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第9話『賢くなった……のか?』

 湖の向こうには、草がある。


 青白い光の中で揺れる細長い葉を見つめながら、名もない《響兎》は鼻をひくつかせた。昨夜は湖岸の岩陰で眠り、朝になってから右手の壁に沿って歩いている。昨日の《鳴洞蝠》との戦いでついた腹の擦り傷は浅いものだったが、まだ岩に触れると少しひりついた。だから今日は、できれば余計な騒ぎを起こしたくない。


 もっとも、本人がそんな慎ましい目標を立てたかどうかは怪しい。草の匂いがした途端、歩く速さが上がったからである。


 湖岸はところどころで途切れ、濡れた石が水面から顔を出していた。最初の二つは軽く跳べた。三つ目へ向かおうとしたとき、響兎は前脚を止めた。石と石のあいだには黒い水が広がっており、向こうの岩までかなり遠い。跳んだ先で滑れば、そのまま湖へ落ちるだろう。


 兎は水を覗き込んだ。水面に自分の耳が映っている。試しに前脚を浸すと、冷たさに驚いてすぐ引っ込めた。


 なんとも頼もしい水辺への挑戦である。いまのところ、濡れたのは前脚の先だけだ。


 だが、引き返しかけたところで響兎は動きを止めた。胸の奥というより、もっと頭の内側にある、あの妙な感覚を思い出したのだ。小鬼を倒したときにも、暗い岩道を進んだときにも、そこへ意識を向ければ何かが浮かんできた。


 今回は敵がいない。追われてもいない。それでも、兎はじっと耳を伏せて意識を集中させた。


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


《進化観測》


進化候補:《巧響兎》

↪特徴:聴覚・視覚・足場の感覚を結び、着地の先まで動きを選ぶための神経系と姿勢制御が発達する。

進化条件:未達成

↪手がかり:複数の感覚を使った移動と、敵の動き・地形を踏まえた判断の蓄積。

進化選択:不可


進化候補:《震響兎》

↪特徴:足裏で拾う地面の振動と耳に届く響きを照合し、岩越しの動きにも気づきやすくなる。

進化条件:未達成

↪手がかり:地面を伝わる微細な振動を繰り返し捉え、行動に活用する経験が不足。

進化選択:不可


進化候補:《遠聴兎》

↪特徴:耳介と聴覚処理が遠方の弱い響きを拾う方向へ適応し、離れた物音の方向を捉えやすくなる。

進化条件:未達成

↪手がかり:遠くの微かな音を聞き続け、近くの音と区別する経験が不足。

進化選択:不可


進化候補:《静響兎》

↪特徴:重なる反響や激しい水音の中でも必要な音を選び取れるよう、聴覚の調整機構が発達する。

進化条件:未達成

↪手がかり:騒がしい環境での聴取と、過剰な音への対処の蓄積が不足。

進化選択:不可


進化候補:《忍響兎》

↪特徴:足音を抑える着地と、周囲へ響く自分の音を察する感覚が連動して発達する。

進化条件:未達成

↪手がかり:気配を隠した移動や、踏み音を抑えた回避の経験が不足。

進化選択:不可


進化候補:《水鳴兎》

↪特徴:水面の細かな揺れと反響の変化を捉える耳や感覚処理が発達し、水辺の動きに気づきやすくなる。

進化条件:未達成

↪手がかり:水音と水面の反応を継続的に観察し、行動へ生かした経験が不足。

進化選択:不可


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


 文字を読めるわけではない。それでも、いくつもの違う身体の可能性が、ぼんやりした感触となって伝わってくる。地面の震えを知る方向もあれば、遠くの音を聞き取る方向もある。なかでも一つ、聞いたことと見たことを一緒に使うような感覚が、妙に気になった。


 響兎は顔を上げ、目の前の石と、その右に突き出した低い岩を見比べた。今までは一つの石を見て跳んでいた。けれど、そこへ着地したあとにどちらへ動くかまで考えれば、もっと安全に進めるのではないか。


 そう思ったかどうか、兎はまず右の岩へ跳んだ。


 着地した瞬間、後ろ脚が滑った。


 慌てて前脚を広げ、腹を石につけて踏みとどまる。水面がすぐ下で揺れていた。どうやら賢くなるには、考えることに加えて、足元が濡れている事実も忘れない必要があるらしい。


 兎はしばらく石に貼りついたまま動かなかった。やがて乾いた筋を見つけると、そちらへ体重を移して岸へ戻った。失敗した道をもう一度試そうとはしない。少なくとも、そのくらいは学んだようだ。


 湖岸をさらに進むと、水が岩の割れ目から細く流れ出す場所へ着いた。岸はここで緩い坂になり、濡れた石のあいだに苔と短い草が広がっている。向こう岸の草にはまだ届かないが、こちらもなかなか悪くない。


 響兎は葉を一枚噛んだ。柔らかい。もう一枚噛んだ。こちらも美味しい。遠くのご馳走を目指していたはずなのに、近くのご馳走を前にした途端、目的が揺らいでいる。


 まあ、兎に長期計画を求めるのは酷というものだ。人間だって、買い物に出た先で焼きたてのパンを見つければ予定が変わることくらいある。


 そのとき、足元の苔むした岩が動いた。


 響兎は草を咥えたまま顔を上げた。岩の端から細い脚が一本、また一本と現れる。さらに二本の鋏が持ち上がり、丸い眼がこちらを向いた。


 《苔甲蟹》。湿った地下湖岸に暮らす甲殻類系の魔獣である。甲羅の細かな溝に苔や藻が定着し、動かずにいると岩と見分けにくい。硬い甲羅と強い鋏を持つが、主食は水辺の植物や小さな生き物。大きな獲物を追い回すような狩人ではない。


 つまり、今回の問題は捕食ではなく場所取りである。


 よりによって兎が美味しそうに食べていた草は、この蟹がいつも餌を探す石のすぐ横に生えていた。どちらも食事がしたいだけなのに、どうしてこうなるのだろう。食卓が狭いと揉め事が起きるのは、どうやら人間社会に限らないらしい。


 苔甲蟹は大きい方の鋏を前へ突き出した。響兎が一歩下がると、蟹は横へ動いて草のある岩を守る。そこで兎が反対側へ回ろうとすると、今度は小さい方の鋏が素早く伸びてきた。


 危うく鼻先を挟まれかけ、響兎は後ろへ跳んだ。口から草が落ちる。


 これは許しがたい。


 少なくとも兎の表情は、そう言っているように見えた。相手にとっては自分の食事を守るための正当な行動なのだが、そんな事情は通じない。


 苔甲蟹が一歩踏み出した。低い甲羅の前に鋏が並び、細い歩脚が濡れた石を掴む。響兎は横へ回り込み、後ろ脚を伸ばして甲羅を蹴った。


 硬い。


 石を蹴ったときと大差のない感触が脚に返ってきた。蟹の甲羅は少し揺れただけで、本人はほとんど動いていない。しかも蹴り終えた兎の脚へ、鋏が横から迫ってくる。


 響兎は身体をひねって逃れたが、右後ろ脚の毛を鋏の先がかすめた。あと少し遅ければ挟まれていた。


 硬いものを蹴って痛い目に遭うのは、これで何度目だろう。いい加減覚えてほしいところだが、今回ばかりは相手の方が動く。石よりずっと厄介である。


 苔甲蟹はその場から追ってこなかった。鋏を広げたまま、苔の生えた平らな石へ戻ろうとする。兎が離れればそれでいいらしい。


 しかし響兎は、落とした草を見てから相手を見た。鼻が忙しなく動く。耳を立て、もう一度近づこうとする。


 ここで素直に別の草を探せば、争いは終わるだろう。だが、この兎には少々困った性分が育っている。小鬼を倒したときの手応えも、鳴洞蝠を追い払ったときの高揚も、まだ身体の奥に残っていた。


 今度は正面から蹴らなかった。


 響兎は蟹の左側へ小さく跳び、鋏がこちらを向いたところで急に止まった。鋏の先が空を切る。そこからさらに一歩退き、相手が横歩きで距離を詰めるのを待つ。


 蟹は低い身体を揺らしながら追ってきた。濡れた平らな岩の上では、その横移動は見た目より速い。響兎が少し近づけば鋏が届き、離れすぎれば蟹は元の場所へ戻ってしまう。


 厄介なのは、相手が闇雲に追ってこないことだった。こちらが背後へ回ろうとすれば身体ごと向きを変え、前脚を出せば鋏で牽制する。苔甲蟹も、自分がどこにいれば安全なのかをよく知っている。


 響兎は一度高い石へ退いた。水の落ちる音が背後で響いている。蟹の歩脚が石を掻く音は小さく、耳だけでは動きが追いにくい。それでも、甲羅が傾く様子と、歩脚の位置は目で確かめられた。


 目の前には平らな岩。その左に、少し乾いた斜面。斜面の途中には、細い石の割れ目がある。


 兎は蟹を見た。次に斜面を見た。そして自分が立つ石を確かめた。


 ここからなら、あそこへ跳べる。


 ただし、跳んだ先で止まるのではない。もう一度、別の方向へ動くのだ。


 響兎は高い石から降り、蟹の前を横切った。大きな鋏が開く。兎はその先端が届く寸前で後ろへ跳び、追ってくる蟹の小さな鋏をさらに一歩でかわした。


 蟹が横へ進む。平らな岩の端を越え、乾いた斜面へ歩脚をかけた。


 その瞬間、響兎は身体を低くして鋏の下へ潜り込むように踏み込んだ。狙いは甲羅ではない。歩脚が甲羅の下から伸びる、硬い殻の切れ目だった。


 後ろ脚が脚の付け根へ当たる。


 蟹の身体が横へ傾いた。だが、すぐに倒れるほど軽い相手ではない。残る脚を踏ん張り、鋏を下へ振り下ろしてくる。響兎は前脚を引いて逃れたものの、左の脇腹を粗い岩で擦った。浅い傷が熱を持つ。


 それでも蟹は元の平らな石へ戻れなかった。斜面に乗った歩脚の一本が割れ目へ入り、体重を支え直すために甲羅が傾いている。


 響兎はその姿を見て、一度だけ距離を取った。


 今までなら、攻撃が当たった嬉しさのまま飛び込んでいたかもしれない。けれど鋏はまだ動いている。正面から行けば挟まれる。背後へ回るには、今いる石が邪魔だ。


 兎は小さな岩を一つ跳び越え、蟹の斜め後ろへ出た。そこからは甲羅の下の歩脚がよく見える。蟹も向きを変えようとしたが、割れ目にかかった脚を引き抜くため、一瞬だけ動きが止まった。


 響兎はその瞬間に踏み込んだ。


 後ろ脚を伸ばし、先ほどと同じ脚の付け根へ二度目の蹴りを叩き込む。甲羅がさらに傾き、鋏が空を掴んだ。蟹は体勢を立て直そうとしたが、斜面の石に歩脚を滑らせ、横向きに転がった。


 大きな鋏が岩にぶつかり、鈍い音が響く。甲羅の一部が石の割れ目へはまり、蟹は腹を見せかけた不安定な姿勢で脚をばたつかせた。


 響兎は追い打ちをかけようとして、途中で止まった。


 鋏はまだ動いている。近づけば危ない。しかも蟹は、こちらへ向かってくるどころか、ひたすら身体を起こそうとしていた。


 兎はしばらく相手を見ていたが、やがて後ろへ退いた。苔甲蟹が立て直すより早く、草のある石へ戻る。残っていた柔らかな葉を一枚、二枚と引きちぎった。


 勝者の余裕というには、少々食欲に偏っている。


 それでも今回は、相手が動けなくなったからといって無理に攻め込まなかった。蟹もやがて割れ目から脚を抜き、ゆっくり身体を起こしたが、兎へ再び鋏を向けることはなかった。苔の多い別の石へ横歩きで移っていく。


 争いは、そこで終わった。


 響兎は草を食べながら、先ほどの戦いを思い返すように耳を動かした。硬い甲羅を蹴っても駄目だった。鋏の前へ飛び込めば危なかった。けれど相手が横へ動く距離を見て、滑りやすい場所へ誘えば、あの大きな身体も傾いた。


 何もかも分かるわけではない。ただ、跳ぶ前に相手との距離を測るような感覚が、以前より確かになっている。


 食べ終わると、響兎は自分から目を閉じた。戦いが終わったからではない。さっき見たあの可能性が、まだ気になっていたからだ。


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


《進化観測》


進化候補:《巧響兎》

↪特徴:聴覚・視覚・足場の感覚を結び、着地の先まで動きを選ぶための神経系と姿勢制御が発達する。

進化条件:達成

↪手がかり:小鬼・飛翔魔獣・苔甲蟹との攻防、地形を踏まえた動きの選択が積み重なった。

進化選択:可能


進化候補:《震響兎》

↪特徴:足裏で拾う地面の振動と耳に届く響きを照合し、岩越しの動きにも気づきやすくなる。

進化条件:未達成

↪手がかり:地面を伝わる微細な振動を繰り返し捉え、行動に活用する経験が不足。

進化選択:不可


進化候補:《遠聴兎》

↪特徴:耳介と聴覚処理が遠方の弱い響きを拾う方向へ適応し、離れた物音の方向を捉えやすくなる。

進化条件:未達成

↪手がかり:遠くの微かな音を聞き続け、近くの音と区別する経験が不足。

進化選択:不可


進化候補:《静響兎》

↪特徴:重なる反響や激しい水音の中でも必要な音を選び取れるよう、聴覚の調整機構が発達する。

進化条件:未達成

↪手がかり:騒がしい環境での聴取と、過剰な音への対処の蓄積が不足。

進化選択:不可


進化候補:《忍響兎》

↪特徴:足音を抑える着地と、周囲へ響く自分の音を察する感覚が連動して発達する。

進化条件:未達成

↪手がかり:気配を隠した移動や、踏み音を抑えた回避の経験が不足。

進化選択:不可


進化候補:《水鳴兎》

↪特徴:水面の細かな揺れと反響の変化を捉える耳や感覚処理が発達し、水辺の動きに気づきやすくなる。

進化条件:未達成

↪手がかり:水音と水面の反応を継続的に観察し、行動へ生かした経験が不足。

進化選択:不可


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


 今度は、気になっていた一つがはっきりと近く感じられた。聞いたものと見たもの、足裏で触れたものを、もっと上手に結び付けられる身体。


 響兎は目を開け、さっき蟹がいた斜面を見た。次に、自分が跳んできた石を見た。あそこへ跳んだあと、こう動けばよかった。そんな感覚がまだ残っている。


 もっと上手に動きたい。


 言葉にならない望みが強まるにつれ、《進化の羅針》が示す一つの道が近づいた。兎はしばらくためらったあと、自分からそれを選んだ。


 耳の奥がじんと熱くなる。続いて首から背中、後ろ脚へ、身体の内側を細かな震えが走った。大きくなるわけではない。毛並みも、四本の脚も、見慣れた兎の形のままだ。ただ耳を動かしたときに頭が揺れにくくなり、視線を横へ向けても足裏の位置を見失いにくくなる。前脚が石を掴み、後ろ脚が次の跳躍を支えるまでの感覚が、少しだけ滑らかにつながっていく。


 《響兎》から《巧響兎》へ。


 音を聞くことに長けた小さな身体が、見ること、聞くこと、動くことをより密接に結び付ける形へと変わったのである。


 もちろん、急に人間並みの知恵がついたわけではない。ましてや湖の渡り方が頭に浮かんだり、蟹の名前が分かったりすることもない。大迷宮で生きるには、まだまだ知らないことだらけだ。


 進化が落ち着くと、巧響兎は石の上に立った。耳を右へ向ける。水音がする。目を左へ向ける。そこには乾いた足場がある。前脚を一歩出せば、次に後ろ脚を置く場所まで、以前より少し想像しやすかった。


 兎は嬉しくなり、目の前の岩へ跳ぼうとした。


 だが、その岩は角が尖っている。さっきの蟹の甲羅も硬かった。勢いよく踏み込めば、たぶん痛い。


 巧響兎は踏み切る寸前で足を止め、少し横の平らな石へ跳んだ。そこからさらに乾いた段差へ移り、無事に着地する。


 素晴らしい。ついにこの兎は、痛い思いをする前に考えられるようになった。


 いや、普通の兎だって危ない岩くらい避けるだろう、という意見はひとまず置いておこう。本人にとっては大きな進歩なのだから。


 巧響兎はそのあとも、音のする方を確かめ、足元を見て、短い跳躍を繰り返した。最初はぎこちなかった動きが、何度か試すうちに少しずつ滑らかになる。目で見た段差と、耳で捉えた水の流れと、足裏の感触が、次の一歩を選ぶためにつながっていく。


 しばらくしてから、兎は再び頭の内側の感覚へ意識を向けた。今度は進化先ではなく、自分の身体に何が起きているのかを確かめたかった。


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


固有能力:《進化の羅針》

↪詳細:自身の保有する能力・スキルを確かめ、進化の可能性を観測し、条件を満たした進化先を選ぶ。


能力:――


スキル:《跳躍》Lv2

スキル:《着地》Lv2

スキル:《聴き分け》Lv2

スキル:《警戒》Lv1

スキル:《蹴撃》Lv1


スキル:《間合い》Lv1

↪詳細:相手との距離と動く時機を見極め、届く範囲を考えて動く技術。


スキル:《感覚連携》Lv1

↪詳細:音・視界・足裏から得た情報を組み合わせ、次の動きの選択に反映する技術。


その他:

⦅世界の祝福⦆


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


 知らない感覚が、二つ増えている。いや、正確には少し前から育っていたものが、ようやくはっきりしたのだろう。相手との距離を測る感覚。そして、見たことと聞いたことを合わせて身体を動かす感覚。


 巧響兎は目を開けた。水の音は相変わらず大きい。湖は広く、対岸の草も遠い。耳がよくなったからといって、向こう岸まで跳べるようになったわけではなかった。


 そこで兎は、今いる岩場の先へ視線を向けた。岸沿いの道は左へ曲がり、細い水路を越えたところで再び広くなっている。向こう岸へつながっているかは分からない。それでも、さっきより進めそうな道筋が見えた。


 巧響兎は一歩踏み出し、次の石へ跳んだ。濡れたところを避けて着地し、その先の乾いた段差へ続けて移る。今度は足を滑らせなかった。


 しばらく進んだところで、風が草の匂いを運んできた。兎はすぐに耳を立て、鼻を鳴らした。


 新しい身体。新しい技術。少しだけ増えた判断力。


 そのすべてを使って、いま何をするつもりなのか。


 もちろん、草を探すのである。


 知能が上がっても、最優先事項は変わらない。むしろ今後は、より賢く食べ物へ辿り着く兎になるのかもしれない。


 ……それは進化と呼んでいいのだろうか。

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