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ダンジョン配信の神様 ~俺がいなけりゃお前らなんてクソの役にもたたねえってことを忘れるな~  作者: 深海くじら


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第51話 隔絶感 ~さまよう社会生活失格者~

 仮眠明けの午前八時、スーパー銭湯を出た俺たちは、合羽橋に行くという針井氏と別れてドンキに向かった。昨日失ったスマホと動画機材を補充しないといけなかったのだ。


「スマホなんて白ロムでいいんだよ。電話なんぞ掛けねえし、背中にWiFi背負(しょ)ってっからシムもいらねえし」


「あたしはやっぱアイフォンがいいな。慣れてるから」


「カメラの良し悪しは重要ですよね」


 口々にテキトーなことを言いながら棚を物色する俺たちのうしろで、ツルタ氏は難しい顔をして腕を組んでいた。


「どしたの? ダンディ」


 振り返った鏡華があっけらかんと尋ねると、ツルタ氏が思案顔を見せながら口を開いた。


「さっきの件なんですが、会社に伝えた方がいいんじゃないでしょうか」


「さっきの件ってどこまで? まさか全面戦争のくだりまで?」


「いや、それはさすがに大袈裟すぎますが、下の階層からの脅威、くらいまでは」


 ツルタ氏と鏡華の応酬に俺が口を挟む。


「月末にはトヴォトリエのお披露目もあるしな。あれ、五千人規模の集客は見込んでるって話じゃん。ンなとこ攻め込まれたらヤベェなんてもんじゃねえ」


「イマイチわかんないんだけど」とツッコんできたのは鏡華。


「魔物と人間の全面戦争ってとこがイメージできないのさ。だってあいつら、なんだかんだいって馬鹿ばっかりっしょ。それぞれの仲も悪いし。マンティスがミノタウロス追いかけ回してたり、オークと山羊が食ったり食われたり。とてもじゃないけど、上に住んでる人間様を襲うために団結するなんて考えられないよ」


 水面も姉の意見に同意する。


「人間の開発に棲みかを奪われたオークたちが攻めてくるならまだわかるけど、彼らは三層で生き延びるのもやっとな感じ。とてもじゃないけどそんな余力なんてなさそうですよね」


「いくらバフォメットが強いったって、魔物全体を統率するなんてムリゲーすぎて。ねぇ」


 妹の助力を得た鏡華は、さらに勢いづいて俺にまで同調を求めてきた。

 そんなこと振られても俺にゃあわからんよ、魔物じゃねえし。

 とは言え、たしかに荏原あたりにこれを伝えても「根拠が薄いっス」って一蹴されそうな気はする。そうでなきゃ、「尾仁川さんたちが親玉退治してくりゃいいじゃないスか」とかって無茶振りされたりして。


「うーん。とりあえず共有はガン爺までにしとくかな。あとはやんわりと注意喚起っつーとこか。最近下の層の魔物が騒がしいよ、くらいの」


     ⌚


 姉妹を先に帰らせた俺とツルタ氏は、それぞれが自宅に立ち寄るということで、夜の再集合を約して新宿駅で分かれた。なんというか、完全にBCセカンドが足場になっちまった感覚。

 まあ、しょうがないと言えばしょうがない。日常のほとんどがあっちでの時間で締められているのだから。ツルタ氏は知らないが、こちとらリアルでは彼女もいなけりゃ友だちだっていない。親兄弟とも、もう何年も会ってない。地上(ここ)にいなきゃいけない意味自体、ほとんど見出すことができないのだ。

 ぶっちゃけ、社会生活者としちゃあ失格だよな、俺。

 六缶パックのビールを買って部屋に戻った。湯を沸かす隙間時間に、溜っていた郵便物を片っ端から開いてはゴミ箱に移す。ベッドにもたれ、カップ焼きそばを食いながら昼酒をあおる。ほかにすることが思いつかない。

 ビースティのライブビデオを観ながら居眠りしていた俺は、西日でオレンジに染まった部屋で目を覚ました。動画の止まったディスプレイは省電力で真っ黒になっている。


「帰るか」


 のっそりと起き上がりつつ口をついた自分の言葉に、思いのほか愕然とした。

 いまの俺には迷宮(あっち)(ホーム)なのか?


     ⌚


 前回持っていきそびれたビースティのアクスタと着替えの下着を詰め込んだエコバッグ、それと新たに買ったロング缶六本パックを手に夕闇のダンジョン城下町を縫う。行先は街はずれの作業棟、ガン爺の住処(すみか)だ。


「あーね。いつもン倍用意してくれってンなそげな理由があったけんか」


 土産のビールをうまそうに飲んでいたガン爺は、昨日の一幕から深夜の会食での会話までをざっくりまとめた俺の報告を聞いて納得顔を浮かべた。


「儂ンところン縦坑は深さだけなら第三層ば超えとぉはずじゃが、そげん匂いはなか。まあ掘っとぉだけやけんな」


 自前の高菜漬けをごそりと摘まみ上げて口に放り込んだガン爺は、もしゃもしゃと食みつつ天井を仰ぐ。なにか思いを巡らせているようだ。

『ガン爺の鼻』にはまだ兆候は届いてないのか。


「キー坊に伝えてやりたかとは山々じゃが、儂と繋がっとぉことば知らるンなあんたもおもしろくないじゃろ」


 キー坊。王塚スタアのことか。そういえばこの爺さん、王塚とは親戚だった。この関係が知られるのはたしかにマズいかもしれない。黒玉の原料砂を有料化にでもされたら、返済計画そのものがおじゃんになっちまう。


「ここは様子見じゃな。まあ、屑砂ン方はたぁんと用意しといたけんな」


 そう言って、ガン爺は横のショルダーバッグから厚手のビニール袋を出した。漆黒の蓄電粒砂(ちくでんりゅうさ)がいつもの三倍以上詰まっている。

 多めなのは助かる。これだけあれば楽に三ダースはつくれそうだ。


「いずれにしたっちゃ、そげな勘は大事にせないかん。山師ン鉄則じゃ。なにが起こったっちゃよかよぉ準備だけは怠るなってな」


 ガン爺が差し出す砂袋を俺は両手で受け取った。衣類で回りをくるむようエコバッグの入れ替えをしていると、背中越しにガン爺の言葉が降ってきた。


「知らんもん同士ン接触は爆発ンごたぁ応えが返ることもあるクサ。蓄電石とつるはしンごとな。なんば起こっても不思議なかけん、儂も気にはしとく」

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