいました。どうしても、マリアさんのことが心配で」
「わたしのせいで、あなたに、とうとう人殺しをさせることに、なってしまった・・」
マリアは下を向いたまま、辛そうに呟く。
「さっきはどうしようもなかった」
「どうかしているわ! どうしてあんなにめちゃくちゃに殴ったの、過剰防衛だわ!」
マリアは、突然声を荒げる。
「すみません・・・。あの時はもう夢中で、なにがなんだか分からなくなってしまって・・・」
マーフィーはコードを解く手を止めると、複雑な表情をして、下を向いたまま黙ってしまった。
「ごめんなさい。・・・とても嬉しいとまでは言えない。わたしはあなたには予定通り脱出してもらいたかった」
「僕も迷っていたんです。けど、いてもたっても、いられなくなってしまって。来て本当によかった」
マーフィーがマリアの足に乗せてあるワイヤーの束をどかすと、マリアの両手両足はやっと自由になった。
マリアはマーフィーの作業衣を着ると、自分のやぶけたシャツで顔の血を拭う。
「この船には、どうやって入って来たの?」
「この船の反対側のエアロックから、宇宙服で入って来ました」
マリアはなんとか立ち上がったが、まだよろよろして足元が頼りない。
「僕につかまってください」
マーフィーがマリアの肩を横から抱くようにして、二人は歩きはじめる。
二人はなんとか輸送船のブリッジにたどりついた。
「もうこの船はだいぶ使っていないけれど、動力も制御系も十分に使えるんです」
輸送船のブリッジでは、マリアとマーフィーがガラス越しに外の様子をうかがっている。
並の人間なら真空状態に放り出されれば、30秒保てばいいほうだ。窒息で死ぬ前に、急激な気圧の変化で体が破裂してしまう。
「なんとか、うまくいったみたいですね」
「まだ分からないわ。ここからじゃ、ドックの様子全部は見えないもの」
「マリアさん脱出の準備をしましょう」
「まだジャッカルをふくめ戦闘サイボーグが3体、こいつらがどうなったか気掛かりですね」
「3体の戦闘サイボーグは、わたしが見た限りでは、宇宙装備をしていなかったわ。だから、たとえ外に放り出されていなくても、真空のこのドックの内部なら、我慢できて4分ね」
もう、真空状態になってから10分経過しようとしている。
「もうだいじょうぶでしょう。マリアさん、行きましょう」
二人はマリアが入って来たエアロックから、宇宙服を着て、輸送船の外に出た




