第85話 「修羅場、そして参戦」
今、俺は自室にいる。
しかしここは、人生の中で最も緊張感の漂う空間と成り果てていた。
自分の部屋なのに……いつもなら、今すぐベッドに飛び込み、思い切り身体を伸ばしてくつろぎたい所だ。
しかし、どう見てもそんな状況ではなかった。
そう、なぜなら……俺の部屋に4人もの美少女が、何やら不穏な顔で無言を続けているからだ。
どこに視線を向けても、緩んだ表情を見せるものはいない。
何これ────怖いっ!!
遡ること1時間前。
もうどれだけ時間が過ぎただろうか。
俺は篠崎さんとの会話に夢中になっていた。
「それでさ、あの時のバトルシーンが……」
俺が会話に勢いを持たせようと口を開いたその瞬間、ドスンっと大きな音がファミレスに響いた。
会話にのめり込んでいたおれの意識は一瞬にしてその音の先へと向いた。
そして、向けた視線の先にいたのは、顔馴染みのある3人の少女達。
雅に彩乃、そして沙耶香先輩だったのだ。
俺は思わず立ち上がる。
「み、皆、どうして……」
俺の声に気づき、彼女達と視線が合う。
「えっと、その……あは、は……」
バツの悪そうな顔でから笑いを浮かべるのは沙耶香先輩だった。
なんだこれ……どうして皆がここに。
俺の頭の中にはそんな疑問しか浮かんでこなかった。
と、そんな中、1人立ち上がり俺の隣にいる篠崎さんを指さしたのは彩乃だった。
「直之せんぱい!この女はなんなんですか!!」
「え、何って……」
俺は答えに困り、篠崎さんに視線を向ける。
そういえば、俺達の関係を言葉で表すのなら、どう言うのが正解なんだろう。
友達……と言うには無理があるか。初めてあったのは昨日だし。
知り合い……いや、これだけ熱い会話ができる相手をそんな軽い言葉にするのはなんだか気が引ける。
なんと言ったものか………あ、そうだ。
俺は彼女との関係を表現するに最もふさわしい言葉を思いついた。
そう、俺達は……。
「俺と篠崎さんは……そう、同志だ!」
『同志……?』
俺の突然の告白に皆が疑問符を浮かべている。まあそれだけ言われても話が見えない、と言ったところだろうか。
「そ、それはともかくです!なんでこんな所でご飯なんか食べてるんですか!!」
「なんでって……この近くにあるアニメショップに来たついでに、かな」
「じゃあなんでそのアニメショップに2人で来ることになったんですか!!」
彩乃は俺の答えを聞き、考えることを放棄しては次の質問に移る。
彼女の質問攻めには俺だけでなく雅や沙耶香先輩も困惑しているようだ。
それにしても、なんでこんな所来たんだっけ。
……あれ?なんでだ?
またしても答えに迷い、俺は篠崎さんに助けを求めた。
「ねえ篠崎さん、なんで俺達ここに来ることになったんだっけ?」
「う〜んと……なんでだっけぇ〜」
「……」
あ、だめだこの人。
俺の記憶が確かなら、ここに来るに至った原因は篠崎さんが急に家に押しかけたからだ。
でもなんで俺の家に押しかけたのか……その理由を本人自身も分かってないようだ。
そうだよな、この人はそういう人だよな。流石にもう驚かない。
「な、なんだか全然話が見えないのだけど」
ここまでだんまりだった沙耶香先輩も、この不可解な状況に痺れを切らしたのか、会話に割り込んでくる。
「それは俺もです」
「それより……そろそろ落ち着いた方がいいと思うわ」
決まりの悪い顔でそう言う沙耶香先輩の視線はどこか違うところを向いていたことに気づいた。
俺はすぐに、彼女の表情の意味を理解する。
これだけ大騒ぎしているんだ。
周りの人達から注目されるのは必然だろう。
多分悪い意味で目立っている。
雅もかなり気まずそうに口をへの字にしている。
「と、とりあえずここを出ないか?」
「それがいいと思うわ。彩乃さんもそれでいいでしょ?」
「……わかりました」
流石の彩乃もこの状況は好ましくないと理解したのだろう。彼女は冷静さを取り戻し、俺達はお客さんや店員さんにめちゃくちゃ注目されながらのそっと店を出ていった。
とんだランチタイムだったな。
と、そんなこんなで次に向かったのが俺の家という訳だ。
そして今、めちゃくちゃ気まずい状況になっている。
さっきから皆の……特に彩乃の圧が凄い。
篠崎さんはこんな状況でものほほんとしてるし……。
「お、お茶でも入れてくるよ」
この恐怖さえ覚える沈黙の空間から逃げ出そうと俺は立ち上がる。
「わ、私も、手伝う」
「あ、いいよ。ゆっくりしてて」
「う、うん……」
雅には申し訳ないけど、今誰かと2人きりになったら緊張で動けなくなりそうだ。
多分俺がこの話の終着点を見つけなければならないのだろうが、今は緊張と動揺で何も考えられない。
1度自分の気持ちを落ち着かせるためというのもあり、俺は1人部屋を出た。
───そして、直之がいなくなった部屋。
彼が部屋を出て、階段をおりる音が聞こえたのを見計らい、1人の少女が口を開いた。
「それで、あなたはせんぱいの何なんですか?」
鋭い視線を篠崎真帆に向けながら少し刺々しい口調でさっきと同じ質問をする。
「う〜ん……同志ぃ?」
「それはせんぱいが言ったことでしょ!あなた自身はせんぱいのこと、どう思ってるんですかって聞いてるんです!」
篠崎のペースに飲まれないように、彩乃は口調を更に強くする。
「……」
「ほら、正直に話してください!」
「ちょっと彩乃さん、流石に攻めすぎよ。これじゃあ篠崎さんが困ってしまうわ」
彩乃の質問に口を開かない篠崎を見て沙耶香が仲介に入る。
そしてその流れで次は沙耶香が篠崎に質問をした。
「ねえ篠崎さん。ナオく……彼とはいつから知り合いなの?」
「昨日からですかねぇ〜」
「き、昨日!?」
「はい〜」
「……」
たった1つの単純な質問で、沙耶香はもう頭を抱えてしまった。
それを見ていた雅と彩乃も漠然としている。
そんな状況で、次に言葉を放ったのは篠崎だった。
「えっとぉ、皆さんはもしかしてぇ……橋田くんのことが好きなんですかぁ?」
『っ!!』
突然の衝撃発言に皆驚きが隠せない。
が、それは一瞬の出来事に過ぎなかった。
すぐに彼女の質問に答えたのは彩乃だった。
「ええ好きですが何か!」
それに続き雅、沙耶香も顔を赤くしながら自身の気持ちを告白する。
「わ、私も……好きですっ」
「わ、私だって、ナオくんへの気持ちは誰にも負けないわ!」
自分の部屋で大告白会が行われていることを知る由もない直之だった────
勢いに任せて告白した彼女達は、直後爆発しそうな程に顔を真っ赤にする。
それを見た篠崎はにこりと小さな笑みを浮かべた。
「な、何がおかしいんですか!!」
「だってぇ……皆さんはぁ、ライバル同士なのになんで集まってるのかなぁって〜」
3人が同時に同じ人間を好きになるのだ。篠崎の疑問は珍しく適切だった。
「いいんですよ。私たちは確かにライバルですが、同時に友達でもあるんですから」
「そうね。皆ちゃんと分かっているわ。そして正々堂々戦うって決めてるの」
2人の発言に雅も強く頷いた。
自分の言いたいことはこの2人が全て言ってくれたため、雅はただ頷くだけで良かった。
「そうなんですかぁ……」
一世一代の恥ずかし台詞を叫んだにもかかわらず、1つも表情を変えない篠崎に、彼女達は少し腰を低くする。
と、その時、篠崎は彼女達を戦慄させるような衝撃の言葉を放った。
「1つ、いいですかぁ?」
「な、なんですか」
「それ……私も混ぜてもらえたり、出来ますかぁ?」




