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第83話 「ファミレスで」

 



 アニメショップを発って五分ぐらいだろうか。

 俺は篠崎さんに手を引かれるままに街を歩いた。


 そして1軒のファミレスへと入り、今に至る。



「じゃあ私は〜、このAセットとぉ、後はナポリタン下さ〜い」


 彼女は手に持つメニュー表を見ながら、オーダーを取りに来た店員にそう言った。



「かしこまりました。それで、お客様は何にされますか?」



 篠崎さんの注文をハンディに打ち込み、次は俺の注文を聞いてきた。



「あ、えっと……じゃあ、Cセットで」


「かしこまりました。それでは少々お待ちください」



 俺の注文を打ち込んで、店員は厨房の方に戻っていった。


 俺はしばらくぽかんと彼女を見ていた。


 未だにメニューから手を離さずにニコニコしている篠崎さんを見ていたのだ。



「あぁ〜、これも食べたいなぁ。あ、これも〜」



 俺は呆気に取られた。



「え、ちょ、篠崎さん?さっき2つぐらいメニュー頼んでなかった?」


「ん〜、私ぃ、食べるの好きなんだ〜」



 そう言いながら、彼女はメニューを手放す。

 そして、そのメニューの裏にあったものを俺はそれを目にしてしまった。


 テーブルの上にずしっと乗った彼女の……胸を。


 咄嗟に俺は目を逸らす。

 なるほどな……食べたものが全部そこにいってるって訳か。


 と、彼女の体つきの理由の一端が垣間見えた時だった。



「ねぇ、橋田くん〜」


「え、何?」


「橋田くんって〜、よく私から目を逸らすよね〜」


「そ、そう……かな?」



 バレてないとは思ってたけど……意外と鋭いな、篠崎さん。


 はぐらかすように俺はまた目を逸らしてしまった。



「ほらぁ、また目を逸らした〜」


「いや、これは……」


「でもぉ、凄くキラキラしてる時もあるよねぇ?」



 そう言いながら、彼女は少し前のめりになり、俺に顔を近づけてきた。



「やっぱり……好きなんだね〜」


「え、篠崎さん、何を……っ!?」



 ……今、篠崎さんは何て言ったんだ!?

「好きなんだね」って……どういう意味だ?


 彼女は更に俺の方に近づいてくる。

 彼女の顔が、そして……胸も。


 もしかして篠崎さん……俺が胸好きだって思ってるのか!?



「橋田くん〜……」


「いや、篠崎さ……ちょっと!」


「好きなんだねぇ……アニメ」


「違うんだ!俺は別に胸なんてっ……て、え?」



 最後に聞こえた言葉に俺はピタリと動揺を止めた。

 緊張が一気に抜き取られたみたいだ。


 あぁ……そういえば、昨日もそうだったな。



「橋田くん、アニメの話してる時ぃ、凄いキラキラしてるから〜」


「あ、あぁ……アニメ、アニメね」



 相変わらず彼女の言動には揺さぶられてばかりだ。気疲れしてくる。


 でも、まあ……



「まあ、アニメの話を誰かと出来るのはすごい嬉しい、かな」



 好きなものが一緒なことに、男も女も関係ない。

 それがヲタクなら尚更だ。

 好きなアニメ、好きなキャラが1つでも一緒だっただけで、これほどにも胸踊るのだから。


 でも、1つだけ気がかりというか……疑問があった。



「でも、篠崎さんはもしかして……俺の話に合わせてくれてるんじゃないの?」



 あの時、篠崎さんの知識量は俺より明らかに多かった。

 俺の読んでない原作をも、彼女は自ら読んでいたんだ。


 おそらく、彼女が俺と同等か、それ以上にヲタクなのは真実なのだろう。


 ただ、ヲタクにだって色々ある。

 俺のように誰かと好きなものを共有し、熱く語り合いたい者もいれば、極力誰とも共有せず、1人で楽しみたいものだっている。


 ひょっとしたら、彼女は俺の独りよがりの熱弁に迷惑しているんじゃないだろうか。


 そんな懸念から出た言葉だった。

 しかし、その質問は何度かして、彼女はそれを否定した。


 でも、本当は嫌がってるかもしれない。もし彼女が俺に合わせてくれているのなら、俺も自重しなければならないだろう。



「で、実際のところどうなの?本当は嫌だったり」


「ぜんぜん嫌じゃないよ〜」



 ……即答。



「でも俺、結構1人で話すこと多いじゃないか」



 基本話すのは俺一人だ。彼女はそれを聞いているだけ。

 会話として成り立っていないのだ。



「だってぇ、橋田くんの話聞いてるの、楽しいから〜」


「いやだから、篠崎さんが俺に合わせてくれてるってだけじゃ」


「なら〜、私も話せばいいのかなぁ?」



 自分でも質問がしつこくなってきたと自覚した頃、彼女はそう提案してきた。



「あ、いや、それは」


「私ぃ、アニメだけじゃなくて、結構原作も読むんだ〜」



 俺がその提案に対しての答えを探している間に、彼女は何食わぬ顔で話をはじめた。



「中でも私が好きなのはねぇ、さっき言ってた『閃ドラ』なの〜」


「だから、えっと……」



 ダメだ。何も言葉が出てこないや。

 彼女がこんなに話してくるなんて、思ってもみなかった。


 そして、彼女がつくった会話の波に、俺は徐々に飲まれていき……



「1番好きなキャラはねぇ、主人公の仲間で、口数の少ない……」


「グエンだよね!!俺も1番好きなんだ!!」


「そうなんだぁ。じゃあちょっと問題出してもいい〜?」


「お、いいねそれ!出してよ!あ、原作読んでないからアニメの中でお願い!」


「いいよ〜。じゃあね……」




 俺達は完全に会話にのめり込んでいた。

 料理が来てからもずっと。たまに何口か口に運び、飲み込んではまたすぐに話を続ける。


 篠崎さんも同じだ。食べるのが好きだって言ってたのに、俺との会話を優先している。


 やっぱり彼女も、アニメが大好きなんだとようやく理解した。


 ……楽しい。

 この楽しさ、この胸の昂りは、少し前に皆でいった旅行の時と同じぐらいに。もしかしたら、あの時よりも……。



 時間は刻刻と過ぎていく、なかなか料理が進まない。

 店員や、他の客も俺達の会話をチラチラと見るようになっていたが、そんなの、今の俺にはどうでもよかった。


 今までずっと溜め込んでいたものを一気に吐き出している気分で、それがとても心地よかったから。






 だから俺は───客の中に、彼女達が紛れていることも、全く気づかなかった。




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― 新着の感想 ―
[一言] そろそろ新ヒロイン(?)との話の盛り上がりストップしないと保留中の3人からのOHANASIが待ってるぞww 次回かその次あたりに修羅場になりそうw
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