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ダンジョン配信の神様 ~俺がいなけりゃお前らなんてクソの役にもたたねえってことを忘れるな~  作者: 深海くじら


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第52話 宴前夜 ~六人目の戦士といえば、やっぱシルバーでしょ?~

 男部屋にしつらえた簡易ベッドに胡坐をかいて、針井氏が刀身を見つめている。研ぎ直して曇りの消えたミスリルは、傍から見ているだけでもヤバそうな感じがひしひしと迫ってくる。

 室内灯に浮かび上がる針井氏の瞳が、心なしかうねっているように見えた。刃を凝視し、下から上へとゆっくりと移動するその視線は、どこか人の(ことわり)を超えた禁断の(いき)を思わせる。身の裡からのぼってくる震えは、俺の肩をすくませた。

 ミスリルを片手に掲げたまま微動だにしない針井氏の姿は、得も言われぬ威圧感があった。まさに剣呑な空気。殺気、と呼ぶにふさわしい。


 目を合わせるのを恐れ、俺は寝返りを打つふりをして背を向けた。

 背中に冷や汗の浮かぶのがわかる。


 なんでこれほどまでに針井氏を恐れてるのだろうか。彼はただ、自分の武具を手入れしているだけなのに。


 説明不能の勘が発してくる危険信号の理由は、自分でも理解ができない。

 すぐにでも飛び起きて逃げ出したい気持ちを抑え込んで、俺は無理やり目をつぶった。


     ⌚


「しばらくの間、同道させていただいてもよろしいでしょうか」


 背負っていた荷物を解く俺に針井氏がそう切り出してきたのは数時間前。俺以外の四人はみなBCセカンドに戻っていて、すでに夕食も終えていた。


「ランボさんがお戻りになる前に八段やご姉妹とも相談したのですが、やはり警戒は必要ではないか、と」


 顔を回すとツルタ氏と目が合った。泉澤姉妹も俺を見つめている。


「聞けば、明後日ここで開催されるイベントは一般客五千人が来場するそうじゃないですか」


「主催者側はそう言ってる」


「県営クラスの野球場サイズとはいえステージ下手の池も含めてですから、来場者の集積はかなりのものになると想像されます。おそらく、休日午後の歌舞伎町界隈並みに」


 帰り際に歩きながら眺めたトヴォトリエの全景。会場整備は終わり、いまはサイン関係を調整する最終チェックの段階だった。


「魔物が人間側の予定を把握しているとは思えません。ですが、雰囲気は捉えているでしょう。第一層からここに至るまでの道程は、たしかに完全にクリーニングされていると言っていいでしょう。ですが第三層以下は、ご存じのように未だ魔物が闊歩する『彼らの王国』のまま。そしてこの広場は、両方の世界が接する交差点なんです。そんなところで祭りなんかしたら……」


「なんも起こらんはずはねえ……ってことか」


 深くうなずく針井氏。俺の喉がごくりと音を立てた。


「イベントの警備はあたしらの仕事じゃないんだけどさ」


 半歩前に踏み出した鏡華が割って入ってきた。


「あたしらも配信で食ってるわけだし、明後日(あさって)来る人たちは、いわばあたしらのお客さんでもあるんだよね。そうでなくとも文句なしで撮れ高が見込めるイベントなんだから、やっぱ成功してもらわないと困る」


「私たち四人だけでは無理があるって思ったんですけど、ハリーさんが手伝ってくれるんなら大丈夫かもって」


 鏡華に続いて水面も訴えてくる。


 なんなの? これ、シナリオでもあるの?


「トヴォトリエのグランドオープンイベントが終わるまでの間だけ、針井くんにもサスケに加わってもらおう、ということでいいでしょうか」


 おっとり刀で登場のツルタ氏に頼まれたら、断るなんて選択肢はないでしょ。ていうか、これじゃまるで俺がリーダーみたいじゃん!


「いいもなんも、針井さんが加わってくれんなら百人力なのは間違いねえし。俺が文句言える筋合いじゃねえよ」


 心配顔だった水面の表情がぱあっと明るくなる。見てるこっちが恥ずかしくなるくらい華やかな笑顔。照明が入った舞台にビースティが浮かび上がり、ヴォーカル(ちはや)が最初の音を発したときの俺たち(飼育係)とおんなじ顔だ。


 この子はホントにハリーのファンなんだな。


「では、要所の確認を兼ねて、針井くんと広場をひと回りしてきます」


 ツルタ氏が針井氏と連れだって出て行くのを見送っていると、水面が「私も」と言って奥の女子部屋に消えた。買い直したタブレットの設定作業を再開するらしい。

 一人残り、手持ち無沙汰でスマホを眺めている鏡華に声をかける。


「晩飯。俺の分はないの?」


「はあ?」と顔をあげた鏡華は、いつものきつい目つきで俺を睨みつけた。


「連絡も寄越さないくせにエラっそうな。遅くなるんならちゃんとそう言ってよね。シチュー、冷めちゃったし」


 だが、口調とは裏腹にシチューをよそってくれた鏡華はレンジに入れるまでやってくれる。なんだかんだ言っても、この姉妹はそろっていい子だ。


「で、ガン爺はなんて言ってたの?」


 温め終えたシチューを取り出す鏡華の質問に、袋ごとの食パンを手にした俺が応える。


「発掘現場には魔物が出てこないからやつらの兆候はわからないって」


「坑道はガン爺の王国なのね」


「そのようだ」と返して、俺は皿を受け取った。熱々になったシチューには、元がなんだかわからない肉が入っていた。


     ⌚


 どれくらいやり過ごしただろうか。

 ふたたび寝返りを装って様子を窺うと、針井氏はすでに寝入っていた。剣は鞘に収めた状態でマットレスの横に置いてある。さっきまでの彼を覆っていた殺気のようなものも、きれいさっぱり消えていた。

 目が冴えてしまった俺は、枕もとに置いていた新しいスマホを開いた。


 十月三十日 午前零時五分。


 そうだ、と思い出す。


 SNSを復活させてなかった。


 タオルケットを頭からかぶって、俺はアカウントの再設定をはじめた。

 Xの設定を終えた途端、何通かの通知が画面に現れた。当然だが、推し関係ばかり。その中で、最新のポストはビースティの公式だった。


-------

ビースティ公式@beasty_official 8分


飼育係諸君、おまちかねの情報解禁だよ。

10/31のシークレットハロウィンライブの会場は……


新宿ダンジョン地下二層にグランドオープンする「トヴォトリエ」の特設ステージ!

私たちの出番は17時から。当日はダンジョン入場料も含め、無料で入れるよ。

会場に来られない飼育係のみんなも、ダンジョン配信のエース、まちゅぴちゅーんずさんのチャンネルでリアタイ視聴できるから、ちゃんとチェックして♪


URL

#ビースティ

#新宿ダンジョン

#トヴォトリエグランドオープン

#まちゅぴちゅーんず

-------


 スマホを伏せて、俺はつぶやく。


「やっぱここだったか、会場は」

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