表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ダンジョン配信の神様 ~俺がいなけりゃお前らなんてクソの役にもたたねえってことを忘れるな~  作者: 深海くじら


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

51/55

第48話 後始末 ~回収するだけのタダ仕事なんて虚しいだけ~

 四人分のヘッドライトが灯った往路は、暗闇の戻り路と違ってさくさくと進んだ。すでに一往復していることもあり、足元の状況がだいたいわかっているのも大きい。 

 さらに今回は、配信もなしだ。なんせ携行用ルーターの予備は備蓄基地に置いてなかったし、そもそも鏡華たちの機材がイカレている。だがその方が好都合だ。なにしろこのミッションは門外不出のオーパーツ、蓄電石の回収なのだから。万が一にもアレの映像を世間に晒すことはできない。そんなことしたら、荏原からなにを言われるか……。


「このまま何とも出遭わないで行けたらいいんだけど……。あ、最初のやつ発見」


 岩壁に貼られたクソネットのステッカーが、鏡華のヘッドライトを反射して光って見えた。今日最初に設置した基地局だ。

 埋め込まれた機器を水面が照らし、鏡華とツルタ氏が周りを睨む。俺は機材を取り出し、慣れた手つきでフレームからルーターと電源器を外した。想像した通り、内部が焼き切れている電源はロック無しでスロットが引き出せた。


「こりゃあヤバいわ。簡単な工具さえあれば、中の石は取り放題だよ」


 最初の蓄電石を回収し、ウエストポーチに仕舞った。壊れた機器はひとまず脇に置いておく。帰りに余裕があればもっていく感じで。

 背中を向けるツルタ氏が小声で尋ねてきた。


「ランボさん、ステッカーはどうします? このままだと虚偽の告知になりますが」


「そいつも後にしましょ。こんなとこまで降りてくる命知らずの配信者が今日明日に現れないことを祈って。いまは石の回収が先決」


 俺は立ち上がり、全員を促した。


「次、行こう」


     ⌚


 三個の蓄電石を回収し終え、残りは一個。仔山羊どもの死骸が散らばるゼロ・ポイントの基地局(DAS)だ。

 見覚えのある緩いカーブの手前で、先を行く鏡華が光量を絞った。なにかの気配を感じたらしい。足音を忍ばせながらこっちに戻ってきた。


「物音がするよ。(しろ)かきのときみたいな」


「シロカキ?」


 知らない単語。俺は小声で聞き返す。


「田んぼの水張りだよ。ンなことも知らないでオトナやってんのかよ、ランボは」


 知らねえよ、そんな田舎のジョーシキ。こちとら生まれたときから都会人(シチーボーイ)だっつーの。


「慎重に行きましょう」


 ツルタ氏が静かに告げて、罵り合いに発展しそうな俺と鏡華のやりとりを一刀で制した。


 くっ。これこそが本物のオトナ。なんか無性にくやしいぞ。


 後方監視をツルタ氏にまかせ、姉妹と俺は夜明け前くらいまで絞った光で先を窺った。

 数頭のなにかが四つん這いになって地面を漁っている。ぐっちゃぐっちゃという水っぽい音を立てて。


「あれ、オークですよね。もしかして仔山羊を食べてるんじゃ……」


 水面のささやきに、俺は軽い衝撃を受けた。


 いくら豚の魔物(オーク)が雑食だからって、あそこに転がってンのは自分たちの仲間の、ことによったら親兄弟の脳みそを食ったかもしんない仔山羊だぞ。そんな食物連鎖ってアリなのか?


「どうするランボ。黒玉使う?」


 鏡華の提案に、俺は逡巡した。

 残り玉の数もあるが、なによりも俺はオークたちの復讐を邪魔したくなかった。俺が上から追い出したあいつらが、第三層(ここ)でも迫害を受けて追い込まれ、それでも生き残りをかけて仇敵の死骸を食んでいる。あいつらの生存への希求をもう一度潰えさすことなんて、俺はしたくない。


「もうちょっと、待ってやっていいか?」


 暗がりの中で表情の見えない鏡華がうなずいた。気持ちは伝わっただろうか。


     ⌚


 沈黙待機は長くは続かなかった。血の匂いに誘われてか、奥から新たな集団が現れたのだ。

 薄い明かりでもはっきりわかるシルエットが三つ。大カマキリ(マンティス)だ。

 突如の闖入者に混乱をきたしたオークたちは、食事を止めてあたふたと側道に逃げ込んでいった。新たなるスカベンジャーは生餌を追いかけることもなく、目の前にある食い散らかされた仔山羊の残骸をついばみはじめた。


「あいつらはヤバいよ。オークなんかとはぜんぜん違う。鎌のリーチとか半端ないし。ランボ、もういいじゃん。黒玉使っちゃおうよ」


「そうですよランボさん。オークへの禊はもう済みました。カマキリに遠慮はいりません」


 ふたりの意見に反対する理由はない。


「つぶれるライトは俺のひとつで十分だから、おまえら、ライトをスーツん中に仕舞え。ツルタさんも」


 一灯になった光でマンティスの足元に狙いをつける。三角の頭がぐるりと回り巨大な複眼がこっちを捉えた。アドレナリンがあふれる俺の脳は、右手に投擲の合図をだした。


「待って!」


 鏡華の鋭い声が、俺の伝達神経にくさびを打った。

「なに?」と問い質す言葉に応じもせずに、鏡華は俺のヘルメットに手を伸ばし、光量のつまみを回す。


「見て、あそこ」


 ついいま俺と目が合ったマンティスが、視線の先で後ろ向きになっている。と、一番奥の一匹が斜めになって倒れた。続いてもう一匹。

 最後に残ってファイティングポーズをとる大カマキリの向こうに、下段で構える剣士の影が見えた。


「瞬殺のハリーさんッ!」


 耳元で、水面が桃色の歓声をあげた。


 深く潜るって言ってた針井(やつ)が、なんでここに?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ